MAMOR 最新号

3月号

定価:780円(税込)

「防衛装備品」というと、戦車や護衛艦や戦闘機などを思い浮かべるが、国を守る道具は、私たちに身近なモノから、「これは何?」と見ただけでは用途が分からないモノまで、多岐にわたる。

 そこで、マモルでは、自衛官が任務を遂行するために、日ごろから使っていて、しかし、私たちの目に触れることが少ない道具を中心に紹介する。

「能書は必ず好筆を用う」という。はたして、国防の志士たちが駆使する道具とは?

隊員が日々使う道具には思いが込められている

 自衛官が、任務を遂行するために使われてきた道具たち。一般の人たちも使用するものもあれば、自分たちで使いやすいように加工したものもある。

「国を守る」という強い志を持つ隊員たちが意思を込めて使うだけで、それは立派な「防衛装備品」となる。今回は陸上自衛隊で使われている装備品を、それを使う隊員の思いとともに紹介する。

防護服

防護服を着用するときは気合いと覚悟が必要です

化学兵器や生物兵器、放射性物質、核兵器などの「CBRN兵器」に対処する特殊武器防護隊の隊員が装着する防護服

「防護服は毒ガスなどが入らないように外部の空気を遮断する特殊なゴム素材で作られています。有毒物質などが散布された際に除染作業などを行うために着用します。地下鉄サリン事件などでも使用されました。夏はとくに着用するだけで内部はサウナ状態の暑さとなり、訓練後に長靴をひっくり返すとジャーっと流れ出るほどの汗をかくこともあります」と語る清藤2曹。

第1特殊武器防護隊の車両の前で防護服と防護マスクを装着した、清藤圭将2等陸曹

「日ごろからサウナや筋トレなどを欠かさず、いつでもこの防護服が着られるように体力をつけています。着用するときは常に臨戦態勢。気合いと覚悟を持って装着しています」

18式防弾ベスト

旧型より軽く動きやすくなった新型防弾ベスト

 銃弾などから隊員の身を守るために着用する「18式防弾ベスト」。 射撃訓練や格闘訓練などで着用するという中原1士は、「この新型の防弾ベストは旧型に比べ軽く、丈が短くなっているため、動きやすくなりました」と話す。

防弾ベストを着用する第1普通科連隊第3中隊の中原瑠美1等陸士

「小銃弾を阻止するセラミックプレートが胸・背部に各1枚入っているため防弾性も高く、軽くなったので任務が遂行しやすいです。実弾を使った訓練では、私に安心感を与えてくれる大切なアイテム。着用した瞬間、『よーし、やるぞ!』と戦闘モードになれます」

油圧式カッター

人命救助をいち早く行うときに便利で多様性のある道具

画像: ハサミとペンチを組み合わせた構造になっていて、油圧式なので小さな力で作動できる

ハサミとペンチを組み合わせた構造になっていて、油圧式なので小さな力で作動できる

「主に災害時に使用しますが、倒壊家屋などから鉄パイプが露出し、被災者をスムーズに救出できないことがあります。そんなときは、この油圧式カッターの出番。鉄筋などの金属を切断したり、閉じたシャッターをこじ開けて救出口を作るのに役立ちます。重機が到着する前にいち早く人命救助を行う隊員にとって欠かせないアイテムです」と語る吉田2曹。

自衛隊の防災イベントなどで実演を行っている、第1普通科連隊第3中隊小銃分隊長兼文書係吉田誠悟2等陸曹

携帯偽装網

周囲の環境に溶け込み身を隠すための迷彩服 

携帯偽装網の生地は、隊員が現場で採取した草木を差し込めるよう、細かい網目状になっている

 携帯偽装網は狙撃手が森林などで発見されないよう、カモフラージュのために着用する迷彩服の一種。

画像: 携帯偽装網を着用し、草木に紛れる、陸上自衛隊第1普通科連隊の狙撃手(赤線部分)

携帯偽装網を着用し、草木に紛れる、陸上自衛隊第1普通科連隊の狙撃手(赤線部分)

「狙撃手として、とにかく隠れて任務を遂行している」という狙撃手の隊員は、「演習や訓練の際には、周囲の環境に溶け込むよう、現地に生えている植物を携帯偽装網に加えます。草の生えている向きを意識して付着するのが擬装のコツです。私は最前線で敵への狙撃や偵察を任務とする狙撃手。私が敵に見つかれば味方を危険にさらすことにもなりかねません。そのため、この装備品なくして任務は成り立ちません」

野外電話端末

通信線を延ばしてつなぎ通信装置を開通させる

画像: 前線にいる部隊と指揮所との有線通話を可能にする、野外電話端末(写真右)と通信線

前線にいる部隊と指揮所との有線通話を可能にする、野外電話端末(写真右)と通信線

「野外電話端末は有事の際に前線部隊と指揮所の通話を開通するために必要な道具です。電波を飛ばすと敵に見つかりやすくなるため、有事の際はこの通信線の電話が重要。人目につかないように通信線を木にからめたり、車両に踏まれて損傷しないように地中に埋めたりして長いときは2~3キロメートルほどつなぎます。

 通信線が見つかると敵に指揮所が発見される危険があるので隠しながらいかに長く構成(配線)していけるかが大事。受話器の向こうから『つながりました!』と言われたときはとてもうれしく、達成感があります」と櫻井3曹。

敵に悟られないよう通信線の構成を行っているという、第1普通科連隊本部管理中隊通信小隊の櫻井佑磨3等陸曹

エンジン式削岩機

災害時に壁を破壊し被災者を救出する機械

画像: 災害時に壁を破壊し被災者を救出する機械

<SPEC> 長さ:73.2cm、幅:47cm、重さ:約30kg

「エンジン式削岩機は、ガソリンエンジンで動く道具。手動式のレバーを引っ張るとエンジンがかかり、先端に付いているビットと呼ばれる黒い棒が上下に動くことで固いものを粉砕できます。有事においては防御陣地を造る際に地中にある固い岩盤を破砕するのに使用。また、災害時は倒壊家屋の壁やコンクリートなどをピンポイントで粉砕できるので、被災者を素早く救出できる優れた機械です」と語る谷垣2曹。

能登半島地震の人命救助の際にも使用されたという、エンジン式削岩機の整備を行う第1普通科連隊の谷垣泰雅2等陸曹

「国民の命を守るための大事な装備品なので、いつでも使用できるよう、心を込めて丁寧に整備しています」

儀じょう銃

特別儀じょう隊だけが保有する儀礼用の銃

画像: 特別儀じょう隊だけが保有する儀礼用の銃

<SPEC> 長さ:約111cm、重さ:約3.9kg、口径:7.62mm

「内閣総理大臣が国賓を日本に迎える際などに行われる『特別儀じょう(注)』で使用する銃が儀じょう銃です」と語る髙井士長。

画像: 儀じょう銃を持つ第302保安警務中隊特別儀じょう隊の髙井陸斗陸士長

儀じょう銃を持つ第302保安警務中隊特別儀じょう隊の髙井陸斗陸士長

「儀じょう動作がしやすいように極限まで突起物をなくし、儀じょう用に特化した銃です。持ったその瞬間から背筋が伸び、身が引き締まります」

※注:皇族や内閣総理大臣、政府高官などが国賓を迎える際に行う儀礼のこと。

儀礼刀

特別儀じょう隊の幹部が持つ「魂」といえる道具

画像: 特別儀じょう隊の幹部が持つ「魂」といえる道具

<SPEC> 長さ:約91cm(刀:85cm) 重さ:約1.1kg(刀:0.7kg)

 内閣総理大臣が国賓を迎える際などに行われる「特別儀じょう」に欠かせない道具が儀礼刀だ。美しく整列した儀じょう隊の前を国賓が通る際に、儀じょう隊の幹部は、この儀礼刀を操るのだ。

画像: 儀礼刀の練習を行う、第302保安警務中隊特別儀じょう隊の森山清彦2等陸尉

儀礼刀の練習を行う、第302保安警務中隊特別儀じょう隊の森山清彦2等陸尉

「儀礼刀を持ってキレのある動作を行うためには、柄の部分を握らずに指に引っ掛けるようにして扱います。儀礼刀は見た目よりも重く、肩の可動域を広げるようにして操る必要があります。そのためには日々の反復練習は欠かせません」と語る森山2尉。

「部隊の前に立つ幹部しか持つことができないため、私にとっては『魂』ともいえる道具です」

※寸法などスペックの記載がないものは公表されていません

(MAMOR2024年8月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

<文/魚本拓 写真/星 亘(扶桑社)>

誰も知らない防衛装備品54

画像: アメリカ・スペースX社の通信衛星「スターリンク」。ウクライナでもサービスが提供され、軍事面でも活用されているという。現在宇宙には、軍事・非軍事問わずさまざまな人工衛星が稼働している 画像/©Aleksandr Kukharskiy、shutterstock.com

アメリカ・スペースX社の通信衛星「スターリンク」。ウクライナでもサービスが提供され、軍事面でも活用されているという。現在宇宙には、軍事・非軍事問わずさまざまな人工衛星が稼働している 画像/©Aleksandr Kukharskiy、shutterstock.com

2020年、航空自衛隊の守る領域に「宇宙」が加わった。その後も新部隊を新編するなど、宇宙領域への展開が加速している。

経済・社会活動に不可欠な宇宙空間の安定利用を確保

 航空自衛隊には、自衛隊唯一の宇宙領域専門部隊、宇宙作戦群があり府中基地(東京都)や防府北基地(山口県)に部隊を配置している。それらの指揮を執る杉山1佐に任務の内容を聞いた。

「宇宙航空研究開発機構(JAXA)やアメリカ宇宙軍などと協力して、宇宙領域で何が起きているのかを把握する任務など、宇宙空間を安全かつ安定的に利用できるよう活動しています。

 人工衛星やスペースデブリなど宇宙物体の位置や軌道の把握、各国の衛星運用・利用状況やその意図、能力を把握することに取り組んでいます」

 また、26年度に、地球周回静止軌道上に存在する宇宙物体の状況を把握するための人工衛星を打ち上げ予定だという。

都心オフィス街に拠点が?「宇宙協力オフィス」の挑戦

 23年10月、東京都港区にある「虎ノ門ヒルズビジネスタワー」内に、航空自衛隊の「宇宙協力オフィス」が開設された。隊員が常駐し、民間企業との交流や情報収集のほか、空自の活動について周知するためのイベントなどを行っている。

「民間企業の方には、防衛省・空自が宇宙分野で活動していることがあまり知られておらず、意見交換会などでは驚かれることもありますが、和やかな雰囲気で意見交換でき、話も盛り上がりやすいと感じています。宇宙領域に限らず、関連性の高いサイバー、電磁波などに関するさまざまな技術、ビジネスの話をしていただけるので、参考になり大変ありがたいですね」と同オフィスの運営に携わる奥田2佐は語った。

【杉山公俊1等空佐】
宇宙作戦群・群司令。2023年3月より現職。宇宙作戦群を構成する5部隊の指揮・総括を行っている

【奥田智洋2等空佐】
航空幕僚監部防衛部事業計画第2課・宇宙領域班総括。元々の職種は気象で、理学博士の肩書きも持つ

(MAMOR2024年7月号)

<文/臼井総理 写真提供/防衛省>

ありがとう、航空自衛隊!

※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

 小銃は、入隊した陸上自衛官1人に1丁が貸与されるミニマムな火器の1つ。

 陸上自衛隊における小銃は、ただの個人装備品ではなく、入隊から退職までずっと付き合うパートナー、武士の刀にも例えられる自衛官の“魂”でもあるようだ。

 普段の訓練から管理まで、隊員たちはどのような思いを持って小銃と付き合い、使っているのか。現役の隊員と元陸将補の話から、その魂に迫ってみたい。

小銃は“体の一部”と同じで、自分と仲間の命を預けるもの

画像: 小銃貸与式では1人ひとりに小銃が手渡される。受け取った隊員は大きな声で「銃!」と復唱し銃固有の番号を叫ぶ

小銃貸与式では1人ひとりに小銃が手渡される。受け取った隊員は大きな声で「銃!」と復唱し銃固有の番号を叫ぶ

 陸上自衛官にとって、小銃は一番身近な装備品であり、入隊から退職まで付き合うパートナーだ。

 陸自に新隊員として入隊後、各隊員は教育隊長などから小銃を貸与される。初めて小銃を手にするとき、その物理的な重量よりも殺傷力を持つ装備を手にする“重み”を感じるという。

 その後、小銃の仕組みを正しく理解し、正確かつ確実に分解し素早く組み立てをする訓練を何度も重ねる。そんな小銃を、隊員たちはどうみているのだろうか。陸上自衛隊富士学校で全国の陸自部隊で小銃の射撃術などを教える教官を育成する八木亜生都2等陸曹に聞いた。

画像: 小銃の清掃法も学ぶ。布を巻いた棒を銃口から入れ、銃身についたすすなどの汚れを落としメンテナンス

小銃の清掃法も学ぶ。布を巻いた棒を銃口から入れ、銃身についたすすなどの汚れを落としメンテナンス

「小銃は自分の体の一部、という意識ですね。私たち自衛官が任務を遂行する上でなくてはならないものです。自分と仲間を守るための唯一の装備ですので、取り扱いに習熟することはもちろん、日ごろから大切に扱い、常に射撃ができるように維持・整備しています」

 その重要さを証明するように、陸自では先述の貸与式や退職して小銃を返納する際に式典を行う。陸上自衛官は小銃と共に隊員生活を過ごすといっても過言ではない。武士にとっての刀と同様、陸上自衛官にとっての小銃は“魂”なのだ。

大切だが危険な小銃。安全管理を徹底して行われる教育

画像: 小銃の分解・結合も徹底して訓練。最終的には暗闇でも分解・結合できるよう繰り返し訓練して身に付ける

小銃の分解・結合も徹底して訓練。最終的には暗闇でも分解・結合できるよう繰り返し訓練して身に付ける

 銃は国を守るものである一方、1つ間違えれば自分や仲間を傷つけてしまうものだ。自衛隊の教育では、銃の安全管理は徹底して教え込まれる。

 八木2曹は、安全管理の教育について次のように語った。「射撃技術を教育するのはもちろんですが、自分や他人に銃口を向けないなどの『銃口管理』は特に徹底しています。さらに取り扱いの所作についても、実戦に即した合理的なものであるかを確認しながら指導しています」。

 安全管理は任務遂行の直結だけでなく国民からみて安心できる、ということにもつながるため、とても大切なのだ。

「教育でも『銃を持つ資格があるのか』を考えさせる指導、人間修養を心掛けています」と八木2曹は言う。

小銃の作法の底上げが自身と国民を守る力に

画像: 小銃の射撃訓練。初めは弾を入れずに動作を学び、最後は教官の指示のもとで空包と実弾で訓練する

小銃の射撃訓練。初めは弾を入れずに動作を学び、最後は教官の指示のもとで空包と実弾で訓練する

「私が普通科連隊長をしていたころ重視したのは、小銃の安全な取り扱い、手入れ、射撃の精度など全てに関係する『ガンハンドリング』と呼ばれる作法です。武道の達人は、お互いに構えた瞬間に強さが分かるといわれます。同様に小銃の所作を見れば、その人のガンハンドリングのレベルが分かるのです」と元陸将補の二見龍氏。

 このガンハンドリングについて、精度を上げなくてはいけないと続ける。

「安全管理は大切ですが、敵から自身と国民を守ることができて初めて小銃の基礎ができたと思うべきです。私は『時間があれば手入れしろ』と伝えていました。自分の体に故障があれば満足に動けないように、小銃を自分の体の一部として最善に保つことが強さにつながるからです」

【富士学校普通科部 八木亜生都2等陸曹】
「慣れ親しんだ89式から形が変わったので最初はしっくりこなかったのですが、今は体になじんでいます」と話す富士学校普通科部の八木2曹

写真提供/本人

【二見龍氏】
元陸将補。第40普通科連隊長などを務め2013年退職。現在は民間企業で危機管理の仕事に携わり執筆活動もしている

(MAMOR2024年6月号)

<文/臼井総理 撮影/防衛省提供>

自衛隊の小銃がすごい!

※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

 病院や街の薬局などで私たちも日常的にお世話になっている薬剤師。自衛隊にも、自衛官であり国家資格を持つ薬剤師でもある「薬剤官」がいる。薬剤官は隊員の健康管理、防疫および衛生資材などの補給整備を行う「衛生」という職種に属している。

 その任務は多岐にわたり、自衛隊内の病院はもちろん基地や駐屯地、被災地や派遣先の海外、はたまた有事の際には第一線へも進出する。マモルでは、国を守る自衛官の体を守る薬剤官のマルチ・プレイヤーぶりに焦点を当ててみた。

衛生の隊員としてキャリアアップする薬剤官

画像: 薬剤科幹部候補生として採用されると、初めに陸・海・空各自衛隊の幹部候補生学校に入校し、幹部自衛官としての基礎を学ぶ

薬剤科幹部候補生として採用されると、初めに陸・海・空各自衛隊の幹部候補生学校に入校し、幹部自衛官としての基礎を学ぶ

 薬剤師と自衛官の2つの顔を持つ「薬剤官」。どんな人が薬剤官になり、どのような教育と訓練を受けるのだろうか?そして薬剤官はどのような経験を積み重ねていくのか?入隊後のキャリア形成について調べてみた。

幹部候補生学校、部隊を経て自衛隊中央病院で実務研修

薬剤官は幹部候補生学校を修了後、自衛隊中央病院で調剤などの現場実習を行う。その後は部隊などで実任務に就くが、さまざまな研修や実習などに参加し、自衛隊の薬剤官として幅広い知識と技術を身につける

 薬剤官の採用は、大学の薬学部などを卒業し薬剤師の国家資格を取得した28歳未満の者が対象で、自衛官の採用試験に合格する必要がある。採用数は陸・海・空自衛隊合わせて年間20~30人程度の狭き門だ。

 このほか防衛省・自衛隊には、不定期だが特定の分野の有資格者、経験者のキャリア採用制度があり、薬剤師の採用実績もある。薬剤官の区分は部隊の指揮官や指揮官を補佐する幹部自衛官で、合格者は各自衛隊の幹部候補生学校に入校。陸自は約39週、海自は約1年、空自は約34週にわたり幹部自衛官に必要な知識、技能を習得する。

定期的に自衛官としての訓練も行う。衛生の隊員として傷病者搬送などの実務を学ぶ

 幹部候補生学校を修了後、陸自は約13週間、空自は約3カ月間、部隊や自衛隊病院に配置され実務を担当する。その後約1年間、自衛隊病院の中核・自衛隊中央病院での薬剤実務研修で臨床薬学の講義と実習を受ける。

医官の指示を受け、調剤を行う薬剤官。隊員への服薬指導など経験を積み重ねていく

 なお海自は、幹部候補生学校修了後に約5カ月間、船乗りの心構えや国際感覚を養う遠洋練習航海に参加し、その後、約7カ月間の部隊勤務などを経て陸・空各自衛隊と同じように自衛隊中央病院で約1年間の薬剤実務研修を受ける。その後は各地の部隊などに赴任し実務を担当する。

さまざまな職務をこなすため異動や研修機会も多い

2020年3月、新型コロナウイルス拡大防止の災害派遣で、クルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス号』にて医薬品管理を行う薬剤官

 薬剤官は1954年の防衛庁設置当時から配置されている。これまで紹介をした自衛隊病院などでの実務のほか、衛生の幹部自衛官として部下を持ち、各部隊の運用に携わり、予算要求や関係各所との交渉などを担当することもある。

国際支援では、医官や看護官などと同道し、現地での医療支援や医薬品管理などを担当。派遣隊員の健康管理なども同時に担当する

 そして短期間で幹部としての知識・経験を高めるため、薬剤官は定期的な異動があるが、研究所勤務や海外派遣など大きく任務が変わる場合は、教育・研修で新たな知見を会得する。薬剤師としての職能を持ったまま異動を重ね、幅広い業務に対応できるようになるのも、薬剤官の職務の特徴といえよう。

自衛隊の衛生任務遂行の重要な柱である薬剤官

安増部員は自衛隊の衛生施策などを担当。「薬剤官の総数は約250人と少数精鋭です」

 最後に防衛省人事教育局の薬剤官として自衛隊の衛生をサポートする安増孝太防衛部員は薬剤官の重要性をこう話す。

「自衛隊の迅速で的確な任務遂行のためには、常日ごろから隊員が健康であることが絶対条件です。

 自衛隊の衛生は、平時は隊員の心身の健康管理や診療、医薬品や医療機器などの衛生資材の補給・管理、医療設備の整備などを実施し、有事、災害派遣や国際平和協力活動では医療と衛生資材の提供、傷病者の搬送などを行います。

 衛生任務は医官、看護官、薬剤官など多職種の人材が集まるチーム医療が基本。そのため薬剤官の任務には、一般の人がイメージしやすい調剤や医薬品の提供といった仕事に加え、さまざまなプラスαがあるのです。薬剤や医療に関する専門的な知見を有している薬剤官は自衛隊の衛生を支える重要な柱です」

<文/古里学 撮影/増元幸司 写真提供/防衛省>

(MAMOR2024年7月号)

マルチに闘う自衛隊薬剤官

 わが国の空の安寧を70年間にわたって守り続けてきた航空自衛隊。

 私たち国民が、平和に暮らせるのも、空の守護神が常に目を光らせているからだ。感謝とともに、お祝いをお伝えしたい。

 世界トップレベルの力を持つまでに成長した空自はどのような活動をしてきたのだろうか。特に重要なエピソードを交えつつ70年の歴史を一挙に紹介しよう。

自衛隊で最も新しい組織。防衛庁設置と同時に創隊

画像: 自衛隊で最も新しい組織。防衛庁設置と同時に創隊

 航空自衛隊は、1954(昭和29)年7月1日、新設された防衛庁と同日に創隊された。陸上自衛隊、海上自衛隊と比べ最も新しい部門であり、かつ、全くのゼロから組織をつくり上げていったのである。

 創隊当初は、アメリカ空軍から供与された練習機を中心とした装備であった。56年9月にはF‐86Fジェット戦闘機の国内生産初号機を導入するなど、次第に陣容を整えていった。

画像: 緊急発進の訓練を行う航空自衛隊の隊員ら。1958年に対領空侵犯措置の任務が付与され、同年5月13日に初の緊急発進が実施された

緊急発進の訓練を行う航空自衛隊の隊員ら。1958年に対領空侵犯措置の任務が付与され、同年5月13日に初の緊急発進が実施された

 創隊から4年が経った58年2月からは、わが国の領空を侵犯する恐れのある外国の航空機や、領空侵犯した外国の航空機に対して、戦闘機を緊急発進(スクランブル)させて対処を行う対領空侵犯措置を開始。

 同年5月13日には、初のスクランブル(緊急発進)が行われた。60年には、当時日本返還前だった沖縄を除く全国で対領空侵犯措置態勢が取られるようになり、ようやく、日本の空を自衛隊の手で守ることができるようになった。

 同じ60年、アクロバット飛行を行う、ブルーインパルスが誕生。その後、64年10月の東京オリンピック開会式で空に五輪のマークを描くことになる。71年には、空自に地対空誘導弾「ナイキ」の部隊が創設、運用を開始するなど高射部隊も強化されていく。

 主要装備である戦闘機も、F−86FからF‐104、F−4と新しくなっていき、東西冷戦という世界情勢のもと、空自は次第に戦力も充実していった。

 冷戦末期の87年12月9日には、領空侵犯した旧ソビエト連邦の偵察機に対し、スクランブル発進したF−4ファントム戦闘機が、実弾による初の警告射撃を行うなど、東西陣営の最前線・日本列島において、空自は日本の空を守りぬいた。

冷戦の終結、そして世界に貢献する「新任務」への対応

画像: カンボジア国際平和協力業務(1992年)は、わが国初の国連平和維持活動。写真は、カンボジア派遣部隊の編成完結式

カンボジア国際平和協力業務(1992年)は、わが国初の国連平和維持活動。写真は、カンボジア派遣部隊の編成完結式

 東西冷戦終結、そして旧ソ連崩壊。日本を取り巻く安全保障環境も大きく変わった。そんな中で、92(平成4)年、国会で成立した「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」、通称PKO協力法に基づき、空自の輸送機が初めて海外・カンボジアに派遣された。自衛隊による国際貢献活動の始まりである。

 以降、「国連兵力引き離し監視隊」、「ゴラン高原国際平和協力業務」、「ホンジュラスやインドでの国際緊急援助活動」、「アフガニスタン難民救援国際平和協力業務」などに取り組む。加えて、アメリカ同時多発テロ事件(2001年)以降は、テロ対策特措法に基づく活動を実施。

 その後も世界各地での国際緊急援助活動をはじめ、多国間共同訓練への参加など、空自の活動範囲は世界へと広がっていった。

 一方国内でも、1995年には阪神・淡路大震災に伴う災害派遣、2011年には東日本大震災に伴う災害派遣などで国民の命を守る活動を実施。

 そして21世紀、無人偵察機をはじめとする新たな装備の導入のほかにも、大きな変化が起き始めた。20年の宇宙作戦隊新編、22年の宇宙作戦群新編と、宇宙防衛分野へ空自の担当領域は広がったのである。さらに27年度までに「航空宇宙自衛隊」に改称予定だ。

(MAMOR2024年7月号)

<文/臼井総理 写真提供/防衛省>

ありがとう、航空自衛隊!

※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

Next

This article is a sponsored article by
''.

No Notification