新宿・歌舞伎町。この歓楽街にある広場や路地裏が「トー横」と呼ばれ、少年少女のたまり場となって久しいが、最近は医薬品を含めた薬物の横行が目に余るという。睡眠導入剤や向精神薬など簡単に手に入らない処方薬が流通し、せき止め市販薬などの「オーバードーズ」(過剰摂取)がはびこっている。大麻もまん延しているようだ。何がキッズを違法行為や自傷に走らせるのか。眠らない街を歩いた。(西田直晃)
◆酒盛りを始めたキッズたち
たばこの吸い殻とチューハイの空き缶がそこら中に落ちている。7月中旬の週末の夜、歌舞伎町の中心を占める「シネシティ広場」に足を運ぶと、その南東の角一帯に「トー横キッズ」がたむろしていた。
体格や表情から明らかに中高生だと分かる。声を掛けてみたが、ぶすっとした表情で「何も知りません」とそっぽを向かれた。そのうち、パーカを着た少女が「調達してきたよ」と一団に駆け寄ってきた。手元にあるのは、菓子パンや酒、ジュースなどを詰め込んだポリ袋。離れて遠目から眺めていると、しばらくして酒盛りが始まった。
トー横に未成年者が目立ち始めたのは、新型コロナ禍前の2019年秋ごろとされる。中心にいたのは、黒とピンクで闇とかわいさを両立させた「地雷系ファッション」の少女たちだ。「I ♥ 歌舞伎町」と記された巨大電飾看板を背にして踊る動画が「TikTok(ティックトック)」でバズり(話題になり)、関東近郊から多くの少年少女が訪れるようになった。
◆家出→お金に困る→食い物にされる
昨夏から活動する歌舞伎町の防犯ボランティア団体「オウリーズ」によると、子どもたちの多くは、警察の補導が始まる深夜になれば帰宅するが、2割ほどが安価で知られるビジネスホテルに連泊している。団体代表の男性は「1部屋に多くの未成年者を泊まらせている。悪質だ」と明かす。実際、そのホテルのスリッパを履いたキッズをトー横で頻繁に見掛けた。
「多くのキッズは居場所を求めて家出してくるが、数日のうちにお金に困ってしまう。悪い大人に目を付けられてしまい、食い物にされるパターンが常態化している」。オウリーズには「家出したわが子を捜してほしい」との連絡が全国の親から寄せられ、7月だけで10件を上回った。キッズの多くはトー横の仲間と連絡を取るため、本名を伏せたツイッターの裏アカウントを設けている。その裏アカを突き止め、つぶやきをたどれば割と短時間で見つかるが、「数日のうちに悪い道に引きずられてしまう子も多い」。
そんなトー横ではこれまでに何度も、子どもたちが事故や犯罪に巻き込まれてきた。オーバードーズによる飛び降り自殺、少年への暴行、少女へのわいせつ行為。淫行での逮捕者には「トー横の王」「ボランティア団体の代表」を名乗る成人男性もいた。今年5月には、大麻などの違法薬物の密売を巡るトラブルから、少年を連れ去って暴行を加えるなどした疑いで、「キッズのまとめ役」と称する男らが逮捕されている。
トー横での取材を進めていくうちに、オーバードーズの経験がある都内在住の男性(19)に出会った。幼少期に両親が離婚し、母と祖父母と暮らしたが、中学時代に学校になじめずに不登校になった。高校中退後、母との殴り合いのけんかが絶えず、「自分を認めてくれる居場所を探すため」に家出を繰り返した。他のキッズとツイッターなどで情報交換しながら、トー横で断続的に1年ほど過ごしたという。
◆市販薬を一気に飲んだら…
男性は、前出のビジネスホテルのツインルームで、トー横で出会った10人ほどと過ごしていた。宿泊料金は1人分で、お金に余裕のある仲間が支払った。SNSのつながりで、処方薬のサイ...
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