「ど、どうしよう・・・」
ガネーシャファミリアの待合室にて。ベルたちはシャクティたちに連れられてここで彼女らの主神であるガネーシャと会ってもらうために待ってもらうことになっていた。ベルは怒られるのではないかと不安を感じていた。
「気にするなよベル。別に俺たちは悪いことなんて何もしてねぇんだからよ」
「そーそー。寧ろいいことしたんだから褒められるべきだよ」
用意してもらったお菓子を食べているヴェルフとティオナから気にし過ぎだとベルは言われるがベルはそれでも不安を感じて涙目になっていた。なお、ベルのその姿を見てティオネが「やっべ涙目のベルサイコー・・・ぐへへ」と邪な目で見ては舌なめずりしているがヴェルフとティオナは見ないふりをしていた。
「─────俺が、ガネーシャだぁァァァァ!!」
「ヒゥッ!?」
扉を勢いよく開けながら現れた象の仮面を被った上裸の筋肉質な褐色肌の男性──ガネーシャファミリアの主神であるガネーシャの大声を上げての登場にベルは小さい悲鳴を上げて思わず隣にいたティオネに抱きついてしまった。抱きつかれたティオネはガネーシャに思わず親指を立ててグッジョブのサインを送った。
「ガネーシャ様、いきなり大声出しちゃったからその子怯えちゃってますよ」
「む?それはすまなかったな少年!!だがそれもまたガネーシャだ!!」
「が、ガネーシャ・・・?」
アーディが呆れたようにガネーシャに注意するとガネーシャも反省してベルに謝罪する。それから後から入ってきたシャクティからベル達がここに呼ばれた理由を話し始めてくれた。
まずはベルたちが行ってくれた炊き出しに対する感謝をガネーシャ自らが伝えたかったらが理由の一つ。闇派閥が台頭してから一般市民たちは不安を感じる日々を過ごすようになっていた。しかし今回のベルの炊き出しで提供されたカレーを食べて僅かだが彼らに笑顔を浮かばせることが出来ていた。続いての理由はヴェルフがギルドに下ろしてくれた大量の魔剣だ。ヴェルフにとってはベルの師匠とは比べ物にならない失敗作としか見ていないものだが《クロッゾの魔剣》は通常の魔剣とは段違いの性能を持っているため対闇派閥の武器を求めていたギルドやファミリアにとってとてもありがたいものであった。そして最後に3つ目はディアンケヒトファミリアやミアハファミリアを中心とした医療ファミリアに回復薬を始めとした回復アイテムの材料を大量に提供したり怪我をしている人たちを回復薬を配ったりなど色々とやってくれた。
「とまぁお前たちが色々とやってくれたことでオラリオとしてはかなり助かっているんだ。そのお礼のためにこうしてこの場に来てもらったんだ」
「ほへぇ・・・」
シャクティの説明にベルは呆然としながらもそれを聞いてコクコクと頷いた。
ベルとしてはやりたかったら炊き出しをやっただけだし、生活資金を稼ぐためにヴェルフの魔剣や師匠の持っていたドロップアイテムを売っただけなのだがオラリオにとってはとてもありがたいものだった。故にガネーシャたちはベルに感謝を伝えるためにこの場所を用意したのだ。
「こちらとしては君たちのおかげで色々と助かったからそのお礼をしたいのだ。何か困ってることは無いだろうか?」
シャクティはベルに対して何か要求はないかと聞いた。ベルは最初遠慮しようとしたがここに来た目的を思い出してシャクティたちにお願いをすることにした。
「その、僕はお義母さんと叔父さんを探して旅してましてもし何か情報があれば教えて貰えたら・・・」
「わかった。すまないが君のお義母さんと叔父さんの名前を教えて貰えないだろうか?」
「えっと、アルフィアお義母さんとザルド叔父さんです!!」
「「「─────!?」」」
ベルの出した2人の名前にシャクティたちは驚きのあまり目を見開いてしまい声も出なかった。
「あ、あの・・・」
「っ、すまないな。アルフィアとザルドだな。わかったこちらでも調べてみるからわかり次第君に連絡しよう」
「ありがとうございます!!あ、あとヘスティア様ってこのオラリオにいますか?」
「ヘスティアか?確かヘファイストスの元にいたと思うが何故彼女を?」
シャクティはアルフィアとザルドを探す約束をするとベルは嬉しそうに笑顔を浮かべながらもうひとつの目的を話すとガネーシャは首を傾げる。
「えっと、アルテミス様から恩恵を刻んでもらうならヘスティア様がいいと言われまして・・・」
「アルテミスがか?」
「は、はい・・・」
ガネーシャはベルの口から女神アルテミスの名が出たことに驚いたが、アルテミスとヘスティアは神界でも親友同士として知られているから彼女がヘスティアを頼るのもおかしな話ではない。何故アルテミス自身が刻むのではなくヘスティアにベルの恩恵を刻むことを頼むのかは疑問に思うが何か理由があったのだろうと深く尋ねることはしないことにした。
「ふむ・・・アーディ、すまないがこの子たちをヘファイストスの所へと案内してくれ」
「了解しました!それじゃあベルくん早速行こうか!!」
「は、はい!!ありがとうございます!!」
ガネーシャはアーディにベルたちをヘファイストスの元へ案内するよう頼むとベルはガネーシャにお礼を伝えてからアーディについて行くのだった。ベルたちが遠くに離れたのを確認してからガネーシャはシャクティに命令をする。
「シャクティ。ロキとフレイヤ、アストレアたちに連絡をとってくれ」
「あぁわかった。団員達にも警戒をするよう伝えておく」
ガネーシャは真剣な表情で現在のオラリオの主戦力であるファミリアの主神たちを呼び寄せるように指示を出すとシャクティはすぐに動き出した。
「何故今になって『静寂』と『暴食』がオラリオに・・・」
かつてオラリオ最強のファミリア『ゼウスファミリア』の暴食のザルド、最凶のファミリア『ヘラファミリア』の静寂のアルフィアがここオラリオにいるかもしれないという事実を前にガネーシャはここ最近の闇派閥たちの動きの活性化と何か関係があるのではないかと考えてしまう。
─────その不安はそう遠くないうちに嫌な方向で当たってしまうことをガネーシャはまだ知らない・・・
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「───なんの冗談やガネーシャ。流石にその冗談は笑えへんぞ」
シャクティに頼んでから1時間もしないうちにガネーシャファミリアの会議室には現在のオラリオの冒険者たちの代表者たちともいえるロキファミリア、フレイヤファミリア、アストレアファミリアの団長と副団長、信頼のおける団員数名、そして主神である女神たちが揃っていた。そんな中でガネーシャから語られた言葉にロキは普段閉じている目を薄らと開けてガネーシャを睨むように言うが、ガネーシャ自身も信じたくないのか普段の陽気な態度を崩し真面目に語る。
「冗談ではない。俺としてもまだ確定してないからここにいる者達だけで共有させてもらうが警戒するに越したことはない」
「せやけど信じられるか?あのゼウスとヘラの眷属が闇派閥に協力しているかもしれんなんて・・・」
ガネーシャの言葉を聞いてロキは頭をかきながらそう呟く。ゼウスファミリアとヘラファミリア。かつてこのオラリオで双璧を成していた最強のファミリアにして三大冒険者依頼の内2つを達成した猛者たちが集まるファミリア。最低レベルでもレベル4しかおらず団長である『女帝』はレベル9、マキシムはレベル8と今のオラリオの最高レベルである6を上回る数値を出していた。しかしそんな彼らでも最後の三大冒険者依頼討伐対象である『黒竜』に敗れ、多くの団員たちが命を落とした。
それによってヘラとヘラファミリアの生き残りたちのほとんどは精神を病んでしまい、ゼウスとゼウスファミリアもまた生き残ったもののかなりの重症を負っていた。弱りきった最強であったふたつのファミリアをオラリオに残しておくことを危険だと判断したギルドの主神であるウラノスがロキとフレイヤに協力を頼み表向きにはゼウスファミリアとヘラファミリアを追放しオラリオから遠く離れた地でヘラたちの療養に営んでもらうことになった。
だが素直にそれを受け入れる彼らではなくウラノスたちの提案を蹴って好き勝手に別れた。例えば『超闘士』フィガロは強者を求めて諸国を歩き回り、『破壊王』シュウ・スターリングは鍛えながらも弟を育て、『処刑人』アリナ・クローバーは隠居生活を自堕落に過ごすなどゼウスファミリアとヘラファミリアの団員たちは別れていった。それでも眷属同士の繋がりは無くなっておらず近況報告は行っているらしい。また黒竜討伐を諦めている訳でもないため各々再戦に向けて鍛えたり心折れたもの達を立ち直らせようと動いていた。
そんな中で行方が分からなかったザルドとアルフィアがオラリオにいるかもしれない上に闇派閥と協力しているかもしれないなど誰もが信じようがなかった。
「あのゼウスとヘラの眷属がオラリオにいるかもしれない。頭がお花畑な連中ならオラリオに協力して闇派閥を倒しに来てくれた、なんて言うんやろうけど・・・」
「流石にそれは高望みし過ぎだね。彼らがオラリオに対してそんなことをする義理なんてもうないんだから闇派閥に協力してると言われた方が多少理解出来る」
ロキはザルドとアルフィアが決してオラリオに加勢に来た訳ではないと予想し、それにロキファミリア団長フィン・ディムナも肯定する。今現在オラリオ最強二派閥を名乗っているロキファミリアとフレイヤファミリアであるが、その力は全盛期のゼウスファミリアとヘラファミリアに比べれば数段劣る。故に闇派閥などという存在が現れ、オラリオは暗黒期を迎えていた。それを知ったザルドとアルフィアがフィンたちに失望してオラリオを滅ぼすために協力していると言われても驚きはしない。
「少なくともあの二人を相手取るなら最低でも我々が相手取らねばならぬだろうな」
ロキファミリアの副団長であるリヴェリア・リヨス・アールヴは苦虫を噛み潰したような顔をしながら言う通り、低レベルの冒険者たちを掻き集めて数で圧倒しようとしても圧倒的なまでの力によって容易く捩じ伏せられるのは想像するのも容易い。故に彼らに対抗するには高レベルの冒険者である自分たちが出向かわなければならないがそれでも勝てる可能性は低い。
「もしザルドとアルフィアが現れた場合はワシとオッタルがザルド、フィンとアストレアファミリアはアルフィアを最低でも相手をせねばならぬだろうな・・・」
「そうだな・・・」
ロキファミリアの幹部であるガレスの言葉にフレイヤファミリアの団長であるオッタルは頷くが、それでも勝てる可能性は低いだろうと2人は考えてしまう。最強と最凶の眷属が現れるかもしれないことで会議室は暗い雰囲気が流れていた。しかしそんな空気をぶち壊すのもまたこの男神である。
「安心しろ!何も悪い情報だけを共有したい訳では無い!!オラリオにとってもいい情報を伝えるためにもお前たちに集まってもらったのだ!!」
「あら?それはもしかして『クロッゾの魔剣』やディアンケヒトの子たちが慌ただしいのと関係があるのかしら?」
女神フレイヤの言葉に誰もが目を見開く中ネタバレされてしまったガネーシャは残念そうにするが、まぁいいか!とすぐに立ち直って語り始める。
「うむ!実は今朝オラリオに入国したものの中にクロッゾの魔剣鍛冶師がいたらしく、彼が入国する際に30本の魔剣を売ってくれた!!普通の魔剣よりも頑丈で性能も高いぞぅ!!」
「それは朗報ですわねぇ・・・」
ガネーシャの言葉に輝夜は驚きながらも魔剣という強力な武器が大量に手に入ったことは素直に嬉しかった。
「そしてクロッゾの少年の同行者の白髪の少年がユニコーンの角やマーメイドの生き血などの希少なアイテムや大量のポーション、秘薬エリクサーを売ってくれたおかげでかなりの冒険者や一般市民たちの治療ができた!!」
「あら!それはとてもいい事ね!!うん?白髪の少年・・・?」
アリーゼは闇派閥たちの行動によって傷ついていた人々が治っているということに満足するが、その際に出た白髪の少年という単語で輝夜、リュー、ライラと共に先程出会った少年を頭に浮べるがまだガネーシャからの話が続いているため一旦頭の隅に置いておく。
「そしてこれが最も大事な事だがオラリオの外から援軍としてオーディン、シヴァ、アトラスの3つのファミリアから眷属を連れてオラリオに来るとの連絡が来た」
オーディン、シヴァ、アトラス。かつてオラリオにてゼウスとヘラに続く強豪ファミリア。エルフやヒューマンを多く抱えるオーディンファミリア。アマゾネスや獣人を多く抱えるシヴァファミリア。ドワーフやパルゥムを多く抱えるアトラスファミリア。かつてゼウスファミリアとヘラファミリアと協力して三大冒険者依頼に参戦した経験のある彼らもまた黒竜戦にて甚大なる被害を受けたのとゼウスとヘラをオラリオから追放したことに最後まで反対して最終的にギルドとも揉めたことでオラリオから出ていった彼らだが、闇派閥の活動が活発化していることを聞き付けオラリオが滅ぶのを防ぐべく戻ることを決意した。
「あの腹黒と脳筋、天然が帰ってくるとか憂鬱なんやけど・・・」
「でもこれで本当に静寂と暴食が闇派閥にいたとしても何とかなりそうね」
ロキは同郷である二柱の神のことを特に思い出して苦虫を噛み潰したような顔をするが、アストレアの言う通り、かのファミリアにはレベル5、6がそれぞれ最低でも4人は存在しておりレベル2、3の冒険者も多く抱えていることから戦力として考えるとオラリオにとってとても有難いことだった。
「ならそれらのことも含めて今後の対策を────」
フィンがこれまでの情報をまとめて闇派閥に対する対策会議を始めようとしたその時だった。オラリオ全体を揺らすほどの揺れが発生し、何事かと誰かが声を上げるよりも先にそれがなんであるのかをフィンたちは察した。
「もう動きだしたのかっ!!」
フィンは想定よりも早く動き出した闇派閥に顔を顰めながらもすぐに対処すべくガネーシャファミリアのホームを出て行くのだった。
─────闇がオラリオを覆い尽くすその時がもう目の前まで来ていた。