―――黒竜討伐は、成し遂げられた。
下界の三大クエストにして、なさなければ破滅しかなかった未来。
決して多くはない犠牲を払ったとはいえ、それでも彼らは…ゼウス、へラの両方の強大なファミリアは無事に帰還したのだ。
「…そのついでに、討伐中の荒療治でまさか、病気も癒えるとはな…」
…忙しかった日々も過ぎ去り、ようやく落ち着いてきたオラリオ。
その中で、アルフィアは当時のことを思い出してそうつぶやいていた。
黒竜討伐中に受けた攻撃により、肉体はほぼ崩壊寸前になっていた。
だが、かなりの荒療治を受け…死んでも治す気迫を見せたヒーラーの面々に駄目になった部位を破壊されたら再生させるような、常人であれば精神崩壊も辞さないような狂気的な治療を受けていたが、その結果としてまさかのアルフィアの肉体を蝕んでいた不治の病が、一緒に失われたのである。
ただし、代償が無かったわけでもなく…病が失われる中で、もたらしていたスキルも失われたため、ステータスが限界を突破して成長するようなこともなくなってしまったが、そんなことは気にするようなことではなかった。
「同じような治療を受けさせるのは心が痛んだが…それでも、お前もまた完治できたしな」
ふふっと微笑みを浮かべるアルフィアの視線の先には、彼女の愛すべき妹の姿があった。
部屋から出られないほど衰弱し、もはやその命は潰えようとしていた大事な妹…メーテリア。
だがしかし、アルフィアの受けた治療を参考にして、もう少しだけ改善された手法を試したところ、メーテリアの病もまた消えたのである。
これには主神であったヘラも歓喜のあまりに喜び、いつもならばまた女関係でやらかしたゼウスを叩き潰すところを抑え、すり鉢に入れてすりつぶす程度にまで収めたほど。
「けれども、その中でもやらかしたあの男は許さないがな…」
「まぁまぁ、そろそろ怒りを収めてよ。この子も、怖がるでしょ?」
「んー…怖いよぉ、アルフィアおば、」
「【福音(ゴスペル)パンチ!!】」
ゴッズ!!
「ふぎゅぅ!?」
…メーテリアに手を出したゼウス眷属のサポーター、あれだけは許しがたい。
しかし、妹が必死にとりなしたので、収めはしたが…赤い液体がしたたり落ちる袋に詰めて、埋めてしまったが…まぁ、どうでもいいか、あの回収されたミンチは。
それよりも今は、つい手を出してしまったが、そのメーテリアが産み落とした子供…ベルには、ちょっと乙女心的なもので、おばさんとは呼ばれたくはない。
「ベル、私のことは何と呼ぶように言った」
「は、はい!!アルフィアお義母さんです!!」
「もぅ、この子に何を躾けているのよ」
さらっと躾はしたが、妹よ、それは必要なことであるとアルフィアは心の底から思う。
あのゼウスのサポーターの子でもあるからこそ…かつて、女神用の神聖浴場にゼウスと共に覗き見をした前科があるような男の子と言うのであれば、きちんとやらなければ将来的に不味い。
そのため、躾をきちんと行うことで、第二のゼウスを産みださないようにと言う思いで、彼女は動いていたのである。
「だが、オラリオで生涯を終えるのも何だ…平和になったのであれば、それこそゆったりとできる場所へ引っ越して、隠居もありだろうな」
「…ええ、そうね」
「?」
アルフィアとメーテリアの言葉に、まだ幼いベルは首をかしげている。
黒竜討伐を終えて無事に何もかも終わらせれば、やってくるであろう平穏な生活。
しかしながら、その偉業を成し遂げたということから世間が早々引っ込ませることを許さず、騒がしくもあるのだ。
その喧騒に、病が癒えた身とはいえ少々うっとおしく思っており…そこで、彼女は妹とベルと一緒に、田舎へ移り住むことにしたのであった。
世間のほとぼりが冷めるまで、と言うのは建前で、妹とのんびりとした時間を共に過ごしたかったというのが彼女の本音だろう。
そしてその愛すべき妹の子供と共に生活するのも、悪くはない。
「ベル、今日はどうだった?」
「んっとね、ザルドおじさんが美味しいお菓子を作ってくれたの!それに、マキシムさんや女帝さんも色々と教えてくれて…ほら、みてお義母さん!綺麗な花の冠が出来たから、付けてあげる!」
「ああ、ほら、私の頭の上に…」
「うぉぉ!混ぜてくれ、そしてかがむ際に見える谷間を見せてく、」
「【福音(ゴスペル)】」
ドォォォォンン!!
…しいて言うのであれば、あの糞爺神が一緒にやってこなければ、より良かったかもしれない。
万が一と言うのもあって、すぐに連絡を取れそうな神がいたほうが都合が良いからと言う理由で、やってきたのであれば仕方がない。
「ぜ、ゼウス様ぁ!!代わりに、自分がその胸にダイブを」
「お前にはメーテリアがいるだろうが!!【福音パンチ】!!」
メゴォオオオ!!
「ぐげっばぁぁあ!!」
ついでに妹が愛しているからとかいう理由で、連れてきたベルの父親も気に食わないので魔法無しで、音速を超えた拳で黙らせておく。
「はぁ、まったくあの主神と眷属は…」
「あの、お爺ちゃんとお父さんがぶっとんだけど、大丈夫なの!?」
「大丈夫だ。明日にはダンジョンから生えてくるはずだ」
「どこがだいじょうぶなの!?」
ベルが驚いた表情を見せるが、問題は無いはず。
ついでにヘラにもチクったが、送還されるギリギリでしぶとく生き延びるだろう。
「さぁ、その花の冠を私へおいてくれ」
「う、うん!」
「うぉおおおお!!何のこれしきぃ!!ベルぅうその役目をお爺ちゃんにゆず、」
「【福音(ゴスペル)】×10」
「ざつにぼごぉおおっづ!?」
ダンジョンで復活するインターバルの予測よりも早く、復活するセクハラ大魔神。
だが、この程度であれば問題も無く対処できるだろう。
穏やかな時が、アルフィアの日常を流れ、大事な妹とその子供との生活が彼女の人生へ色彩を与えていく。
不治の病に侵されつつ、過ごしていた辛い時間。
それから時間を奪い返すようにして、手に入れたこの大切な生活に、アルフィアはかつての冒険者生活の時よりも笑顔を見せて、無事に過ごせる日々へ感謝の祈りを捧げていく。
時折、ベルに対してハーレムや覗きを教え込もうとするゼウスは何度も何度もぶっとばしたが…それは気にしなくても良いこと。
さらに月日が経過して、ある日近所に引っ越してきた家族の娘…ロキファミリアが何やらヘラファミリアから育てるように要請され、一旦はこの田舎で様子を見るためにと言う目的でやってきたアイズ。
「えっと…兎?今度から、近くに来たの…よろしくね?」
「う、うん!!」
引っ越しの挨拶の際に、自身の好みであるその姿に、一目惚れしたベル。
その様子を見てアルフィアは大事な子供が婿に行くにはまだ早いからと言う理由で、遠ざけようと適当なモンスターを攫ってきたりして画策していたが…それはまた、別のお話。
「おい、異端児共。大事なベルに対して近づきかねないあの女をどうにかして遠ざけろ。そうだな…さしあたり、グロスとリド、お前たちでげへへっと笑いながら話しかけて、連れ去ってしまえ」
「どう考えても怪しい不審者だぞ!!」
「アルフィアっち、それはモンスター関係なく、絵面が最悪な状態なんだけど!?}
「【福音(ゴスペル)】」
「「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」
「よし、レイ。お前があの少女を大空へ攫い…そうだな、3つほど山向こうへ連れ去って、一番高い木の上にでもひっかけて置け」
「誘拐ですヨ!?」
…なんやかんやで後に、竜の娘やファミリアから逃亡してきた小人や狐の少女などがこの地へ押しかけてきて、より一層賑やかになることなんて、誰も知らないのであった。