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正直ちょっとビビってます。
第一章後半戦もよろしくお願いします。
「…………これ、俺の異能じゃねぇの?」
「うん……」
控えめに折手メアは頷く。衝撃に言葉が出てこない。沈黙が場を支配する。
異能を感知する異能。俺が今まさに発揮した能力。目を瞑っていても転生者の動きを察知できる感覚。異能じゃないなら逆に何なんだ。
「一回言ったと思うけど、異能っていうのは前世の能力を引き継ぐものだ。だから、それは単純に転生してから獲得した特殊技能……なのかな?」
「……まぁ、異能を感知する技能とか前世では持ってなかったからな」
「うん、だから異能ではない、と思うよ? ……多分」
あやふやだ……。頭の上にハテナがいっぱい浮かんでいる。何も分からん。
「つーか、そもそも俺は異能になるような技能も肉体も持ってなかったんだけど……」
「異能のタイプはそれだけじゃないさ」
「……そういや
「では、お教えしようじゃないか」
折手メアは何処からともなく眼鏡を取り出し、偉そうな顔で腰に手を当てる。おそらく、女教師のフリをしているのだろうが、身長も相まって大人ぶった小学生にしか見えない。
「異能には全部で四つのタイプが存在する。一つはキミも知っている通り、
「へー、俺の異能もこれじゃね?」
「キミは同じ身体に転生しただけで、異能で肉体を引き継いでいる訳では無いよ」
異能ではなく、転生の仕方の問題か。
転生者にも色々あるんだな。
「次に、
「……もしかして、《
「いいや、違う」
即答。バッサリと否定された。
「《
しかも、そのまま流された。
「後は、
「……それって当たり前じゃないか? 前世の記憶があるんだったら、前世の技能が使えたところで可笑しくはないだろ」
「そうだね。前世で言葉を話していたから、異世界語を話せるとなれば当たり前だろう。でも、それ以外だったら?」
……それ以外。
言語以外。ごく普通の技能以外。
言い換えれば、
「例えば、魔法は魔力を消費して発動する技能だ。だけど、この世界には魔力なんてものは存在しない。……それにもかかわらず、魔法が使えるとしたら、それは正しく異能と言えるだろう」
「記憶だけじゃ使えない技能ってワケか」
「
おそらくだが、あの感覚が法則改竄・異世界侵蝕なのだろう。
「最後に、
「……えっ、さらっと言うじゃん⁉︎」
ゾンビ戦前ではネタバレを嫌がっていただけに、簡単にバラしたことに驚く。
「仕方ないよ、異能開花チャートはキミの主人公補正によって砕けた。だったら、ここからはオリチャーだよ。ボクのアドリブ力を見せてやろう」
「具体的にどうすんの?」
「やることは今までと同じさ。
「転生者まだいるのかよ……」
「あぁ、今から作る」
「……はぁ?」
折手メアは唐突に歩き出し、未だ消えることのない白川日向の元へ辿り着く。そして、手をかざすと、その肉体に光の粒子が集まり出す。
「《
直後、白川日向が立ち上がる。
怪我はその面影すらなく、地面に飛び散った血のみがかつての惨状を確かのものと証明する。
「なぁ、何をしてんだよ……」
「
「眠った死者を叩き起こして、何してんだって聞いてんだよ!」
折手メアは何も答えない。ただただ、怪しい笑みを顔に浮かべている。
「そう言えば、今回はいつもの前口上を言ってなかったね。まぁ、このモンスターは話せないんだから当たり前だけどさ」
折手メアは白川日向を小馬鹿にするようにケラケラと笑い、足でその背中をつつく。敬意や憐みなんてカケラも抱いちゃいない。
白川日向は確かに連続無差別焼殺事件の犯人だ。だが、彼女だって前世を思い出したかった訳じゃない。白川日向の人格は異能に押し潰され、未だその魂を占拠するのは前世の人格だ。
だから、白川日向を殺したときに俺は思った。ようやく、彼女は眠れると。もう、彼女の尊厳は誰にも奪われないと。
その想いは最悪の形で裏切られた。
直後、世界がひっくり返った。
これより先は異世界、星を覆う絶対凍土。
白川日向の後ろで、その魔女は笑って言った。
「第2ラウンドだ、キミのためにお膳立てした舞台だよ。さっさと異能に目覚めて、この怪物をブッ殺そうじゃないか」
直後のことであった。
全てが凍りついた。
急激に温度が低下する。
息が白く染まる。
汗が、血が、何もかもが凍結する。
「あ、ああああああああッッッッ‼︎⁉︎⁉︎」
寒さに震えるとか、鳥肌が立つとか、最早そんな次元ではない。むしろ、寒さは感じない。熱いとさえ言える。
ただ痛い。耳が、指が、爪先が、身体中が突き刺すような激痛に苛まれる。
これこそが極寒の大地。
星すら凍てつく
「世界観の名前が《
痛みに絶叫する俺を無視して、折手メアは質問を投げかける。だが、俺には質問に答える余裕などはない。痛みにうずくまる。
「極寒の世界の中で、延命するために炎を出す器官を手に入れた《
元々答えを必要としていなかったのか、折手メアは続けて独りで話す。全てを無視した一人舞台。折手メアという人間は一人で完結していた。
「『Character Material』曰く、元々の予定では世界を凍らせる
足が動かない。靴が凍り付き、地面から離れない。足だけでも引き抜こうと力を込めるが、足の皮が靴に張り付いているのか全く動かない。
ベキベキバキバキッッッ‼︎ と。
凍った肉体に音を立てて亀裂が走る。
痛い、いたい、イタイ。体がひび割れていく。
「キミがこの異能、《
異能の名前は
「勝てる敵だけと戦うのが主人公か? 勝てない敵に負けるようなヤツが主人公か? ……ボクはそうは思わない」
足が凍って動かないだけではない。全身が痺れて動けない。風が吹いただけで、身体から命が抜けたように錯覚する。
炎を纏った怪物が近づく。抵抗すらできない俺と、本領を発揮した白川日向。戦闘の結果なんて見るまでもない。
「戦え、立ち上がれ、異能を引き出せ、怪物を殺せ。全部キミのために用意したものだ。転生者も、この戦場も、あらゆる悲劇さえも」
あつい、いたい、つらい、くるしい。
もう動きたく無い、もう戦えない、そんな弱音で頭がいっぱいになる。肉体だけでなく、精神までもが追い詰められる。
「キミの原動力は怒りだ。恐怖への怒り、理不尽への怒りがキミを突き動かす。怒りが足りないと言うのなら、ボクが真実を告げてやろう」
……でも、それでも。
「白川日向を転生者にしたのはキミだ。キミという主人公の障害になるためだけに彼女は前世を思い出し、キミを輝かせるためだけに彼女はこれから殺される。彼女の死はキミのために
足に力を込める、右手の剣を握りしめる。
頭を上げる、目を見開く。
身体が再び駆動する、鼓動が激しく脈打つ。
もう動く必要はないのではと自問自答する。
……その答えはたった一つ。
「負けるな、ヒーロー。キミのために用意したこの世界が全て無駄になるじゃないか。ボクの組み立てた
この理不尽の権化を、他人を物語の歯車のように扱うこのクソ野郎を絶対に許すな‼︎
だから、だから……ッッッッ‼︎‼︎‼︎
「なぁ、折手メア。テメェがこのクソみてぇなシナリオを描いたって言うのなら! 白川日向が死ぬのが運命だってほざくのならッッ‼︎」
凍える身体から力を振り絞る。
歯を食いしばり、大声で叫ぶ。
「そんな
悲劇を当たり前のように語るな。
人の死をただの設定とほざくな!
これ以上、彼女を冒涜するのは許さねぇ‼︎
世界観を構築しろ、俺の日常を取り戻せ。
この場で自分の
「
前世の記憶を振り返る。
短い人生経験。記憶にあるのは狭い街並み。知り合いが多いわけでもなく、よく遊ぶ友達は片手で足りる。
それでも、そこには当たり前の日常が存在した。
それは暴力なんかよりも、よっぽど強い尊い力だ。
「
イメージするのはリボルバー。
異世界なんてものを否定し、この世界の常識を転生者に知らしめる。
さぁ、世界を覆す
裏返った世界を、更にひっくり返す。
これより先は現世、悲劇のない当たり前の世界。
世界観を構築した所で何が変わる訳でもない。周囲は相変わらず凍っているし、身体は未だに動かない。
だが、俺を警戒したのか白川日向が動き出す。透明な風が吹く。ただの風じゃない、触れた生物を凍結させる異能──《
動けない、防げない。
……その程度で俺が死ぬとでも思ってんのか?
「現世を舐めてんじゃねぇぞ、異世界人‼︎」
一度目。
俺はその異能を発動する。
風が掻き消える。それだけじゃない、俺の足を凍らせていた氷さえ消滅する。俺に接触した異能を打ち消す。
「キタァァァァァァ! それこそがキミが持つ唯一無二の異能、《
「うるせぇ、黙ってろ」
折手メアの声を無視して突き進む。
異能を無効化できるのであれば、戦いの条件は復活前の《
「ギャリギャリギャリギャリィィィ‼︎」
轟‼︎ と。
白川日向の口から炎が放たれる。
氷だろうが炎だろうが、結果は同じことだ。
「邪魔だァッッ‼︎」
二度目。
左手をかざし、炎に触れる。
異能が無効化され、炎が消え去る。
異能の使用と効果の発揮までに少しのタイムラグがあったのか、左手の皮膚が一瞬発火して火傷ができる。
気にせず進む。
しかし、足が前に進まないことに気がつく。
ふと足元を見ると、
一度異能を発動したことで、異能の発動条件が接触であり、ほんの一瞬しか継続しないことを知った。
また、俺の異能は前方から迫る風と、足に纏わりつく氷の両方を無効化した。つまり、接触した全ての異能を無効化するということだと考えた。
しかし、二度目の発動では手に接触した炎は消えたが、足に接触した氷は消えなかった。よって、俺の考えは間違いで、何か別の法則があると予測すべきだ。
「……異能の個数だな。氷と風は同一の異能による現象、つまり異能は一つ。だが、炎と氷は異なる二つの異能による攻撃。俺が無効化出来るのは一度につき一個ってことか」
前方から放たれる炎、地面を這う氷。
白川日向との距離は残り数メートル。
炎を優先して無効化すれば、少しずつ安全に進めるかもしれない。だが、異能があと何度発動できるか分からない以上、出来る限り速やかに動かねばならない。……だったら。
「だったら、正面突破だ」
三度目。
異能発動、異能無効化。
足を凍らせる氷を打ち消す。
このまま進むだけならば、先ほどと同じ。
だから、今回は少し工夫する。
《
氷の大地を駆け、怪物のもとまで辿り着く。
「ギャリギャリギャリィィィッッッッ‼︎」
鞭のようにしなる怪物の腕……はフェイントであり、本命は口から放たれる炎。避けるまでもない、目を背けることなく無効化する。
四度目。
そして、それだけでは終わらない。頭上から巨大な氷柱が降ってくるのを《異能感知》で把握する。凍っているのは怪物の血液、つまり爆発の材料ということだ。氷柱と爆発、二つの異能を同時に無効化することはできない。
白川日向に接近した以上、走る予定もないため《
五度目。
やっとの思いでここまで辿り着いた。
白川日向の体に手を当て、異能を発動する。
六度目の……そして、最後の異能発動。
「もう眠れ、白川日向。テメェの尊厳はこれ以上、誰にも奪わせやしねぇ」
異能を無効化する異能、《
折手メアがそう名付けた異能を発動する。
ただ手を当てただけ、それだけで白川日向の肉体が崩壊する。身体が光の塵へ変換される。蝋燭の火が消えるように、あっさりと。まるで今の戦いが無かったかのように、呆気なく。
真っ白になった氷の世界が溶ける。
戦闘は終わった、白川日向も眠った。
そんな中、拍手の音が響いた。
「なるほど、異能を無効化した所で敵は死なない。だが、ボクの《
折手メアは機嫌良さそうにスキップで近づく。今にでも鼻歌を歌いそうな雰囲気だ。
「なんだ、結局
結局、白川日向は死んだだろうと。
運命は何も変わっちゃいないと嘲笑う。
だが、俺は光の塵を指差しながら言い返す。
「
「…………は?」
光の塵、その中には裸の女性が無傷で横たわっていた。
その名は白川日向。怪物
世界観:《
転生者:
グレード:
タイプ:
ステータス:
強度-D/出力-D/射程-D/規模-C/持続-B
異能:《
世界観:《
転生者:
グレード:
ステータス:
強度-EX/出力-E/射程-E/規模-E/持続-E
異能:《