「…何だっていいけど、店から離れたとこでやっとくれよ」
「あ、それじゃあの、お代ここに置いておくので…」
「ああ、まいど」
「ああ、それなら何人かはここに残しておこう。アイズは来るだろうし、ティオナたちもくるだろう?じゃあ…レフィーヤ、それとガレスはここに残ってていてくれ。リヴェリアはこっちだ」
「…了解した」
フィンの指示にハイエルフのリヴェリアは怪訝な顔をしたが、直ぐに意図に気づき了承した。リヴェリアはLv.6の魔法使いであり、豊富な知識を持っているので、ベルの強さの秘密を探りたいフィンとしては必須の人材だったのだ。
「わ、わかりました」「おーう、酒飲んで待ってるぞ~」
「…もういいか?」
「ああ、それじゃ…近くの広場にでもいこうか。それでいいかい?」「ハイ!」「ああ」
~近くの広場~
ーおい、なんだこの人だかり
ーああ、なんでもロキファミリアのベートがLv1の冒険者と手合わせするらしい
ーは?!なんで?!
ーなんでもそのLv.1、ミノタウロスに勝ったんだってよ
ーまじで?!
「…なんかいっぱい集まっちゃいましたね…」
「まあ、うちの団員が大量についてきちゃったからね…彼らも君の実力が気になるんだよ」
「なんでもいい、とっとと始めんぞ」
「…それもそうだね、双方準備はいいかい?ルールを確認するよ、まず武器の使用は禁止。ベートの場合は手甲と足甲だね、これはベル君がナイフを失ってしまったからフェアにするためだ。そして死に直結するような技は禁止、あくまで手合わせだからね。けれど終わったらポーションを使うから遠慮なく闘ってくれ、あとは自由だよ。ここまでで質問は?」
「ねえ」「ありません」
「オーケー、それじゃ二人とも構えて…」
フィンの合図にベートはボクシングのファイティングポーズのような構えに、右手を下ろして腹の前に持って来て左手を前に出す。対してベルは腰を落とし、左足を前に少し出して両の手を拡げ、左手を軽く前に出して胸の前で構えた。
「それでは…始めっ!」
「っ!」
合図と共にベートは駆け、ベルに上段右前回し蹴りを放つ。
「ふっ、らあ!」「ぐ、ガハッ!?」
しかしベルはそれを上体を反らしてかわし、そのまま倒れこみ、ベートの軸足をスライディングのように蹴り、ベートがバランスを崩し倒れてきたところでみぞおちに両手掌底突きを放つ。ベートの体重の分、威力の上がった突きもやはりステイタスが足りない。ベートは直ぐに立ち上がり、距離を取った。
(なんだこいつは…今の蹴りはLv.1のルーキーに反応出来るような速度じゃないはずなんだが…)
(速い…!構えからして回し蹴りなのはわかってたけど反応が少し遅れた…本当は足を掴んでこかす筈だったのに…!それにやっぱりまともな攻撃は効かない…ならこちらから!)
今度はベルが仕掛ける。ベートの間合い一歩手前で止まり、先程倒れたときに掴んだ砂利を、ベートの顔面目掛けて投げつける。それに反応してしまったベートの隙を突き、足の隙間に潜り込み、渾身の力を込めて股間を殴った。
「ーーー~~~!!!!?!?」
男としての最大の急所を強かに打ち付けられたベートは股間を押さえてうずくまってしまう。
うずくまり、露になった首筋…延髄に向けて、ベルの全体重をかけた足刀蹴り!ベートはたまらず、うつ伏せに倒れてしまった。
「………ふーっ」
ベルは残心を行い、確かに倒れていることを確認し、息をつく。これが不味かった。
「お、おおおおおらあああああ!!」
「?!なっ…ガハッ!」
息をついて隙のできたベルの足首をつかんで持ち上げ、そのまま力任せに地面に叩きつける!受け身が間に合ったとはいえ、Lv.1の人間が、Lv.5の獣人の力任せの一撃に耐えられる筈もなく、昏倒する。ベルの強さは力や速さではなく、読みの早さと正確さ、そして体さばきにある。ベートはそれを見抜き、倒れたと見せかけ、ベルに隙が出来るのを待っていたのだ。
「はあっ…はあっ…あの程度で俺が倒れるわけねーだろうが…はあっ」
そして一度掴んでしまえばステイタスで圧倒的に劣るベルに為す術はなかった、というわけだ。流石にLv.5に上り詰めた冒険者だけあり、冷静に相手を観察し、策を立てる手腕は称賛に値する。
「…なんという…あのベートに策を使わせるとは…何者なんだ、あの子は」
「すごい…」「うん…名前、たしかベルって言ったよね?聞き覚えある、団長?」
「いや、僕はない。リヴェリアは?」「私もない」
しかし、それはベルが策を
「…ところでアイズなんだけどさ…」
「…うんまあ、そうだろうね…」
「まったく…あんなにだらしない顔をして…誰かに見られたらどうする…」
「あ、大丈夫っぽい。ベートはそれどころじゃないし、他の野次馬も向こうに気をとられてる」
「ならまあ…うん、後で考えようか」
「「「賛成」」」
件のアイズは頬を紅潮させ、口を半開きにし、潤んだ瞳でベルをジッ…と見つめていた。