―――あの時、出てきたモンスターに私たちは全滅したはずだった。
ルドラたちの罠にかかって、そこから急に出てきたイレギュラー。
皆次々とやられて、最後に託して…リオンの魔法で、私たちは吹き飛んだ。
「そんな私がいま生きているのも、不思議な話よね…」
『そのように思いをはせるのも良いが、今は急いでくれ紅の正花(スカーレット・ハーネル)!ウラヌス曰く、37階層に…』
「ええ、わかっているわ。そうしなければいけないってことを」
懐にある水晶のようなマジックアイテム…そこから伝わってくる、フェルズの声。
異端児(ゼノス)たちも後からついてきているようだが、今はこの階層でたまたま活動をしていた私のほうが早くたどり着けるだろう。
「それにしても、ジャガーノートに再び相まみえるとはね…これも、因縁ってやつかしら」
かつて、敗れた相手、ジャガーノート。
ダンジョンの生み出したモンスター以上の怪物であり、本来であれば魔石の無い体ゆえに自然消滅していくはずである。
だがしかし、それが何をどうしてか意志を持った異常事態となっており、今まさに彼女の仲間であったリオン及び彼女と共に行動している冒険者へ襲撃をかけたようだ。
深層に落とされて、そこからさらに連戦なんてもの、我が身であっても物凄く最悪だろう。
けれども、もっと最悪なのは…
「再び、失わせるわけにはいかない!!」
加速し、炎を身に纏い、彼女は疾走する。
ゼノスたちによって命が失われかけた肉体は既に癒えている。
あくまでも死亡扱いのために、堂々と姿を現せなかったが、持ち前の性格で異端児たちに受け入れられ、行動を共にして過ごした日々。
陰から見守り、その正義の行く末を見守っている中で…ダンジョンで起きた異常事態。
それゆえに今、堂々と目の前に出られる大義名分が…違う、彼女の正義を終わらせないために、自分の正義をもって助けに入るのだ。
聞こえてくる衝突音。
命を削る思いが、叫びが、その覚悟が響いてくる。
私たちの中で末妹のようだったあの子が今、必死になって戦っている。
たとえその敵を打ち倒したとしても、ここで耐えてしまうようなか細い命。
ならばその炎に答えなければ、何が正義か。
「---そこを、どきなさい!!」
「っ、誰!?」
「この場所に、一体誰……え」
声を上げ飛び出した私の姿に、二人が振り返って視認する。
片方は、警戒を緩めない心強い目をして、そしてもう片方は…リオンは同じような目をしていたが、すぐに驚愕の色に移り変わって目を丸くしている。
ああ、あんなふうに驚くこともできたんだ。
何よりも、あれだけ他者に触れられるのを避けていたあの子が、共に手を取り合い戦える少年がいたということも驚かされるが、今はそれに目を奪われているわけにもいかない。
アガリス・アルヴェシンスは発動済み。
炎のエンチャントが、その紅い軌跡が彼らの間を潜り抜けて、ジャガーノートと呼ばれる怪物へ一気に接近する。
爆散鍵を素早く唱え、爆発を一気にたたきつける。
―――ドォォォォン!!
凄まじい爆発で身を焼かれ、大きく後退するジャガーノート。
あの時戦ったものに比べると、だいぶ弱くはなっているだろう。
だが、それでもまだ油断はできない。
「二人とも、助太刀に入ったわ!!ここで一緒にこのジャガーノート‥言いにくいわね、このジャガ丸君モドキを協力して倒しましょう!!」
「だ、だれ、というかジャガ丸君モドキ!?」
「あ、あ、ありー…アリーゼ!?何故、どうしてここに、いえ、まず何で生きて…!!」
ああ、しまった。ちょっとばかり彼らに混乱を引き起こしてしまったかもしれない。
ジャガ丸君モドキは、我ながら呼びやすい感じかと思ったがそうでもないようで、私が亡くなったと思っていたリオンもまた混乱に叩き落とされたようだ。
少々やらかした気がしなくもないけど、今は戦場。
ジャガ丸君モドキはすぐにこちらへ鋭く爪を振り下ろしてくる。
「混乱は後!!今はこのジャガ丸君モドキが先!!」
「は、はい!!」
「分かりました、アリーゼ!!今は色々と話したいことがありますが…ええ、共に、戦いましょう!!」
流石、この深層を生き延びてきたこともあって、二人の切り替えは早かったようだ。
どのような関係性なのかも気になるが、それも後にする。
「…ふふふ、久しぶりに一緒にね!」
今はここにいない輝夜にライラだが、姿が無くとも皆で戦っているような感覚。
いかに相手が強大なモンスターとはいえ、心強さは変わらず、負ける気はしない。
「それじゃ行くわよ!!」
「ファイヤボルト!!」
「やぁぁぁっ!!」
炎の剣が、炎雷の魔法が、燃え滾る思いが今、混ざり合ってジャガーノートへぶつけられていく。
この正義は今、ここで巡り、そして敵を打ち破るために…