原作主人公vsオリ主   作:大根ハツカ

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 返答でネタバレしそうになった時は、【検閲済み】で隠してます。ご了承下さい。




七話:諸悪の根源

 

 

「どうして……どうして彼女が生きている!?」

 

 そこにいたのは無傷の白川日向。

 折手メアの筋書き(チャート)はここに崩れ去った。

 

「キミは異能を発動したはずだ! だったら、ボクの異能は打ち消され、彼女は死んでいるはずだろう⁉︎」

 

 折手メアは狼狽えていた。

 ここまで動揺している姿は初めて見た。

 

 そんな折手メアを横目で眺めながら、裸のまま横たわっている白川日向に投げ捨てた制服の上着をかける。犬に噛まれて、燃やされて、凍ってとボロボロだが、無いよりはマシだろう。

 電話で救急車を呼んだ後、折手メアの方へ向き直って答える。

 

「俺の異能は一度につき一個の異能しか無効化できない。だから、《焔命獣(ブレイザー)》という肉体(アバター)型の異能を無効化すれば、テメェの異能が残ったまま彼女は救出される」

 

 彼女は現世における人格が殺人を働いていたわけではなく、現世における人格が消滅していた訳でもない。異能に、肉体に、現世の人格が押し潰されていただけだ。

 つまり、連続無差別焼殺事件の犯人は異世界から来た怪物の肉体であって、現世における彼女の人格ではない。

 

 だったら、彼女に罪はない。

 そして、《焔命獣(ブレイザー)》を無効化することで彼女は元に戻る。都合のいいことに、彼女の傷は折手メアの異能によって治った。

 

「この後どうなるかは分からねぇ。もしかしたら、また異能が発動して人格が消えるかもしれねぇし、とっくに人格は死んでいて眠ったまま起きないかもしれねぇ」

 

 これで万事解決という訳ではない。

 彼女の人格、前世の記憶、異能の力。それらがどう転がるかは不明。今よりも良い結果になるとは限らないし、死ぬよりも最悪な結末が待ち構えているかもしれない。このまま殺した方が世界にとっても、彼女にとっても幸せなのかもしれない。

 それでも。

 

「それでも、何もしないまま殺したくはない。クソ野郎をブチ殺すのは大歓迎でも、憐れな被害者を一方的に殺すのは嫌だ。胸クソが悪い」

 

 だったら、一筋の希望に賭けたい。

 原作(シナリオ)筋書き(チャート)も関係ない。

 世界の事情も彼女自身の気持ちも知ったこっちゃない。

 ただ、俺がやりたい事をやる。

 

「そんな……、そんな馬鹿な……。六道伊吹は殺人を躊躇うような性格じゃない。どうして、こんなことになった……。バタフライエフェクトか……?」

 

 折手メアはブツブツと呟いている。

 (うつむ)いていて顔は見えないが、何処か思い詰めているように見える。

 やがて、うずくまって頭を抱える。

 

「どうして何もかも上手くいかない! 転生してからずっとそうじゃないか! ボクがチートオリ主じゃないからか⁉︎ ボクの十年以上かけて組み立てた筋書き(チャート)も、この世界(ゲーム)の運命である原作(シナリオ)もボロボロじゃないか……‼︎」

 

 言っている事の大半は理解できない。

 だが、分からないなりに伝わったことがある。

 

「なぁ、折手」

「…………なんだい?」

 

 折手メアは原作崩壊だと騒いでいるが、その戯言を遮ってある事を尋ねる。

 

 

「テメェが諸悪の根源(ラスボス)だろ?」

 

 

 大した根拠はない。今までの折手メアの言動、そして俺の直感がその答えを導き出した。

 転生者騒動の元凶。俺の周囲に起こった全ての事件における諸悪の根源。事件を手引きした黒幕。

 

「……ボクがラスボス? アハハッ、そんな訳ないだろう。ボクは成り代わり転生でも無ければ、憑依転生でもない。キミの予想は的外れだよ」

 

 折手メアは質問を聞いて笑う。

 だが、聞きたいのはそんな言葉じゃない。

 

「『テントラ』とかいうゲームのラスボスが誰かなんて関係ない。少なくともこの世界において、ゾンビとクマのモンスターを用意したのはテメェの仕業だろ」

 

 ゲームのラスボスなんて聞いていない。俺が聞きたいのはこの世界におけるラスボス。この悲劇を作り上げた……筋書き(チャート)設定(セット)した脚本家だ。

 その言葉を、質問を、折手メアに突き付ける。

 

「アハハハハハハハハハッッッッ‼︎」

 

 笑う、嗤う、微笑う、嘲笑う。

 俺を慈しむように微笑う。

 世界を馬鹿にするように嘲笑う。

 腹を抱えて笑い、永遠のように笑い続ける。

 そして、そして、そして、そして、そして……。

 

 

()()()()()()()

 

 

 そう言って、折手メアは微笑んだ。

 いつもと何も変わらない、いつも通りの笑顔。

 その事実にゾッとする。ネタバレに口をつぐんだときと同じ、こいつは何も悪いとは思っていない。

 

「あっ、誤解しないで欲しいのだけど、ボクが転生者を生み出した訳じゃないよ。ボクにそんな力はない」

 

 折手メアは白々しく笑う。

 

「ボクはただ背中を押しただけ、状況を整えただけさ。ボクの異能と原作知識を最大限に活用して、キミが輝く最高の舞台を作り上げたのさ。原作からは少し外れてしまったけど、まぁキミがいるなら何とかなるだろう」

「テメェが犯人じゃないとしても、被害者と加害者を用意したのはテメェじゃねぇか‼︎ この悲劇を作り出したのはテメェじゃねぇのか⁉︎」

「失礼だなぁ。どうせ原作で不幸になっていたのだから、これは運命みたいなものさ。ボクは悪くないよ」

「ふざけんなぁああああッッッッ‼︎‼︎‼︎」

 

 頭が沸騰する、剣を構える。

 この女を許しちゃいけない。

 

「もしかして、ボクを倒そうとか思ってる? キミ、ボクの実力を知らないだろう。勇気と無謀は違うのだから気をつけた方がいい。前に進むだけが正解のルートじゃないよ?」

 

 その言葉に返答する気はない。

 折手メアの界位(グレード)がどれだけあるかは知らないが、異能を発動させる前にブッ飛ばす!

 大地を駆け、剣を振るおうとする。

 

 その、一瞬前。

 ピシリッ、と不気味な音が駐車場に響く。

 音に警戒して辺りを見回す。だが、何もない。

 

「仕方ないなぁ。ボクの異能は戦闘向きじゃないのだけど、キミの気が済むまで付き合ってあげるよ。キミが理不尽に怒りを抱く姿は好ましいと思うしね。隣でも後ろからでもなくて、前からその姿を見ることになるとは予想外だったけど……」

 

 相変わらず早口でペチャクチャと喋る女だ。

 油断することなく、感知を張り巡らせる。

 俺の直感が囁く、いつものアレが来ると。

 

「さぁ、最終ラウンドを始めようか‼︎ ボクは六界列強(グレートシックス)・番外位。六道超越者(オーバーロード)の一人。二十一世紀最悪の転生者にして最新の悪夢(ナイトメア)、異能製造機と呼ばれたボクの力を見せてあげよう」

 

 六界列強(グレートシックス)……確かゲームのラスボスがその第四位だった筈だ。順位が何を示しているかは知らないが、少なくともラスボス級の戦力に違いない。

 そして、あの呪文(キーワード)が放たれる。

 

 

世界新生(reverse)───《創作物語(メタフィクション)》」

 

 

 直後、世界がひっくり返った。

 世界観(ジャンル)が書き変わる。

 物理法則(第零摂理)が捻じ曲がる。

 これより先は異世界、文字と絵で描かれた物語。

 

 三日月を背景にして、折手メアは笑った。

 

 

「ちなみにボクは第六界位(グレード6)、転生者における最上位の界位(グレード)さ」

 

 

 


 

 

 

 バキッ、という異常な音が響き渡る。

 その音は既に限界に達していた。

 感覚を研ぎ澄まし、駐車場の中の異常を探る。

 しかし、見つけるよりも先にその異常が目前に顕現してしまう。

 

 バゴォッッッッ‼︎ と。

 床が抜け落ちる。

 それは、()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……()()()()()()()()()()()()()()()()

 床も、壁も、天井も、何もかもがひび割れ、崩れ落ちる。誰にも知られない場所で異能を奮っていた今までの転生者とは異なり、明らかに表舞台にまで影響を及ぼすような理不尽な力。

 

 これこそが第六界位(グレード6)

 これこそが六界列強(グレートシックス)

 怪物なんて生易しいモンじゃない。

 それは人の形をした災害に等しい。

 

「白川ァァァアアアアアアッッッッ‼︎‼︎‼︎」

 

 一番危険な者は意識が戻ってない白川日向だ。

 咄嗟に抱きかかえ、《破邪の剣(アスカロン)》の刀身を引き伸ばす。地面に突き立て、足場を形成する。

 駐車場がデパートの最上階に存在したのは幸運だった。落下の危険性はあるが、それは何とかなった。もしも一階にいたとしたら、一階から六階までの全ての天井に押し潰されていただろう。

 

 崩落。

 瓦礫が地面と衝突する。

 あまりの轟音に頭がその音を理解できない。

 

 ゆっくりと剣を縮め、瓦礫の上に降りる。

 深夜であったためか、被害者は誰もいない。

 だが、街のシンボルとも言えるデパートは消え去った。

 その無惨な現場の中、傷一つ……汚れ一つもない折手メアは瓦礫の上に君臨する。

 

「裸の女の子を抱えるなんて……まるでその子がヒロインみたいじゃないか⁉︎ カッコいいけどダメだよ! ただのモブにそんなイベントとか許せない! ボクは同担拒否なんだぞ‼︎」

 

 冗談のような存在は、冗談のような言葉を口にする。まるで意味が分からない妄言の塊。

 (まさ)しく、常識外の転生者(エクストラナンバー)

 六界列強(グレートシックス)においても異端の番外位。

 

「テメェの目的は一体なんだッ? テメェは俺のファンなんだろう‼︎ 何だって俺が嫌がる事を平気でやりやがる⁉︎」

「前に言った通りさ。ボクはキミのファンだからこそ、キミが嫌がることをしたい」

 

 折手メアは飄々と答える。

 言っている意味が全く理解できない。

 

「ボクは欲張りなんだ。キミの輝いている姿、キミの可愛い姿、キミの喜んでいる姿、……キミの苦しんでいる姿、それら全てを見たい! 読者として、友達として、相棒として、観衆(モブ)として、宿敵(ライバル)として、黒幕(ラスボス)として……何よりも恋人(ヒロイン)として‼︎ 様々な立場から、様々なキミを眺めたい‼︎ その為だけにTS転生したと言っても過言じゃない‼︎」

「…………テメェの発言は矛盾している。俺を輝かせたいのか、苦しめたいのかどっちなんだよ」

「どっちもだよ。両方ともの夢を実現するのは難しいとボクも思った。だけど、ボクの中の光のオタク(天使)闇のオタク(悪魔)は争った末に一つの結論を出した」

「……結論?」

 

 折手メアの導き出した結論。

 俺を輝かせる事と、俺も苦しめる事を両立されるクソみたいな結論。

 考えるまでもない。それは最悪の結論に決まってる。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 絶句。

 何処までも真剣なその赤い瞳は、一切ブレる事なくその言葉が本気である事を告げる。

 

「ボクは原作に存在しない事件を含めて、沢山の悲劇を用意した。キミを苦しめる最悪の転生者達さ。でも、キミはそんな物に負けずに、あらゆる結末(デッドエンド)を覆してくれ。どれだけ苦しめられても、また輝きを取り戻してくれ‼︎」

 

 ああ、駄目だ。こいつに話は通じない。これまで戦った二人の転生者と比べても、俺と世界観がかけ離れている。ゾンビは話を聞く気がなかった。クマのモンスターは言葉を理解する頭が無かった。

 だが、こいつは違う。話は聞くし、言葉も理解できる。それでも、俺の伝えたい事が通じない。こいつは止まらない、こいつは止められない。

 だから、今ここでこいつを倒さねばならない。

 

 救急車の音が聞こえ始める。

 俺が電話で呼んだものか、それともデパートの倒壊で呼ばれたものだろうか。どちらにせよ、安心するにはまだ早い。

 救急車の音が聞こえてはいるが、一向に音が近づく気配がない。迷っているのか、足止めを食らっているのか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 十中八九、折手メアの仕業だろう。

 こいつを倒さない限り、白川日向を助けることはできない。

 

「さぁ、前口上を叫べ! キミの世界観を押し付けてくれ! こんな結末(デッドエンド)なんか覆せ‼︎」

「どの立場で言ってやがる!」

 

 頭のおかしい折手メアの言い草にイラつく。

 だが、やるしかない。こいつの思い通りに動くのは癪だが、それ以外に手立てはない。

 

 

世界、新生(reverse)───《現実世界(ノンフィクション)》ッ‼︎」

 

 

 裏返った世界を、更にひっくり返す。

 世界観(ジャンル)を削ぎ落とす。

 物理法則(第零摂理)が息を吹き返す。

 これより先は現世、悲劇のない普通の世界。

 

 白川日向を庇い、前に出る。

 《破邪の剣(アスカロン)》を構え、臨戦体制を取る。

 そんな俺の姿を見て、折手メアのテンションが爆上がりする。鬱陶しいこと、この上ない。

 

 

「ボクの愛を受け止めてくれよッ、六道伊吹‼︎」

「お断りだッ、クソ野郎ッ‼︎」

 

 

 全く同時に地面を蹴る。

 原作主人公(タイトルロール)二次創作主人公(メアリー・スー)の戦いが始まる。

 

 






 タイトル回収。

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