第二章Bパート開始。
「この家にお泊まりセットとかってあるかい?」
「ある訳ないだろ」
天命機関と敵対している今、散り散りになるのもマズイため俺の家でお泊まり会をすることが決定した。しかし、俺の家に女の子が泊まる用意などしてあるはずがない。
「困ったわね。そこらの民家から略奪でもしようかしら」
「……真っ先に暴力を出すのやめろよ。コンビニに行けばいいだろうが」
「えー、めんどくさいなぁ……」
「アンタが買ってきたら?」
病的に白い肢体を投げ出してベッドに寝転ぶ折手メアと、赤い髪を撒き散らしてくつろぐアドレイド。完全に自分の家レベルでリラックスしてやがる。
「オラ動け」
「うぐぁぁああああああ! 身体が勝手に⁉︎」
「折手も早く来いよ」
「しょうがないにゃあ」
アドレイドを命令で動かし、折手メアを足で突っつく。別に俺が買ってきても良かったのだが、一人になる訳にはいかないので仕方がない。三人揃ってコンビニに行くことになった。
「アンタの家、コンビニまで遠くない?」
「安いアパートだから仕方がないだろ」
薄暗い道を歩く。
深夜とまではいかないが、もう空は暗くなっている。街灯もポツポツとつきだした。
「そう言えば、アドレイドとディートリヒって前世ではどんな関係だったんだ? チカラを奪われたとは言ってたが、それ以外の話は何も聞いてなかったな」
ふと、思いついたことを尋ねる。単なる時間潰しの質問だったが、アドレイドはそれを聞いてめちゃくちゃに顔を
「…………アンタ、人の心にズケズケと踏み込むわね。配慮って言葉知らないわけ?」
「お前が言うな」
「キミはデリカシーが無いよね」
「お前がッ、言うなッ‼︎」
うーん、とアドレイドは言葉を捻り出す。
「一言では表すなら……勇者と魔王?」
「……どっちが勇者?」
「そりゃアイツに決まってんでしょう」
……勇者、か?
いや、見た目だけなら違和感は少ない。ディートリヒの異能も勇者に相応しい神々しさがあるかもしれない。
しかし、言動があまりにも勇者のイメージとかけ離れている。どっちも魔王にしか見えない。
「アタシたちの世界観では、世界の始まりに魔力があったの。世界を構成するありとあらゆる物質は魔力によって創られている。そして魔力が純粋なほど始まりに近く、神は純魔力が結晶化した
「今では魔王を自称しているのに〜? エリート
「……ムカつく喋り方ね、死ね」
折手メアが茶々を入れる。
本当に仲が悪いなぁ、コイツら。
アドレイドは《石化魔眼》を発動しようと黄金の瞳を見開いてから、契約によって使用不可にされている事を思い出して目を閉じる。何度か瞬きを繰り返し、諦めたかのように話を続ける。
「反対に、アタシは神々から忌み嫌われた魔界の王。神々の尖兵たる
「……魔界ってのはそんなに嫌われた国だったのか?」
「アタシの産まれた
「……は? いや、でもお前は魔法を使ってた……! 前世でも魔法を使う
「そう、それは神々さえ予想できなかった誤算。
「……‼︎」
背景を理解できた。これは魔の王と言っても差し支えないだろう。神々の特権である純魔力とやらを、よりにもよって忌み嫌う魔界の赤い魔力から生み出すのだから。
加えて、ディートリヒとアドレイド……二人が扱うそれぞれの
ディートリヒの《神聖魔法》は神々の
しかし、アドレイドの《禁呪魔法》はアドレイド自身が純魔力を用いて行使する魔法。故に詠唱で直接魔力を従え、魔法の使用を命令する。
魔法の複雑さや規模においては神々の力を借りる《神聖魔法》の方が秀でているのだろうが、魔法の発動速度や自由度においては間に誰も挟まない《禁呪魔法》の方が優れているのだろう。
「そんな訳でアタシとディートリヒは三日三晩殺し合い、最終的にアタシは負けて心臓を貫かれ殺されたわ。アタシが覚えてる前世の記憶はここまでよ」
「ふーん、キミは彼が魔王を自称し、世界を滅ぼした経緯を知らないんだね?」
「それってアタシが死んだ後でしょ? 知る訳ないわ。大方、アタシの権能を奪って好き勝手に暴れたとかでしょうね」
「(だいたい合ってるんだよなぁ……)」
なんか折手メアが訳知り顔でうなづいてるが、もしかしなくてもコイツ何があったか知ってるな?
口を割らせるか……? いや、アドレイドの前では言えない可能性もある。二人きりのタイミングで教えて貰おう。
「……つーか、アタシも聞きたいことあるんだけど」
「うん?」
「
アドレイドの黄金の瞳が銀髪の少女を睨みつける。睨まれているはずの折手メアは、真っ赤な瞳を歪ませて笑う。
「やだなぁ、ボクほど無害な転生者はいないよ?」
「どうするの? 目をつけられたからには逃げ場はないでしょうけど、一度何処かで痛い目を見せないと止まらないわよ」
「あれ、無視?」
「コイツが
「でも、昨日バトったしなぁ。今日も大人しくしてくれてるし……」
「そうだよ! ボクを信じてくれ‼︎」
流石にこのクソ野郎でも昨日の今日で悪巧みすることはないだろう。放課後だって転生者退治を手伝ってくれた。ひとまずは改心したと考えていい。
「(コイツが叱られた程度で改心した……? 〈
アドレイドは難しい顔で考え込んでいる。
折手メアは
「ところで」
ピタン、と。
急に足を止めた折手は振り返る。
「ボクも一つ聞いて良いかな?」
「あ、ああ」
改まってなんだ、と折手メアに向き直る。
折手メアはいつになく真剣な顔をしていた。
「
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。
「あ」
知らない風景。見慣れない建物。
ここは、何処だ……?
「……? 迷子にでもなったワケ?」
「そんな訳あるか! 歩き慣れた道、日常の風景だ。自分のホームタウンで迷うはずがない。だから、……
周囲は不自然なほど静かだ。
一八時三〇分。そこまで夜遅いわけでもないのに、人の気配が全く感じられない。そして、それだけじゃない。
何も感じなさすぎて、逆に不自然さを抱く。
「天命機関に誘導されたんじゃないかな? ボクだって似たようなことはできるよ」
「でも、どうやってだ⁉︎ 異能の反応を感じさせない異能でもあるのか⁉︎」
「さあ、どうだろうね?」
ニヤニヤ、と折手メアは不気味な笑みを浮かべる。その顔で直感的に思った。
(このクソ野郎ッ、何か知ってやがる‼︎)
問い詰めようと叫ぼうとする、その一瞬前。
何かに気づいたかのようにアドレイドが声を荒げる。
「はァ⁉︎ アンタッ、まさか───」
その声が届くよりも速く。
事態は急速に悪化する。
バヂィィッ‼︎‼︎‼︎ と。
強烈な
ガクンッ、と膝から崩れ落ちる。
「あッ⁉︎ ガッ……ギィ‼︎‼︎‼︎」
ビリビリィィッ‼︎ と電撃が体中に
電撃系の異能‼︎ 例えるならスタンガンのような⁉︎
気絶はしなかった。痛みも大したことはない。けれど、身体が痺れて動かない。何か言おうと声を絞り出すが、呂律が回らない。
「仕掛けて来やがったわね!」
「さーて、電撃は何処から来たのか。飛来した様子はなく、キミだけを狙い撃ちした……」
相変わらず異能の反応はない。
第六感は役に立たない。だからこそ、五感を
何も見えない。
何も聞こえない。
何も感じない。
しかし、ほんの一瞬。光の加減か、何かが白く見えた気がした。それを《
「見えない透明の
「ということは、やはりセンパイちゃんが来たか」
シュルルル‼︎ と。
ワイヤーが俺の足首を絡めとる。
電撃の応用とかで糸自体を動かせるのか? とか考える隙は無かった。
バヂィィッ‼︎‼︎‼︎ と二撃目の
抵抗することもできず、俺は一本釣りのように逆さまに上空へと引き上げられる。
「ちょッ⁉︎
《禁呪魔法》で俺を取り返そうとしたアドレイドは途中で気づく。それは俺がアドレイドに下した四つの命令の内の一つ。
『俺の許可無しの異能使用の禁止』。
そして、
「うおッ、おおおおおおおおおおおおお‼︎⁉︎⁉︎」
俺は一人で空に連れ去られ……、連れ去られ………………。
……………………何かいる。
「さあ! ボクら二人で共に敵を打倒するぞ‼︎」
「もしかしなくても、テメェこれを予期してたな⁉︎」
折手メアが俺の腕を掴んでいた。
全く力が篭ってないのに全然離れねぇ! 怖い!
しかも腕が動かせないせいで、《
「分断されてどうする‼︎ アドレイドの安否が不安じゃねぇのか⁉︎」
「
「無茶苦茶だ‼︎」
ワイヤーに引っ張られる力と折手メアの重量(人間にしては軽いけど人間なので重い)によって、下半身と上半身が分離しそうな痛みに苛まれる。
折手メアはゆっくりと上半身によじのぼり、俺の上で喚く。風で暴れる銀色の髪が視界を占拠してウザい。
「敵は二人。ボクらも二つに分かれると丁度いいんじゃ───」
「
「……まさか、キミは……ッ⁉︎」
「墜ちろッ‼︎ ……っす!」
ゴンッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
金槌を打ったような鈍い音が響く。
折手メアが俺から手を離して街中に墜落する。
「折手ッ⁉︎」
手を伸ばす。
しかし、届かない。視界の端に消えていく。
そしてほとんど同時のタイミングで、急に足首を絡めとるワイヤーが解けた。
ズドンッ‼︎ とビルの屋上に着弾する。
「あがッ‼︎ がぼっ、げぼら⁉︎」
背中を強く打つ。溺れるように息をする。
そうしながら、注意深く辺りを見回す。
やはりと言って良いのか、そこには一人の女性がいた。
学校とは雰囲気が異なり、眼鏡を外している。
「あらら、こんな所で出会うとは。偶然ですね、六道君」
「ははっ‼︎ 白々しいぜ、ブレンダ先輩‼︎」
六道伊吹(と折手メア)が連れ去られた道端で、異能の使えないアドレイド・アブソリュートは途方に暮れていた。
「あの馬鹿! 異能の使用許可出してから行きなさいよ……‼︎」
「へぇ、それは良い事を聞きましたわ」
屋根に一人の少女がいた。
水色のランドセルを背負った小学生くらいの女の子、天命機関の一人であるイヴリンだった。
「負け犬が何か用?」
「あら、異能も使えないおバカさんにわたくしが負けるとでも……?」
互いに睨み合う。
アドレイドは拳を握りしめ、イヴリンは水色に光るブレスレットを掲げる。
強制縛りプレイの死闘が始まった。
クレーターに横たわる折手メアを、上から見下ろす影が一つ。原作では一度も見たことのないシスター服を着た女性だった。
その女性は折手メアに親しげに話しかける。
「久しぶりっすね、メアちゃん。元気にしてたっすか? 元気にしてたんすよね、噂は常々聞こえてたから分かるっすよ」
「……………………」
歪んだ笑顔に殺意を滲ませて彼女は告げる。
「自分の顔を覚えているっすか?」
「……キミ、は…………」
折手メアはその顔を見て、赤い目を見開く。
その顔は……。
その、顔は……ッ⁉︎
折手メアの脳がフル回転する。
走馬灯のように全ての
そして。
そして。
そして。
そして。
「えーと、誰ぇ……?」