100年前の夏の甲子園で広島商を初優勝に導いたのが石本秀一さん。カープの初代監督としても知られる。戦前には、この名将をかたる偽物が暗躍する事件が起きた。別のプロ野球チームを率いた頃の話だ▲被害者は神戸の米穀商。賭け屋の紹介で偽者と会い、野球賭博に誘われる。監督と同じ広島出身で主力の濃人渉(のうにん・わたる)選手を名乗る男も同席。「明日は濃人にエラーさせて負ける」との言葉を米穀商は信じた。全財産を賭け失った後、別人と知ったらしい▲有名人や経済の専門家が自分だけに「うまい話」をささやく―。人の欲につけ込む投資詐欺は今、SNSにはびこる。偽アプリで利益が出たと見せかけ、元金をごっそり奪う。巧妙かつ悪質だ▲今年は全国で被害が増え、広島県でも昨年の4倍の25億円がだまし取られた。違法賭博と違い健全な投資をうたうのが厄介だ。有名人の映像を使ったり複数人が登場したり。古典的な詐欺の手口がネット上で暗躍する▲もう見逃せぬと広島県警の啓発に手を貸したのが広島商、カープで石本さんの後輩に当たる達川光男さん。「絶対にもうかる投資はない」と訴え、うまい話に警鐘を鳴らした。甘い誘い球は見送るに限る。