何か略称を考えたいんですよね。
原オリとか? あるいはGVOとか?
ゲスオという手もあります。(
犬とは愛玩動物ではない。
狼から分岐した動物であり、古くから狩猟において人類の相棒として用いられた動物だ。優れた嗅覚と高い持久力を持ち、追跡型の肉食獣として猛威を振るう。
そして何よりも。
故に、ただの一般人が犬と戦うのは少し厳しい。
「逃げてばかりじゃあねぇか……。さっきまでの威勢は何処にいったんだぁ? なァ、オイ‼︎」
「うるせぇ! 生きてるだけで勝ちなんだよ、クソ野郎がッ‼︎」
追跡する五匹の
二匹の大型犬、二匹の中型犬、一匹の小型犬。
涎を垂らして俺を狙う
狂犬たちの主、草薙大史の異能は《ゾンビウイルス》。ゾンビ映画がどこまで当てになるかは分からないが、噛まれたらゾンビになると考えられる。
「バウッ! バウッッ‼︎」
中型犬による大音量の威嚇。
反射的に吠えた犬に目を向け、攻撃を警戒したが、それは悪手であった。
俺の視界に映るのは一匹の中型犬。
他の四匹は視界から消え失せる。
つまり、これは囮だ。
一匹が咆哮で視線を集め、他の四匹が視界の外からの奇襲を行う。それこそが獣の狩り。
例え畜生であろうと、狩りにおいては知能の働く生粋の狩猟者。
背後から感じる殺気。
認識外から来る四匹の襲撃者。
振り向いた先には大型犬が
「マジかッ!?」
地面からの高さ約一六〇センチ。
文字通り、目の前まで大型犬が跳ぶ。
黒き獣の牙が俺の首を狙う。
咄嗟に腕で首を防ぐが、それすらも悪手。
ガブリッ‼︎ と。
大型犬が俺の腕に喰らい付く。牙が俺の肌に突き刺さることは無かったが、その歯が俺の服に絡みつく。
一般的に一〇キロ未満の犬が小型犬、二五キロ未満の犬が中型犬、二五キロ以上の犬が大型犬と定義されている。
では、ここで問題。
最低でも二五キロの重りが、突然に腕を引っ張るとどうなるか。
答えは単純、体勢を崩す。
大型犬に腕を引っ張られ、前のめりに倒れそうになる。足を前に出して踏ん張ろうとするが、小型犬に邪魔をされ、足の踏み場を失う。
俺の体勢は完全に崩れた。身体は前に傾き、膝が地面に着き、まるで首を差し出すかのように俺は頭を下げる。
そうして現れるは、もう一匹の大型犬。満を辞して俺の首を狙う、人喰らいの顎。蘇る死の恐怖に身体が硬直する。
大型犬が大口を開けて、俺の喉元へ跳び……
「
……ザクリ、と。
折手メアが後方から放ったボールペンが、大型犬の眼を穿ち、間一髪で俺を救う。
奇しくも、それは狂犬たちの狩りと同じく、認識外からの奇襲。獣たちの思考に一瞬の空白が生まれる。
その隙に、大型犬の目に突き刺さったボールペンを更に押し込み、足元の邪魔な小型犬を蹴り飛ばす。
五匹の狂犬から距離を取り、息を整える。
「何をやっているんだ、六道伊吹。キミは主人公で、相手はザコだ。どうして
「……無茶言うなよ。普通に強いぞ、こいつら」
「馬鹿言うな、ソイツは公式の人気投票最下位のザコだぞ」
それの何が戦闘力に関係あるんだよ。
「つーか、お前も戦えよ」
「ボクは戦わない。手を出すのはこれで最後だ。次は死にかけようが助けはしない。キミなら何があっても乗り越えられるに決まってる」
無茶苦茶言いやがる。
折手メアは俺を過大視している。
神聖視していると言い換えても良い。
現実の俺を見ろよ。全身汗だくで服はボロボロ、今もまだ死の恐怖に怯えている。
「情けねぇ、情けねぇなぁ。啖呵を切ったくせに、何もできてねぇじゃねぇか。何もできねぇのなら、でくの棒みてぇに突っ立ってろよぉ。さっさと、死んだらどうだぁ?」
「死ねとか人に言っちゃいけないって、ママに習わなかったのかよブチ殺すぞ」
「キミ、やっぱり凄い理不尽だね。流石だよ、作中レスバ最強……」
草薙大史に煽られ、反射的に言い返す。
折手メアが何かほざいているが無視する。
何で俺が煽られなくちゃいけない。
何で俺がこんな目に遭わなくちゃいけない。
ふざけてるのはどっちだクソが。
疲れが怒りに、怒りが力に変わる。
「年下虐げて粋がってんじゃねぇよ、クソ野郎。それに、デクの棒はテメェの方だろ。犬におんぶに抱っこで恥ずかしくねぇのか?」
「あぁん?」
「お前、前世でもそうだったんだろ? ゾンビウイルスを持ってるってことは、お前の前世は脳死でそこらを歩き回るゾンビだろ。B級映画でもモブの立ち位置じゃねぇか。可哀想だな、死んだ方がマシじゃねぇか」
こんな奴に負けてたまるか。
こんな奴に殺されてたまるか。
理不尽を許すな、不条理を赦すな。
ゾンビなんて全員ぶっ殺してやる。
「違ぁう! オレはあんな屍体どもとは違う‼︎ オレは抗体を持った保菌者だぁ‼︎ 死んでも生き返った転生者だぁ‼︎ お前らみたいなクソガキとは価値が違う、選ばれた人間なんだァ‼︎‼︎‼︎」
「喚くなよ、三下。その様子じゃ人気が出ないのも納得だぜ。悪役の中でも、魅力も強さも持たない正真正銘のクソ野郎じゃねぇか。瞬殺される雑魚みてぇな
「オッ、オマエェェェェェェェ……ッッッ‼︎‼︎‼︎」
転生者がなんだ、異能がなんだ。
転生者なんて、全員終わった存在じゃねぇか。
死を迎えながら、生にしがみつく敗北者だ。
元の人生も、元の世界も失った哀れな死者だ。
俺は他の転生者とは違う。
偶然だろうが、奇跡だろうが、俺は元の人生を取り戻し、元の世界に戻ってきた。
俺はまだ終わってない、俺はまだ生きている。
初めに敵として出逢った転生者がこいつで良かった。
こいつは全ての転生者を象徴している。
俺は
「お前、風呂入ってねぇだろ。転生しても臭いとか、魂まで腐ってるんじゃねぇか?」
「ッッッッッッッッ………………‼︎‼︎‼︎」
ブチィィイイイイッッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
草薙大史の何かがキレた音がした。
顔面が赤黒く染まり、頭に血管が浮き出る。
「…………殺せ」
五匹の狂犬が立ち上がる。大型犬の欠損した眼球は、既に修復されていた。力を込めて蹴り飛ばした小型犬も、何の外傷もなく動いている。
やはり、素手では決定打になる致命傷を与えることはできない。一撃で敵を殺傷する武器が必要となる。
「おい、折手。力を貸す必要はない。ただ、何か武器を寄越せ。お前に主人公ってやつを見せてやる」
「め、名言っぽい……⁉︎ 武器ぐらい、いくらでも渡すとも! さぁ、ボクに見せてくれ! キミという
ハッタリに決まってんだろ。
折手メアの動かし方が分かった。適当にカッコいいことを言えば、こいつは動いてくれる。
折手メアが俺に向かって武器を投げつけた。
「その剣の銘は《
それは一振りの剣。
一切の装飾を取り除いた、無骨な武器。
両手でも片手でも扱える
おもちゃの剣のように軽いが、その質感は紛れもなく金属の硬さであった。
戦う覚悟が決まった訳じゃないし、この世界がゲームということを受け入れた訳じゃない。
ただ一つ、気づいたことがある。
この
だったら、向かって来る敵を全員殺したら全部解決だ。
俺もこの状況にイラついてるし、丁度いい。
ストレス発散ついでにやってやる。
「前哨戦だ、クソ野郎。手始めにテメェからブチ殺してやるよ」
制服の上着を脱ぎ、左腕に巻き付ける。
《
「アイツを殺せぇぇぇぇッッッッ‼︎‼︎‼︎」
五匹の狂犬たちが殺到する。
草薙大史の命令に突き動かされた獣たちは、知能も何もなく、ただ肉を喰らう畜生と化した。狩人ではなく、ただの肉食獣。
最大の利点を捨てた獣に、脅威は感じない。
「自分で殺しに来いよ、
一閃。まずは一匹目。
鋼鉄すら斬り裂く刃が、小型犬をぶった斬る。
「ギャウゥッッ‼︎」
バゴッッッ‼︎ と。
斬撃……というより打撃が炸裂する。
小型犬の頭が破裂し、脳漿がぶち撒けられる。
「切れ味めちゃくちゃ悪いじゃねぇか。斬殺というより、撲殺じゃね?」
「その剣は使い手を選ぶタイプでね。キミは剣を引き抜くことは許されたが、刃の解放までは認めて貰えなかったのだろう」
「使い勝手悪いな……」
こんだけカッコつけて、剣すら引き抜けなかったら、ダサいにも程がある。危機一髪ってところか。
「まぁ、金属バットの代わりにはなるか」
ベゴォ‼︎ と。
襲いかかって来た中型犬を、ホームランのように弾き飛ばす。中型犬の身体がくの字に折れ曲がり、大量の血が舞う。
俺が感じる重さと実際の剣の重量にズレがあるのか、《
油断することなく、吹き飛んだ中型犬の頭をしっかりと潰す。これで二匹目。
「バウッ! バウッッ‼︎」
「それはもう知ってる」
中型犬による大音量の威嚇。
しかし、同じ作戦は二度も通用しない。右から聞こえるその咆哮を無視して、左側に振り向いて目を向ける。
そこにいたのは二匹の大型犬。
俺の首めがけて跳んでくる大型犬を剣で叩き落とし、その頭蓋骨を叩き割る。
もう片方の大型犬は攻撃から逃げに転じるが、その鼻頭を蹴り飛ばして転ばせる。横たわった大型犬の頭に剣を振り下ろし、躊躇なくその脳髄を掻き乱す。
三匹目、四匹目。
背後から殺気を感じ、咄嗟に後ろを振り向く。
それは先程まで吠えていた、囮の中型犬。
獣の牙が俺の首を狙うが、上着を巻き付けておいた左腕でそれを防ぐ。
大型犬に比べると軽く、体勢が崩れることはない。そもそも、体勢が崩れた隙に首を狙う他の犬も存在しない。
「これで最後だ」
五匹目。
グシャリ、と。
俺の腕に噛み付く中型犬の喉を穿つ。
顎から力が抜け、だらりと地面に落ちる。
「もう終わりか。追加は無いのか?」
「オ、オレの手駒がぁぁ……!?」
草薙大史は衝撃を受けた表情で、ただ立ち尽くしている。新たなゾンビが現れる様子も、本人が戦う様子もない。
人間のゾンビがいたら厄介だと思っていたが、杞憂でしかなかったようだ。
「お前、やっぱり雑魚だな。犬しか殺せねぇし、ガキにも負ける意気地なしだ。一週間もあったのに、ゾンビは五匹しかいねぇ。極め付けに、自分で戦う度胸も無いのか?」
トドメを刺すタイミングで別の異能を出されても困るため、挑発することで様子を伺う。何か別の武器があるならば、温存することなく使用するだろう。
「舐めるなァッッッッ‼︎」
草薙大史は狙い通り激昂し、ナイフを取り出す。そして、そのナイフを自身に突き刺し、刃を血に浸す。
「オレは特別な人間なんだァッッッ‼︎」
そのナイフに強烈な寒気を感じる。正確には、そのナイフに付着した血液だ。
ミステリに魔法が登場するかのような違和感、一人だけ作画が異なるかのような不自然な感覚を覚える。即ち、物理法則を無視する異能の反応。
間違いなく《ゾンビウイルス》。それも、狂犬たちの唾液とは、比べ物にならない程の量があると考えられる。掠っただけでゾンビ化する可能性もある。
「……来いよ、ゾンビ男」
だが、その動きは素人。戦闘どころか、喧嘩すらしたことがないような運動音痴の走り方。
草薙大史の攻撃に剣を振って迎え撃つ。
ナイフと剣。射程も強度も剣の方が強く、鍔迫り合いすら起こらずに弾き飛ばす……そのはずだった。
ガギィィッ‼︎ と。
《
「はぁっ!?」
ナイフの振り方からは考えられない馬鹿力。
咄嗟にバックステップで後ろに下がり、ナイフをギリギリで回避する。
全ての動物は一〇〇%の力を出せないよう、脳にリミッターがかけられている。しかし、危機的状況に瀕した際に、火事場の馬鹿力としてそれを発揮することができる。
こいつは
(いや、これ使えるか……?)
良いアイデアを思いついた。
もう一度、《
「死ねよぉ、死ねよォォォォッッッッ‼︎」
「うるせぇな」
ガギギィィィイイイッッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
剣とナイフが衝突する。
暴れる草薙大史をナイフごとぶっ飛ばす。
草薙大史を超える馬鹿力で剣を振り抜く。
衝撃で内臓を潰した感覚がした。
「なっ……なにィィィッッッッ⁉︎」
「俺も一回死んだ。俺も少量の《ゾンビウイルス》に感染してる。だったら、俺も馬鹿力を出せるに決まってんだろうが‼︎」
だが、草薙大史はまだ止まらない。
諦めが悪く、自前の牙で俺を噛み殺そうと近づく。プライドを捨てて、がむしゃらに駆け出す。
「クソガキがァッッ!!!」
「黙って死んどけ」
一撃必殺。
《
重量、速度、タイミング。全てが噛み合い、草薙大史を両断する。切断ではなく、斬撃でもなく、打撃で頭を叩き割る。
「はぁ、はぁ……」
肩で息をする。体から力が抜ける。
足から崩れ落ち、路上に横たわる。
初めての転生者、初めての殺し合い。
知らない内に酷く緊張していたことに気づく。
ただ、生きている実感を噛み締める。
「いやぁ、カッコよかったよ! 素晴らしい戦闘だった! セリフの一つ一つが原作の名言に匹敵するし、草薙大史との
折手メアが拍手と共に歩いてくる。
ふと横を見ると、草薙大史の肉体は光の塵へと変わり、消えてゆく最中であった。
折手メアは寝そべる俺の近くまで歩き、パンツの件を思い出したのか、体育座りで横に座った。
そして、心底不思議そうな顔でこう言った。
「ところで、どうして異能を使わなかったんだい?」
「えっ、俺も使えんの……⁉︎」
世界観:《
転生者:
グレード:
タイプ:
ステータス
強度-B/出力-E/射程-C/規模-C/持続-D
異能:《ゾンビウィルス》