【そもそも解説】ウクライナ、なぜ選挙しない? 大統領の正統性は?

キーウ=藤原学思

 ウクライナのゼレンスキー大統領について、ロシアや米国から、「正統性に疑問があり、選挙をするべきだ」という批判が出ています。トランプ米大統領は「選挙を経ていない独裁者」と発言しました。では、選挙は現実的に実施できるのでしょうか。解説します。

 Q ゼレンスキー氏の任期は切れているの?

 A 2019年4月に実施された大統領選の決選投票で、ゼレンスキー氏は75%ほどの得票率を得て勝利しました。同年5月20日に就任し、任期は5年でした。2期まで再選が可能ですが、24年5月の大統領選は実施されませんでした。

 Q なぜ選挙は行われなかったの?

 A 22年2月にロシアによる全面侵攻が始まったことが理由です。侵攻開始当日、ウクライナには「戦時体制」が導入されました。一般的には「戒厳令」と呼ばれることもあり、国民の自由を制限するものです。

 ロシアが一方的にクリミア半島を併合した後の15年5月、ウクライナ議会は「戦時体制の法制度について」という法律を採択しています。この法律の19条では、戦時体制下における憲法の変更のほか、大統領選や議会選、地方選は禁じると明記されています。

 Q では、その法律を改正すればいいのでは?

 A 理論上は、法改正によって大統領選を実施することは可能です。ただ、投票所の安全が確保できるのか、被占領地に暮らす有権者や国外に約690万人いるウクライナ難民、兵士たちの投票機会をどう確保するのか、多くの疑問があります。

 そのため、ウクライナ議会では、野党を含めた全ての政党が23年11月、戦時体制が解除されるまで選挙を延期することで合意する「覚書」を交わしました。次の選挙がウクライナの民主化にとって非常に大きな意味を持ち、国際基準に沿ったものではなければならないという理由からです。

 Q でも、大統領としての任期が切れているなら、ゼレンスキー氏は大統領ではないのでは?

 A いえ、ウクライナ憲法の108条には、「大統領は、新たに選ばれた大統領が就任するまで、その権限を行使する」とあります。つまり、ゼレンスキー氏は次の大統領選が開かれ、その勝者が職務に就くまで、正統な大統領であると言えます。

 Q トランプ氏は「ゼレンスキー氏の支持率は4%」と言っていたけど、国民から不満は出ていないの?

 A ロシアの侵攻が長引き、国民の疲弊が増すなか、ゼレンスキー氏を批判する声がないわけではありません。ただ、25年2月に実施された世論調査では、ゼレンスキー氏について「完全に/どちらかというと信頼している」が計57%に上り、「まったく/どちらかというと信頼していない」の計37%を上回りました。侵攻前よりも「信頼度」は20ポイント高い結果でした。

 また、24年6月の別の世論調査では、24年中の国政選挙実施について「否定的」が58.8%に上ったのに対し、「肯定的」は21.7%にとどまりました。

 「戦時中の選挙はウクライナ社会を分断する」と答えた人が46.4%だったのに対し、「結束させる」は10.6%でした。国民の多くが、戦時中の選挙は現実的ではなく、良い影響がないと考えていることがうかがえます。

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この記事を書いた人
藤原学思
ロンドン支局長
専門・関心分野
ウクライナ情勢、英国政治、偽情報、陰謀論
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    佐藤優
    (作家・元外務省主任分析官)
    2025年2月21日7時23分 投稿
    【視点】

    <理論上は、法改正によって大統領選を実施することは可能です。ただ、投票所の安全が確保できるのか、被占領地に暮らす有権者や国外に約690万人いるウクライナ難民、兵士たちの投票機会をどう確保するのか、多くの疑問があります。/そのため、ウクライナ議会では、野党を含めた全ての政党が23年11月、戦時体制が解除されるまで選挙を延期することで合意する「覚書」を交わしました。次の選挙がウクライナの民主化にとって非常に大きな意味を持ち、国際基準に沿ったものではなければならないという理由からです>とか<ウクライナ憲法の108条には、「大統領は、新たに選ばれた大統領が就任するまで、その権限を行使する」とあります。つまり、ゼレンスキー氏は次の大統領選が開かれ、その勝者が職務に就くまで、正統な大統領であると言えます>とかいった理屈を何百回繰り返しても、ロシアがゼレンスキー大統領の正統性を認めなければ、交渉は始まりません。トランプ米大統領がゼレンスキー大統領の正統性に疑念を呈したことで、フェーズは変わったと思います。今後、トランプ氏がゼレンスキー氏がウクライナでの正統な大統領であると方針を明確にしない限り、ゼレンスキー氏は停戦ゲームのプレイヤーでなくなります。もっともステファンチューク・ウクライナ最高会議(議長)ならば、大統領が欠けた場合に国家を代表する者であるとして、ロシアは受け入れるでしょう。  トランプ氏が、ゼレンスキー氏に対する見方を変えるか否かで歴史が大きく変わってきます。ウクライナの国内法的議論はトランプ氏に対してもプーチン氏に対しても、ほとんど影響を与えないというのが現実と思います。

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