ちなみに全五章の予定です(馬鹿)。
対戦よろしくお願いします。
「改めて説明しよう」
いつまでも路上で寝そべっているのも不用心なため、二人で公園に移動した。折手メアはブランコに座り、俺はブランコの前にある金属の柵に腰掛ける。
辺りはすっかり真っ暗で、俺が死んでから生き返るまでに、数時間が経過している事が分かる。
「パンツ覗き見くんのせいで、話の腰が折られたからね」
「見たくて見た訳じゃねぇよ! むしろ、見せられた側なんだが⁉︎」
折手メアは片手でスカートを抑え、もう片方の手で胸を隠す。恥ずかしがるように顔を赤らめるが、口角が上がっていて笑いを堪えていることが分かる。
不名誉なあだ名にも程がある。学校一の美少女のパンツを覗いたとか、学校中の男子になぶり殺しにされても可笑しくない。
「パンチラのイベントスチルとか、原作にもないイベントだよ。まさかボクのサービスシーンが存在するとはね……」
折手メアはくすくすと笑っている。
笑っている顔が相変わらず可愛らしいが、内容が内容だけに憎らしい。誰かに聞かれると誤解待ったなしだ。
心配になって辺りを見回すが、周囲には誰もいない、……
「流石に……これは変だよな」
夜だから、連続無差別焼殺事件が起こっているからなど、理由はいくつか考えられる。
しかし、連続無差別焼殺事件が起こっているのにも関わらず、警察が見回りに来ないのは明らかにおかしい。
人が近寄らない、
「そうだね、オリキャラにイベントスチルがあるのは変だよ。もしや、オリ主じゃなくて夢主だったか。いやでも、TS転生だよ……? ボクは嬉しいけどさ……」
折手メアは見当違いな返答をして、深呼吸をした。笑いを堪えているようだが、まだ肩が少し震えている。笑いのツボが浅いタイプなのか。
そこで、ふと気づく。
「……TS転生って……?」
「うん……? ああ、ボクの前世が男だったってこと」
「…………ちなみに年齢は?」
「ええと……、キミの年齢の二倍以上とだけ言っておこう」
「………………………………………………、」
俺に初めて告白してくれた人(してない)がオッサンだった。
これが大人になるってことかぁ……。
「話を……続けてくれ……」
「顔色が悪いけど、大丈夫かい……?」
「いや、いいんだ。ちょっと現実に打ちひしがれてるだけだ」
俺……、オッサンのパンツを見たのか……。
流石に居た堪れなくなり、話題を変える……というより、本題に移す。
「あの時、何が起こったんだ?」
今なお鮮明に思い出せる。
俺は黒犬に首を喰い千切られた。
あの時の記憶が脳みそに焼き付いて消えない。
俺は確かに死亡した。
そんな実感がある。
しかし、俺は生きていた。
心臓はその役割を果たし、呼吸に乱れはない。
怪我も、傷痕も、痛みすらも残っていない。
明らかな異常、不可解な現象。
「そうだね。あの時、キミは死んだ。間違いなく、疑いの余地なく、完全完璧にキミは死亡した。肉体的には言うまでもなく、魂すらも輪廻に還ったと言えるだろう。キミが知らない法則を含めても、ここから蘇生できる方法は存在しない」
魂。
当たり前のように口から出た言葉を受け流す。
気味が悪いオカルトや、タチの悪いエセ宗教のようにも感じられるが、俺が体験した現象の方がよっぽど意味不明だ。
魂が存在したとしてもおかしくはない。
「
物理法則に収まる
科学文明による
俺が知らない
例外中の例外。世界最大の反則。
誰も知らない
「キミは
転生、前世、魂。
今までの現象が結びついていく。
そう言えば、折手メアはこの
「これは奇跡なんてものじゃない‼︎ 無限に存在する世界の中で、同一世界に二連続で産まれるのは偶然を超えてもはや運命なんだ‼︎ キミは
話の熱がすごい。
興奮した折手メアはブランコから立ち上がり、拳を握りしめて突き上げる。ソシャゲをおすすめしてくる友達の様子にそっくりだ。『テントラ』とかいうゲームが本当に好きなんだと感じる。
「でも、死体に転生なんてするのか?」
「良い所に目をつけるね。答えは“しない”だよ。ウイルス、幽霊、クローン。魂があるのか微妙な存在は沢山あるけど、死体は明確に魂を持っていない存在だね」
「だったら、まだ何かあるんだろ? 俺の知らない、世界に存在する隠された何かが……」
俺は肉体と魂、両方の観点から死亡した。
その内、魂は転生によって元に戻った。
ならば、肉体は?
何か存在するはずなんだ。
俺の知らない、常識から外れたチカラが。
「言ったかな、『テンプレート・トライアンフ』は異世界転生現代異能バトルだって。これはそのままの意味で、
「異能……⁉︎」
特
いいや、違う。
おそらく、異能というのは……。
「
「その通り、察しがいいね。花丸をあげるよ」
折手メアが俺の頭を撫でた。
照れ臭いので、その手を払い除ける。
「異能。様々なタイプが存在するけど、一つ一つが異なった効果を持つ
「現世に引き継ぐ……?」
「そう、ゲームデータの移行って言ったら分かりやすいかな。
前世の記憶を保持しているだけでも、この世界からすると異常だ。だが、異能はそれを遥かに超えて厄介だ。
前世がファンタジーな世界なら、現世でも魔法が使える。前世でタイムマシンを開発したら、現世にも持って来れる。常識とか物理法則に縛られない、意味不明な
「転生者ってヤツは、どいつもこいつも前世の価値観で動く。人間を食べるのが当たり前のヤツもいるし、人間を燃料代わりに使うヤツもいる。転生者ってのは全員、異世界の常識を現世でも引きずる非常識……
「なるほどな。そんな転生者たちを主人公の俺が退治するのが、『テントラ』ってゲームの大まかなストーリーな訳だな」
責任重大だ。黒犬の親玉と、恐らく連続焼殺事件の犯人も転生者だろう。
俺だけで倒せるとはとても思えない。警察を呼んで事情を説明したらダメなんだろうか。銃とかで撃って貰った方が、事件解決の近道だと思うが……。
折手メアから話を聞いたら、警察に相談することを心の中で決意する。
「そうなんだ、『テントラ』は主人公であるキミの負担が凄い重いストーリーなのさ! 化け物揃いの転生者の中、キミだけが現世出身の転生者なんだ! 魔王とか時空犯罪者とか、前世からヤバかったヤツらとは違って、キミはただの高校に通う一般人に過ぎない! 単騎で世界を滅ぼせるような一騎当千のラスボスやヒロインたちと違って、キミが保有するのは限定的な効果しか持たないしょぼい異能に過ぎない! でも! キミはそれでも! どれだけ身体がボロボロになっても強大な敵に立ち向かい、命を賭けてヒロインを救う! キミの何処が一般人だよ頭おかしいだろって思うけど! キミはどんな苦しみも乗り越えるし、何なら死が確定した後に開き直ったシーンにはドン引きしたね! ボクはキミのそんな所が大大大大大好きなんだ‼︎」
「お、おう……」
めちゃくちゃ早口だ。
折手メアは興奮したのか、俺の肩を掴んで揺らす。顔は近いし、髪は当たるし、いい匂いはするしで言葉が頭に入ってこない。
頭がぶつかりそうなので、手を退けてブランコまで押し返す。
「話を戻そうか」
折手メアはブランコに座り直す。
興奮してるのか冷静なのか、よく分からないやつだ。
「キミが蘇生したのには、二つの要因がある」
折手メアは指を二つ立てる。
ピースのように立てた指をチョキチョキさせ、手を口元に寄せて笑う。
「一つ目はさっきも言ったように、運命的な転生。もう一つがわんちゃんの異能……というよりわんちゃんを操ってる転生者の異能。その異能のお陰で、キミの肉体は完全に再生した」
「一体それはどんな異能なんだ……?」
ごくりと唾を飲む。
犬を操り、肉体を再生させる異能。
人を襲う、物語の敵サイドの転生者。
折手メアは少し溜めてから、こう言い放った。
「ひ・み・つ♡」
ウインクをした、可愛い。
これで中身がオッサンじゃなかったらなぁ……。
なんかイラッとしたので、ブランコを下から蹴る。
「おいこら」
「待って待って、言わないのにはちゃんと理由があるから。振動が癖になりそうだから、ちょっと待って……」
「どんな理由だ、早く言えよ」
蹴るのはやめて、ブランコを押す。
ブランコに乗ったことがないのか、ブランコから落ちるのを恐れて、折手メアはブランコの鎖に必死に捕まっていた。
「だっ、だって……
折手メアは当たり前の顔をして言った。
その美しい女神のような顔を見て、俺はゾッとして思い出した。
現世をゲームだと考える
「ふざけんな! いつ新しい被害者が出るか分からないんだ! 人の命がかかってんだぞ‼︎」
「分かったよう……」
折手メアはしょんぼりとして肩を落とす。
だが、俺に怒鳴られたことを気に病んでいても、転生者による犠牲者については何も感じていない。
「すまない。公式がSNSにゲームのスクショを載せることを禁止していたから、ネタバレに少し敏感になっていたようだ。キミがモブを気にかけるタイプの主人公ということは知っていたのにね……」
「謝罪は必要ない。さっさと言え」
「ああ、時間も丁度良い。準備運動がてら、歩きながら話そうか」
公園の時計の針は一〇時を示していた。
折手メアはブランコから立ち上がると、俺の手を取って道路へ歩いていく。俺は折手メアに引っ張られ、後ろをついていく。女の子と手を繋いでいるのに、状況のせいか相手のせいか、全くドキドキできない。
「『Character Material』曰く、わんちゃんを使役する転生者の名前は
「情報量が多すぎる……」
「まぁ、プロフィールを上から読んでるだけだからね」
「異能に関する情報はないのか?」
警察に相談するにしても、自分が戦うことになったとしても、一番重要なのは相手の能力だ。それさえ分かれば、ある程度の対処法は考えられる……かもしれない。
「草薙大史の異能は《ゾンビウイルス》。タイプは
「用語が多くて分からないけど、ゾンビを作る異能か?」
「その通り。キミを殺したわんちゃんも草薙大史に殺されたゾンビなのさ」
ゾンビか、ファンタジーだな……。
いや、アポカリプスやウイルスなどの単語から考えると、B級映画みたいなパニックホラー系のジャンルか。
肉体の再生や、黒犬の使役もウイルスが関わっているのだろう。
「と、言うわけで」
「…………ん?」
折手メアが三叉路で足を止める。
満面の笑みでこちらを振り向く。
月に重なったその姿は、月の女神のようにも見える。
だが、これまでの会話で分かっていた。
こいつは女神なんてものじゃない。
こいつは魔女だ。
折手メアの笑顔に絆されず、むしろ警戒心を深める。
「草薙大史、倒しちゃおっか♡」
三叉路の先、街灯に照らされない暗闇の中に、二匹の狂犬を侍らせてスーツを着た男は佇んでいた。一見ただの会社員にも見えるが、顔に大きな縫い目があり、目は暗く澱んでいる。
黒犬の親玉、ゾンビの創造主。
「おっ、お前馬鹿なのか⁉︎」
「むっ……失礼な。敵の異能は判明したし、相手はザコさ。キミなら簡単に殺せるだろう?」
そんな訳がない。
黒犬、俺の死因。未だに脳みそに焼き付いた、首を喰い千切られた痛み。恐怖で足がすくむ。
俺みたいな普通の高校生に何を求めているんだ。俺がゲームの主人公とか、やっぱり間違いだと思う。
「夜に出歩いちゃダメだろぉ。しかも、カップルかよぉ。美少女と手を繋いで歩くとか妬ましいなぁ、ぶち殺したいなぁ」
スーツを着たその男は、顔を歪めて笑った。
「そっちの女はオレの手駒に加えてやるよぉ。男はいらねぇなぁ、殺すか」
恐怖が限界に達する。
身体を震わせる暇などない。
涙が目に浮かぶ暇などない。
恐怖の元凶を最速で取り除く。
俺と草薙大史は同時に臨戦態勢に入った。
直後、世界がひっくり返った。
これより先は異世界、常識亡き屍体の世界。
闇の奥から追加の黒犬が現れる。
最低五匹、更に増える可能性もある。
背中を見せたら死ぬ、躊躇しても死ぬ。
……だったらやるしかない。
「
黒犬を合わせて六対二。
相手を知り尽くした折手メアがいれば、勝ち目があるかもしれない。
だが、俺は折手メアを甘く見ていた。
「じゃあボクは観戦するから、頑張って」
「…………は?」
え? マジで? マジで言ってる?
マジなのかぁ…………。
「ク、クソ野郎ッ……‼︎」