多様な進化を見せる植物
植物は、防衛手段についても多様な戦略を発達させた。樹木は防御物質としてリグニンを多く蓄積する必要があるが、そのためにはセルロースを作るよりも多くのエネルギー(糖分)を要する。
イネは、リグニンは少ない代わりに葉の表面を覆うガラス質のトゲで防御力を高める。イネに限らず、チガヤやススキ、タケやサトウキビなどのイネ科植物の葉は、触り方を間違えば血だらけになる。さらに、葉の表面のクチクラ層の下に二酸化ケイ素層を備えた防御壁(クチクラ・シリカ二重層)で害虫・病原菌から身を守る。土に豊富なケイ素(トゲや防御壁)で節約した炭素(糖分)を成長にまわすことでイネ科植物は世界じゅうに分布を拡大した。
ジャガイモの芽に含まれるアルカロイド(ソラニン)は、窒素を多く使って作る防御物質だ。土によって利用しやすい栄養分は異なり、植物はそれぞれにとってベストな生存戦略を編み出した。
微生物たちの共生と縄張り争い
植物の多様化は、共生菌や病原菌を含む土の微生物にも多様化を促す。微生物と一括しているが、大さじ1杯(およそ10グラム)の土の中に細菌が100億個、1万種類も存在する。これは腸内細菌の多様性の10倍にもなる。カビ・キノコの菌糸はつなげると数キロメートルもの長さになる。土のすみかやエサとなる有機物には限りがあるため、ケンカも絶えない。
放線菌と呼ばれる細菌の一種(ストレプトマイセス属)は、自分の縄張り(コロニー)に侵入してくる他の細菌を殺すために防御物質でバリケードを作る。ストレプトマイシンと呼ばれるこの物質は、結核菌を退治する抗生物質としても有効だった。第二次世界大戦の頃に日本の死因第1位だった結核は、正岡子規をはじめ樋口一葉や石川啄木ら、多くの命を奪ってきたが、この抗生物質によって克服された[参考文献3‒23] 【図3‒14】。
同じように、アオカビの分泌液からは細菌性の感染症に効く抗生物質ペニシリンが発見された。量産に成功したのが新型コロナウイルスのワクチン生産で有名なファイザー社である。人類は、土の細菌の縄張り争いに使われる“化学兵器”を抗生物質として利用してきた。