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伊藤詩織氏が「承諾なし」の映像を使ったか 「証拠の目的外使用」巡る法的問題 #専門家のまとめ

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

伊藤詩織氏が監督として自らの性被害を描き、米アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門にノミネートされている映画が話題となっています。元代理人として伊藤氏を支えた弁護士から権利者らの承諾を得ていない映像が勝手に使われているなどと指摘されているからです。性被害を巡る民事裁判の過程で収集されたものだといいます。こうした「証拠の目的外使用」を巡る法的問題について、理解の参考となる記事をまとめました。

ココがポイント

「現場ホテルの防犯カメラ映像について、事前の取り決めに反する“目的外使用”だと指摘」「無断使用は他にもある」
出典:FNNプライムオンライン(フジテレビ系) 2025/2/20(木)

「『公益性』があれば許される、という問題ではない」「証拠の使用についても、『同意』の有無は重大な要素だ」
出典:弁護士JPニュース 2025/2/19(水)

「公益性というよりも映像作品におけるインパクトを狙ったためと感じる」「弁護士との会話は、無断録音されて使われている」
出典:小川たまか 2025/2/19(水)

「映像を使うことへの承諾が抜け落ちてしまった方々に、心よりお詫びします」「個人が特定できないように全て対処します」
出典:日刊スポーツ 2025/2/20(木)

エキスパートの補足・見解

刑事裁判では検察から開示を受けた証拠の目的外使用が罰則付きで禁止されています。関係者の名誉やプライバシーが侵害され、審理に悪影響を与え、捜査手法が知れ渡ることで別の手口が横行する可能性まであるからです。違反すると最高で懲役1年に処されます。現に動画配信サイトなどに投稿したケースが数多く立件され、有罪判決を受けています。

これに対し、民事裁判を巡る証拠の目的外使用には罰則規定がありません。自らが収集した証拠をどのように使うのかについては、当事者の判断や代理人を務める弁護士の守秘義務、弁護士倫理などに委ねられています。

だからこそ、その証拠の取り扱いについて情報提供者との間でどのような取り決めがあったのかが重要となります。裁判以外に使わないと合意した上であえて外部に流出させたのであれば、加工の有無や程度を問わず、損害賠償などの法的責任を免れないでしょう。

特に今回のケースは立証が困難だとされる性被害を巡る事件です。信頼関係を損なう証拠の目的外使用によって別の性被害事件で情報提供者があらわれなくなり、泣き寝入りを強いられる被害者が出てくることまで懸念される由々しき事態だと言わざるをえません。(了)

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ありがとうございます。
元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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