第81話 密林の掟

そんなこんなで夏本番。


北部故、そこまで暑くはないし、湿度も低いからまだマシか。


令和日本の殺人的な気温と湿度と比べれば、天国のようなものだ。


具体的に言えば、30℃に届くかどうか?というくらいか。半袖で、薄手のズボンなら、日陰にいればそんなに暑くもない。


それはそれとして、家の中ではクーラーの魔導具を使うが。


「そして、クーラーの効いた部屋の中でアチアチのラーメンを食べることこそが、夏の醍醐味なんだよね」


冬は逆に暖房ガンガンたいて炬燵でアイス食う。みんな知ってるね。


「へー、そうなんだ!」


……と言う訳で、なぜかうちにいるシオを相手している。


なぜか?いや、明白だよな。


うちは涼しいので……。


「いやー、外あっついよ〜!茹だっちゃうよ〜!」


そう言ったシオの褐色肌には、ぷつぷつと、汗の水玉が浮かぶ。


それが、平坦な体を伝って、顎や肘からこぼれ落ち……。


或いは、脇や股、胸などに染みて溜まる。


ん〜……。


俺は一旦、鶏ガラを煮込んでいる鍋を放置して、部屋のソファで寛ぐシオの方へ向かう。


そして……、抱きつく!


「わっ?!どーしたの?」


おお……、女の匂い!


女の汗の匂い!


「シオ、バンザイして」


「え?こ、こう?」


脇に顔を突っ込む。


「おわー?!」


「んんむ……、雌臭」


「そんなところの匂い嗅いで、楽しいの〜?」


「概ね楽しい……」


ついでに胸を揉む。


「……ねー、そんなふうに、されるとさ。ムラムラしてくるんだけど〜?」


「奇遇だな、俺もだ」


「……しよっか♡」




いやあ……、マジで最近は、本当に何にもしてないな……。


王族に会うという大きい仕事も済ませて、外国の潜入部隊?を倒して。


仕事しまくりじゃんね?


このままでは過労死してしまうのでしばらくお休みしているが……。


俺が休んでいると、関係を持った女の子達がよく会いに来る。


『青のほうき星』以外にも、ギルドのミレディとか、貴族のローザリンデとか、喫茶店のあの子とか、菓子屋の娘とか、普通に娼婦の子とか、色んな子が。


もちろん、抱く時にこっそりと避妊の魔法を使っているので、責任を取れ!みたいな話にはならない。


そもそも、基本全員平民だし……。


娯楽の少ないこの世界、処女童貞はほぼおらんぞ。


ど田舎の農村の次男三男とかだと、男は童貞かも?ほぼイコールで農奴だからな、それは。


子供ができても、堕胎するか、あるいは産んで孤児院に送るか。


ビッチとはまた違う、中世の価値観ってことだ。キリスト教もないしな。


分からない?じゃあ、具体的な話をしようか。


「で、シオ。そこの具合はどうだ?」


「うん?ああ、ここ、前に治してもらったもんね〜。でも、これって意味あるの?」


「俺的には、あった方がいい」


「んー、でも部族では、ここを切らないと『まぐわい』の気持ちよさに溺れるから良くないって話だったんだけどなぁ。まあ、君が治せって言うなら、ねえ?」


シオは、部族の掟として、割礼されていた。


割礼……FGMだな。性器の一部を切り取る、儀式のようなものだ。


これを女性がやると、生理不順や感染症などになるから、医学的にはやらない方がいい。


いやもう……、初めてシオを抱いた時は、たまげたよ。


あまりにも痛ましくて可哀想だが、文化的な背景もあるだろうとめちゃくちゃに気を遣って配慮して説得して……。


しかしシオは、基本的に何も考えていないので、普通に治療を受け入れてくれて……。


そうして、今に至る。


「でも本当に、『まぐわい』は気持ちいいね!確かに部族がこれを禁じるのも、分かる気がするなあ。このままだと、僕、弱くなりそうだよ〜」


「それでも良い、俺はお前が弱くても別に構わない」


「そうなんだよねえ……。街の文明って、本当に違うんだよねえ。僕は……、昔は、強くなければ全てに価値はないって思っていたけれど、ここでは違うね。気持ち良くなるためだけに、夫とまぐわいをしてもいいし……、弱い人を守ったり助けたり、してもいい」


「……悪いな、なんか。それは、街の価値観だが、俺の価値観でもある。お前の部族の掟を否定して、俺に合わせろと言ったのは、無礼だろう?」


シオを治療した。


だがそれは、シオに、部族の掟を破らせることとなる。


愚行権、って話じゃないが……、俺から見て間違っている価値観も、その当事者からすると絶対的なもんなんだ。


宗教とかも同じ。信じる奴は信じてる。バカにしちゃいけない。


ロン毛の薄汚えデブ教祖が空中浮遊ごっこしているテロ宗教も、本気で信じている人はいた訳じゃん?あんまし、こう、やったことは悪いんだが、信じた人を貶すのは良くないよ。


で……、そんな、「今まで」を捨てさせて……、捨ててまで、俺のやり方に合わせてくれている。


……例え医学的にこっちが正しかったとしても、考えを捨てさせたのは確かなこと。


「んーん。だって君、僕より強いでしょ?強い雄の血を取り込むことは、どんな掟よりも優先されることだよ。それに……、こういう考え方も、悪くないって!僕は幸せだよ!」


ああ……、やっぱり。


俺はその……、駄目だな。


割り切れねえや。


こんなに、俺の為に尽くしてくれる子を、捨てたりなんてできない。


マーゴットもそうだ、エルフの王族の立場を捨ててストライダーになったのは自分の意思かもしれんが……、エルフの文化を捨てて、俺に合わせてくれている。


ローザリンデも、貴族の立場を捨ててでも、俺の嫁になりたいと……。


……国の干渉やら何やら、今後、あるのかもしれん。


けれど、こんな良い子を置いて逃げることはできないんだよ。


前世でも、なんだかんだと捨てられなかったからなあ。


子供とか、家族とか。百割あっちが悪いが、さっぱりと捨てられたのはそこそこに歳いってからだった。


でも……、この世界では。


みんな良い子だし、俺に優しいし、底辺バカ大学でフェミニズムを学んだ!とか意味不明な発言をしないし……。


こんな子らから愛された責任からは、逃げられないなあ……。


はぁ……、『庭園』を拡張して、俺と一緒になってくれる女の子達を一生養えるようにしなきゃなあ……。


忙しいけど、役得の分だけ頑張らなきゃよ。


「シオ」


「んー?」


「何かあったら、俺と逃げような。一生食うに困らないくらいには稼ぐって約束するからさ」


「もちろんだよ!ずっと一緒だよ、僕の旦那さん♡」

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