原作主人公vsオリ主   作:大根ハツカ

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一七話:奴隷契約

 

 

 倒れ伏したアドレイドは動かない。

 頭から血を流し、ピクリともしない。

 

()り……ましたの?」

「かもな」

 

 イヴリンに後ろから声を掛けられるが、振り返ることなく答える。人を殺したことに罪悪感は全く湧かない。

 しかし、折手メアに対する申し訳なさを感じる。

 

(せっかく折手が考えてくれた作戦を、怒りとその場のノリで台無しにしちまったな……)

 

 折手メアは今頃どうしているのか。戦闘の途中で電話を掛けた時は繋がらなかった。その後、アドレイドの攻撃などのどさくさで忘れてしまっていたが、学校側の戦いにケリは着いたのだろうか。

 ジクジク、と思考を断ち切るように腹が痛む。今までアドレナリンで誤魔化していた腹の傷が、今になって疼き出した。痛みを堪えて、イヴリンに話しかける。

 

「…………ッ、……ええっと、お前は天命機関とやらの一員なんだっけ?」

「ええ、仰る通りです。わたくしは天命機関における天上位階序列七位(セブンス・オーダー)権天使(プリンシパリティ)の名を与えられていますわ」

「いや、用語とかはよく知らないけどさ。確か秘密結社的なアレなんだろ。だったら、この死体はそっちで処理してくれないか?」

 

 天命機関。

 未だよく知らない秘密結社。詳しくは分からないが、その一員であるイヴリンが異能を使っていたことから、転生者の集まりか何かだと考えられる。

 俺の予想では、社会の秩序を維持するために転生者を殺す転生者といったところだろう。そして、そんな人殺しを主な業務にする秘密結社ならば、死体の処理方法だって熟知しているに違いない。

 

「お前達にとっても、ここで死体が見つかるのは都合が悪いはずだ」

「……仕方ありませんわね。わたくしたちの不手際で転生者を逃した負い目がありますし、アドレイド・アブソリュートから助けられた借りもあります。今回だけですわよ」

「俺もお前に助けられた、最後のフラッシュ(目潰し)は特にな。だから、貸し借りなんて無いよ」

 

 律儀な奴だな。これで小学生とは驚きだ。

 ……いや、こいつも転生者だとすると前世の記憶があるはず。もしかすると、俺よりも年上の可能性もあるのか。

 

「ですがその前に、現場検証ついでに写真を撮りますわよ。特に、第五界位(グレード5)の死体がここまで綺麗に残っていることは滅多にありませんわ」

「いや、ぐっちゃぐちゃじゃねぇか。血みどろだぞ、そいつ」

「転生者の死体なんて、大抵は異形化しているか言葉では表せない惨状になっていますわ。周囲の被害も少ないようだし、転生者でもない貴方がどうやって勝ったのですか?」

 

 ……俺が転生者じゃないと勘違いしているのか?

 そういえば、イヴリンが目を覚ましたのは戦闘において最後の局面で、そもそも俺の異能は結果が分かりづらいモノである。イヴリンの目には俺が謎の金属バットでアドレイドを倒したように見えたのだろう。

 

 誤解を解くのも面倒臭いし、このままでいいか。ちょうど疑問に思ったことがあったため、質問して話を逸らす。

 

「……確か、転生者の死体ってのは光の塵になるんじゃないのか? もしかして、そいつ……」

「死んでいますわよ。転生者の死後に光の塵となるのは異能ですわね。貴方が仰っているのは恐らく肉体(アバター)型の異能が光の塵になっている光景のことでしょう」

 

 だったら死んでいるか、安心した。

 イヴリンがスマホ片手にアドレイドの死体に近づく。そこでふと、ある考えが頭によぎった。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 俺はアドレイドの顔面を執拗に《破邪の剣(アスカロン)》で殴り続けた。最後の一撃なんかは、渾身の力を込めた一撃だった。そのため、顔面は当然再起不能な状態になっているものだと思っていた。

 しかし、今その顔をよく見ると、大量の血を流してはいるが、顔の形自体は変わっていない。

 …………最悪の考えを思いついた。

 

「逃げろッ、イヴリン‼︎」

「へ?」

()()()()()()()‼︎」

 

 直後、死体が動いた。

 

 

「アタシはッ……負けないッッッッ‼︎‼︎」

 

 

 アドレイド・アブソリュートが立ち上がる。

 その肉体は確かに満身創痍、いつ死んでもおかしくないような怪我だ。それでも、致命傷には届かない。

 

「テメェ‼︎ まだ生きてやがったのか⁉︎」

「アタシがッ、この程度の怪我で死ぬわけがないでしょ‼︎ 舐めんなァ‼︎」

「そもそもッ、頭をかち割ったはずだろ⁉︎ テメェはなんで生きてッ……いや、まさか⁉︎」

 

 最後の攻撃は《破邪の剣(アスカロン)》による顔面の破壊。顔面……そこには、()が存在する。

 

「《石化魔眼(・・・・)》か⁉︎」

「アタシの石化は概念的なものよ。生物の硬直だけじゃない、空間の固定だってできるわ‼︎」

 

 つまり、最後の攻撃はアドレイドに当たることなく、ほんの数ミリ手前で停止したということか。確実に殺すために頭を狙ったのが仇となった。

 

「それでも、無効化されたら意味が無かったわ。最後の最後にアンタが手を抜くとは思えない。つまり、()()使()()()()……そうでしょ?」

「…………ッッッッ‼︎‼︎」

 

 冷や汗が噴き出る。

 弱点を見抜かれた。

 

「わたくしが時間を稼ぎますわ。貴方はお逃げなさい」

「イヴリン‼︎ それじゃお前がッ‼︎」

「相手は満身創痍の死にかけですわよ。これぐらい、なんて事ありませんわ」

「…………言ったわね?」

 

 イヴリンがアドレイドの前に立ち塞がる。

 その小さな背中に守られる。そんなの強がりに決まってるのに。足は見ていられないほど震えているのに。

 そんなのッ、見過ごせるわけねぇだろうが‼︎

 

「だったら、リクドウイブキの前にアンタから先に殺してやるわ」

()()()()()()()‼︎‼︎」

 

 アドレイドを牽制するように手を伸ばす。

 殺し合いの二回戦目が始まる。

 

 その、一瞬前。

 ()()()()()()()

 

 

「「………………ッッッッ‼︎⁉︎⁉︎」」

 

 

 俺とアドレイドは同時に息を呑んだ。

 俺の心臓を起点として現れた透明の鎖が、アドレイドの全身に絡まり付く。そして、アドレイドの動きが止まった。

 ()()()()()()()()()()()()

 

「…………は? どっ、どうして⁉︎」

「……そうか、そうだったな」

「リクドウイブキィィィィィィ‼︎ アタシにッ、アタシの身体に何をしたッッッッ⁉︎」

「思い出したよ、これを仕掛けたのはテメェだ」

 

 心当たりはある。

 三節の詠唱、属性不明の魔法。

 確かあの魔法の形状も鎖だった。

 

「テメェが魂を魔法で縛った。契約内容は敗者が勝者の命令を一生遵守すること。これからテメェは俺の奴隷だ」

「そんなッ、そんな筈がッ……!」

「試してみるか? ()()()

「あぐゥッ⁉︎⁉︎⁉︎」

 

 俺の命令の通り、アドレイドは膝を曲げてペタンと地面に尻をつけた。

 俺はニンマリと笑い、アドレイドは青ざめた。

 

「なんでッ⁉︎ アタシはまだ負けてないのに‼︎」

「少なくとも、《禁呪魔法》はテメェを敗者だと判断したようだが? あるいは、()()()()()()()()()()()()()()()?」

「…………何の話?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。テメェはテメェの心の弱さ故に、奴隷に成り果てた。そうとしか考えられねぇ」

 

 アドレイドが言葉を失った。

 思いもよらなかったのだろう。

 

 しかし、真実は恐らく違う。

 アドレイドがした誓約の内容は『殴り合って負けた方が奴隷』。そして、俺はアドレイドを《破邪の剣(アスカロン)》で殴り付けてノックダウンさせた。そのことが殴られて負けたと見做されたのだろう。

 アドレイドの心情は1ミリも関係ない。

 

 まぁ、折角だからここで心を折っておこう。

 

「テメェは殴られて、ブチ転がされ、心の端っこで俺に負けたって思った。俺の方が強くて、自分じゃ勝てないと諦めた」

「…………あ」

「だから、テメェの《禁呪魔法》は発動した。テメェは他でもねぇ、テメェの心に負けたんだ。それがテメェの弱さだよ」

「あああああああああああああああああ‼︎‼︎」

 

 


 

 

「結局、どうなりましたの?」

 

 体育座りをしてうつむくアドレイド。

 叫んだ反動で痛む腹を抑える俺。

 俺たちを見て首を傾げるイヴリン。

 ……状況は混沌としていた。

 

「ひとまず、こいつは俺が連れて行くよ。俺なら何があっても抑えられるしな」

 

 こいつに下した命令は四つ。

 『俺に敵意ある行動の禁止』。

 『転生者以外の殺害の禁止』。

 『俺の許可無しの異能使用の禁止』。

 『誓約の破棄の禁止』。

 

 もしも、このルールに抜け穴が見つかったとしても、俺が近くにいれば対処は容易い。何せ、言葉一つで言うことを聞かせられるのだから。

 

「いいえ、その必要はありません。ここまで無力化がされたならば、後はこちらにお任せくださいませ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…………」

 

 別にアドレイドが死のうとどうでもいいが、そこで折手メアの言葉が頭によぎった。

 

『キミだけが頼りだ。キミにしか出来ない事だ。頼む、ヒロインを口説き落としてくれ』

 

 ()()折手メアが俺に頼んだ。(主人公)を信用して、アドレイド(ヒロイン)を俺に任せた。俺はその期待に応えねばならない。

 

 

「いや、そいつは俺が引き取るよ」

 

 

 提案を突っぱねる。

 イヴリンはこちらを怪訝そうに見つめる。

 

「処理ではなく、()()()()……ですの?」

「ああ、殺すつもりはない。折角言うことを聞く奴隷を手に入れたんだ、こっちで使わせて貰うよ」

「言ってる意味、お分かりですか?」

「分かってる。天命機関と敵対する可能性がある事もちゃんと理解してる」

 

 今まで味方だった人達を敵に回すかもしれない。

 これからの人生に安息なんて無いのでかもしれない。

 余計な重荷を抱え込むような状況じゃないのかもしれない。

 それでも。

 

「俺にはアドレイドの強さが必要で、主人になったからにはアドレイドの弱さを守る義務がある。だから、俺がアドレイドを引き取る。例え、天命機関とやらと戦う羽目になったとしても」

 

 目を潤ませたアドレイドが不思議そうにして顔を上げる。

 イヴリンが鋭い目つきでこちらを睨み付ける。

 それらの視線を毅然とした態度で受け止める。

 

 折手メアのためだけじゃない。

 魂が結び付いたからだろうか、俺はアドレイドに対して親近感と庇護欲が湧いている。この力強くも、か弱い女の子を見捨てられない。

 

「一貫性がありませんわね。貴方、先程まではアドレイド・アブソリュートを殺害しようとしていたのではなくて?」

「さっきはさっき、今は今だ。勝ち誇ってふんぞり返ってるガキ大将はブチ殺したくなっても、体育座りでへこんでいる美少女を殺したいだなんて思わねーよ」

「魔法による誓約の副作用といったところでしょうか。主人と奴隷という関係で契りが行われた以上、貴方には主人であれという力が働いていますわ。つまり、貴方の庇護欲(それ)は一時的なもので洗脳に近いモノですわよ」

「知るか。洗脳だろうが何だろうが、俺は自分の意志を押し通す。つーか、そもそもさ……」

 

 アドレイドを庇うように前に立つ。

 拳を握りしめて叫ぶ。

 

 

「可愛い女の子を守りたいって思うのは自然なことだろうがッ‼︎」

 

 

 ムカつくからブチ殺すなんて動機よりも、可愛いから助けたいなんて気持ちの方がよっぽど健全だ。俺はシリアルキラーじゃない。俺は正義の味方じゃない。ブチ殺したいという殺意も、救いたいという正義感も一時的なもので、俺の中に数ある感情の一つに過ぎない。

 

 さっきまでは殺したかった。今は殺すつもりがなくなった。気分が変わった。やる気がなくなった。ただ、それだけの事じゃねぇか。一貫性も何もあるか。他人に共感してもらう気なんざサラサラない。俺は一〇〇%俺のために、自分自身の感情(ワガママ)を貫き通す。

 

「……後悔しますわよ」

「させてみろよ。何なら今からでもいいぜ、かかって来いよ」

 

 ハッタリだ。異能無しに転生者に渡り合えるとは思えない。

 それでも、虚勢を張れ。俺は強いと自己主張しろ。一分一秒でも折手メアが来るまでの時間を稼げ。何が何でも、女の子(ヒロイン)を守り通せ‼︎

 

「……いえ、一度退きますわ。わたくし一人で第五界位(グレード5)最強のアドレイド・アブソリュートを相手にするのは分が悪いですので」

「そうかよ」

「ですが、お覚悟よろしくて? わたくしの実力は天命機関においても下から数えた方が速い程度しかありません。そして、この地には天命機関最強の熾天使(セラフィム)が訪れていますわ」

「そもそも、俺はお前の実力も知らねぇよ」

 

 イヴリンは警告だけして後退する。最後の脅しは必要なかっただろうに、何処までも優しい少女だと感心する。

 

「その最強の熾天使(センパイ)に伝えておいてくれ。俺は()()()()()()()()()()()()()ってな」

「?」

 

 イヴリンは頭にハテナを浮かべて首を傾げるが、すぐさま我に返って跳び上がる。そして、崩落した駅の大穴から消え去った。

 

「アンタ、天命機関と敵対して良かったの?」

「俺の心配か?」

「バカ言わないで。曲がりなりにもアタシに勝った男が、くだらない()()()で負けるのが腹立たしいだけよ」

 

 ……相性差だと?

 アドレイドの異能が俺の様々な弱点を突いたように、イヴリンの異能も俺と相性が悪いのだろうか。……或いは、相性が悪いのは先輩か。

 深く思考に潜りそうになるのを抑え、アドレイドの質問に答える。

 

「確かに、今の状況で天命機関を敵に回すのは痛い」

「だったら、どうして……」

「それでも、どんなデメリットもお前というメリットには敵わねぇよ」

「…………‼︎」

 

 その結果がもう一人のヒロインとの敵対だったとしても、この選択は間違いではないと胸を張って言える。

 過去(かつて)の俺は殺せと叫ぶかもしれない。未来(いつか)の俺はこいつのせいでと後悔するかもしれない。それでも、現在(いま)の俺だけはアドレイドを受け入れられる。後先考えず、がむしゃらに突っ走れる。

 

「…………だったらさ」

「うん?」

 

 アドレイドは髪をいじいじして口を尖らせる。何かを言いたいが、言いづらそうにうじうじしている。めんどくせぇな、早く言えよ。

 そして数十秒後、覚悟が決まったのか口を開いた。

 

 

「だったら、アンタのことは主人(マスター)って呼んであげるわ‼︎」

 

 

 羞恥からか、屈辱からか、その顔と耳は真っ赤に染まっていた。赤い髪と血だらけの体も相まって、全身真っ赤の怪物に見える。

 ……なんだこれ、あれか、もしかして折手メアが言ってたあれなのか⁉︎

 

「べっ、べつにアンタを勝者と認めたわけじゃないわよ‼︎ ただアタシにはない強さを持つアンタを観察してッ、より高みを目指そうとしてるだけ‼︎‼︎」

 

 心の中の折手メアが『イベントスチルキタァァァ‼︎』と叫ぶ。俺もある種の納得感を得て叫ぶ。

 

 

「お前ッ、ツンデレキャラだったのかよ⁉︎」

「はぁァァァ〜〜〜〜〜ッッ‼︎⁉︎⁉︎」

 

 






次回で第二章Aパートは終了。
今度こそ休憩を挟みます。

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