原作主人公vsオリ主   作:大根ハツカ

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一五話:迷宮のち電車、時々魔王

 

 

 時間は少し前まで巻き戻る。

 電話をブチ切りした後、俺は校門から飛び出し、住宅街を駆け抜けた。

 

(……移動している?)

 

 異能の反応が動き回っている。

 何かを追いかけているように感じる。

 しかし、詳しくは分からない。俺の異能感知は大雑把な感覚であり、近距離ならともかく遠距離では、大体の距離と方向は分かっても、動き方や高低などは分からない。イメージとしては、地図アプリなどのGPSが近い。

 反応は障害物を無視して、真っ直ぐに駅の方面へ突き進んでいた。

 

(感知した異能の反応からすると、屋上を跳び回っているのか……いや、それにしては軌道が直線的だ。空を飛行しているのか、あるいは物体を透過して移動しているのか? ……こうまで異能を連発しているということは、異能を利用した移動方法で確定だろうな)

 

 先回りして駅に侵入する。改札を乗り越え、ホームへの階段を駆け上がり、空を見上げる。

 その転生者は空から……()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「下ッ⁉︎」

 

 ゴッッバッッ‼︎ と爆発音が響く。

 大穴が空いた。地面が割れて吹き飛び、線路が曲がってひしゃげる。

 しかし、それは昨晩見たような大穴とは違う。地面に穴が開けられたというより、()()()()()()()がそこに生まれたと言った方が正しい。

 

「穴を開ける異能じゃなく、()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 俺の声は届かない。大穴の空間を生み出した転生者はただ空を見上げていた。今にでも死にそうな皺くちゃな老人だが、生気の篭った目で空を睨みつける。

 そして、右手を伸ばして呟いた。

 

 

「まだ追いかけて来るか、()使()()

()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 返答があった。

 駅のホームの屋根にその少女は立っていた。

 水色のランドセルを背負い、目の下にクマを飼っている小学生ぐらいの少女。髪はテレビで見たボーカロイドのキャラクターのような色合いで、その手にはスマホを構えている。

 異能の反応は移動していたが、それは何かを追いかけていたのではない。逃げ回っていたのだ。大穴を生み出すような転生者が、その小さな少女を恐れていたのだ。

 

「あら?」

「……ん?」

 

 硝子のような瞳と目が合った。

 少女の目が見開かれる。

 

「駅に人がいますわ⁉︎」

「いや、駅には人がいるだろ」

「人避けの結界を使いましたのよ⁉︎ 無意識レベルの精神干渉が効かないとか、どれだけ空気をお読みにならない方ですの⁉︎」

 

 ふと辺りを見回すと、周囲に人はいなかった。

 昨晩のことを思い出す。折手メアが行ったことと同じように、何らかの異能によって人が近づけなくなっているのだろう。

 

「其処な一般人‼︎ ボケっと突っ立ってないで、お逃げになっては如何かしら‼︎」

「……あ、俺か? 俺もそいつに用があるから気にしないでくれ。誰だか知らないけど、心配してくれてありがとう」

「心配などしていませんわ! あ・く・ま・で、わたくしの邪魔になるから注意したのであって、あなたのような一般人はどーでも良いですわ‼︎」

 

 少女が顔を真っ赤にして暴れる。俺の言葉が癪に触ったのかもしれない。

 一方で、転生者の老人も不穏な気配を漂わせていた。

 

「囲まれたか……儂の行動は読み切られておったということじゃな」

「いや、俺はこいつの仲間とかではない」

「心外にも程がありますわ」

「では、儂も腹を括るとしよう。第四位(ヤツ)には恩がある。最期に御主らだけでも道連れにしようぞ」

「話聞けよジジイ」

「痴呆ですわね……」

 

 老人は自らの服を剥ぎ取り、胸元に埋まった黒い宝石を抉り取る。

 

「我が心臓(コア)に命ずる。技能(スキル)型の異能、《迷宮主(ダンジョンマスター)》の権限を用いて、此の大地に地下迷宮を築こう!」

 

 ビガァッッッ‼︎ と。

 黒い光が大地を照らす。

 大穴の奥から無数の気配を感じる。一体一体が肉体(アバター)型の異能に匹敵するような強い気配、地下に築かれた怪物の巣窟。

 そして、呪文(キーワード)が告げられる。

 

 

世界新生(Reverse)───《地下迷宮業務記録(ダンジョンメイカー)》‼︎」

 

 

 直後、世界がひっくり返った。

 世界観(ジャンル)が書き変わる。

 物理法則(第零摂理)が捻じ曲がる。

 これより先は異世界、怪物溢れる地下迷宮。

 

 迷宮の作成、怪物の召喚。異能の無効化しかできない俺とは違って、一つの異能で様々な利用が出来るものだと感心する。地中を真っ直ぐ進んでいたのも、地面を掘り進めていたのではなく、地下通路を異能で生み出していたのだろう。

 

「迷宮と怪物を召喚する異能……いえ、迷宮を作成する技能が異能であり、迷宮や怪物自体は副産物ですわね」

「この規模で副産物……⁉︎」

「これぐらいは大したことありませんわ。世界規模もCランク程度でしょう」

 

 なんか知らない指標が出てきた。今は関係ないので放っておく。

 兎に角、信じられない事だが迷宮自体は異能ではない。つまり、俺はこの迷宮を無効化できない。あるいは、無効化できても迷宮の形が崩れて生き埋めにされるだけだ。怪物に立ち向かっても、俺は嬲り殺しにされるだけだろう。ディートリヒが俺との戦闘用に生み出した転生者なのかもしれない。

 

「すまん、この戦闘で俺は役に立たない」

「そもそも、あなたの手を借りるつもりは毛頭ありませんわ。神の摂理を取り戻す、彷徨う魂を天に召す、一般人を守る。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…………えっ、天命機関って言ったか⁉︎」

 

 そこで、ブレンダの言葉を思い出した。

 彼女はこの転生者について、『私がコントロールできる者ではありません』と言っていた。

 

(なんだ、対策はちゃんと用意してたんじゃねぇか。やっぱり良い人だな、あの先輩)

 

 ブレンダ先輩の株が上がる。先輩は折手メアと違って、後先を考えて行動できる上に、他人を思いやれる優しい人だ。

 同時に、行き当たりばったりで自己中心的な折手メアの株が下がる。

 

「やっぱり、俺も戦うよ」

「……必要ありませんわよ。一般人は引っ込んで下さいませ」

「そもそも、これは俺の戦いだ。お前の方こそ引っ込んどいてくれ」

 

 先輩が戦闘に参加できないのは俺が理由だ。だったら、俺がその責任を取らなくちゃいけない。つーか、それ以前に先輩にあんな啖呵切っといて引っ込むのは情けなさすぎる。

 胸ポケットからボールペンサイズにまで小型化した《破邪の剣(アスカロン)》を取り出した。

 天命機関の少女は呆れるように首を振る。

 

「勝手にしてくださいまし。何があろうと、わたくしは関与いたしませんわよ」

「ああ、分かってる。ありがとう」

「貴方が勝手にした事ですわよ‼︎ 感謝される謂れはありませんわ‼︎」

 

 お礼を言うと、少女は顔を真っ赤にして腕を振り回す。褒められるのが苦手なのかもしれない。素直じゃない性格だと思った。

 

「それに、貴方が手を出すまでもなく終わりますわ」

「……何?」

「早い者勝ちですわ! 一足遅かったようですわね‼︎」

 

 少女は右手を振り下ろす。

 その手首にはブレスレットが付けられていた。しかし、そこから感じるのは紛れもなく異能の反応。電子音を鳴らし、水色に光り輝く。

 

 

「わたくしは権天使(プリンシパリティ)洗礼名(コードネーム)はイヴリン。天命規則に基づき、神罰を執行しますわ‼︎」

 

 

 聞き返す余裕はなかった。

 ギャリギャリギャリギャリィィ‼︎‼︎‼︎ と。

 突如、電車が暴走して駅に突っ込んできた。

 

「待て待て待て待てェ‼︎⁉︎⁉︎」

「安心しなさいな。乗客はいませんわ」

「そういう問題じゃねぇだろ‼︎」

 

 迷宮と電車が衝突する。

 不協和音を奏で、金属が悲鳴を上げる。

 大穴の奥へと破片が落下していく。

 

 そんな中、俺だけがその反応に気づいた。

 

 

「…………………………ッ‼︎」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

アタシの声に従え(Call)

 

 

 紅蓮の少女は一言呟いた。

 それで全てが終わった。

 

 ボッッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 紅蓮の炎が膨れ上がる。

 炎よりも光の塊と表した方がいい光景。

 ()()()()()()()()()()

 

 その光は電車を吹き飛ばした。

 その光は迷宮を崩落させた。

 その光は地面を熔かした。

 轟音で耳は聞こえない。

 閃光で目は見えない。

 受け身を取れたかさえ分からない。

 

 徐々に耳が聞こえ始める。

 瞑っていた目蓋を開ける。

 眼前に広がる光景は、紛争地域のようだった。

 

 熔かされた地面。

 横転した電車。

 瓦礫に変わった駅。

 崩落した迷宮。

 踏み潰された老人の転生者。

 横たわって動かないイヴリン。

 たった一節の火属性魔法がその光景を創った。

 

 それらを生み出した爆心地のど真ん中に、紅蓮の髪の少女が佇んでいた。少女は腰まである長い髪のかき上げ、怪訝そうな顔で呟いた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 


 

 

 

「………………は?」

 

 

 見たことはないが、折手メアから聞いたヒロインと同じ容姿をした少女だった。紅蓮の髪に黄金の瞳、周囲を惹きつける美貌。

 この少女がAルートのヒロインなのだと分かった。

 

 だが、彼女の言葉の意味が分からなかった。

 彼女は今まさに俺たちを暴力で叩きのめしたばかりだ。老人は殺され、イヴリンは気絶し、かろうじて無事なのは俺だけだった。その上で彼女は言う。

 

「アタシが探してるのは第四位、そしてその手がかりとなる第四位の手駒よ。()()()()()()()()()()()()()()()()禁呪魔法(・・・・)()使()()()()()、誰が何処に所属してるわけ?」

「お前ッ、何も確認せずに人を殺したのか⁉︎」

「何? アンタも人の命がどーのこーの言うヤツ? やだやだ、綺麗事なんてのは力の無いやつが言うことじゃないっつーの。アタシよりも強くなってから出直して来なさい」

 

 紅蓮の少女は小言を厭うように顔をしかめる。

 そして、何か良い案が思いついたかのうよに手をポンと叩く。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 瞬間、紅蓮の少女は動いた。

 眼前に迫る右フック。

 咄嗟に《破邪の剣(アスカロン)》で顔を庇うが、分かりやすい拳の軌道はフェイントに過ぎない。

 その拳は脇腹に抉り込む。

 

 グギィィイイイイ‼︎‼︎‼︎ と。

 人体から鳴ってはいけない音が響く。

 拳圧で身体がブッ飛ぶ。ファミレスで食べた物が胃から逆流して、地面に吐き出される。腹は痛いし、喉は熱いし、衝撃で未だに目がチカチカしている。

 

「よわっ……⁉︎ アンタ、その程度の実力の癖にアタシに口答えしたわけ?」

「何をッ、何をしやがる……ッ‼︎」

「えっ、殴ったの見えなかったの?」

「聞いてるのはそれじゃねぇッ‼︎」

 

 異能の反応は感じなかった。

 つまり、素早い挙動も男の身体を吹き飛ばす腕力も、異能ではない素の身体能力だ。暴力の化身みたいな性能しやがる。

 しかし、これで俺の異能の弱点が浮かび上がった。弱点の一つ、物理攻撃は防げない。普通に鍛えた格闘家や、近代兵器を持った軍隊相手だと俺はボロ負けしてしまう。

 

「急に殴りやがって……‼︎ お前が探してるのはディートリヒだろうがッ‼︎」

「うーん? なんで怒ってんの???」

「はぁ⁉︎」

 

 紅蓮の少女は不思議そうな顔で尋ねる。

 

 

「世界なんて力が全てなんだから、より強い者に殴られたのなら喜ぶべきじゃない?」

 

 

 息を呑む。

 そうだ、こいつは転生者。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 強烈な既視感を覚える。

 この話を聞かない感じと、自己中心的な考え方。

 昨日今日とよく見た横暴な振る舞い。

 

「お前、折手メアとそっくりだな」

「はァァ⁉︎ あんなゴミみたいな女と一緒にすんな‼︎ 全属性で痛めつけてブチ殺すわよ‼︎」

「おいやめろッ、魔法を唱えるな‼︎」

 

 どうやら地雷だったようだ。

 あいつ色んな奴から嫌われてるな。

 

「お前が探してるディートリヒの手駒は、既にお前が初手で踏み潰した。お前が戦闘する理由はもう無いはずだろッ?」

「そうね、無関係のヤツにまで喧嘩を売るつもりは無いわ」

「だったら……‼︎」

「でも、アンタが第四位の手駒じゃないって保証はないでしょ?」

 

 ……それは、そうだ。

 俺がディートリヒの手駒ではないと証明する方法はない。転生者の気配が分かっても、その転生者の経歴までは分からない。そもそも、どんな判断方法があろうと、異能という例外が存在する限り疑いは晴れない。

 

「アンタのことが信じられない、そもそも考えるのが面倒くさい。だったら、全員を容疑者として拷問した方が手っ取り早いでしょ?」

 

 極論で暴論だが、否定はできない。

 でも、俺はそれを認められない。

 そんな理不尽は俺が許さない。

 痛む腹を押さえて立ち上がる。

 

 

「なら、俺がテメェをブチ殺すッ‼︎」

 

 

 ヒロインとかこの後の予定とか関係ない。

 俺の中の怒りがこいつを許せそうにない。

 あと、弱いと馬鹿にされたのもムカつく。

 

「へぇ、アタシに大口を叩くとは珍しいじゃない。いいわ、名乗りなさい。記憶に残してあげる」

 

 勝てるはずのない戦いに挑む。

 相手はあの折手メアが精鋭(エース)と呼称したヒロインの内の一人。

 

「……俺の名前は六道伊吹。テメェの名前は? 墓標に刻んでやるよ」

「言うじゃない」

 

 俺の手にあるのは《破邪の剣(アスカロン)》のみ。

 俺の異能はたった六度しか使えない。

 

「アタシの名はアドレイド・アブソリュート」

 

 対するは、第五位すら屠った魔王。

 第四位と同じ世界観を持つ転生者。

 その圧倒的な暴力は俺も目にしている。

 

「いつか世界征服を成し遂げる真なる魔王よ。身の程を知らないアンタには、アタシに殺されるという最大の栄誉をあげるわ」

「その言い方、ディートリヒとそっくりだぜ。真似でもしてんのかよ、ファンか何かか?」

 

 でも、俺はこいつが許せない。

 拳を握り締める理由はそれで十分だ。

 だからッ、その呪文(キーワード)を叫べッッッッ‼︎

 

 

世界新生(reverse)───《剣と魔法の世界(ハイファンタジー)》」

世界新生(reverse)───《現実世界(ノンフィクション)》ッッッッ‼︎」

 

 

 直後、世界と世界が衝突した。

 世界観(ジャンル)が掻き乱れる。

 物理法則(第零摂理)が揺れ動く。

 これより先は異世界、神秘蔓延る幻想の世界。

 これより先は現世、悲劇のない当たり前の世界。

 

 原作主人公()Aルートのヒロイン(アドレイド・アブソリュート)による血みどろの殺し合いが始まった。

 

 






世界観:《地下迷宮業務記録(ダンジョンメイカー)
転生者:皺くちゃな老人
グレード:第四界位(グレード4)
タイプ:技能(スキル)
ステータス:
 強度-D/出力-C/射程-C/規模-C/持続-D
異能:《迷宮主(ダンジョンマスター)

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