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「患者や家族がスタッフに暴言を繰り返す」「医療機関内に長時間居座り、不当な要求を続ける」──。カスタマーハラスメントの医療版である「ペイシェントハラスメント」(ペイハラ)に頭を悩ませる医療従事者がいる。東京都では2024年10月に「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が成立し、国でもカスタマーハラスメントに対する法案を準備する動きがあるなど、従業員を守る体制の強化が社会全体の喫緊な課題として認識されつつある。
そんな中、ある医療機関がペイハラ被害をめぐって起こした裁判が注目を集めている。社会医療法人春回会で理事長を務める井上健一郎氏は、自身が運営する井上病院で患者家族からハラスメントを受け、看護師の退職や病床の一部閉鎖などの損害を被ったなどとして元患者の家族に対して損害賠償を請求。しかし、2025年1月、最高裁への上告が棄却され、病院側の訴えは退けられた。
医療機関と患者の間でトラブルになるケースは時折見られるが、医療機関側が損害賠償請求を起こすまでに至る事例は多くない。医療機関が患者家族を訴えるまでの経緯、裁判を通じて浮き彫りになった社会的課題、また今回の事案を教訓にして同病院が導入したペイハラ対策について、井上氏に話を聞いた(文中敬称略)。