~豊穣の女主人~
「いやーそれにしてもここの料理は美味しいねえ、ベル君」
「そうですね、神様」
ベルとヘスティアはレベルアップ可能になった(といっても暫くは公にできないが)打ち上げの為、豊穣の女主人という酒場に来ていた。
「当たり前さ!なんせ私がつくってんだからね!」
大柄の女性がヘスティアの言葉に同調する。彼女はこの店の店主ミア・グランド、ドワーフであり従業員からはミア母さんと親しまれている。普段は気っ風のいいお母さんといった感じだが、もとは第一級の冒険者であったため、この店で暴れたりすると物理的に叩き出されてしまう。
「そうですよ、ミア母さんの料理はオラリオ一なんですから」
「まったくだね!ってことでこのお肉お代わり~!」
「あはは…神様、あんまり食べるとお金、無くなっちゃいますよ?」
「ウグッ…や、やっぱ今のなしで…」
「シルさんも。あんまり焚き付けないでください」
「はーい」
定員のシルは
「なんだいベル、甲斐性の無い男だね」
「いや、まあここに来てまだ半年ですから」
「…あーそうだ、ベル君、ボクは明日早いから、ここでお暇するよ、ベル君はまだここで飲んでるといい。今日の主役はベル君だしね、満足してほしいんだ」
「…っ!ありがとうございます!神様!」
「ふっふ~ん、まあボクは君の主神だからね!眷属を労うのは当然さ!じゃ、またねミア母さん」
「あいよ…いい主神だね」
「…はい…!僕には勿体ないくらいです…」
ヘスティアが帰った後、お言葉に甘えてチビチビとお酒を嗜んでいると
「おーっす!来たで~ミア母さん!」
ロキファミリアの面々が遠征の打ち上げにやって来た。当然そのなかにはアイズの姿もある。
「アイズさん、本当に大丈夫ですか?ミノタウロスの一件からずっと上の空ですけど…」
「…ん、大丈夫」
「本当に大丈夫?ベートになんかされた?」
「どーいう意味だコラァ!」
アイズはベルに出会ってからずっと上の空であった。初めての恋、初めての劣情に戸惑っていた、というのもあるが、ベルに逃げられてしまったのがショックだった、というのが主な理由である。…まあ初恋の人でなくとも顔を見られた瞬間逃げられたら誰だってショックだろうが…
「ま、ええやろ、アイズたんだってなんだか調子がでない~、ってときもあるやろ…んじゃ今回の遠征もお疲れさん!みんな飲み物は行き渡ったな~?そんじゃ、面倒な前置きは抜きにして~…カンパーイ!」
「「「カンパーイ!!」」」
「…シルさん、あれって…」
「え?ああ、ロキファミリアの皆さんですね。何時も打ち上げのときはうちを使ってくれてるんです」
「へー…?…!?」
ベルもロキファミリアの名前は聞いたことが有った。オラリオにおいて、最大派閥のファミリアなので、気になって観察しているとミノタウロスの一件を見られてしまった女性がいることに気がついた
(ど、どうしよう?!まさかロキファミリアの人だったなんて…い、いや大丈夫、なんか上の空みたいでこっちに気がついてないたいだし…宴会が終わるまで大人しくしていれば…)
「あ、ありがとうございました、シルさん」
「いえいえおかまいなく」
ベルは気配を消して、宴会が終わるのをじっと待つ。すると酔いが回ってきたのか、ベートがベルにとって非常に都合の悪い話題をもちだした。
「そーだアイズ!アイツのこと話してやれよ!あのトマト野郎!」
「?トマト野郎?誰のことだいベート」
小柄な少年がベートに詳しい話を聞く。彼はフィン、ロキファミリアの団長である。小人族の王族なので見た目は幼いが、れっきとした大人だ。
「ああそれがさ、5階層くらいだったか?!でよお、アイズが倒したミノタウロスの返り血浴びて真っ赤になったやつがよお、走ってにげっちまったんだよ!笑えるだろ?!」
「…ベート、あれは私たちのミスによるものだ、5階層にいたのならまだ駆け出しだったんじゃないか?ミノタウロスから逃げ出したって不思議じゃ…」
「…違う…あれを倒したのは私じゃない…」
「あん?」「え?」
(不味い!お願い黙ってて…!)
今まで上の空だったアイズがベルの話題だと気づき、ベートの勘違いを正そうとしている。自分が惚れた相手の名誉を思っての行動だったが、当の本人は黙ってて欲しい、と念を送っていた。まあもはや手遅れな上、その念が届くことも無かったが。
「あのミノタウロスを倒したのはあの子のほう…逃げたのは…なんでかわかんないけど…」
「はあ?!」「…そうなのかい?」
(っちゃ~、まずいなあこれ…)
「その子はどんな子だったんだい?」
「ウサギみたいな容姿で…あと、あんまり強そうには見えなかった…装備も初心者みたいな貧相なものだったし…」
「フーム…ミノタウロスを倒すほどの実力をもち、初心者用の装備でウサギのような容姿…いたかなあそんな冒険者…」
ミアと豊穣の女主人の従業員達の視線がベルに突き刺さり、ベルはだらだらと冷や汗を流す。そして上の空だったアイズが周りをみる余裕を取り戻したことで、従業員達の視線が一点に集中していることに気付き、ベルの存在に気がついてしまった。
「あ、君…」
「!あ、ああ貴女は…!」
ベルの存在に気が付いたアイズはベルのもとへと向かい手をとって胸に当てる。
「ひゃっ!ああ、あの…?!」
真っ赤になったベルにも、周りの動揺にも構うことなく、アイズは続ける。
「私は、アイズ、アイズ・ヴァレンシュタイン…」
「貴方の名前を、教えてください」
そういって、恋する剣姫は花が咲くように笑った。