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アニメ表現の広告炎上に学ぶ:赤いきつねと緑のたぬき

広告の話ではなくアニメの文化表象の話なので私が書くべきではないかもな、と思っていたのですが、先日、炎上広告のポイントをまとめた投稿をしたところ、反響があったので、広告企業向けに詳細をまとめます。

広告の炎上が次々と起こります。その多くはジェンダー文脈や背後にある広告主の思想への反感が原因。今回は、シズルを強調したアニメ表現が批判を受けてしまったケースについて、広告制作プロセスで気をつけるべき点を海外視点、市民視点、及びビジネス視点に着目しながら解説したいと思います。

1.元の広告と炎上理由の解説

赤いきつね 緑のたぬきウェブCM 「ひとりのよると赤緑」 おうちドラマ

動画はこちらから
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シーンの流れをまとめたもの

炎上理由

✅アニメ文化発の「男性のまなざし」
✅商品よりも女性に焦点を当てている
✅「若い女性」特有の表現

炎上解説

✅アニメ文化発の「男性のまなざし」
「女性の表情/仕草/声が不自然だ」「頬を赤らめる表現が不快」「女性を見る視線を感じる」といった批判がありました。

このようなアニメ独特の女性の描き方は、社会学で「男性的な視線(Male Gaze)」男性のまなざしであるとよく言われます。男性が女性を見る目、つまり、男性視点から理想的な要素を含んだ女性をアニメとして投影することがアニメのお決まりになっています。
これはアニメ業界が恒常的に使ってきた表現なので、今回の広告制作者の責任ではない面もありますが、女性を描くうえで男性的な視線は、当事者の声や実態が反映しにくいです。これが炎上要因として上げられます。

今回の広告に登場する女性のように、泣きながらカップラーメンを食べる若い女性がいるのか、こんな座り方や仕草をするのか、こんな食べ方をするのか、そして何より、そこに若年女性が共感して購買を検討するのか、という視点が抜け落ちているという女性からの批判は成り立つと思います。

✅商品よりも女性に焦点を当てている
カップ麺の広告ですが、35秒の動画の半分以上が女性の顔や動きに焦点をあてたもの。
広告でアピールしたい商品が食品である以上、登場人物である女性の口元を映すのは自然です。しかし、今回は、商品に関係のない目と耳に焦点が当たったシーンが多い。

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涙に焦点を当てたシーン
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耳に髪をかけるシーン

クリエイターが商品のシズル(ほくほくのおいしそうな感じ)を出すために、口元や商品に焦点を当てるのはよいのですが、目や耳を映すシーンは商品の訴求とつながりがありません
このような商品に関係のない描写は、商品のシズルを期待していた消費者にとって不要なノイズになりえます

商品そのものよりも女性に焦点を当てた描写が長いかどうかは、イギリスやアメリカの企業が広告の消費者の受容測定をリスク管理として行う
ときに確認する点です。(詳細はGEMなどをご覧ください)
経緯としては、過去に男性向けの広告で商品よりも女性表象に目が行くように構成された広告が批判されたことがあげられます。商品訴求のための広告なのだから、商品以外でアテンションをとろうとするのは不適切だよね、という風潮が、海外の広告業界では強いと言えます。
イギリスでは現在、商品よりも性的表現を強調した広告表現は規制対象となっています。性的表現だけでなく、他にも、登場人物の男性ばかりがしゃべっていないか、などジェンダー文脈での確認項目があります。

✅「若い女性」特有の表現
そして今まで述べた炎上要因が「若い女性」という属性に向けられたものであることは、男性版の広告を視聴した消費者はすぐ気づく。

男性版広告では、女性のように頬の赤らめや非現実的な動きが少なく、男性よりも商品に焦点が当たっている


食べ物のCMなのに、「若い女性を鑑賞する視線」を見せられるわけなので、その期待とのギャップに不快感をもつ人が出てきても仕方がないと言ええます。
男性が登場する別バージョンの広告:「ひとりのよると赤緑」 放課後先生編

男性と女性で描き方が異なるのは、よいのですが、
男性=職場、女性=家でドラマ見て泣く というシーン設定や上記で挙げた映され方に異なりがある場合、ジェンダーステレオタイプにのっとって作られた広告であると感じられるとともに、企業が広告によってステレオタイプの再生産に加担することになります。

広告を掲出する企業は、社会での影響力を持つので、見えない教育者としての自覚と、弱者を守る視点を持つ必要があります。

2.ビジネス視点ではいい広告だったのか?

とはいえ、このカップ麺は日本のロングセラー商品です。
広告主はターゲットに受ける表現や訴求方法を熟知しているはずで、広告制作において何か強い意図があったはずです。

広告主の目的

炎上した広告ですが、ビジネス視点ではよかったのでしょうか。広告の意図は、2つの可能性があると考えます。
1.女性向けだった
女性をターゲットとしながら、男性の視点で広告制作するのは、当事者の声が反映されていないと言える。しかし、このように当事者の声を無視して、男性目線で「女性はこうだろう」というステレオタイプや想定で作った場合、女性の共感は得にくいです。

2.男性向けだった
男性をターゲットとした広告に女性を使うというのは、広告目的として「共感を得る」よりも、「アイキャッチ(アテンションを得る)」の文脈が強い。なぜなら、共感とは親和性に由来するもので、性別やしぐさの異なる人物の画像を見て親しみを感じるのは難しいから。
今回は男性向けに、「男性に好まれるであろう女性」を見せるというアイキャッチ手法だったと捉えられてしまった。

もちろん、男性をターゲットにして、男性目線で理想化した女性を見せることで、男性ターゲットの購買意欲を刺激する目的であれば、この広告の効果は高いと言えます。しかし、そのようないわゆる「女性を性的に見ることを恒常化する」広告を社会に出すことについて、社会視点での批判が出ることは、覚悟のうえで企業コミュニケーションする方が、リスク管理の文脈では、担当者を安心させ、従業員を守ることにつながります。

3. ”性的に解釈してる”消費者が悪い?

「でも、アニメ=絶対的に性的なものではないし、性的文脈ではなく、日本の文化として受け入れられないの?」という疑問もあると思います。
例えば、今回、女性がほっぺを赤らめながら食事していたシーンが不快である点が炎上の一因となりましたが、「性的に解釈して不快感を覚える消費者が悪いんじゃないの?」という批判です。

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Newspicksでの記事へのコメント

確かに、「ほっぺが赤い=性的な表現」ではないです。しかし、女性にはほっぺを赤らめていてほしいという願望は性的文脈を感じさせることが多いです。
そのため、アニメを広告にしようとしている企業は、ほっぺが赤いことの多義性に自覚的になることで、炎上リスク管理ができます

また、「意図した広告表現が齟齬なく意図した通りに消費者に伝わること」が企業コミュニケーションの重要点であるという視点に立てば、”性的なつもりはなかったのに、性的だと解釈されてしまった”という状況は、企業側の表現やコミュニケーション手法に改善の余地があるということを示します。


4.多様な解釈に備える

企業のコミュニケーションは、企業が意図したものとは異なって受け取られることが多々あります。その原因は、本来の意味とは別の解釈が社会の存在するからです。

例えば、女性用スーツ、スクール水着、制服などは本来の「公式さ」「学生服」という意味に加えて、とある属性の人には性的なオブジェクトとして解釈されることがあります。

このような多様な意味が付随する物を広告で使用する際は、注意が必要です。誰が、どのようにその表象を解釈するかをあらかじめ調べなければ、企業と消費者のミスコミュニケーションを防ぐことはできません。
そしてそれを調べるには、普段から異なる価値観&属性の人と関わり、知ることが大切です。


今回の記事では、最近話題となったカップ麺のアニメ表現の炎上事例を分析し、アニメ業界での慣行、女性表象の問題点、ジェンダーステレオタイプ、ビジネス視点からのリスク管理について書きました。
炎上は見えてなかったインサイト」と捉えることが炎上リスク管理の第一歩です。炎上に向き合うことは、社会問題への対応、企業の利益向上のための選択だからです。

消費者に受け入れられる広告をつくるために

広告炎上や批判可能性を把握すること、メッセージを適切に伝える、適切に市民のリアルな声を聴くには、
社会背景や、ターゲットの傾向、感情など様々な要因を理解する必要があります。
広告評価や海外での広告展、市民参加型炎上広告のつくり直しプロジェクトを行った経験を活かし、企業向け支援を行っております。
もし自社広告、発信内容に不安がある方はお役に立てますので、ご連絡ください。


写真研究者&「ジェンダー目線の広告観察」著者の小林美香氏にこの広告の表象について解説してもらうイベントを企画しましたので、ぜひご参加ください。


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アニメ表現の広告炎上に学ぶ:赤いきつねと緑のたぬき|中村ホールデン梨華@AD-LAMP
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