■ウォーキングは認知症予防に役立つ
筋力は、人のあらゆる活動に欠かせないものです。
最近になって、骨格筋から分泌されるホルモンなどの生活活性物質であるマイオカインが、さまざまな臓器に対してよい影響を与えることがわかってきました。
さらに、マイオカインのうちの一つ、BDNFという脳由来神経栄養因子が、脳の海馬を活性化し、認知症の予防や改善につながることもわかってきています。
人の筋肉は、25歳ごろから徐々に減っていきますが、「あれ、衰えてきた?」と、自覚症状が出るのは70歳を超えてからという人が多いですね。
また、ある研究では、65歳以上の高齢者の15%ほどは、加齢に伴い筋肉の量が減少していく「サルコペニア」に該当するというデータもありますが、トレーニングをすれば、何歳からでも筋力は鍛えることができます。
BDNFは、運動誘発性ですので、中度以上の有酸素運動を中長期にわたって行うことが効果的だと言われています。ウォーキングなどによる有酸素運動は、脳血流量の増大や血管の新生を促し、認知症の予防に関与すると考えられていますので、足腰の筋肉維持のためにも習慣にしたいところですね。
また、BDNFは軽めの運動でも分泌されますので、日常生活の中で、階段を利用するとか、テレビを見ながら足踏みや足の指を動かすなど、運動習慣がない方も、小さな決めごとをしてからだを動かしてみましょう。
■認知症リスクを下げるビタミンDが豊富な食材は?
心の健康を阻害する原因として、ストレスや環境の変化が知られていますが、実は、必要な栄養を摂取できていないことで不調が出ることもよくあります。たとえば、ビタミンDの欠乏は、骨や筋肉を弱らせ、認知機能障害や心臓病、糖尿病のリスクを高めると言われています。
アメリカの国立アルツハイマー病医療センターで行われた研究で、平均年齢71歳の認知症ではない高齢者1万2388人を対象に10年間の追跡調査を行ったところ、ビタミンDを摂取していた高齢者は、摂取していなかった高齢者に比べて認知症になる割合が40%も少なかったこともわかっています。また、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患や糖尿病のリスクを減らすという研究結果もあります。
ビタミンを摂取するだけで病気を予防できるなんて、とても簡単でうれしい健康習慣です。積極的に生活に取り入れたいものです。
ビタミンDは、サケやカツオ、ブリなどの青魚やしいたけやエリンギなどのキノコ類に多く含まれていますから、私は、患者さんには青魚の摂取をすすめていますし、自分自身も意識して日常の食事から摂取するようにしています。
また、ビタミンDは日光浴によって皮膚で生成されるため、夏なら15分から30分程度は日光を浴びるようにするといいでしょう。ほんの少しの栄養面への配慮で、心もからだも強くなります。栄養学は、奥深く、とても面白い学問ですね。