最近は「野良猫通信」でも盛んに食品安全について発信している畝山さんですが、小林製薬の紅麹サプリでの大規模な食品安全に関わる事件ではいろいろとその事情について書いていました。
どうやら製造工程でのアオカビの混入ということで幕引きが図られたようですが、それ以上に「機能性表示食品」という制度自体の問題点が多く関与していたようです。
他にも多くの健康食品と言われる食品群でこれまでも健康被害が出ており、それは決して軽く見ることはできないものです。
本書ではそのような情勢から、紅麹問題の現状(本書刊行は2025年1月)から、「そもそも健康食品とは」、そして「食品が安全とはどういくことなのか」といった根本問題、さらに「海外のサプリメント規制はどうなっているのか」、さらに「医薬品と食品との境界線」と話を進め、最後は「サプリメントを飲む前に知っておきたいこれだけのこと」と強調しています。
小林製薬の紅麹サプリによる健康被害は、混入したアオカビが産するプベルル酸によるものだということでひとまずは説明されています。
しかし、そのような製造上の失策による被害だけでなく、機能性表示食品が引き起こした健康被害というものは他にも起きています。
そもそも、この紅麹サプリは紅麹が生産するモナコリンという物質の作用があるということで機能性があると言われていました。
しかしそのモナコリンという物質は医薬品として使われているロバスタチンというものと非常によく似た構造であり、その作用も類似しています。
ロバスタチンは医薬品として使われており、その使用法も厳しく管理されなければならないものです。
それが食品というだけで野放し状態に使われているというのは危険であると言えます。
つまり、紅麹サプリ事件は単にアオカビ混入などという事故で説明するにとどまらず、根本的に問題があったと考えられます。
健康食品と言われるものが数多く発売されていますが、医薬品のような厳しい規制もなく野放し状態と言える状況でした。
辛うじてトクホ(特定保健用食品)という制度でその管理をすることになっていましたが、それを取得するには多額の費用が掛かるためにさほどには普及しませんでした。
ところが安倍内閣が経済活性化の一案として機能性表示食品という制度を考えだしました。
これは消費者の安全などには目もくれず、売る側の論理だけに基づいたような制度で、食品安全の観点からは穴だらけともいえるものでした。
それが功を奏し?売れ出した状況を見た業界では次々と参入することになりました。
「機能性表示食品は”気のせい”食品」という言葉がその真理を突いています。
次に畝山さんは「食品が安全ってどういうこと」と根本的な問題を取り上げます。
普通に食べている食品が危険だという感覚はあまり一般的には無いようです。
しかし実際には生物由来の食品には多くの物質が含まれており、その中には有害物質も存在することは専門家には明らかな事実ですが、知らない人がほとんどです。
残留農薬や食品添加物が微量加わることを問題視する人は多いのですが、そもそも基になる食品自体に多くの有害物質が含まれていることはあまり意識されません。
日本では多くの食品にヒ素がもともと多く含まれており、それは海外諸国から見ると無視できない量と言われていますが、ほとんどの食品がそのような状態なので、日本で問題視できないものです。
このような食品の状況ですが、それでも色々な食品をまんべんなく取っている限りはその有害な影響はさほど問題となるものではありません。
しかしここで大きな問題となるのが「サプリメント」です。
食品の中で有益な成分だけに注目し、「原料を濃縮して有益成分を効率的に摂取できます」というサプリメントが数多く出回っています。
それが「有益成分の濃縮」だけであるならまだ良いのかもしれませんが、その食品全部を濃縮しているようなものが多数あります。
その場合、他の有害になり得る成分も同様に濃縮されることになります。
その害が出ることは明らかなのですが、それを取り締まる方策はありません。
日本特有の現象として、乳酸菌などのプロバイオティクスと呼ばれるものが非常に推奨されているということがあります。
おなかの調子を整えるなどという機能を始め、多くが機能性表示食品となっており、さらに免疫機能向上とか他の機能性もあるかのように宣伝されています。
しかしこれはEUでも北米でも健康強調表示としては認められていません。
それを示す客観的指標がないからということです。
日本だけでなく各国のプロバイオティクス業界や研究者たちがそれを認めされるよう主張していますが、無理の様です。
さらに腸内細菌の研究が進んでいくと、これまでのような善玉菌悪玉菌といった単純な分類が意味がないことが明らかになっていき、人間の腸に定住しない乳酸菌のようなものの働きもあまり関係ないことが分かってきつつあるようです。
最終章ではサプリメントを摂取する前に知っておきたいこととしてまとめられていますが、その中で象徴的なものがあるので紹介します。
サプリメントは即効性はなく「続けて飲む」ことが推奨されます。
これはメーカーからしても持続的に購入してもらうことで利益につながるということもあります。
しかしこれが「危険性を増す」ことにつながることも確かです。
食品は中には有害成分を含むものもありますが、食生活の一部としてたまに食べる程度であればその影響も出ないままで済むこともあります。
しかし「続けて飲む」ことが行われることで有害成分も持続して体内に入ることもあることになります。
小林製薬の紅麹サプリもたまに飲む程度であれば害が出ずに済んだものが、毎日摂取で発症したのかもしれません。
最後に「健康食品」についての19のメッセージとまとめられています。
1「食品」でも安全とは限りません
2「食品」だからといってたくさん摂っても大丈夫と考えてはいけません
3同じ食品や食品成分を長く続けて摂った場合の安全性は正確にはわかっていません
4「健康食品」として販売されているからと言って安全ということではありませ
5「天然」「自然」「ナチュラル」などのうたい文句は「安全」を連想させますが、科学的には「安全」を意味するものではありません
6「健康食品」として販売されている「無承認無許可医薬品」に注意してください
7通常の食品と異なる形態の「健康食品」に注意してください
8ビタミンやミネラルのサプリメントによる過剰摂取のリスクに注意してください
9「健康食品」は医薬品なみの品質管理がなされているものではありません
10「健康食品」は多くの場合が「健康な成人」を対象にしています。高齢者、子ども、妊婦、病気の人が「健康食品」を摂ることには注意がひつようです。
11病気の人が摂るとかえって病状を悪化させる「健康食品」があります
12治療のためい医薬品を服用している場合あh「健康食品」を併せて摂ることについて医師・薬剤師のアドバイスを受けてください
13「健康食品」は薬の代わりにはならないので医薬品の服用を止めてはいけません
14ダイエットや筋力増強効果を期待させる食品には特に注意してください
15「健康寿命の延伸」の効果を実証されている食品はありません
16知っていると思っている健康情報は本当に(科学的に)正しいものですか。情報が確かなものであるかを見極めて、摂るかどうか判断してください
17「健康食品」を摂るかどうかの判断は「わからない中での選択」です
18摂る際には何を、いつ、どのくらい摂ったかと、効果や体調の変化を記録してください
19「健康食品」を摂っていて体調が悪くなったときには、まず摂るのを中止し因果関係を考えてください
非常に懇切丁寧な指摘ですが、「健康食品なんてやめなさい」と言えば済むことかもしれません。