がむしゃらな女性を演じたかった
――広瀬さんのなかで泰子はどういう女性だと映りましたか。
ちょっとめんどくさい女性だなって(笑)。男性2人を含めたこの3人には、それぞれの間を結んでいる糸があって、その世界そのものがめんどくさい。2人に対するがむしゃらな表現もけっこうありましたが、その分だけすごく演じ甲斐のある役でもありました。
感情が不安定な大人の女性の役をいつか演じてみたいと思っていたんですけど、現代の女性とは異なる表現をしたいとも思っていました。大正時代を生きる泰子には、まさにそんな女性。しかも3人にはそれぞれの独特のリズムがあり、泰子のがむしゃらさもパズルのピースのひとつとしてはまっている感じがとても好きです。
――そんなめんどうくさい3人が、いつも一緒に居たのはなぜだと思いますか。
みんなそれぞれ人に理解してもらえない「可哀想な人」というか、どこか心に穴が空いた人たちだからこそ、お互いに慰め合っていたのだと思います。ケンカだって慰め合いだと思うんです。お互いに足りないところを埋め合う3人が、言ってみれば運命共同体だったのではないでしょうか。そこまで執着し合えるのをうらやましく感じることもありました。
――いろいろなものに執着しながら生きる3人は、ある意味では幸せかもしれません。広瀬さんはそんな3人の関係性から、何か刺激を受けましたか。
泰子は2人をいつも見ていて、常に2人のことを考えていないと自分がダメになるくらい、頭のなかが彼らで埋まっている。すごい世界観だなって思います。2人より外側に視野が広がらないから、お互いに目を合わせているようでピントが合っていない。誰が何をかき乱しているのかすらわからないけど、3人のうち誰かのひと言で、見えている世界がガラッと変わってしまう。
そんな狭い世界の物語なので、撮影もキャストが少なかったんです。そんな世界だけをずっと見ていて没入できたから、その点で撮影もおもしろいなと思いました。演じていて気持ちよかった作品です。
――いま撮影を振り返って思うことはありますか。
完成した作品を冷静になって見ると、会話が噛み合っていないのがすごくいい。現場で演じているときは気づかなかったんですけど、いま振り返ると大正時代の言葉の使いまわしや語尾も独特で、その部分も含めて会話がズレているのに、心は通じ合っている。その感じが、この作品らしい素敵なところだと思いました。