海洋生分解性プラスチックにネガティブな欧州
磯貝友紀(以下、磯貝):私はコンシューマービジネスの企業との接点が多くて、そうした企業は、プラスチック製品を今後どうしていくべきかにすごく悩んでいます。
伊藤耕三氏(以下、伊藤):確かに難しい問題です。海洋や土中で分解して自然に戻るプラスチックに代替していくのが一つの案で、日本はその案に比較的ポジティブなのですが、欧州ではネガティブな意見が強い。なぜかと言うと、海や土の中で分解されるとなると、逆に海洋投棄や不法廃棄が増えるのではないかとの懸念があるからです。だから回収できるものは、とことん回収すべきだという考え方が多い。
磯貝:なるほど。その心配はありますね。
伊藤:丈夫なものをつくって長く使い、使えなくなったものはできるだけ回収してリサイクルするというのが欧州の基本スタンスです。ただし、欧州は、植物由来の生分解性プラスチックであるポリ乳酸に代替してコンポスト(堆肥をつくる容器)で分解することにはポジティブなんです。そのあたりの考え方は、海に囲まれている日本や東南アジアの国と、大陸の欧州や米国とはかなり違いますね。
例えば、フォークなどのカトラリーは、彼らの考え方では生分解性でつくってコンポストで処理するというのが一つの解決法だと思います。普通の土でも時間はかかるけれども分解しますから。海洋生分解性に関しては、日本が突出して関心を持っているというのが現状だと思います。
磯貝:生分解性の素材を使うと値段が高くなりますね。
伊藤:値段は高くなるし、寿命も短くなるというのが正直なところ現状です。生分解性ポリマーの多くはポリエステルが使われているのですが、従来のポリマーに比べて耐候性(紫外線など屋外での様々な環境に対する耐久性)と耐衝撃性が低い。寿命が短いと、すぐに捨てられてしまいます。そちらのほうがいいのか。それとも、生分解性ではないが丈夫で長く使えて、使用後は消費者にお願いして回収してもらうほうに行くか。どちらがいいかというのは、多分長い議論になると思います。
立ちはだかるコストの壁
磯貝:耐候性や耐衝撃性は、技術で解決していけるのではありませんか。
伊藤:もちろんそうですが、コストは高くなります。
磯貝:量産化が進んでいけば、コストの問題も、ある程度、解決されていくのでは。
伊藤:生分解性プラスチックの素材の中で一番多いのはポリ乳酸なんですね。ポリ乳酸の原料はトウモロコシで、そんなに安くはならないだろうと考えられています。ポリ乳酸は1kg当たり800円ぐらい。一方、石油からつくったポリエチレンやポリプロピレンなどプラスチックに最も使われているポリマーは1kg当たり200円ぐらい。原料ベースでのこの価格差は、埋めがたいものがあります。
ポリエチレンやポリプロピレンも、バイオベース(原料はサトウキビの搾りかすなど)にしていこうという動きがありますが、現状では、サトウキビの搾りかすのほうがトウモロコシより安い。そうすると、生分解性プラスチックのほうがどうしても高くなります。
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