マンション一室で代わる代わる女子大生に性的暴行を加え、その様子をスマートフォンで撮影したとして、強制性交罪で当時医大生だった27~29歳の男3人が起訴された。裁判は中心的な役割を果たしたとされる元大学生(27)と、27、29歳の被告2人とを分離して行われ、元大学生は実刑が確定したが、残る2人は控訴審で逆転無罪が言い渡された(その後検察側が上告)。判断を分けたのは被害者供述の信用性。動画に残された女性の「苦しい」という発言の評価が大きなポイントになった。
スマホ動画のやりとり
3人は令和4年3月中旬、被害女性と別の女性を含めて飲み会を行い、二次会の流れで元大学生の自宅へ。そこで女性に性的暴行をしたとして起訴された。
元大学生らはその場面をスマホで撮影。動画では、行為を強いられて「苦しい」と訴える女性に、元大学生が「苦しいのがいいんちゃう」と発言。29歳の被告は続けて「『苦しい』って言われたほうが、男興奮するからな」と述べた。
再度「苦しい」という女性に対し、元大学生が「(苦しいの)が、いいってなるまでしろよ」と口にする場面もあった。
分離された裁判は、元大学生の審理が先行する形で進んだ。5年1月、大津地裁は「被害者が『苦しい』といっても意に介さず行為を続けた。被害者の人格を無視した卑劣で悪質な犯行」として懲役5年6月を言い渡した。
元大学生側は判決を不服とし、控訴審では「苦しいのがいいんちゃう」などの一連の発言は、強制性交罪の要件である暴行脅迫の程度として「強度が低い」などと訴えた。しかし昨年2月の大阪高裁判決は「(発言は)被害者に絶望感を与え、反抗する意欲をより一層失わせるもの」と控訴を棄却。その後実刑が確定した。
高裁「性行為でみられる卑猥発言」
27歳と29歳の被告2人も暴行脅迫の有無などを争ったが、昨年1月の大津地裁はいずれも実刑とした。しかし控訴を受け、元大学生とは別の裁判官が審理した同年12月の大阪高裁判決は、2人を一転して無罪とした。
無罪判決は、女性が被害を申告した主な目的が「動画の拡散防止にあった」と認定。警察の捜査を停滞させぬよう「状況を誇張するなどの虚偽供述をする動機があった」とした。行為が始まったきっかけを覚えていないという「不自然とみるべき余地」も指摘し、被害者供述の信用性を慎重に見極めるべきだとした。
その上で、動画にはあえて女性が元大学生と二人きりになろうとした場面もあったなどとして、「同意があった疑いを払拭できない」と結論付けた。
「苦しいのがいいんちゃう」などの元大学生や29歳の被告の発言も、「性行為の際にみられることもある卑猥な発言であると評価可能」と重んじなかった。検察側は、無罪判決を不服として最高裁に上告した。
専門家「動画拡散防止目的は当然」と批判
審理は最高裁に委ねられたが、性犯罪被害者を支援する専門家からは、大阪高裁の無罪判決に疑問の声も上がった。
上谷さくら弁護士(第一東京弁護士会)は「初対面・相手が複数・体格差ありなどの状況で、同意があったと認定するには事情が必要。事実の評価自体に疑問がある上、それに基づいて『同意があった可能性を拭いきれない』と判断されてしまうと、ほとんどの性犯罪を立件できなくなる」と危惧する。
また、当初の被害申告の主な目的が動画の拡散防止だったため「虚偽供述の動機あり」と判断された点には「動画が残る限り被害回復ができないため、まず拡散を防止したいと考えるのは被害者心理として当然」と批判した。(弓場珠希)