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世界は闇につつまれるのかー日本の足元から感じること

 この記事を書いている2025年2月16日、世界ではウクライナへのロシア侵攻が3年続き、イスラエルによるパレスチナ人への迫害が激化しています。ミャンマーも国軍がクーデターを起こして2年、内戦状態で治安が悪化し、さまざまな犯罪の拠点となりつつあるという状態です。そして米国では米国第一主義のトランプ大統領が、政府組織から意に沿わない人達を次々と放逐し、メディアも選別して自分好みの情報発信を図るという状況です。国際連合の常任理事国が侵略の当事者となっている中、国際組織による解決や抑止が機能しなくなっています。

 そんな中、日本はどうでしょうか。自民党が少数与党に転落する一方、排外的な主張をする政党が国会に議席を確保するという状態です。特に地方の市町村議会で、いつの間にかそうした政党に籍を置く議員が広がりつつあるのが現実です。
           ◇
 ここで、ナチス・ドイツのヒットラーを表題写真に据えたのには、理由があります。ヒットラーは1923年、ミュンヘンでのクーデターを図りますが失敗し、一時投獄されています。この時の経験から、国民の支持なしでは政権を握ることは難しいと判断します。国家社会主義ドイツ労働者党という、いかにも労働者を応援するという党名と、労働者は等しく平等であるという宣伝によって多くの支持をつかんでいきます。そして、常に外に敵を設けて勇ましさをい示しています。
 特に1929年の世界恐慌は、戦後の賠償に苦しんでいたドイツを直撃。ヒットラーは苦しむ国民に日々のパンと仕事を約束しながら選挙運動を行い、共産主義勢力や財閥、そして政府への非難を展開し、1930年の選挙でナチ党は12議席から107議席に躍進して、第二党となります。

 1932年の大統領選挙では、ヒンデンブルグが再選するものの、ヒットラーも次選となっています。この年の総選挙で議席は過半数にならなかったものの、230議席を獲得して第一党となるのです。そして1933年1月30日、連立内閣により政権を掌握。ヒットラーは首相に就任します。

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講談社の絵本「ヒットラー」より。首相就任祝いに集まった群衆
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大勢の国民が支持

 そしてこの年3月の選挙で288議席を獲得、さまざまな弾圧が公然と行われていきます。共産党への弾圧で議席を排除し非合法化します。全権委任法の成立を受け、4月からはユダヤ人排斥が始まります。5月ごろから各政党が解散に追い込まれ、7月14日、政党新設禁止法が制定されて、ナチ党の一党独裁が成立します。
 1934年、国家改造法で議会は国会だけになり、ドイツ参議院も解散。人民法廷設置による反ナチス派弾圧、1935年にはベルサイユ条約破棄、ユダヤ人の市民権はく奪の「ニュルンベルク法」施行。当時、あらゆるメディアは宣伝省の指導の下、「問題の原因すべてはユダヤ人にある」と反ユダヤ主義をとなえていました。こうした中、1937年11月には日独伊防共協定が成立。ユダヤ人の強制収容が始まるのはそれから1年後、1938年11月でした。
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 ヒットラーの政権を望んだのは、貧窮と格差社会の中であえぐ人たちでした。そしてヒットラーは常にその怒りの矛先を外敵を示して向けさせたのです。日本でも貧富の格差が拡大し、インフレに苦しむ人たちが多くなっています。そして、その矛先を、在日外国人や高齢者に向けさせる政治勢力が徐々に目立ってきています。
 さまざまな直面する問題は、簡単に解決できるものではなく、議論が必要です。しかし、今の日本では「論破」という言葉が象徴するように、一方的な意見を押し付けることが単純で分かりやすくとらえられ、流されてしまいがちです。外国人や高齢者への非難は、そのような危険性を持っており、外に敵を求める政治は一切許さないという姿勢が必要でしょう。

 一方、将来を見据えた時、必要なのは相手の意見に耳を傾けつつ、解決点を探る努力です。あらためて、1935年1月12日に刊行された長野県出身の評論家、清沢冽の「混迷時代の生活態度」(岩波文庫・清沢冽評論集より)から、清沢の言葉を紹介させていただきます。
 「文化の高い国民、本当に国家のためを思う国民は、少なくともその異なった立場の人々がいかなる主張をするかということを一応は黙って聞いて、そうしてはんぱくする。あるいははんぱくしないまでも、同じく国家のためを思う人にそういう考え方もあるものだと他山の石とすべきはずであります。
 しかるに最近の情勢は、自分の考えていることと反対な事を言えば、それがいかにも国家のために不忠であり、社会に非常に悪影響を及ぼすように反対するのであります。これは一面にある絶対のものを拵えてそれを非違することは、いかなる形式に於いても許さないという一つの現れであります」。

 ヒットラーが勢力を伸ばしたのと同時代の方の言葉。大きな憎悪の潮流に国民が飲み込まれてしまわないよう、排外や差別には断固として反対しつつ、問題解決のための「議論」こそ大事にしたいものです。

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コメント

1
ねむろT
ねむろT

国会図書館デジタルコレクションより
「混迷時代の生活態度」
https://dl.ndl.go.jp/pid/1271919/1/19
(アカウント不要で読めます。)

絵本の「ヒットラー」はデジタル化はされているようですが。国会図書館内の端末でないと閲覧できないという、有難みに欠ける区分です、今のところ(^_^;)。
https://dl.ndl.go.jp/search/searchResult?title=%E3%83%92%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%BC+(%E8%AC%9B%E8%AB%87%E7%A4%BE%E3%81%AE%E7%B9%AA%E6%9C%AC+;+183)

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