「それじゃあ今後の事を確認しよう」
広場で団員を集めた場でフィンが口を開く。見張り以外の者は輪を作り視線をフィンへと向ける。
「今回の遠征の目的は未到達階層の開拓、これは変わらないけど今回は59階層を目指す前に
「確か【ディアンケヒト・ファミリア】からのものですよね?」
「ああ、内容は51階層『カドモスの泉』から要求量の泉水を採取すること」
ティオネの確認に頷くフィン。すぐに姉の隣のティオナがげんなりした声を出す。
「えーなんでそんな面倒くさいの引き受けちゃったの?」
「報酬が良いからな。それに派閥の付き合いもあるから無下にもできない」
「ったく、面倒な依頼しやがって…」
リヴェリアの返答の後にベートの悪態が続く。どうやら今回の依頼は不人気なようだ。流石のフィンもここまでだとは思っていなかったのか苦笑いを浮かべ話を再開させる。
「51階層には少数精鋭のパーティを二班送り込む。無駄な武器・
「はいはいはーい!何でパーティを二つに分けるの?」
「注文されている泉水の量が多くてね。『カドモスの泉』はただでさえ回収できる水が限られてる、要求量を満たすためには2箇所の泉を回った方が効率がいいからね」
ティオナの質問にフィンが説明する。フィン達がいるダンジョン深層への『遠征』は時間が限られている。この50階層に来るのに最低五日もかかる。地上へ戻るの事も考えると物資の消費はできるだけ抑えなくてはいけない。
「それに『カドモスの泉』は大人数で移動できないところにあるからね。戦力の分散は痛いけど…。他に質問はあるかい?ないなら
フィンの確認に反対の声は上がらず、そのままパーティの編成に移った。はいはーい!っと先程と同じ様にティオナが挙手をする。
「アイズも一緒に行こう!」
「うん」
笑顔のティオナの横で無表情のアイズも参加を決める。それからベートにガレス、ティオネも決まっていく。
「リヴェリアはキャンプに残ってくれ。
「…わかっておる」
【ロキ・ファミリア】の中でも最高位魔導士であるリヴェリアは先の戦いで『魔法』を発動するための源でもある『
「レフィーヤ…私の代わりにアイズ達のパーティに入れ」
「えっ!わ、私がですか!?」
「問題ないだろフィン?」
「そうだね。何せリヴェリアを超える魔導士になるんだからね?」
「リ、リヴェリア様!団長に昨日の事話したんですか!?」
真っ赤な顔に涙目のレフィーヤがリヴェリアに詰め寄る。ニヤニヤとレフィーヤを見るフィンにリヴェリア、そしてその話を聞いていたティオナもニヤニヤしている。
「じゃあレフィーヤはこっちー!」
「ティオナさんっ!?わ、私はまだっ!?」
レフィーヤはティオナに捕まり有無を言わさず自分のパーティの方に連れて行く。どうやらティオナの班はアイズ、ティオネ、レフィーヤと女性陣で固まったようだ。
「もう片方は残った儂たちで編成だのう。フィンにベート、儂に後は」
「ちっ、ラウル!お前、サポーターでこっちは入れ」
「じ、自分ッスか!?」
「他に誰がいんだよ」
ウトウトと眠そうにしていたラウルと呼ばれた男性団員は自分の名前を呼ばれて驚いていた。自分には関係ないと思っていたラウルにとってベートからのお呼びは考えていなかったようだ。ラウルがパーティのメンバーに選ばれた事で二つの班決まった。
一班 アイズ、ティオナ、ティオネ、レフィーヤ
二班 フィン、ガレス、ベート、ラウル
「おいフィン、ほんとにこのメンバーで大丈夫かよ」
「…少し不安かな?」
苦笑いを浮かべベートに答える。一班には4人中3人は
「ティオネ…みんなの事頼んだよ。僕の信頼を裏切らないでくれ」
「はいっ!団長!私にお任せ下さい!!」
今は大人しくティオネだが本質はアイズ、ティオナよりも凶暴だ。この前フィンが女性に囲まれた時に街を暴れ回った事は記憶に新しい。フィンに
「それとリヴェリアとガレスには伝えたが君達にも知ってて欲しい情報がある」
先程までの声音とは違うフィンに一同は注目する。
「あるモンスターの噂なんだが…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「どりゃー!」
目の前に現れたモンスターは縦に真っ二つに分断された。モンスターは灰となり魔石を落とす。
「それにしてもいつもよりモンスターが少ないわね」
「うん…さっきので4体目」
「でもカドモスの泉まで予定より早くつけますね!」
後ろではティオネ、アイズ、レフィーヤが
「フィンが言ってたモンスターってホントかな?」
紫紺色の魔石を手にティオナが戻ってくる。
「…あくまで噂だから分からないかな?」
「だよね〜」
「もしその噂が本当だったとしても私がぶちのめしてやるわよ」
彼女らの話し声しかダンジョン内に響いてく。モンスターの姿も声もなくダンジョンは静けさを出していく。
「そろそろね…泉に着く前に注意事項を確認しとくわよ」
歩みは止めず彼女らは
「私たちは泉水を確保することだけど
「
「うん、すごく、強いよ…」
「あたし吹き飛ばされちゃって体中がぐちゃぐちゃになったこともあるからね〜」
笑いながら言うティオナに対して初見のレフィーヤにとっては聞きたくなかった情報だった。自分よりもレベルが上で格闘戦に置いてはオラリオでも上位に入るティオナがそこまでやられるなんてレフィーヤは血の気が引くのを感じた。
「…作戦はどうするの?」
「アイズとティオナ、私で
「頼んだよレフィーヤ!」
「は、はい!」
しばらく進みアイズ達は目的の場所まで近づいていく。一本道から開けた空間へと繋がっている。『ルーム』と呼ばれる広間だ。このルームに『カドモスの泉』が存在する。
4人は無言で視線を配る。頷き合い足音をひそませ距離を詰めていく。その時異変に気づいた。『カドモスの泉』の方から生き物の気配が感じられない。それに最初に気づいたアイズが勢いよく飛び出しルームへと進む。
「…これは」
アイズは目を見開いた。
「なに、これ…」
「
アイズに続いたティオナ達も驚きの声をあげる。ルームには木々が生えておりダンジョンには珍しい綺麗な花々が咲いている。そのルームの奥にアイズ達の目的の美しい蒼色の水面な泉『カドモスの泉』がある。不定期に湧き出る神秘的な泉水は草花の広がる窪みに溜まっているそばで見慣れないものが存在した。
「…
アイズの声がルーム内に響き渡った。記憶の中にある竜の巨体と同じ大きさの石像が何故あるのか?他に
「ねえレフィーヤ。相手を石化させる魔法って存在する?」
「いっいえ…石化魔法なんて聞いたこともありません」
「そう…なら泉水を回収してここを離れるわよ」
ティオナの案に異議を唱えるものはいなかった。バックパックをもつレフィーヤは中から瓶を取り出し泉水を汲み上げる。本来は湧き出る泉水を
「2箇所回る必要なかったね」
「そうですね…」
レフィーヤは苦笑いを浮かべながら瓶に蓋を閉めバックパックへと詰め込んだその時だった。
ビギッビキッビキビキ!!!!
『グォォォォォォォォ!!』
「!?」
レフィーヤからみて真横の壁が
「
ダンジョンは突然牙を向く。
「逃げなさいレフィーヤ!!」
「えっ…」
ダンジョンでは一瞬の油断が死に直結する。
「レフィーヤ!」
避けられない。レフィーヤの死が確定する一撃が彼女に向かっていく。誰もが目を背けたくなる瞬間が近づいてくる。
「ダメェェェェェ!!!!」
ティオナの叫びが響いていった。