2025年2月17日
名古屋地裁でのHPVワクチン薬害訴訟
日本のマスコミは2013年から非科学的な反HPVワクチン報道を繰り返してこの薬害訴訟を煽り続けてきましたが、実際の裁判の医学的な争点の詳細を報じたことはありません。
自分にとっては6回目の傍聴(友人医師による傍聴書き起こしレポートを含めれば7回目のツイート)です。
これまでにもマスコミが大々的に取り上げてきた”HPVワクチン薬害後遺症”及びHPVワクチン薬害訴訟弁護団や原告証人の主張は、医学的には誤診や誤解だと様々な分野での医学専門家たちから何度も指摘されています。
これまでの傍聴記録も引き続いて添付しますので、参考にしてください。
法廷では録音録画での記録は禁止されているので、自分の走り書きのメモ(今回は合計32ページ)からの書き起こしです。
専門性が深い分野なので自分の理解が足りていない点や、医学的に誤った記載がある可能性や、一字一句が正しいわけではない点は、ご了承ください。
この法廷でフルスイングで殴られ続けている原告側証人の高橋先生(後述)には、医師や研究者ならば戦慄を覚えるかもしれません。
また、医学的にも専門的な話が多いので、医師ではない方は経過を省略して、結論を読むだけでもある程度は理解ができるかと思います。
今回の証人は北里大学大村智記念研究所特任教授の中山哲夫先生。
慶応義塾大学卒業後に小児科医として勤務し、その後は研究者としての主に北里大学でのウイルス研究者としての経歴を紹介。
製薬会社MSDの代理人弁護士(以下、Mと略す)から中山先生(以下、中と略す)の質問に答える形で裁判が進行。
なお、HPVワクチン薬害訴訟の被告は製薬会社MSD、製薬会社GSK、そして国です。
前回までのレポートで製薬会社MSDとGSKの代理人を混同していた可能性もありますが、その点は些末的と考えています。ご容赦ください。
M 北里大学の研究所の役割を教えてください。
中 ①創薬部門 こちらは微生物や抗生剤などの研究
②感染・免疫の研究部門 ウイルスやワクチンなどの研究
自分は②に所属しており、麻疹・風疹・おたふくかぜなどのワクチンや、ほかにも今話題のmRNAワクチンやRSウイルスワクチンなどに関わっています。
済生会病院での臨床業務で、小児のワクチンや渡航者のトラベルワクチンも接種しています。専門としてはウイルス学です。
M その道に進んだ動機を伺えますか?
中 私が医師になったころには、麻疹や風疹による肺炎や脳炎で多くの子供たちが亡くなっていました。麻疹や風疹のワクチンがあるにも関わらず、副反応への誤解が蔓延してワクチンを接種しない選択をする方や、それによる小児の死亡例を診てきました。そういった不幸を減らしたいというのが動機です。
M ワクチンの効果を教えてください。
中 生体の免疫反応を惹起することで、一般的には予防接種者では感染の予防や、重症化を防いで軽症に留めることができます。
感染とは異物が侵入することで、サイトカインやケモカインを介して自己免疫が反応し、獲得免疫が生じます。これにより抗体産生を介した液性免疫と、抗体を介さない細胞性免疫が
得られます。抗体にはIgGやIgMなどが関与し、これらが細胞性免疫の中心を担います。
M HPV感染やHPVワクチンではどうでしょうか?
中 HPV感染では、細胞内に潜伏感染します。抗体は6-8か月かけて産生されますが、その抗体価は低いことが知られています。HPVは免疫応答から逃れることも特徴です。
HPVワクチンではHPVに対して特異的な抗体を誘導します。IgG抗体が子宮頸部や他の部位への粘膜に染み出すことによって、HPVの感染を防ぐ作用があります。
M 他に類似したワクチンは?
中 インフルエンザワクチンが類似しています。同様にIgG抗体が鼻腔や下気道に染み出すことによって、肺炎などの重症化を予防する効果があります。
M HPVワクチンによる抗体が、人体に悪影響を及ぼしますか?
中 HPVワクチンによる抗体が、人体に悪さをすることはない。
抗体価の高さは、人体への悪影響とは関係がない。そのような報告もありません。
M 原告らはHPVワクチン接種によるケモカインやサイトカインが人体に悪影響を与えると主張しているが、実際はどうか?
中 獲得免疫を得られることによる大きな悪影響はないが、一時的な発熱や痛みは生じる。
M 原告らが主張する、脳神経症状や精神症状や不随意運動などの多様な症状はHPVワクチンで生じますか?
中 接種から3時間から1日、もしくは3日程度までの急性期には生じ得る。しかし、接種から数か月以上などの期間で慢性に生じる症状は、HPVワクチンとは関係がない。
M 原告らが主張するような、HPVワクチン接種による全身の症状はどうでしょう?
中 これまでにそのような報告はないと思う。
M 原告らが言うような、接種から数週間以上経過してから出現する慢性的な全身性の症状はHPVワクチンで生じますか?
中 そのようなエビデンスはありません。
ただし、ヒトではなくマウス実験ならばそのような可能性を示す研究はある。
HPVワクチン接種から3時間から1-2日で炎症を示すサイトカインはピークに達し、5日目から1か月以降で低下する。ただ、長期に渡りそのサイトカインによる炎症が持続することはない。
マウスの血液検査でも、接種部位の反対側の部位で炎症が波及しないことは判明している。
M 原告らの主張を支持する疫学研究はありますか?
中 そのようなエビデンスのある疫学研究はありません。
M ワクチンに含まれるアルミニウムアジュバントが自己免疫疾患を引き起こすことはありますか。
中 1960年代から使用されており、既に安全性は確立しています。
M 原告らはマウスによるHPVワクチン接種の実験をもとに危険性を主張しているが、その論文もすでに取り下げられている。その取り下げられた論文がいうように、HPVワクチンと自己免疫性疾患の発症との関係はありますか?
中 全然関係はありません。
その論文ではヒトに対して百日咳毒素とHPVワクチンを同時に投与しているが、ヒトにそのような同時投与は行いません。
※以下で鳥越先生(札幌医科大学病理学講座鳥越俊彦教授)、高橋先生(静岡てんかん・神経医療センター高橋幸利名誉院長)に関して言及されるが、過去の自分の傍聴記録(2025年2月3日東京地裁)を参照してください。
上記二名の証言の一部は、既に近畿大学医学部微生物学講座の角田郁夫教授によって反証されています。
M 鳥越先生はワクチンのアジュバントでは自己免疫疾患を生じないと主張しています。
どうでしょうか?
中 同じ意見です。
M 高橋先生はHPVワクチン接種者において、脳脊髄液に炎症が生じている可能性を主張しています。因果関係はどうでしょうか?
中 このデータからは言及できない。適切な対照群がないためです。
HPVワクチンを接種したのは若い女性に限るのに対して、対照群は37歳までの女性です。
M 高橋先生の論文での抗体は適切でしょうか?
中 抗体、、、ですか?
M 失礼しました。読み間違えました。
高橋先生の論文での検体は適切でしょうか?
中 検体として髄液を使用しています。
対照群は別の実験で使用した髄液であり、採取した日時が異なる。
バイオアッセイの基本として、同日に採取した検体などの条件の一致が基本だが、条件が異なっている点が問題です。
M 高橋先生の論文でのリンパ球に関してはどうでしょうか?
中 採取から数時間、せめて6時間までの検体を使用するのが原則。
保存している検体は使いません。環境が異なるために、結果があてにならないからです。
M 実験データとして重要な点かと思いますが、高橋先生はこの点はどう説明していますか?
中 論文に記載がありません。
M 高橋先生の論文では、ケモカインなどの値と臨床症状を対応させて検討していますか?
中 症状と検査値をつきあわせた対応や検討をしていない。
それはやるべきです。
M 高橋先生のデータ、グラフを提示します(傍聴席からは全く見えない)
中 IL(インターロイキン)4は3人が飛びぬけて高い点と、IL 13も平均すると対照群よりは高く見える。ただしもともとばらつきが非常に大きいので、平均値から+2.0 SD以内ならば大きく逸脱はしていないとも言える。
M これは一人一人の経時的なデータですか?
中 ピンポイントでそれぞれの患者から抽出されたデータであり、個人の経時的な経過を追ったデータではありません。
M 通常はどのように判断しますか?
中 バイオアッセイはばらつきが大きいので、平均から±2SDを正常の範疇と判断します。
原告弁護士 異議あり。同じ質問を繰り返しています。
裁判長 そうですね。証人は続けてください。
中 HPVワクチン接種者のデータでは、これらのIL 13の値は一見すると高そうに見えます。
しかし、明らかな差があるとは言えません。
M HPVワクチン接種によって脳脊髄液に炎症が生じたかを判断するならば、代表的な指標は何ですか?
中 髄液中の細胞数増加と炎症性サイトカインの増加です。
他にはIgGやオリゴクローナルバンドなどです。
M そういった指標は高橋先生の論文ではどうでしょうか?
中 HPVワクチン接種群とコントロール群で差はありません。
M 中枢神経系の炎症が起きていると言えますか?
中 起きていません。
M 神経特異性エノラーゼやCD4陽性細胞は、中枢神経系の炎症で上昇しますか?
中 通常は上昇します。
M これらから、高橋先生の論文でのHPVワクチン接種者では炎症が生じている、その主張は正しいと言えますか?
中 高橋先生の主張は誤っています。
また、高橋先生の論文はほかの研究者の論文にも引用されていません。
バイオマーカーは数時間以内に採取された検体で使用する必要があるが、論文には記載されていない。これだけでは評価不能です。
また、グラフを見ても有意差がある結果には見えません。
M 2016年の高橋先生の論文では、HPVワクチン接種者ではTh2細胞の増加とTh2 shiftがみられていると記載があります。HPVワクチンが液性免疫に影響を与えていると。
これについてはどうでしょうか?
中 Th1はT cell特異的で細胞性免疫に関与し、Th2はCD4、形質細胞など抗体産生と液性免疫に関与する。高橋先生の論文からはHPVワクチン接種がTh2や液性免疫に関与するとは言えません。
原告弁護士 異議あり。回答を誘導しています。
M いえ、これまでの回答をまとめているだけです。
ここから弁護士同士で20秒程度の口論
裁判長 今までの流れをまとめているだけと判断します。
続行してください。
M 高橋先生が主張するような、HPVワクチン接種がTh2 shiftや液性免疫に影響を与えているという意見はどうでしょうか?関係はないと言えますか?
中 はい、そうです。関係はありません。
M オリゴクローナルバンドについて伺えますか?
中 自己抗体が上昇する際に見られる、特異的な抗体です。
脳脊髄液に見られます。
高橋先生はこの検討はしていません。
M IgGはどうですか?高橋先生は記載していますか?
中 HPVワクチン接種者とコントロール群で差がありません。
高橋先生も差がないと記載しています。そういうことです。
M 高橋先生の論文ではIL 4, IL 13の活性がHPVワクチン接種者で上昇していましたが、これに意義はありますか?
中 接種後30か月や40か月でそれらの活性が高い時期はある。40か月や50か月にもドットがある。しかし軸もずれていて、連動もしていない。Th2 shiftを示しているわけではない。
M 他にもIL 17も高いとのことですが、意義はありますか?
中 意義はないと思いますし、意義があるとする根拠もありません。
M HPVワクチンによって自己免疫性の炎症が生じるなら、ほかにもIL 1β、TNFα、IFNγなどが指標になりますか?
中 そうです。高橋先生の論文のようにIL 4, IL 13だけ高い値でも意義はない。
また、他の指標は上昇もしていないし、有意差もありません。
(ここで休憩)
なお、過去の自分の傍聴記録(2025年2月3日東京地裁)を参照すると分かりますが、、、
現在の高橋先生(静岡てんかん・神経医療センター高橋幸利名誉院長)は、2016年からHPVワクチンによる自己免疫性疾患の発症説を提起していたが、現在はすでにその主張を取り下げている。
このように、特定の研究者が過去に主張していた事柄を、さも医学の世界での既成事実かのように法廷で主張する。
これがHPVワクチン薬害訴訟弁護団の手法である。
引き続き後半の内容を記載するが、ここまででギブアップな方は結論まで飛ぶことを勧めます。
M ここまでは高橋先生の主張に根拠があったかどうかを確認してきました。
次は海外からの自己免疫性脳炎の報告です。解説をお願いします。
中 これは現在までの信頼性の高い報告を集めたレビューですが、自己免疫性脳炎などの疾患において信頼度が高い指標としてはIL 10, IL 6, TNFα,IFNγです。
高橋先生が主張するようなIL 4やIL 17単独の上昇は、一般的な知見とは大きく異なります。
M 次はNMDA型グルタミン酸受容体抗体脳炎のシステマティックレビューです。
260の論文から抽出された19の論文からのレビューであり、抗NMDA受容体脳炎500例以上、非炎症性自己免疫疾患、健康なコントロール群です。
中 様々な炎症性サイトカインが存在するが、抗NMDA受容体脳炎に関連するとされているのは主にIL 6やTNFαやインターフェロンなどであり、高橋先生の論文にあるようなIL 4は関係がないとされています。
M 次も海外からのチェらの報告です。
中 抗NMDA受容体脳炎33例、ウイルス性髄膜炎13例、非炎症性自己免疫疾患20例の検討です。こちらでは髄液中の炎症を反映して抗NMDA受容体脳炎とウイルス性髄膜炎ではYKL-40とTNFαが上昇していました。
そしてIL 6とYKL-40の値が抗NMDA受容体脳炎による臨床症状とも相関していると指摘されています。これらの値が減少すると、臨床症状は改善します。
臨床症状のスコアリングのt検定を確認すると、0.001などといった明らかな差がみられます。
M 高橋先生の論文との違いは何でしょうか?
中 高橋先生の論文では、TNFα、IL 6、IL 10という代表的な指標ではコントロール群と差がありません。また、検査の値と臨床症状の比較もありません。
M 2016年に高橋先生は、HPVワクチン接種によって抗NMDA受容体脳炎のような認知症様症状が出現することを疑っています
抗NMDA受容体脳炎に関して伺えますか?
中 非特異的に複数の症状が急速に出現する。
不眠などの睡眠障害から幻覚、幻聴、異常行動、意識障害、けいれんなど。
特にけいれんは脳波異常を伴うことが特徴。
一方で高橋先生が診たHPVワクチン接種後の方には脳波異常がない。けいれんを含めた重症度も抗NMDA受容体脳炎よりも軽い。
M 高橋先生のようにELISA法でNMDA受容体を判断する手法はどうでしょうか?
中 通常は使用しません。偽陽性が多いために、問題があります。
ここからアミノ酸の二次構造、三次構造、糖鎖修飾などの解説
海外文献の紹介
グレサらの論文
抗NMDA受容体脳炎では抗体の値と臨床症状がリンクしていると紹介
カステトロ・ゴメスらの論文
アミノ酸シークエンス、レセプターG7、サイトプラズミックドメイン、リガンドファインディングドメイン、Cターミナル、グルコシレーションサイド、N1・N2のグルタミンレセプター、、、
などの用語が続く
中山先生は丁寧に解説するも、少なくとも自分にはほぼほぼ理解不能な世界へ、、、
M つまり裁判長へ説明させていただくと、抗NMDA受容体脳炎はN1ターミナルが、、、
原告弁護士2名 異議あり!この説明に何の意味が!?
M 裁判長が理解できるように、改めて説明が必要かと。
裁判長 理解しているので、これ以上の説明は大丈夫です。
(ワイの心の声:マジで!?)
M 次は原告が主張する、HPVワクチン接種における分子相同性仮説についてお願いします。
中 HPVワクチンは主にN1タンパク抗原により、抗体ができる。
HPVワクチン接種による交差免疫応答によってNMDAグルタミン抗体ができるかというと、それはできない。
M 原告が主張するように、HPVワクチン接種でそういった交差免疫反応が生じるというデータはありますか?
中 ないと思います。
高橋先生の論文を見る限り、そのN1タンパクのアミノ酸や相同性を確認すると、分子相同性を示している論文でもなければ、交差免疫反応を見ている論文でもありません。
M 鳥越先生(札幌医科大学病理学講座鳥越俊彦教授)は、EBウイルス(EBV)での相同性を例に主張しています。これはどうでしょうか?
中 EBVはB cell特異的であり、ソマティックミューテーションと言われる体細胞変異やEBNA抗体といった特徴があります。
神経細胞への交差免疫が生じえます。多発性硬化症との関与も指摘されています。
一方でHPVはソマティックミューテーションはしません。
そんなデータもありません。
M まとめると、高橋先生の2016年2020年の発表において、いささかでもHPVワクチンと原告らが主張する症状の関連性は証明されましたか?
中 因果関係は示せません。
M HPVワクチンを接種した方における中枢神経症状は、ワクチン接種とは関係がなく、たまたま生じたと言えますか?
中 そうです。
M 臨床的な確定診断として、原告の主張はどうでしょうか?
中 診断を確定するには、確立した診断基準や臨床症状や検査による抗体の測定法が必要です。それができていなければ、疾患のミスリーディングが生じます。
HPVワクチンに関しては日本では接種が行われなくなったことにより、空白の10年間が生じてしまいました。
その間に、多数の方にHPV感染が生じてしまったと考えられます。
それによって、日本での子宮頸がん対策は少なくとも30年から50年分は遅れてしまいました。
それは根拠の乏しい診断による影響が大きいです。
日本の影響を受けて、デンマークでもHPVワクチンに関してセンセーショナルな報道が流れました。
デンマークでは、国が速やかに疫学調査に乗り出し、HPVワクチンと報じられた症状との因果関係がないと結論付けています。
WHOでも、HPVワクチンの効果や安全性は既に結論付けられています。
以上です。
閉廷
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