ディストピア惑星管理シミュレーション【Humus《フムス》】   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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【──前回までの管理業務ログ──】

【『現地国家ジョグスィン』から訪れた30名の難民を受け入れたことで、管理コミュニティの労働力が大きく増加しました】

【管理コミュニティ内の居住用建造物の施工作業が、現時点で計画段階の87%に到達しています】
【24時間以内の施工完了が試算されます】

【管理者様。】
【あなたの良心と、アダリン社の行動規範に、可能な範囲で従い。】

【管理業務を、続けてください。】


『"神使鬼差"』-彩暦28年-

 

 "ぎこぎこぎこ"。"カンカンカン"。

 

 モニター越しに見える集落には、そんな音が鳴り響いている。

 集落のロケーションは一週間前とは大きく様変わりしていて、そこかしこに黒色の建物が立ち並んでいる。

 

 来たる冬期に向けて支給した『アダリン社汎用構造体(建材用途調整)』によって作られた建物だ。

 住民たちは、レンガ代わりに四角く切り出したブロックを積み上げ。

 集落に古めかしいヨーロッパ風の建築物が、いくつも組み上がっていく。

 

『"ぷぷーっ!"』

『そこ! そこの熊亜人(ヴォーロス)! 仕事中にヘルメットをはずすな!』 

『現場しごとをなめるんじゃないぞ新入りっ!!!』

  

 現地の文字で『安全第一』と書かれたヘルメットをかぶった向上心の思徒(タルパズ)が。

 歴戦の現場監督さながらに、張り裂けそうな声で建築現場の指揮をとっている。

 

『子どもたち!!! 端材(はざい)でつくったいい感じの棒でチャンバラをするな!!! あぶないであろう!!!』

 

『"ぷぷぷーっ!!!"』

 

『先生はもうっ……そんなに眠たいなら寝ててくれないか!!!』

『うつらうつらしながらノコギリを使うなと何度言えばいい!!!』

『あーほら指を切った!!! 』

 

 ……彼女には、仕事が一段落ついたらねぎらいの言葉をかけよう。

 ラッパを吹き鳴らし、ぜえはあと息を荒くしている向上心の思徒(タルパズ)を見ながら、ぼくはそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──彩暦28年 ジョグスィン保安監督局 局長室──

    

 

 地上三十階。

 硝子(がらす)張りから、都市の中心に咲き誇る"緋色の華"を見渡せるその部屋で。

 雄獅子の亜人と、若い女が向かい合っている。

 

 布武王とリェンだ。

 

「リェン・ルゥオ……きみは『アダリン社』に対して、どのような感触を覚えている?」

 

 布武王は執務机に肘をついて、眼の前で直立不動の姿勢を崩さないリェンに対し、そう問いかけた。

 

「は……感触、ですか?」

 

「そう、感触だ。

 "管理者"なる人物と接する中で、なにを感じた?  

 一番あの人物と会話した回数が多いであろうきみに、率直な意見を聞きたい。」

 

 上司からの、いまいち意図のわからない質問に、リェンは思考を巡らせる。

 あの、同居人の口うるさい蜘蛛との会話について。

 

「私が昨日、あいつから言われたことと言えば……」

 

 "リェン、お酒を呑みすぎです。三日に一度は休肝日を設けましょう。"

 "リェン、20代で化粧水すら使わないのは女として本当に終わっています……"

 "贔屓のチームが負けてるからスポーツ中継を見たくない? なら映画でも見ますか? クリープ・スパイダーに映写機能があります。"

 "……なぜあのシーンで爆睡できるんですか? スポーツ中継ばかり見ているせいで、点数(スコア)でしか盛り上がりどころがわからないんですか?"

 

「…………機械のくせにっ、蜘蛛のくせにっ!」

 

 思い出すうちに、あの蜘蛛の憎たらしい口調が思い出されてきて。

 リェンは、悔しさのあまり拳を自分の太ももに叩きつけた。

 

「どうしたの……?」

 

 布武王は、それを困惑した顔で見つめてくる。

 リェンは取り澄ますように咳払いをして「……やつと接した感触について、ですね」と強引に話をもどした。

 

「性格は、悪いと思います。

 人の粗ばかりついてくるし、いちいち嫌味だし……」

  

「うん……」

 

「……ですが、悪いやつではないとも、思います」

 

 リェンが不本意そうな顔で言うと、布武王は『なるほど』と自分のたてがみを指先で撫でた。

    

「よし。ふんぎりがついたよ」

 

「へ……」

 

「僕は、『アダリン社』を全面的に信用することにする。

 送った難民の中に諜報員を混ぜたのを、見逃してもらった負い目もあるしね……」

 

 『局長。やばい。多分スパイばれてます』(意訳)

 アダリン社管理コミュニティへ送った部下からの報告書をピラピラとなびかせて、布武王は言った。

 

「いや、そんな……

 私なんかの言葉で最終判断をくだされると、困るのですが」

 

 とてつもなく重い判断の一端を自分が担っていたと気が付き、まごつくリェン。

 そんな彼女に、布武王は『……あまり、自分を卑下しないでくれないかな』とため息を吐いた。

 

「──きみに自信があろうがなかろうが、今ジョグスィンで《(ジーヅァ)》を抜けるのは、きみだけなのだから。

 ……まったく、嫉妬を禁じえないよ。

 "建国帝(あのひと)"は僕に目もくれず、きみを後継者に選んだんだ」

 

 布武王は、ほの暗い情念が滲んだ目で、リェンの腰にさされた刀を──《(ジーヅァ)》を、ねぶるように睨みつけた。

 

「……父さまは、なぜ……」  

 

 リェンは、《(ジーヅァ)》に指先でそっと触れた。

 "建国帝"の魂がこもっているとされる、その刀を。

 

「なぜ……私のような、緩衝街(カンショウガイ)で生まれた薄汚い小娘を、拾ってくれたのでしょうか」

 

「……さあね。だけど、リェン・ルゥオ。

 きみは日に日に、在りし日のあの人に似ていくよ。

 顔つきも、立ち振舞いも……そしてあの、星を灼かんばかりの強さにもね」

 

 布武王の言葉に視線を伏せ、リェンは唇をきゅっと1文字に結んだ。

 

「私はこれまでに四度、《(ジーヅァ)》を抜きましたが……

 この刀を抜くたびに……私が、私でなくなっていくように感じます。

 ……先日は、友人からこう言われました。」

 

「なんて言われたの」

 

「"出会った時とはまるで別人だ"──と。」 

 

「……うん、僕もそう思う。

 今のきみは、まるで建国帝の生き写しだよ。

 ほとんどの者は、実子の"濫觴王"よりもきみの方を実の娘だと思ってしまうだろうね」

 

 このビルの地下に幽閉されている、建国帝の実子。

 

 リェンは、自分を実の姉のように慕ってくれる彼女の姿を想像して、かすかに頬をほころばせた。

 

「ですが、もし……

 私なんかが命の椅子をゆずるだけで、父さまを黄泉帰(よみがえ)らせることが、できるとして。

 それでジョグスィンの争いが終わって、あの()が笑って外を出歩けるような世の中になるのなら……」

 

 リェンは、自分の胸の前でぎゅっと拳を握った。

 

「……私はきっと、笑って()()()()()だろうし。

 そうでなくては、ならないんです。」

 

「……リェン・ルゥオ。あの人はね──」

 

 ──布武王がなにかを言いかけたその時、建物全体が大きく揺れた。

 

「……なんだ?」

 

 布武王が、怪訝(けげん)な表情になって手を組んだ。

 その後、局長室の外の廊下から、バタバタと慌ただしい足音がいくつも聞こえ、ややあって勢いよく扉が開け放たれた。

 扉の向こうには、息も絶え絶えと言う様子の保安監督局職員がいた。

 

「局長──局長! ()()()()()()()です!

 屋上から3名ほどで侵入してきて、現在はその場にいた二課と四課の職員たちで応戦しています!」

 

 一瞬で、布武王とリェンのあいだの空気が張り詰めた。

 例の武装の連中──『オルドビス・エネルギー社』の旧式武装を貸与された、"帝選王"の私兵たちのことだ。

 局員たちには、あの武装の外観が共有されている。

 

「やれやれ……連中も、王手をかけてくるにしては随分と時期早々じゃないか。

 これは、焦っていると見るべきか……

 それとも……すでにあちらには、"詰み"が見えているとでも言うのかな」

 

「局長、私が出ます。」

 

「ああ、頼んだよリェン・ルゥオ。

 僕は"管理者"と情報共有をしておく。

 ……相手は一課を葬った連中だ。くれぐれも気を引き締めて。」

 

「り、リェン様が来てくれるんですか! よかった……!

 あなたが来てくれれば、きっとなんとかなる! こっちです!」

 

 職員と共に、リェンは断続的に響いている振動が強くなる方へと走る。

 近づくほどに、骨肉の焦げつくような臭いが鼻をつく。

 

「──っ。」

 

 階段を登って屋上へと出たリェンの視界に飛び込んできたのは。

 腕に銀色のガントレットを装着した"帝選王"の私兵たちが。

 そこから放出される光線や"光の槍"で、局員たちと一方的な戦闘を繰り広げている光景だった。

 

 二十を超える味方のうち、すでに過半数が地に倒れており。

 残りの3名ほどが、半ば逃げるようにしてなんとか命を繋いでいる。

 

 リェンは、彼らに叫ぶ。

 

「──お前たち、下がれ! 怪我人を連れて退避しろ!」

 

「り、リェン様来てくれたぁ〜! もう終わったと思ったぁ〜!  

 敵の中にひとりだけ格段にヤバイのがいますから、気を付けて〜!」

 

「リェン隊長……! あの蜘蛛からの事前情報通り、こいつらの武装は遠距離用の光熱砲と、近距離迎撃用の"光のブレード"です!

 出力が尋常ではなく、ガードは不可能です! 回避に専念してください!」

 

「わかっ、た!」

 

 部下の狐亜人(アロペ)狸亜人(ニコテス)からの助言を聞きつつ、リェンは"帝選王"の私兵3人を見据える。

 ……なるほど。もっとも警戒すべきは、あの黒角をはやした魔族(テラス)の男か──

 

「っおっ……!?」

 

 ──チュイン!

 挨拶代わりと言わんばかりに、自分の頭めがけて飛んできた光熱砲を紙一重で回避する。

 真横を通り過ぎていっただけで、首すじがチリつく感覚。

 

 ……なるほど、直撃すれば一撃で戦闘不能になるのは間違いなさそうだ。

 

「ほお……この砲をかわすか。

 初見でこいつの射線を見切るとは、現代の戦士にしてはできるな。」

 

 魔族(テラス)の男が、腕の砲口をから煙を立ちのぼらせながら、感心した様子で言ってくる。

 

「我々の目的は()()()()()()()()()だ。よこしてもらおう。」

 

「……随分な挨拶をしておいて、そんな要求を呑むとでも?」 

 

 軽口を叩きながら、リェンは目を細めた。

 建国帝の実子……"濫觴王"は、布武王の情報操作によって、死亡が周知されている。

 ──なぜこいつらは、あの子がこのビルにいることを知っている?

 

「ハハ……貴様が、リェン・ルゥオだな?

 かつて、群青学派の"青い反照"と共同戦線を張ったと聞いているぞ。

 小娘のくせに、あの英雄狂いどもと肩を並べて戦うとは、大したものだ」

 

「ずいぶん私に詳しいんだな……ファンか?   

 美人も困りものだ。()()()()がつく。」

 

「──強いやつが好きだ。

 敵であればなお良い。

 オレは、お前が大好きだぞ。」

 

 魔族(テラス)の男が、壮絶な笑顔で言った瞬間。

 彼の横となりにいたもうふたりの味方が一斉に、リェンめがけて光熱砲を打ち込んできた。

 

「ふっ……!」

 

 射線を予測し、姿勢を低くしながらリェンはその光熱砲を回避する。

 そして、倒れた部下の刀を拾い上げると、爆発的な踏み込みで石の地面を陥没させながら間合いを詰めた。

 

「はやい……!」

 

 飛びこんでくるリェンを迎撃しようと、あちらが発生させた光のブレードを見て、彼女は右足で急ブレーキをかける。

 すると、リェンがいるはずだった場所を光の軌跡が空振った。

 

「しまっ──!」

 

「ひとり。」

 

 その隙を見逃さず、リェンはその喉笛を部下の刀で切り裂いた。 

 血を吹き出して倒れるそいつからすぐに目を外し、リェンは背後に感じる殺気に対して、刀を投擲した。

 

「ふたり。」

 

 リェンの背中に砲口を向けていたもうひとりの"帝選王"の私兵が。

 自分の胸に刺さった刀を見て、驚愕の表情を浮かべながら倒れた。

 

「ふー……」

 

 《(ジーヅァ)》を、抜くまでもない。

 リェンは、温まってきた体を冷やすように、ジャケットを脱ぎ捨てた。

 

 そして、"本命"に対して──味方ふたりの死体を見てなお笑みを崩さない、むしろより口を吊り上げている魔族(テラス)の男を睨む。

 

「おい、静観きめこんでないで、さっさとかかってきたらどうだ。

 まさかビビってるのか? 私に──」

 

「"良い"」

 

 ──その瞬間、リェンの腹筋に激痛が走った。

 

 魔族(テラス)の男が、先ほどのリェンと同等かそれ以上の速度の踏み込みで接近し。

 リェンの腹に、前蹴りを叩き込んだのだ。

 

「っ……!」

 

 蹴り飛ばされたリェンは、屋上を取り囲む鉄製のフェンスをひしゃげさせて止まった。

 

「げほっ……っ!」

 

 激痛と衝撃。

 リェンの視界が明滅する。

 背中とあばらがずきずきと痛みを訴えてくる。

 

 ──こいつ、並の魔族(テラス)じゃない。

 リェンは、無機質な目で自分を見下してくるそいつに、背筋が冷たくなるものを覚えた。

 

「だが……"青い反照"たちと比べると、雲泥の差だな。

 やつらほどの肉体も、技術も……覚悟もない」

 

 魔族(テラス)の男が、腰に装備していた双剣を鞘から引き抜いた。

 その剣は、周囲の大気が震えるのが分かるほど超高周波で振動している。

 

 ──その刃には、『Ordovice.Energy.』というロゴが刻まれていた。

 

「なんだ、それは……」 

 

「──"良い剣"だ。雇い主から支給された。

 理屈はわからんが……鋼鉄もこのとおり……」

 

 地面に落ちていた部下の刀が、その剣になぞられただけで甲高い音と共に切断された。

 

「まるでバターだ。」

 

 魔族(テラス)の男が、双剣を携えて迫ってくる。

 

「バケモノ……」

 

 リェンは、フェンスに手をついて、ふるえる脚で立ち上がった。

 

 ──格が違う。

 おそらくこいつは、『魔王軍』の生き残りだ。

 あの大戦を経験し、"青い異光"と敵対してなお生き残った、本物の魔族(テラス)だ。

 

 ──なにが怖いんだい、リェン

 

 ──腰の《(ジーヅァ)》が、凄まじい熱を持って、かたかたと震えているのがわかる。

 

「……怖くなんて、ありません。父さま」

 

 俺が、リェンを守ってあげる

 

 ──やさしい声が聞こえる。

 ──なにも持っていなかった私に、世界を与えてくれた、あの人の声が。

 

 "虎父虎子"さ……教えてあげただろ。なにも心配しなくていいんだよ、俺のかわいいリェン……

 

「……あのね、父さま。   

 私は、リェンは……」

 

 なんだい、なんでも言ってごらん……

 

 戦闘中にかかわらず、うつろな目で、リェンは虚空を見つめている。

 魔族(テラス)の男は、その様子を不気味なものを見るようにながめている。

 

「……ぼそぼそと、独り言を。

 死を目前にして、正気を失ったのか?

 興ざめだな、リェン・ルゥオ。」

 

「うん……うん……

 いや、やっぱり、なんでもないよ……父さま。

 いいんだ。私のことは……」

 

「……いや、違う。なんだ、これは……?

 この都市一帯の魔力粒子が、軋みあげている……!?」

 

 魔族(テラス)が持つツノ、鋭敏な感覚器官であるそれが、事態の変化を感じ取った。

 ──このジョグスィン一帯の魔力粒子が、リェンの周辺に凄まじい密度で集まっているのだ。

 

「リェン・ルゥオ、貴様は一体なんだ……!?

 これは、まるで()()()()()()──!」

 

「父さま……」

 

 リェンが、《(ジーヅァ)》の鞘に指先をかけ、するりとそのしなやかな刀身を晒した。

 

「──私のすべてを、貴方にゆだねます。」

 

 ──リェンの瞳の虹彩(こうさい)に、()()()()()()()()()()

 

 

   

 

 

 

「…………」

 

 

 魔族(テラス)の男の前で、リェンはだらりと両腕を垂らし、隙だらけに見える体勢で動きを止めていた。

 

 だが、彼は動けなかった。

 一見して、先ほどまでと変わらないリェンの姿は──魔力粒子を()()ことができる彼には、まったくの別物に写っていたのだ。

 

 バチバチバチ、と。

 リェンの体の周りには、異分子(ペレグリウム)と結合してプラズマ化した魔力粒子が、緋色に燃えている。

 

 男には、その光景に見覚えがあった。

 まだ彼が新兵だった頃、一度だけ戦場で見た"勇者"の戦い。

 

 ──やつが放っていた青い光と、眼の前の小娘が纏っているのは近いものだ。

 

「──フ。」

 

 魔族(テラス)の男は、張り裂けんばかりに唇を歪めて笑った。

 

 なんという僥倖。なんという運命。

 もう二度と自分の目の前に現れないと思っていた、"最強"のひとつが。

 こうも眼の前で、燦然と燃え盛っているではないか──!

 

「……旧・魔王軍。第9師団の末席、参るぞ……!」

 

 彼は、全力の踏み込みで屋上の地面全体にひび割れを作り、リェンに襲いかかった。

 ──狙うは首級のみ。

 男の持つ高周波振動ブレードが、リェンの首すじに迫る──。

 

「おい……」

 

 その寸前。

 リェンが顔を上げ、緋色に燃える虹彩で魔族(テラス)の男を睨みつけた。

 

「お前──()()()()()()()()()()?」

 

「っ……!」 

 

 先ほどまでとは比にならない反射速度。

 リェンの持つ、緋色に燃える刀身に男の剣は受け止められていた。  

 

「ぉ、おおオオオ!」  

 

 男はもう片腕の剣も振り下ろし、両者の獲物がはげしく鍔迫り合う。

 だが、雄々しく咆哮する魔族(テラス)の男に反して、リェンは。

 状況がよくわからないと言わんばかりに、困惑した様子で周りをキョロキョロと見回している。

 

「……どうなってる……俺は、もう……」

 

「おい、俺を見ろ! 俺と戦え! 俺を──!」

 

「うるさいなーもう……──そら。」

 

 魔族(テラス)の男の眼の前から、鍔迫りあっていたはずのリェンの姿が消えた。

 

「──んはっ、そぎ切り(ピェン)だ。」

 

「ぬ、おおおおっ……!?」

  

 ──屋上全体に、まるで龍の爪痕のような四本の斬撃が刻まれた。

 その中心にいた魔族(テラス)の全身と二本の高周波ブレードに、溶断されたかのような傷跡が刻まれる。

 

 全身からおびただしい流血をしながら、男は膝をつき──なおも、クツクツと笑っていた。

 

「ハハッ……こうで、なくてはなァ……!」

 

 独特の脳内物質と高密度の筋肉が、一瞬で流血を止める。

 魔族(テラス)の男は、口から蒸気のように熱い息を吐き、満身創痍でなお衰えぬ闘志でリェンを睨みつける。

 

 リェンは、それを不思議そうな顔で見ていた。

 

「耐えられた……俺の体がおかしいのか? 弱くなってる……?」

 

「ゆくぞ、我が生涯最後の敵手よ!」

 

 はげしくひび割れ、振動機能を失った双剣を、独特の構えに持ち替え。

 魔族(テラス)の男は、血を吐きながらリェンに突進する。

 

「──《(ジーヅァ)》。削ぎ殺せ」

 

 リェンが、刀を三度振るうと。

 魔族(テラス)の男の全身に、同じ回数だけ龍の爪のような傷が刻まれ。

 彼は、最後まで凄絶に笑いながらその生を終えた。

 

「…………」

 

 リェンは、緋色に燃える瞳で、屋上からジョグスィンの街並みを見下ろした。

 

「これが……今のジョグスィンなのか?

 体の調子もおかしいし……どうなって……んっ」

 

 体に違和感を覚え、リェンの体をまさぐっていた()は。

 もっとも違和感を覚えた部分──胸と股間に手を突っ込むと、みるみる目を丸くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 

 

─彩暦28年 アダリン社管理コミュニティ─

 

 

 

 

 

【──布武王から緊急通信が入っています。】

【──回線を開きます。】

 

『……管理者。緊急事態だ。』

『"帝選王"の私兵たちが、保安監督局のビルに殴り込みをかけてきた』

『リェン・ルゥオが屋上で対処にあたっているが、アダリン社からも支援がほしい』

 

「……なんですって?」

 

 緊急回線から入ってきた、"布武王"の通信に、ぼくはそう聞いた。

 

 ……なぜ"帝選王"を裏で操っている、オルドビス・エネルギー社は。

 ジョグスィン保安監督局のビルに対して、わざわざリスクを冒してまで襲撃をしかけてくるのだろう。

 

 彼らが本当に潰したいのは他企業だし。

 本当に欲しいものもまた、"緋色の華"が撒き散らす異分子(ペレグリウム)であるはず。

 

 そこまで保安監督局に固執する理由はない。

 ……もしも理由があるならば──保安監督局のビルに、ぼくが知らない秘密でもあるということだろうか。

 

「布武王……なにか、ぼくに隠していることはありませんか?

 オルドビス・エネルギー社が、あなた方のビルをわざわざ襲撃してくる理由について。」

 

『……ある。だが、今は説明していられない。

 まずは、リェン・ルゥオの増援にあたってくれ。

 その後に、必ず話すと約束する。』

 

「わかりました。信じましょう」

 

 ぼくは、リェン・ルゥオの部屋に置いてある"クリープ・スパイダー"の操作インターフェイスを立ち上げ。

 リェンが戦闘しているという、ジョグスィン保安監督局の屋上へと向かわせる。

 

 局舎の中は騒然としていて、"鉄の蜘蛛"が走っていてもぎょっとする者はいても襲いかかったりしてくる者はいなかった。

 

【リェン、無事ですか?】

 

 屋上までたどり着くと、リェンはオルドビス・エネルギー社の装備を纏った魔族(テラス)の死体の前で立っていた。

 他にも、ジョグスィン保安監督局の制服を纏った死体がいくつも転がっている。

 

 どうやら、すでに戦闘は終わっているようだ。

 

 リェンは……凄まじいエネルギーを放つ、緋色の刀を持って、背中越しに立ち尽くしている。

 

 ただ、返事がない。

 

 聞こえていないのだろうか?

 ぼくは、"クリープ・スパイダー"で更に近づいて、リェンに声をかけようとする。

 

【リェン──……なにを、しているんですか】

 

 ……近づいてわかったが、リェンは。

 無表情で、一心不乱に、自分の胸を揉みしだいていた。

 

「結構いい(ちち)してるな……ちょいと筋肉質だが、スタイルも悪くない……」

 

【……あの、リェン。そういうことは、部屋で……。

 いや、やっぱり部屋でされてもぼくが反応に困るので、トイレとかでやってください】

 

「ん……リェン? リェンがいるのか?」

 

 くるり、と振り向いたリェンの顔を見て、ぼくは沈黙した。

 ──瞳の色と形が別物になっている。

 くわえて、表情と声のトーンもまったく違う。

 

 これは、()()()()()()

 

「うお、でっかい蜘蛛……」

 

 リェンは──リェンらしき人物は、クリープ・スパイダーをはじめて見たかのように表情を引きつらせた。

 

「……まあ、この際蜘蛛でもいっか。喋れるんだし。

 リェンはどこにいるんだ? 知り合いなんだろう?」

 

【……リェンは、あなたでしょう──と言いたいところですが。

 失礼、どなたですか?】

 

 その人物は、緋色の目をぱちぱちとさせた後。

  

「……リェンの体なのか、これ?」 

 

 と言い、ずっと触っていた自分の胸からパッと手を離した。

 

「そうか……こんなことが……」

 

 リェンらしき人物は、目を伏せさせ。  

 深い深いため息を吐いてから、緋色の刀を腰の鞘に収めた。

 

【どうされました?】

 

「ハァ……寝る」

 

 彼女は、まぶたを閉じ、緋色の虹彩を覆い隠した。

 

 すると、リェンの体から力が抜け、ふらりと倒れた。

 ぼくはそれを"クリープ・スパイダー"で受け止め、彼女が静かに寝息を立てていることを確認する。

 

 ……どういうことなのだろう。

 この状況に対し、不透明的な要素が多すぎる。  

 

「……彼女は無事か? "管理者"。」

 

 その時、"クリープ・スパイダー"の背後から"布武王"の声が聞こえた。

 

 二足歩行のライオンは、自分の足元にある局員の死体にしゃがみ込むと……

 開きぱなしだったその人物のまぶたを、すっと閉じさせてやってから、立ち上がった。

 

【"布武王"……説明していただけますね。色々と。】

 

 布武王は、観念したように。

 ゆっくりと、首を縦に振った。

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原作知識持ち転生者「「コウノトリのゆりかご」だこれ!?」▼原作知識持ち転生者「「「コウノトリのゆりかご」だこれ!?」だよね!?」▼原作知識持ち転生者「「「「コウノトリのゆりかご」だこれ!?」だよね!?」じゃん!?」▼原作知識持ち転生者「「「「「コウノトリのゆりかご」だこれ!?」だよね!?」じゃん!?」ですわ!!」


総合評価:3814/評価:7.57/完結:125話/更新日時:2025年01月09日(木) 00:15 小説情報

機械チートだけど周りのケモ達がデカすぎる(作者:蓮太郎)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

機械チートでパワードスーツや超高度な文明を使う力を得たけど記憶喪失だし周りの人がケモ系の人しか居ないしパワードスーツ並みに力もデフォで強くて色々デカい世界で冒険とかしたいなと言うお話。▼なお主人公はケモ達からは愛玩動物扱いとする。


総合評価:5174/評価:8.69/連載:15話/更新日時:2024年12月14日(土) 12:02 小説情報


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