―――時として人は、無茶ぶりに付き合わされることがある。
そしてそれが本来、無理なことだとしても無茶なことを言い出す人はどうにかしてしまうものだ。
『そうだ愚兎、貴様のランクアップを速めなければならぬ理由が出来たから、ある冒険をしてこい』
『いきなりなんですか、ヘディンさん(マスター)』
『これが、その道しるべだ。ギルドの秘蔵のマジックアイテムだったが、その理由のために快くギルドの豚が貸してくれたぞ』
『昨日雷鳴が鳴り響いて、ギルド長がローストポークになっていたって話があったんですけど、あれはマスターのせいだったんですか!?』
『黙れ』
『ぎゃあああああああああああああああ!!』
思い出されるのは、さっきまでやり取りしていた恐ろしく金髪エルフのトラウマを作った人物との内容。
そして目の前に出されたマジックアイテムが、竜種をも屠れるキックでぶっ飛ばされて顔面にぶつかって…
ドォォォォォン!!
ボッゴォォォォン!!
「ぎゃぁぁぁ!!またへラ・ファミリアのやつが、ゼウス・ファミリアに襲撃を!!」
「今度は何をやらかしたあの糞爺共!!」
「なんでも、女神の神聖浴場に録画用マジックアイテムを仕掛けていた現行犯だったらしい」
「「「救いようがないし言い逃れようがないなぁ!?」」」
「こ、ここはもしかして…過去のオラリオ?しかも、聞こえてくる内容が…」
どうやらマジックアイテムを使わされて、たどり着いたのは過去のオラリオ。
それもまだ、黒竜討伐の前でゼウス・ヘラの両ファミリアが健在だった時の…
『その通りだ、愚兎。聞こえているならば、その両方にカチコミをかけてこい』
「っ!?ま、マスター!!一体どこから」
『今の時間からだ』
バチィイ!!
「ぎぃ!?」
正解だったようで、どこからともなく聞こえてくるヘディンさん…鬼畜腹師匠の声。
あのマジックアイテムは対象を過去へ飛ばし、その時何があったのか見るために使われるもののようだ。
本来であれば、時間を遡って向かうことは不可能なこと。
神々も試し例外なく粉微塵になったりして、過去も未来も渡ることはできない。
だがしかし、何事も例外があり…カオスのことわりとかそういうものもあるようで、それらを利用したものになるのだとか。
『ただし、そこはあくまでも過去の世界であり、今の世界につながるように見せかけて、物事一つ変わればそれだけで枝分かれした別物になる…つまり、貴様がそこで何をしようが今に影響を与えることはない』
「は、はぁ…」
『なので、そこで愚直な貴様は積極的に、当時最強と名高かったレベル9の女帝や、その他冒険者共にぶつかり、玉砕してこい』
「僕に死ねと?!」
さらっととんでもない相手を口に出され、思わず叫んでしまうベル。
レベル7のオッタルに挑んだ時よりもさらに絶望的な相手に命がけで挑めという、鬼畜の所業。
『そうだな…流石に、いきなり女帝は厳しいか』
「ま、マスター…」
『ならば、時期的にはそうだな…近くにいる、『静寂のアルフィア』にでも挑め。レベルは猪と同じだ』
「難易度が下がっても、結局地獄では?!」
思わず叫ぶが、とにもかくにも従うしかないだろう。
恐怖しか感じないが、それでも着実に道案内を受け…ついに、ある場所にベルはたどり着いた。
「…って、あれ?ここは…」
たどり着いた場所に、何故か見覚えがある。
過去のオラリオは現在とはあちこち違うはずだが…彼は気が付いた。
「神様と過ごした、昔の…教会跡地‥?」
かつて、ヘスティアと二人だけだった時に、利用していた建物。
アポロンファミリアの手によって破壊され尽くして、今はもうない場所のはずだったが、この時代は過去だからこそあるのだろう。
中に入ってみれば、多少は今よりもきれいだったが…その中の席に、人影があった。
『いたぞ…奴が、静寂のアルフィアだ』
「あの人が…」
そこにいたのは、女の人。
漆黒のロングドレスを身に纏った、長い灰色の髪色の人であり…一目見ただけでは、ここで祈っているような人にも見えなくはない。
「む?誰だ、ここに入り込んできたのは」
「っ…!」
だが、流石上級冒険者の一角にいるだけあってか、こっそり入ったベルの気配に気が付いた様子。
すぐさま振り返り、オッドアイの両眼がベルの姿を捉える。
「何者だ、貴様は?…いや、待て、本当に誰だ」
過去のオラリオにはいない、ベルの姿。
この場所で、数多くの冒険者を相手にしてきたアルフィアだったが、すぐにこの地では目にしたことがない人物と思ったのだろうが…何か様子がおかしい。
「その眼、その紅い目はどこかあの男を思い出して抉り出したくなるが、その髪色は…」
「ひぇっ」
一瞬だけ飛ばされた、凄まじい殺気。
だが、すぐに引っ込んだかと思えば、何やら驚愕していた。
「あー?うー?」
「っと、待て、今は…いや、まさか…!?」
ふと、聞こえてきたこの場に似つかわしくない声。
よく見れば彼女は誰かを抱えており、何やら赤子のようだったがその顔を見てすぐにベルのほうを見て、さらに驚愕の顔色を浮かべる。
「え…」
そして同時に、ベルもまた驚愕の表情を浮かべた。
なぜならば、アルフィアが抱えていたのは…物凄く小さな赤子ではあったが、それでもわかってしまったのだ。
「まさか…嘘だ、この赤子が…」
「あれは…僕…」
…静寂のアルフィアが、胸に抱えていたのは処女雪のような髪色をした、紅の瞳をした男の子。
そう、それは紛れもなく過去の…ベル・クラネルの赤子の姿であった。