ルーキー日間で一位になってたらしいです。
ありがとうございます。
ルーキーじゃない日間でも頑張ります。
よろしくお願いします。
駅前のデパートに到着した。六階建ての建物で、二階と駅は一本の通路で繋がっている。五階と六階は駐車場になっており、そこに目的の転生者が待ち構えているらしい。
時刻は午後一一時一五分。デパートは午後一〇時に閉店するため、一時間以上経った現在は中に誰もいない。深夜であるためか、周囲には誰もいない。あるいは、
従業員入口からデパートに侵入する。本来なら鍵でも掛けられているはずだが、
「今回の敵……連続無差別焼殺事件の犯人はどんな奴なんだ? 今のところ、相手を焼殺させる異能を持つ以外には情報がない。出来る限り相手の能力は詳しく知っときたい」
折手メアは足で雑に扉を蹴り開けると、こちらに振り向いて答える。
「『Character Material』曰く、転生者の名前は
「待て待て待て!」
身長が二メートルで、体重が二二〇キロ⁉︎
「それ本当に大学生なのか!? クマか何かじゃなくて⁉︎」
「うん、正解。見た目はクマっぽいよ」
「合ってんのかよ‼︎」
クマの女子大学生。クマの転生者。
字面がもうヤバい。
女子大生の格好をしたクマを思い浮かべながら、階段をゆっくり上がる。
「前世の記憶を思い出す以前は普通の女子大学生だったけど、異能の影響で姿形が大きく変化したのさ」
「……異能にも色々あるんだな。遮って悪かった。続きを頼む」
「血液型はO型で、誕生日は九月一八日。好きなものは肉、嫌いな物は飢え。イメージカラーは柿色。前世の記憶を思い出したのは二週間前で、現世における人格は異能に押し潰されてるタイプ。転生の種類としては人外転生」
人外転生、初耳の用語だが、ニュアンスで意味が何となく分かる。草薙大史は前世の記憶が人間であったが、白河日向の前世は人間ではなく
「異能と世界観は?」
「異能は《
「モンスター感が強いな……。確か、銃の概念が存在しない世界観だったよな。文明が未発達とか、魔法が発達してたりするのか?」
生命力ときたか、全く分からん。世界観が全く想像できないため、ファンタジーの生物だと予想した。しかし、答えはそれ以上だった。
「世界観は《
「……もしかして、肉弾戦すら不可能?」
「ダメージを与えられるのは《
……ならやっぱり、異能に覚醒するしかない。
話している間に、最上階へ到達する。駐車場には車が数台のみ置かれている。明かりが少なく薄暗い駐車場の中、一点のみ明るい場所があった。
どうして明るいのか、そんなの決まってる。
炎を使う転生者、白川日向がそこにいた。
恐ろしい。恐ろしいからこそ、じっくりと相手を観察する。恐怖の元凶を速やかに排除するために、《
確かにシルエットはクマのようにも見えるが、眼球は額のものを合わせて三つ存在し、口は十字に開いている。足はその巨体を支えるのに相応しい太さであり、それに比べて腕は不自然に細長い。
燃え盛る獣。
連続無差別焼殺犯。
人外転生者。
対するは、剣しか持たぬ高校生。
されど、この身は怪物と同じ転生者。
されど、この剣は竜殺しの銘を持つ名剣。
怪物退治はいつだって人間の仕事だ。
「来いよ、怪物。
戦いの火蓋が切られた。
白川日向に通用するのは《
しかし、相手はクマのごとき肉体を持ち、全身に炎を纏わせた異世界のモンスター。接近戦も分が悪い。故に、最初の攻撃は決まっている。
「オラァッッ!!!」
《
唯一の攻撃手段を投げ捨てたわけじゃない。
柄はそのままに、刀身だけが飛んでいく。
《
最小サイズはキーホルダー程度、最大サイズは不明。実際の重量は変わっているようだが、体感の重さはさほど変化しない。そして、刀身の形状は自由に変化させられるが、柄だけは一切変わらない。形状変化にかかる時間は1秒程度。
だから、俺がしたことは簡単だ。刀身を引き伸ばし、先端以外を鎖のように形状変化させる。最後に、剣の先端を球体に作り替えて、重量を重くする。柄を掴んで形を元に戻せば、剣の先端は戻ってくる。
後は剣の先端を投げれば、何度でも再利用可能な
しかし、そう上手くいくはずがない。
パチィィィィン‼︎‼︎‼︎ と。
細長い腕が鞭のようにしなり、飛来した鉄球を弾き飛ばす。腕が柔らかい。タコの足のように骨がなく、筋肉だけの腕なのかもしれない。
「ギャリギャリギャリィィィッッッッ‼︎」
白川日向が絶叫する。急ブレーキでタイヤをアスファルトに擦り付けるかのような不協和音。あるいは、ドリルで金属を破壊する音だろうか。
人間には不可能な絶叫。三つの瞳が俺を睨み、自らを攻撃した外敵を認識する。そして、歪な口が十字に開く。悪寒がした。
「なぁ⁉︎」
眼前には火球。口からの火炎放射。
慌てて剣を元の形に戻し、駐車された自動車の下に滑り込む。火球が着弾した場所は、今なお燃えている。
「……可燃性の体液か?」
身体を纏う炎は汗、口から放たれた火球は唾。そう考えると、生命力なんてものよりも理解しやすい。
……いや、物理法則で考えるのは危険か。相手は異世界のモンスター。体液の方が燃やしやすいが、他の部分の肉体も炎に変えられるのかもしれない。
だが、悠長に考えている暇はなかった。怪物の殺気を感じ、全身が震え上がる。
「ギャリギャリギャリ!」
奇妙な鳴き声(笑い声?)と共に、白川日向はこちらへ四足歩行で駆け寄る。大して速くはないが、その巨体も相まって迫力がある。その勢いのまま車に飛び乗り、踏み潰す。
間一髪で車の下から退避する。白川日向が車に飛び乗るタイミングで入れ替わるように飛び出し、逆に白川日向の後ろから剣を振り下ろす。
完璧な奇襲、完全な死角からの攻撃。三つの視界から逃れた一撃。俺はそう思っていた。
パチィィィィン‼︎‼︎‼︎ と。
異世界のモンスターはそんな甘い考えごと弾き飛ばす。白川日向の細長い腕が剣を叩き落とし、腕に掠った。逆関節どころではない。関節もないようなその腕は、前後関係なく三百六十度、どの方向にも曲げることができる。
そして、奇襲は通じなかった。当たり前だ。後頭部にあったのは三つの瞳。眼球の個数は三つではなかった。三対……前後合わせて六つの眼球。この怪物に死角など存在しない。
「熱ッッッッ⁉︎⁉︎」
燃える腕に少しだけ接触したからか、俺の腕から炎が上がる。制服の上着を脱ぎ、地面に投げ捨てる。
やはり正攻法では勝てない。異能が必要だ。これだけ命の危機に晒されれば、俺も自分の異能を自覚できるはず、はず…………。
…………………………。
「マジで異能どうやって使うの⁉︎」
何も分からん‼︎
やばいやばいやばい。頭が焦りと死の恐怖でいっぱいになる。悪寒に従って怪物の火炎放射を避け続ける。
「ヒント、何かヒントを頼む!」
それを聞いた折手メアは呆れたような顔で、それでいて頼られて嬉しそうな声色で告げる。
「キミはもう異能を自覚しているはずさ」
……自、覚?
「キミ、転生者の異能を見ると不思議な違和感に襲われるだろう?」
「……あ、あぁ。作画が違うというか、ジャンル違いみたいな印象を受ける」
「そうだ、キミは既に他人の世界観に反発している。つまり、キミだけの世界観を構築しているってことだ。後はそれを現世に押し出すだけさ」
……少し分かったかもしれない。
異能、転生者が保有する異世界の能力。
転生者が獲得する能力ならば、俺が転生してから得た感覚・技能に違いない。それには心当たりがあった。それを突き詰めた先に、俺の異能があるはずだ。
考えを深めるために白川日向に背を向けて走り出す。この怪物が大して速くないことはもう知っている。
距離を取ろうと真っ直ぐ走るが、咄嗟に横方向に飛び退く。思考をスキップして、肉体が先に駆動する。
不思議に思い、俺がいた辺りを観察する。直後、火球がその場所へ着弾する。それだけでは終わらず、背後から火炎放射が俺を襲う。だが、
自動車の下に滑り込み、火炎放射の盾とする。ゆっくりと深呼吸をして、考えを巡らせる。俺は先程、
だが、車の下でゆっくり考えている時間はない。俺は自動車に興味がないため、当然のことを失念していた。
こいつの炎には物理法則が通用しない。生命力を燃料にする炎は、水をかけても消えることはない。一方で、逆は可能だ。俺の制服はこいつの炎で燃やすことができたし、恐らく酸素濃度なども変化させているのだろう。
あとは、例えば……ガソリンとか。
「まずい……ッッッッ⁉︎」
車の下から脱出する。燃える地面とか、近づく怪物とかはもう関係ない。最速でこの場所から離れる。だが、一歩遅かった。
轟‼︎‼︎‼︎ と大爆発が起こった。
炎がガソリンに引火し、車ごと辺りが吹き飛ぶ。《
しかし、俺は別だ。咄嗟に刀身を盾の形に変えて、爆発を防ごうと試みるが、その勢いまでは防げない。爆発に巻き込まれて、身体が吹き飛ばされる。
「カハッッッッ‼︎」
吹き飛ばされた体が、別の車のボンネットに着地する。背中を強く打ち、肺から呼吸が抜けていく。
全身を痛みが襲う。右手で柄を掴んだままだったのは奇跡だ。
「ギャリギャリギャリ」
怪物の鳴き声が聞こえる。しかし、身体は動かない。白川日向が一歩ずつこちらへ近づく。それは死へのカウントダウンと同義だ。音が、振動が、気配が、それを伝える。痛みと耳障りな声で頭が回らない。
そんな不協和音の中、一つの声が聞こえた。
「負けるな、ヒーロー‼︎」
折手メアの声が駐車場に響く。
めちゃくちゃだ。自分でこんな状況に追い込んでおいて、ここからの逆転を求める。手助けする気は一切なく、遠くから俺を応援する。
あぁ、でも。そんなクソ野郎でも、中身が中年のオッサンでも、頭のイカれた折手メアであっても。俺のことが好きな女の子の前で、カッコ悪い所は見せられない。
だから、動け。
だから、立ち上がれ!
だから、……怪物をブチ殺せ‼︎
「まだ負けてねぇぞ、クソがッ‼︎」
両足に力を込め、車の上に立ち上がる。
勝ち目はまだある、俺の異能が残っている。
それに着地点の運が良かった、すぐそばにこんな秘密兵器があるとは思わなかった。
秘密兵器を持ち上げ、ノズルの方向を定め、安全ピンを抜き、レバーを引く。
「仕切り直しだ、火事野郎。消火してやるから、こっちへ来いよ」
「…………
消火器のノズルから、チョークの粉のような薄ピンクの煙が噴射される。視界が真っピンクに染まる。背後から折手メアの悲鳴が聞こえる。
「キミは馬鹿かっ⁉︎ 《
「馬鹿はテメェだ、折手。これは火を消すためじゃねぇ。ただの目眩しだ‼︎」
もちろん、周囲が見えなくなったのは俺も同じだ。だが、俺は周囲の状況が感じ取れる。白川日向が俺が立っていた車に向かって突進して来たのが分かる。
「《
バゴン! と。
怪物が顔面を車に強打する。だが、ダメージにはなっていない。全身に炎を漲らせ、火炎放射を吐きながら回転する。何処に隠れていようが、燃やし尽くすつもりだろう。車を投げたところで、足止めにしかならない。
だがな、そんなこと百も承知だ。
「《
《
先端を地面に突き立て、柄を握りしめてジャンプする。棒高跳びと同じ要領だ。自動車も、白川日向も、火炎放射の攻撃さえも飛び越え、白川日向の真上に跳ぶ。
これこそが完全な死角。六つの瞳から逃れる唯一の場所。
「《
《
特別な技はいらない。折れる心配もない。切れ味さえも必要ない。薄いと言うことは、それだけ威力を集中できるということだ。
ズシャァァァッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
上空からの奇襲。怪物殺しの一撃。
脳天から爪先までを叩っ斬る‼︎
血飛沫が舞う、炎を纏う血肉がばら撒かれる。
「《
ばら撒かれた全ての血肉が炎に変換される。
同時に生じた大量の炎は、強力な熱エネルギーとして炸裂する。即ち、大爆発。
音さえ吹き飛ぶような爆発。
ガソリンに引火したとき以上の衝撃が引き起こされる。だが、それは事前に知っていた。
着地して逃走する暇はない。故に着地することなく、地面に剣を突き立て、刀身を更に引き伸ばす。天上に張り付き、膜のように形状変化させた剣で身を守る。
「怪物退治、いっちょ上がりだ」
爆発が止む。《
怪物に成り果てた白川日向に手を合わせ、その死を追悼する。例えそこに白川日向の人格が残っていなくとも、魂は輪廻に帰る。これ以上、彼女の尊厳は奪われない。
「《異能感知》……これが俺の異能か」
発動した異能を振り返る。ゾンビとの戦いでもそうだったが、俺は殺気やら悪寒やらで攻撃を察知できた。だが、ただの高校生である俺は、そんなものを感じることが出来るはずがない。
故に、これこそが俺の異能。転生者の世界観に違和感を覚え、世界から外れた異能の反応を感じる能力。
「確かに、これはしょぼいな……。こんな異能が刺さるラスボスとか、逆にどんな異能なんだ?」
透明化とかだろうか。まだ見ぬラスボスの能力を妄想し、折手メアに尋ねる。しかし、何も答えない。
折手メアは戦闘が終わってからずっと黙っていた。ゾンビ戦後とは大違いだと思い、何かあったのかと顔を覗き込む。
すると、ドン引きしたようにこう言った。
「知らん……、何その異能……。怖……」
世界観:《
転生者:
グレード:
タイプ:
ステータス:
強度-D/出力-D/射程-D/規模-C/持続-B
異能:《