六道伊吹たちや救急車が去った後。
瓦礫の奥底で動く、一つの影があった。
「死ぬゥゥウウウウッッ‼︎ この我が死んでしまうぞォォオオオオオオッッッッ‼︎⁉︎⁉︎」
ディートリヒ・フォン・エルケーニッヒ。
その男は魂だけになっても、まだ生き足掻く。
光の塵となった肉体が、その魂を核として再構成される。
しかし、再生は上手くいかない。
それならば、肉体を再構築することで無理にでも存在しようと足掻くが、それもできない。
最後の斬撃。《
「あのクソアマァァアアアア‼︎ 男同士の闘いに手を出しやがってェェエエエエエ‼︎ 我の優秀な遺伝子を残すことだけが役目である女の分際でェェエエエエエ‼︎‼︎‼︎」
もはや気合いだけで生存しているが、それもあと数秒も経てば終わる。完全な終わりだ。
輪廻に帰ることすらなく、ディートリヒという存在は消滅する。ディートリヒが辿ってきた七百年を超える旅路に終止符が打たれる。
「巫山戯るなァァアアアア‼︎ 死にたくないィィィ‼︎ 生きたい理由は思い浮かばないがァァ‼︎ 兎に角ッ、我は死にたくないぞォォオオオオオオ‼︎ 数百年前ならいざ知らずッ、この娯楽に溢れた不死者に優しい時代で死にたくないィィイイイイイイイ‼︎」
死にたくない、その感情に支配される。
特に理由はない。だが、死ぬのは怖い。
何故怖いのか、理由は簡単だ。
走馬灯が駆け巡る。
必死に頭を回らせる。
(そもそもッ、何故まだ我は生きているッ? 小僧の異能は完成していたッ……異能を発動したのならば、我は即座に消滅しているはずだァ! 考えろォ! 生存の
そして、思い至った。
六道伊吹の異能の性質。
ディートリヒの転生の特異性。
その二つが絡み合って起こった奇跡を。
「そうかァァァ! 我が
ディートリヒは他者の肉体に
憑依の際に二つの魂は溶け合い、より強いディートリヒの精神が肉体の主導権を奪う。その魂は一つとしてカウントされるが、もしも魂に質量が存在するならば、間違いなく二人分の魂を保有している。
故に、《
「だったらァァアアアア‼︎
バイクを乗り捨てるかのように、容易く肉体から離脱する。瓦礫の奥底で、光の塵の中から粉々になった遺体が出現する。ディートリヒの依代、もう身元を確認することすら出来なくなった被害者だ。
「これが絆の力であるぞォォオオオオオ‼︎」
ディートリヒは半身を犠牲にして生還する。
魂は酷く損耗し、当分の間は万全な状態で異能を発動させることはできない。七百年以上貯めた魔力の大半も失われた。それでも、ディートリヒは生き延びた。
七年間、(一方的に)寄り添ってきた唯一無二の相棒に別れを告げ、次の相棒を探す。
逝く宛はある。ディートリヒは幾つかの肉体を依代の予備として、マーキングをつけている。その内の一つに
緊急憑依した先は、甘ったるい匂いのする部屋だった。家具は全体的に薄いピンクの配色で彩られており、ハンガーには学校の制服とスカートが掛けられていた。
「ふむ、女であるかァ……。我には見劣りするが、容貌もそこそこであるなァ。我が肉体としては及第点かァ……?」
「えっ……なっ、何で口が勝手に……⁉︎ だっ、誰ですかっ⁉︎」
「その肉体を献上させてやろう。光栄に思え」
二人の魂が溶け合う。
黒髪の少女の人格が消えていく。
ディートリヒが肉体の主導権を奪う。
ディートリヒは何度か感触を確かめるように手を握りしめ、窓を眺めて呟いた。
「七年前と同じように、番外位が我の邪魔をするとは……。今度こそ、我は真なる肉体を手に入れる必要があるなァ」
七年前の事件を思い出す。
ディートリヒが殺害された事件。
三度の死因の内、最も情けない
だが、思い出したのは一瞬だけ。
ディートリヒは過去を振り返らない。
生者とは未来を見て生きる者であり、ならば不死者とは永遠に未来を見続ける者だ。
力を取り戻すまでの道筋を考える。
(手持ちの転生者たちを暴れさせ、時間稼ぎを行う。番外位の目的は分からないが、嫌がらせにはなるであろう)
あとは、番外位に見つからないように潜むことが重要だ。依代の少女の記憶を覗き、人格が変わったとバレないように演技しなければならない。
「一人称はわたし。基本には敬語で話す。趣味は料理。好きな人は兄の友達で、今は学校の先輩でもある……ん? この小僧は……確かァ……。…………成程なァ、そういう事であるかァ。……依代の名前はなんと言ったかなァ?」
自分の名前を記憶から引き出そうとするが、それよりも前に机の上の体操服が目に入る。
そこには、依代の少女の名前が書かれていた。
「
「うっへー、ひどい有様っすねー!」
「静かに。一般の方々は眠っている時間帯です。騒がないでください」
深夜三時。
デパートの瓦礫の上に、女性が二人いた。
一人はベージュの髪色に、修道服を纏った女性。年齢は二〇代の中頃ぐらいだろうか。瓦礫の上を走り回り、はしゃいでいるように騒ぐ。
もう一人は青みがかったような黒い髪に、真っ黒なスーツを着用した女性。年齢は大学生ぐらいだろうか。ぐらつく瓦礫の上を、危なげなく歩く。
不思議なことに、年齢が上であるはずの修道女が年下のスーツを着た女性に付き従っていた。
「これが
「どちらも本気ではなかったのでしょう。本気を出していたならば、こんな地方都市は一瞬で滅んでいたはずです」
「ひえー! おそろしいすっねー!」
口振りとは異なり、その表情に恐れはない。彼女たちにとって、転生者の脅威とは日常茶飯事であるからだ。
「相手取る
「その時は戦闘を回避します。私の任務はあくまで第四位の討伐、番外位は私以外に任せましょう」
「回避……できるっすかね? あのマセガキが調べても、居場所が特定できなかったんすよね」
「あの子だけじゃ調べきれないことがあるからこそ、私達も潜入捜査をするのです。
あの子とはここにいない三人目の仲間だ。
彼女たちは三人一組で行動する。
「でも、隊長がいるなら戦闘が起こっても問題ないっすよねー」
「…………何故ですか?」
そんな女性の様子には気づかずに、修道女は普通に答える。
「隊長は〈
〈
七年前、イギリスのとある街で起こった事件。
番外位を含めて七人存在する
一万を超える一般人、一〇〇を超える転生者、四人も集まった
「……私はただ運が良かっただけです。実力で生き残った訳ではありません」
「運も実力のうちって言うじゃないっすか。自分がそこにいたら、絶対に死んでたっすね」
「…………無駄口を叩くのもそこまでです。私達の使命を果たす時が来ました、仕事の時間です」
空から、一体の怪物が降り立つ。
それを一言で表すならばタコ。
「Pipipi! Piipi!」
「話が通用するかは分かりませんが、これも規則ですので名乗らせていただきます」
宇宙人は頭の触覚から、電波のような何かを放つ。対して、スーツの女性はポケットから一振りの刀を取り出す。
それはポケットに入る大きさしかない短刀。
その刀を構え、女性は言う。
「私は
戦闘は一瞬で終わった。
刀の間合いの外側にいた宇宙人を、ブレンダと名乗る女性は一瞬で両断する。速すぎる斬撃は、ソニックブームを引き起こす。それは音速の遠隔斬撃。
宇宙人は世界観を宣言する暇すらなく、呆気なく光の塵へと変化した。
「さっすが、隊長! たった七年で天命機関最強の
修道女のはしゃぎっぷりは完全に無視して、ブレンダは刀を鞘に納める。彼女は戦った転生者と、三人目の仲間から得た情報から確信する。
「今のは第四位の手駒でしょう。やはり、奴はこの街に潜んでいます。此処が
「どこから調べるっすか?」
「当初の予定通り行きます。まずは……」
ブレンダは頭に街の図面を浮かび上がらせ、街の最も中心部に存在する建物を思い浮かべる。
「まずは……潜入先の高校です」
街全体を見渡せる高層ビルの屋上。
強風が吹き荒れる中、その少女は立っていた。
年齢は高校生ぐらいだろうか。燃えるような真っ赤な髪は腰まで伸びており、黄金の瞳を輝かせた少女であった。
「此処がアイツが潜んでいる街ね」
その足元には何人もの転生者が横たわっていた。
その全てが第四位の手駒。
全員がこの女に返り討ちに合っていた。
「おっ、おまえのそれっ、それは! ディートリヒ様と同じ世界観っ…………⁉︎」
「はぁ? アタシがアイツと同じ世界観を持ってるんじゃなくて、アイツがアタシと同じ世界観を持ってるんだけど。アンタ、アタシのことを馬鹿にしてる?」
「ひっ、ひぃぃぃ………‼︎」
「うるっさいわね……
それは第四位とよく似た異能だった。
たった一節の詠唱は、足元の転生者を全て燃やし尽くす。火属性魔法。その魔法は一節でありながら、人体を灰に変える火力を持つ。
「それで、隠れてるアンタも同じこと思ってるわけ?」
女性が振り向き、暗闇に隠れた男を指摘する。
そこから現れたのは、不良のような男。
紫色の髪、坊主に近い髪型、両耳のピアス、黒いマスク、いかにもチャラそうな男だった。
「いやぁ、オレサマはそんなこと思ってないぜ? オレサマはただ、
「ブチ殺すわよ? アンタが例え
「舐めてないぜ? オマエさんは強い。それでも、オレサマは
その言葉を聞き、赤い少女の髪が逆立つ。
怒気が膨れ上がり、紅い魔力が湧き上がる。
「だ・か・ら‼︎‼︎‼︎
魔王を自称する少女が一歩を踏み出す。
辺りを少女の魔力が支配する。
それが合図であった。
直後、世界がひっくり返った。
これより先は異世界、神秘蔓延る幻想の世界。
世界が赤く染め上げられる。
いつの間にか、少女の手に一振りの剣があった。
「そういや、名前を聞いてなかったぜ。オレサマの名前はクシャナ。オマエさんの名前は?」
二人の怪物が言葉を交わす。
片や、
片や、
「アタシの名はアドレイド・アブソリュート。いつか世界征服を成し遂げる魔王の名よ、覚えておきなさい」
直後、怪物と怪物が激突する。
この街の騒動は、まだ始まったばかりだ。
俺が眠っている間も、騒動は進展する。
街に転生者が溢れ、複数の勢力が暗躍する。
『テンプレート・トライアンフ』の役者は揃った。一人の主人公、三人のヒロイン、中ボスとラスボス。異常な人間たちが集結する。
これより、世界の命運を分ける戦いが始まる。
第一章「輪廻転生ボーイミーツガール/Game_Start」完結。
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