第241話 騒動再び

『ありがとうゴーゾー。君のおかげで大逆転だ。君には感謝しているよ。ああ、もちろん彼にもね』


「それはよかった」


 気がつけば剛三はアメリカ大統領候補からファーストネーム呼びになっていた。


 ジョーの演説がTV放映されると、アメリカで仮面ブレイバーが再び大ブレイクを果たしていた。しかも今回はアメリカの選挙演説にもかかわらず、世界中にそれが何度も放映されたのである。その効果たるや凄まじいもので、まだ8月にもかかわらず既にジョー陣営の勝利が決まったかのように世論が動いていた。

 

 ちなみに武藤は利用されるであろうことはなんとなく理解していたが、演説後、父親を守ってくれたブレイバーに涙を流して感謝する娘のアメリアが抱きついたことで、利用されたということに対してどうでもよくなっていた。

 

 ちなみにアメリアはクリスと違いスタイルもアメリカンであり、擬音で表すとホワンホワンのプリンプリンでムニュムニュであった。クリスの美貌に真由のおっぱい、そして美紀のようなモデル体型といういいとこ取りのハイブリッドである美少女が、ノーブラのそれを押し付けてくるのである。武藤の胸で柔らかに踊るその感触により、武藤の怒りゲージは一気に0となり、幸せヘブン状態のまま武藤は帰国した。なぜこの男がハニートラップに引っかかっていないのか? 今を持って誰もわからないことである。

 

 実際はどうでもいい女なら武藤はどんな美貌をもっていようと同じことをされても全く相手にしないのだが、アメリアが本当にブレイバーのことを愛していた為、その感情が武藤に伝わったのである。武藤は悪意なく、本当に好かれている感情に対して防御が紙なのだ。それに美少女がプラスされるとそれはもう習字に使う和紙より薄い装甲になってしまうのである。

 

 ちなみにこれが衆人観衆のもとでなく、ベッドのある個室で2人っきりだった場合、アメリアは美味しく食べられていた可能性が高かった。逃げられない既成事実から逃れられたのはたまたま武藤の運が良かっただけである。

 

 

『約束通りブレイバーに仕事は無理に頼まない。受けてくれるときだけでいい。だが娘が彼を非常に気に入っているんだ。彼になら娘をやってもいいとさえ思っている。よかったら遊びに来てほしいと伝えておいてくれないか?』


「伝えるだけは伝えておきます」


『前にも言ったが、俺は恩には絶対報いる男だ。イノセに絶対損はさせないと誓おう』


 そういってジョーが非常にご機嫌のまま電話は切られた。

 

「ふう。電話ってこんなにしんどいんだな」


 疲れ果てた剛三はただなにもない空中をぼーっと眺めるのだった。

 

 



「武、嬉しそうだったねえ」


 一方、武藤はといえば、帰国後、恋人たちに囲まれて正座させられていた。もちろんアメリアの件である。

 

「デレデレしてまシタ」


「顔見えなかったけど絶対鼻の下伸びてたわよこいつ」


 散々な言われようだが、事実であった為、武藤は視線を合わせないようにただじっと黙っていた。

 

「で、なにか言いたいことはあるかい?」


「誤解なんです!! 本当です!! 信じてください!!」


 武藤の必死の叫びは北斗隊員並の信頼度である。わからない人は「北斗隊員 信じてください」でググろう。

 

「で、感触はどうだったんだい?」


「それはもう柔らかくて、その上ノーブ――はっ!?」


 周りの冷めた瞳に武藤は気がつく。

 

「ゆ、誘導尋問だと!? そんな非人道的な――」


「はいはい、じゃあこっちに来てね」


「はかったな、香苗えええええ!!」


「君は良い恋人だが、節操のない君の息子がいけないのだよ」


 赤い人になりきった香苗の指示により武藤は恋人たちに寝室へと連行されていった。その後、武藤は翌日どころか翌々日まで寝ずに頑張るハメになるのであった。自然回復が放出量を上回る武藤をして、回復が追いつかないレベルで吸われたのは初めてのことであった。

 

 





 武藤が漸く恋人たちから開放された日。珍しく来客があった。


『やあ、タケシ。なんかすごいことになってるね』


「……なんでここにいるんだ?」


『HAHAHA、君に会いに来たからに決まってるじゃないか』


「帰れ」


『ひどいじゃないか。せっかくイタリアから来たってのに』


『お兄ちゃん!?』


 武藤宅へ尋ねてきたのは、クリスの兄であるアレックスであった。

 

『今度は舞台が日本らしくてね。撮影は明後日からなんだが、前乗りしてきたんだ』  

  

 そう語るアレックスはとても上機嫌であった。

 

「ほああああ!! アレックスだ!! 本物だあ……」


 本物の推しスター俳優をみて美紀は完全に固まっていた。 


「さ、サインください!! いや日本語だった、えっとさ、サインプリーズ!!」


 そういって美紀は自分のカバンから色紙を取り出し、アレックスに差し出した。

 

「なんで色紙なんて持ってんの?」


「一応こういう仕事してると、どこで芸能人に会うかわからないからって言ってたよ」


 武藤の疑問に洋子が答える。ちなみに美紀は完全にてんぱっており話を聞いていない。

 

「やった!! アレックスにサインもらっちゃった!! はっ!?」


 快くサインをしてもらいテンションマックスな美紀だったが、冷めた瞳で見ている武藤を見て急に冷静さを取り戻した。

 

「ち、違うから!! 私はダーリン一筋だから!!」


「もちろんわかってるよ、吉永さん」


「!? え、だ、ダーリン?」


「大丈夫。俺は応援するよ。アレックスはいいやつだから」


「!? ち、違うから!! 私はダーリンだけだから!!」


「いいよいいよ、みなまで言わなくても。アレックスと俺を比べて俺を選ぶやつなんていないのはわかってるから」


「いやだあああああ!! 捨てないでええええええ!!」


 美紀は号泣しつつ武藤に抱きつき、絶対に離れないとばかりにしがみついた。

 

「タケシ、からかったら美紀が可愛そうデス」


「からかう?」


「……まさか本気だったデスか。タケシはもっと自信持つデス。お兄ちゃんなんかより絶対タケシのがいい男デス」


 まさかのかわいい唯一の肉親から日本語がわからないアレックスへ日本語での罵倒である。


「武くんの自信のなさはどうしようもないからねえ。諦めの早さも早すぎて正直手に負えないのが問題なんだよねえ」


「生む」


「え?」


「避妊やめてダーリンの子ども生む」


「……え?」


「ダーリンの子ども生んでDNA鑑定したら、私がダーリンのものだって信じてくれる?」


「在学中に生んだら大変なことになるよ?」


「ダーリンに捨てられるより大変なことなんてない!!」


「……わかった。ごめんな美紀。信じてやれなくて」


「ダーリン!!」


 そういって抱き合う2人を見て、さすがのアレックスも苦笑いをするしかなかった。一体何を見せられているんだろう……と。

 

『ごめんねお兄ちゃん、置いてきぼりにしちゃって。タケシは女性関係は本当に自信がないの。だからお兄ちゃんとタケシが並んだら絶対すべての女性はお兄ちゃんを選ぶって思ってるの』


『へえ、意外な弱点があったものだね』


『ねー。絶対全員タケシを選ぶはずなのに』


『……あれ? 今さらっと妹にディスられた?』 


 まさか最愛の妹にディスられることは想定外だったアレックスはさすがにショックを受けた。

 

「それよりこんな田舎に来てどうするんだよ。すぐ帰るのか?」


『観光地とか都会は目立つから田舎のほうがいいんだよ。1度タケシの地元を見てみたかったしね』 


「じゃあ適当にその辺を散歩するか」


『いいねえ!! 武の育ったところを見てみたかったんだ!!』


 そういって武藤はアレックスと恋人達を連れて地元の散歩へと向かった。

 

 

『おおっ!! 海だ!! 日本の海は独特の香りがするね!!』


「そうなのか? 確かに異世界とは違う匂いだけど……そういえば隣町の海も匂いが全然違ったな。海藻についたプランクトンやバクテリアの匂いって聞いたことあるから、土地によって違うんじゃないか?」


『へえ、そうなんだ。おもしろいな!!』


 武藤たちが来ている場所はとてもきれいな砂浜である。夏場にもかかわらず、人は全くいなかった。なにせ地元民しかこない穴場である。水はきれいだが人がいないためとても冷たい。そして潮の流れがはやく、急に深くなる場所がある為、あまり泳ぎに適していないのだ。その為、地元民は散歩などには来るが泳ぐことはないのである。

 

『HAHAHA!! いいな!! こんなきれいな海が撮影でもないのい貸し切りなんて!!』 

 

 アレックスはそんなこと全くお構いなしに海に入っている。もちろん水着でない為、波打ち際である。

 

『タケシも入ろうぜ!! 水が冷たくて気持ちいいぞ!!』


「何が悲しくて男と地元の海に入らないかんのだ……」


 そういいつつも元々入るつもりだったのか、裸足にサンダルの武藤はアレックスの場所まで歩いていく。

 

『私も入っわわっ!?』


 そういってクリスも海へと入ろうとするも、波に足を取られたのかバランスを崩した。


「『危ない!!』」

 

 武藤とアレックスは同時にクリスへと手を伸ばした。武藤の手が届きクリスを抱きかかえるも、クリスに触れることがなかったアレックスが倒れそうになり、武藤へと手をかける。

 

「おまっ!?」


 クリスを抱えたまま成人男性の重さにバランスを崩した武藤は、クリスを第一に考え、クリスが倒れないように押し出すとそのままアレックスと武藤の2人は仲良く海に倒れ込むことになった。

 

『タケシ!! お兄ちゃん!!』


 その御蔭でクリスは無事であったが、アレックスと武藤の2人は全身びしょ濡れである。

 

「おまえなあ」


『くっくくあっはっはっは!!』


 水も滴るいい男というのはまさにこんな感じだと言わんばかりに、2人のイケメンが全身ずぶぬれである。その姿に武藤の恋人達はシャッターチャンスとばかりに必死に写真や動画を撮りまくっていた。

 

『なんて楽しいんだ。こんなに楽しいのは生まれて初めてかもしれない!!』


 本来なら暗い未来しかなかった妹が元気になり、しかもその助けた男と結ばれ、自分もその中に入って楽しく過ごす。こんな幸せな時間があっていいのか。時折アレックスもクリスも不安になることがある。本当は夢じゃないのか? 目を覚ましたらまた病室なんじゃないのか? そんな気持ちが湧き上がることがあった。

 

 幸せな時間を過ごしたことがなかった2人は、今この瞬間が今までの人生でもっとも幸せな時間だと本能で理解していた。

 

「はーい写真撮るよー笑ってー」


 そういって美紀がスマホを構えると、クリスは兄と武藤の間に入り、2人の腕をとって楽しそうに笑うのであった。

 

 この写真がアレックスのSNSに上がるととんでもない大反響を巻き起こした。アレックスのフォロワーは1億を超えているのである。非常に珍しいアレックスの自然な笑顔とそこに仲良さそうに映るとんでも美少女。そしてその隣にはあの武藤武が写っているのである。とても芝居とは思えないような自然な笑顔で仲良さそうに映る3人に世界中が揺れ動いた。あの美少女は誰だ? どうして男2人はびしょ濡れなのか? 武藤とアレックスの関係は? と。そしてアレックスの投稿のコメントを見て驚愕する。

  

「親友と妹といっしょに日本の海ではしゃいでしまった。今日は今まで生きてきた人生の中で一番楽しい日だ」 

 

 現役のハリウッドトップスターのコメントである。それは先日のバスケ騒動を超えるとんでも事件として再びニュースを騒がせることになるのであった。

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