厚生労働省の賃金構造基本統計調査によりますと、去年(2024年)の速報値で、一般労働者の所定内給与の平均額は月額33万200円で、コロナ禍前の2019年と比べて2万4200円、率にして7.9%増加しました。
どうなる?“就職氷河期世代”の賃上げ
ことしの春闘は来月(3月)の集中回答日に向けて、賃上げに向けた交渉が本格化しています。
注目されているひとつが中高年層の賃上げですが、賃金の伸びを比較すると若年層に比べて低くなっていて、専門家は「就職氷河期世代を含む中高年層は非正規で働いた期間が長い人もいて、今後も賃金が上がらなければ、将来、生活に困窮するリスクもある」と指摘しています。
(社会部記者 後藤駿介 / 中谷圭佑)
中高年層の賃上げ 若年層に比べ低く
どのくらい増えたかを年代別で見ると、▽19歳以下が11.0%、▽20歳から24歳が10.0%、▽25歳から29歳が9.6%、▽30歳から34歳が8.8%、▽35歳から39歳が7.9%、▽40歳から44歳が7.0%、▽45歳から49歳が6.9%、▽50歳から54歳が2.8%、▽55歳から59歳が7.5%、▽60歳から64歳が12.9%、▽65歳から69歳が11.3%、▽70歳以上が8.5%でした。
初任給のアップなど賃上げが進む若年層に比べて中高年層の賃上げが進んでいないことについて、みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介チーフ日本経済エコノミストは、「少子化が進む中、若い人たちの獲得競争が激化していて、30万円や40万円といった初任給に象徴されるような高い賃金を提示するという企業が増えている。中高年層は転職による人材流出のリスクが比較的小さく、企業も若い人の給料を優先的に引き上げていると考えられる」と指摘します。
就職氷河期世代の声は…
茨城県で今月(2月)開かれた就職氷河期世代を対象にした合同企業説明会で今の賃金の状況について話を聞ききました。
1994年に専門学校を卒業 複数の会社で働いてきた男性(49)
「自分たちが新卒だったころは給料が安かった上、そもそも、面接すら受けさせてもらえなかった会社もありました。その後就職した会社でも、給料が一気に上がることはなく今の新卒の人たちよりもはるかに低い金額でずっと働いてきました。食べて生活しているだけで精一杯で、それ以外のことにお金を使うことはほぼできません」
2000年に工業高校を卒業 5つの会社で働いてきた男性(43)
「物価が高騰している中で食費とか水道、光熱費なども上がっていて、収入は横ばいなのに支出が増えています。新卒の人だけでなく、これまで会社に貢献してきた年代の人たちにも企業の利益を還元してほしいですし、氷河期世代にもスポットライトを当ててほしいです」
2003年に大学を卒業 新卒で入社した会社を去年退職し現在求職中の男性(47)
「去年まで勤めていた会社ではカメの歩みくらいのペースでしか賃金は上がっていませんでした。物価の上昇と見合っていなかったと感じていまして、中高年の賃金も少しでもいいので上がってほしいです」と話していました。
中高年層の賃上げに取り組む企業も
就職氷河期世代を中心とした中高年の社員の賃上げに取り組む企業も出てきています。
岐阜県羽島市でテナントの看板の製造などを手がける「プロスパー」は、およそ70人いる社員のうち去年(2024年)、30代後半から50代の課長以上の管理職13人の給料を平均で月13万円、増やしました。
社員との面談の中で、物価高で生活費をまかなうために賃上げしてほしいなどという声が中高年を中心に相次ぎ、実際により給料の高い企業に転職した人も出たためです。
これまで管理職の給料は、近隣の同業他社の平均よりも低く、残業をした一般職の給料の方が高いケースもありました。
そこで、会社は業務を見直して、仕入れ先の変更や新規事業の開拓などで人件費を捻出したということです。
給料が大幅に上がった1人で51歳の営業課長は、大学生の時の就職活動では100社以上受けても希望がかなわず、その3年後、知り合いの紹介で転職してきました。
妻と2人暮らしでこれまでの給料でも生活はできていたということですが、光熱費を抑えるとともに旅行やぜいたく品の購入を控えても老後に向けた貯蓄が進まず不安に思っていたということです。
今回の賃上げで5000円するタンブラーを購入して、10年以上使い続けたかばんの買い替えも検討するなど、生活に余裕が出てきたと感じています。
営業課長は、「素直にうれしいというのが正直なところで、少しでも貯金に回すと老後は楽な生活ができると思うのでありがたいな」と話していました。
こうした動きを若手の社員も歓迎していて、このうち入社6年目の24歳の社員は「自分の仕事のモチベーションにもつながるのでうれしいですし夢があります」と話していました。
武山誠社長
「大手ほどではないにしろ中小企業でもこれだけやれるんだぞというぐらいの基本給の実現に向けて、会社全体として努力していきたい」
就職氷河期世代 QAでさらに詳しく
バブル経済崩壊後の雇用環境が特に厳しかった時期に就職活動を行っていた「就職氷河期世代」について詳しく見てみます。
Q.就職氷河期世代とは?
A.明確な定義はありませんが、国は1993年から2004年ごろにかけて就職活動を行っていた人たちを「就職氷河期世代」としています。
大学や高校を卒業したものの、希望する正社員になれずパートやアルバイトなどの非正規雇用で働いたり、仕事に就くことができなかったりした人が少なくありませんでした。
学歴で異なりますが、現在の年齢はおおむね50代前半から30代後半で、全国で1700万人以上いるとされています。
Q.就活はどのくらい厳しかったの?
A.文部科学省の学校基本調査によると、大学を卒業した人に占める就職者の割合は、1993年以降、減少傾向が続きました。
2000年からは6年連続で50%台で2003年は最も低い55.1%でした。
同じ調査で去年(2024年)は76.5%でしたので、20ポイントも低い状況でした。
Q.今の経済状況はどうなっていますか?
A.金融資産が少ない人の割合が高まっているというデータもあります。
金融経済教育推進機構は2人以上の世帯における預貯金や株式などの金融資産の保有状況について毎年、調査しています。
このうち、金融資産を保有していると回答した40代は、2014年の時点では「300万円未満」が21.4%で、このうち「100万円未満」が6.7%でした。
それが去年(2024年)は「300万円未満」が31.6%でしたが、このうち「100万円未満」は15.1%でした。
Q.対策は進んできたの?
A.国は2024年度までの5年間、ハローワークに専門の窓口を設けるなどして支援プログラムを実施しました。
内閣府によりますと、2019年から2023年にかけて、正規雇用の労働者は会社役員を含めて21万人増加したということです。
国は新年度以降、就職氷河期世代を含む中高年層への支援に幅を広げ、就労に向けた相談やリスキリングの支援などを継続していくことにしています。
Q.春闘での議論は?
A.労働団体の連合はことしの春闘の方針で、「近年、人材確保のために初任給を大幅に引き上げる一方で、中高年層への配分を相対的に抑制するなどの傾向がみられた」と強調しています。
そのうえで、「労使でしっかりと協議し、すべての人の生活向上をめざす必要がある」と指摘します。
経団連が去年(2024年)、会員の企業を対象した調査で基本給を引き上げるベースアップをどの年代に重点的に配分したか尋ねたところ、最も多かったのが「一律定額配分」という回答で51.1%でしたが、「30歳程度までの若年層」は34.6%だったのに対して、「30歳から45歳程度の中堅層」が9.4%、「45歳程度以上のベテラン層」が1.1%となりました。
来月の集中回答日に向けて企業側がどのように対応するのか注目されています。
専門家に聞く 氷河期世代の賃上げの重要性
みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介チーフ日本経済エコノミストに話を聞きました。
Q.就職氷河期世代の賃上げが進まないとどのような問題が起きますか?
酒井才介チーフ日本経済エコノミスト
A.「就職氷河期世代は、仕事が選べず非正規で働くことを余儀なくされた人も多かった。賃金がなかなか上がらなかった時期も長く、十分な貯蓄ができていない人が多い。厚生年金などの保険料を十分に払えておらず、将来、低年金の人が増える可能性もある。この世代の賃金が今後も上がらなければ、将来、生活に困窮する世帯が増えるリスクもあると思う」
Q.中高年の人たちだけの問題なの?
A.「自分の会社で先輩や上司の給料が上がっていないと、生涯賃金がそんなに大きく増えないのではないかと疑問を持ってしまうこともあると思う。会社で長く働き貢献していこうというモチベーションが上がりにくいということにもなってしまう。企業戦略として、若い人から見た上の年代の賃金の見え方は十分に意識しておく必要がある」
Q.ほかの世代にも影響があるんですね…。
A.「就職氷河期世代のくくりでいうと、2000万人ぐらいいる。この人数が多いボリュームゾーンの賃金が上がらないということは、この人たちの消費も増えないということになる可能性もあり、日本経済全体の成長力も高まりにくいのではないか」
(2月16日「おはよう日本」で放送)
情報はニュースポストまで
私たちは、就職氷河期世代の賃金や働き方などについて引き続き取材します。
ぜひみなさんからの情報をこちらまでお寄せください。
ニュースポスト
「声を聞いてほしい」という皆さんからの情報をお待ちしています。
後藤駿介
2016年入局
福島局・松山局を経て現所属
厚生労働省の労働分野を担当
中谷圭佑
2018年入局
富山局・名古屋局を経て現所属
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