場所は【ロキ・ファミリア】主神のロキの神室。
そこにベル・クラネルはいた。
あの時、ロキの手を取ったことでファミリアに入る意思を示したベルに恩恵を刻むために案内されたのだ。
今は、ベッドの前に用意された椅子に座り緊張の面持ちでロキの準備が整うのを待っていた。
ベッドの奥でガサゴソと物音を立てながら何かを探しているロキを尻目に、ベルは緊張を落ち着かせるように深呼吸を繰り返す。
胸元に手を当てて鼓動が落ち着いていく様子を直で感じながらこれから歩む冒険者人生に思いを馳せる。
そんなワクワクドキドキと胸を踊らせるベルの心情を見透かしたかのようにニヤリと笑みを浮かべたロキがベッドの縁に腰を下ろした。
「お待たせ〜。準備できたでぇ」
彼女がベッドの奥にある引き出しから取り出したのはペンと羊皮紙、そして針だった。
『ベルにとっても見慣れたそれら』に、自分がどうすべきか知っていたベルはロキに促される前に翡翠の服の袖まわりに手をかけていた。
途端に背中から熱く邪な視線を感じ取る。
そちらを見やると、ロキが鼻息を荒くしてベルが肌を晒すのを待っていた。
「あ、あの……ロキ様?」
「ん? なんや?」
「いえ、その……そんなにじっと見られると男でも恥ずかしいんですけど……」
「うちは恥ずかしくないから大丈夫や!」
「僕が恥ずかしいんです!」
袖まわりを掴んだまま固まるベルに、ロキはニンマリと笑みを浮かべながら手をワキワキと蠢かせ躙り寄る。
不穏な気配を感じ取ったベルは椅子から立ち上がると扉の前まで避難した。
「逃げんでもええやん。せっかくうちが緊張してるベルたんの代わりに脱がせたろうおもたのに」
「うう〜っ、だってロキ様の手つきがいやらしいから……お義母さんの体に触ろうとしてたおじいちゃんみたいでした」
「ごふっ!」
さしものロキも、所謂スケベジジイと言われるとは思っても見なかったのだろう。
強烈なボディーブローを無防備に喰らったかのようなうめき声を漏らし布団に撃沈した。
一発KO。
ベルの言葉はそれほどまでに威力を秘めていた。
ロキが震える体で顔だけこちらに向けながら、同じく震える声で尋ねてきた。
「ベルたん……うち、そない、すけべな顔しとった……?」
(ほ、本気で傷ついてる顔だ……)
あんな飄々とした神様が見せる憔悴した表情を見て申し訳なくなった。
本音とはいえこれは言わないほうが良かった類のものだった。
しかしここで「冗談です」何て言えば元気を取り戻してまたセクハラしようと企むだろう。
だからここは心を鬼にして、ベルは静かに頷いた。
「顔どころか動きも」
「……………………はよ、ステイタス刻もか」
「…………はい」
自分の言葉が原因故にかける言葉が見つからなかったベルはゆっくりと頷き返事する。
流石に今なら大丈夫だろうと思い、手にかけていた服を脱いだ。
すると、顕になったのはシミひとつない、いっそ美しい柔肌。
女性のような柔らかな曲線にシルクのようなきめ細やかで滑らかな肌。
そこに純白の長髪が溶け合うように背中から流れて危険な色香を放っていた。
「ゴクリ」
落ち込んでいたロキが思わず喉を鳴らしてしまうほどの破壊力がそれにはあった。
ロキの目がベルの体に釘付けになっているとは知らずに髪を掻き分けて背中を晒したベルは、大事なことを伝えわすれていたと声を上げた。
「ロキ様、一ついいですか?」
「…………」
「ロキ様?」
「……ん、何や?」
「今まで伝え忘れてたんですけど実は僕、ある神様から恩恵を受けていて……当然、『改宗』できるようにしてもらっているのでそこは問題ないんですけど。逆に【ロキ・ファミリア】はどうなのかなと」
「そんなルールないから心配いらへんで。でもそっか。ベルたん外で別のファミリアにおったんか」
「はい。1年ちょっとくらいですけど、みなさんすごく良くしてくれて。とてもお世話になりました」
そう告げるベルの脳裏に浮かぶのはオラリオに旅立つ際に見送りに来てくれた家族(ファミリア)の姿。
惜しむ声も多かったが、みんな最後には背中を押して送り出してくれた優しく心の強い彼女達の姿はベルの目に焼き付いている。
ベルの声音はどこまでも柔らかで、どれだけかつての仲間から大切にされ、そして大切にしていたかわかった。
「そか。それならいつかうちからも挨拶せなあかんな。良かったら所属してたファミリアの主神誰か教えてもらってええか?」
「はい。アルテミス様です!」
「そかそかアルテミスか。今度手紙でも書いて────ってアルテミスぅぅうううううううううっ⁉︎ 自分っ、あそこの眷属やったんか⁉︎」
途端に素っ頓狂な声がロキの口から放たれる。
完全に予想外の名前だったのか、その驚きようは凄まじかった。
何故、ロキがこうも驚いているのかわからないベルは気圧されながらも頷いた。
「は、はい。昔、村周辺にいたモンスターを退治しにきてくれたんです。僕の事オリオンって呼んで、とても良くしてくれた神様です」
「………………うそやろ。あの『恋愛アンチ』と名高いアルテミスが?」
またも衝撃を受けているロキに、ベルは首を傾げる。
アルテミスはとても良い神様で幼くも英雄の道を歩もうとする自分の背中を支えながらも押してくれた善神だ。
数いる神々の中でも最上位に位置する神様だろう。
そんな神様から離れた自分に驚いているのだろうか?
と、およそロキの考えとはかけ離れた方向へ思考するベルだった。
「ロキ様?」
「……いいや。なんでもあらへんよ。そ、それよりほら、背中こっち向けて。恩恵刻むで〜」
なんでもないというわりには声が震えていた。
ベルが問いかける間もなく作業に取り掛かるロキに怪訝な視線だけ送る。
しかし作業を中断させないために口を閉じることを選んだベルは視線を戻す。
ロキは何事もなかったかのように針で指の腹から血が浮かび上がる程度に刺すと、それをベルの背中に落とした。
背中に刻まれていた恩恵が輝くと、【アルテミス・ファミリア】のベル・クラネルから【ロキ・ファミリア】のベル・クラネルへ上書きされていく。
あとはロキがベルのステイタスを羊皮紙に書き写し、ロックをかけたら完了、なのだが……ペンを握るロキが糸目を限界まで見開き固まった。
が、それも一瞬のこと。
自分の見たものが現実であると脳が理解した瞬間、今日一番の叫び声を上げた。
「アビリティオールSSS⁉︎ しかもLV.3にランクアップ可能⁉︎ 魔法も2つあればレアスキルばかり! どないなっとんねん⁉︎」
今やオラリオを代表するファミリアの主神であるロキですら見たことも聞いたこともない異次元なステイタスだった。
ロキが何度見間違いかと確認するが自分の目で見て、書き写した内容に間違いなどあるはずもなかった。
そんなロキの様子に、前神を重ねたベルは恐る恐る尋ねた。
「やっぱり僕のステイタスっておかしいでしょうか? アルテミス様も度合いは違いますけど驚いていましたし……」
「珍しいなんてもんやない! 前代未聞やで! ……はぁ〜別の意味でベルたんがうちに来てくれてよかったわ……。はい。これがベルたんのステイタスやで」
「ありがとうございます」
ロキから羊皮紙を受け取ると、ベルは自身のステイタスに目を落とした。
ベル・クラネル
LV.2
力:SSS 1219
耐久:SSS 1289
器用:SSS 1168
敏捷:SSS 1370
魔力:SSS 1299
H幸運
《魔法》
【理を断つ綺羅星の剣】
【エレメンタル・リング】
【】
《スキル》
【大精霊の寵愛】
・早熟する。
・全魔法効果に超高補正。
・戦闘時、消費精神力の激減
・戦闘時、消費精神力の回復(大)
・呪詛、状態異常無効
【妖精王の寵愛】
・心を許した相手の全アビリティー強化。取得経験値増加 2
・同族種の場合、全アビリティー超強化。取得経験値超増加 0
【妖精王の宣誓】
・戦闘時、ダメージを与えた相手を征服する
・相手とのレベル差、精神状態に効力依存
【英雄宣言】
・能動的行動によるチャージ実行権
【
・想い合う相手の魔法取得
【サタナスヴェーリオン】
【シレンティウム・エデン】
【ジェノス・アンジェラス】
「えへへ」
見慣れたステイタスの一部に目を走らせ、微笑むと同時に安堵した。
(2人と離れたの初めてだったからスキルがどうなるか不安だったけど、良かった……ちゃんと繋がってる!)
更新用紙を胸に抱き、喜びを噛み締めているとポン、と。
ロキの手が頭に乗せられる。
何を言うでもなく優しい手つきでベルの頭を撫でながら暖かな眼差しでこちらを見ていた。
そしてただ一言、尋ねてくる。
「ランクアップするか?」
「っ! はい! 実はアルテミス様から言われていたんです。ランクアップは次の神様のもとでしてもらいなさいって」
「ん〜、アルテミスもベルたんのステイタスの異常性を神側にも伝えておきたかったんやろな。それに発展アビリティのこともある。うちとしても有難い配慮や」
ひとしきり撫でられたベルはステイタスを更新するために再度背中を見せる。
続くようにロキも同じ手順でベルの恩恵を更新していった。
書き換わる数字を目にしながら、改めてベルの異常性に声を漏らしていた。
「んまにすごい数値やな……。スキルの『早熟する』の効果やと思うけどSを超えてSSSになるとはなぁ」
「僕のステイタスってそんなに異常ですか? アルテミス様も驚かれてましたけど、お義母さんもおじさんも僕と似たような数値でしたよ?」
「何もんやその2人……。基本ステイタスの限界はSの999や。限界突破した子供は少なくともうちは聞いたことあらへん。それにスキルもや。どれ一つ取っても神々が狙うほどの超レアスキル。特に自他の獲得経験値アップは洒落にならん。こんなのがバレると文字通りオラリオが揺れるで」
「お義母さんたちにも所属ファミリアの主神以外には絶対にこの事を公言するなって口酸っぱく言われました」
「当然やな。ベルたんも外で迂闊に話したらあかんで? もしバレそうになってもや。例えそれでうちのファミリアが何かしらのハンデを背負うことになっても絶対に。流石のうちもオラリオのファミリア全部相手するのは不可能やから」
「そ、そんなにですか……」
アルテミスの反応から自身のステイタスが他者とは大幅に違うことは薄々気づいていた。
他にも彼女から自身と義母、おじさんを指して「お前たちがおかしいだけ」と凄まじい剣幕で言われたこともあった。
だがロキにも同じ反応をされ、更に深く釘を刺されたことで漸くベルに実感が生まれる。
そして同時に身を震わせた。もしバレてしまったらどうなってしまうのだろう、と。
まあ、ステイタスにはロキがロックをかけている上に神の言語でを読み解けるものなど下界にほとんどいないことから知る者の口から漏れない限りバレる可能性は低い。
ベルもその事を理解しているため、絶対に口にしないことを心に誓った。
危機感を持ってくれたベルに満足気に頷いたロキはステイタスの更新を済ませ最後にロックをかける。
LV.3へ至ったベルに更新用紙に渡す。
受け取ったベルは食い入るようにそれへ目を落とした。
ベル・クラネル
LV.3
力:I 0
耐久:I 0
器用:I 0
敏捷:I 0
魔力:I 0
幸運:H
魔導:I
《魔法》
【理を断つ綺羅星の剣】
【エレメンタル・リング】
【】
《スキル》
【大精霊の寵愛】
・早熟する。
・全魔法効果に超高補正
・戦闘時、消費精神力の激減
・戦闘時、消費精神力の回復(大)
・呪詛、状態異常無効
【妖精王の寵愛】
・心を許した相手へ全アビリティー強化。取得経験値増加 2
・同族種の場合は全アビリティー超強化。取得経験値超増加 0
【妖精王の宣誓】
・戦闘時、ダメージを与えた相手を征服する
・相手の精神状態に効力依存
【英雄宣言】
・能動的行動によるチャージ実行権
【
・想い合う相手の魔法取得
【サタナスヴェーリオン】
【シレンティウム・エデン】
【ジェノス・アンジェラス】
「増えたのは魔導……ですか」
「せや! 魔法の威力、範囲、魔力の効率化……まあ、魔法に関する補正アビリティや。持っとるもんも少ないし、優秀な魔導士の証拠でもあるで」
「おおっ。確かに僕とすごく相性がいいですね!」
2種類の魔法を発現させているベルにとってこのアビリティは嬉しいものだった。
(僕はまだLV.3になったばかり。総魔力量は多くない。特に【エレメンタル・リング】との相性がいい!)
今すぐにでも試したいと目を輝かせてステイタスに夢中になるベル。
体が疼いて仕方なかったが、そんなベルを落ち着かせるようにロキが尋ねてきた。
「ベルたん……ここに来る前どんな偉業を成したか教えてもらってええか?」
「アンタレスっていう黒いモンスターを、お義母さんとおじさん、【アルテミス・ファミリア】の皆さんと一緒に倒したのと、あとは…………」
「どないしたん? 急に目が死んでるで⁉︎」
「あとは、お義母さんの特訓を死なずに最後まで乗り越えたこと、ですかね……」
目のハイライトが消え、どこか虚空を見つめるベルにロキは頬を引き攣らせた。
ランクアップを可能にする特訓とは一体……?
「どないなスパルタしたらランクアップを可能にすんねん……」
「えと……数えきれないほど死の淵に追いやられてそれで────」
「もうええ! もうええでベルたん! 聞いたうちが悪かったから帰ってきい!」
「はっ!」
今にも魂が抜け出しそうになるベルを体を大きく揺らしてロキが引き止める。
我に帰ったベルは自分が刹那の間、意識を飛ばしていたことを察して呼び戻してくれたロキに感謝した。
──えっとなんの話をしていたんだっけ?
一瞬とはいえ意識を飛ばした弊害で僅かに記憶が混濁。
その原因を探るために記憶を呼び起こそうとした所で、ロキが慌てて話の流れを強引に変えた。
危うくループする所だったのでロキのファインプレーである。
「せ、せやっ。ベルたんはどないな戦闘スタイルなん?」
「戦闘スタイルですか? 一応、どこでも万全に戦えるように鍛えられましたけど基本は最前線で戦うのが得意です」
そう言いながらベルは荷物から布に覆われた長物を取り出した。
「ベルたん、それは?」
ロキの問いに、直接ベルは答えなかった。
かわりに巻きつけた布を剥がし、それを披露した。
布の中に眠っていたのは白銀に輝く美しい2本の剣だった。
「これは……!」
ベルが見せてくれた2振りの剣を見てロキは驚きに目を開く。
ベルが持っていた剣がかなり希少な素材で作られていることを見抜いたからだ。
そんな彼女の反応など知らないベルは、自慢げに柄を握り持つ。
まるで翼を広げたかのような神秘的な美しさにロキが言葉を失っているとベルは2振りの剣について語った。
「僕がいずれオラリオに行くって知ったエルフの偉い人が聖王樹の枝と妖聖結晶をふんだんに使って作ってくれたんです! あ、ちなみにこの服も聖王樹から作ってくれました!」
そう言って、すでに着ていた服を見せるように一回転するベル。
翡翠色とベルを象徴する白を基調に、ベル専用に仕立てられたそれはベルの魅力を数段引き上げていた。
まるで天女が踊っているみたいで目を奪われていたロキはベルの言葉の意味を遅れて理解し、静かに戦慄した。
「っ⁉︎ ちゅうことは自分あれか? エルフの王族に会うたことあるんか?」
「はい。お義母さんと一緒でしたけど、招待されて会いにいきました」
「自分、ハーフとはいえハイエルフやろ? よお里に閉じ込められへんかったな」
「あはは……実はそこで一悶着ありまして……」
その頃を思い出したベルは苦笑しながら何があったのかロキに打ち明けた。
エルフから招待され、義母同伴でエルフの里に足を踏み入れたベルたち。
初めはハーフということもあり邪険にはされなかったが遠巻きに見られているだけだった。
しかしベルの容姿を見るや否や、誰もが頭を垂れたのだ。
それも王族を除いた全てのエルフがだ。訳がわからず困惑するベルだったがそんなこと気にしていられない出来事に襲われる。
王様から直々にアールヴを名乗ることを許されたかと思うと、里に残って欲しいとお願い──いや、強制的だった──されたのだ。
当然、義母が黙っているはずもなく。
瞬く間にベルを閉じ込めようとするエルフとそんなこと許さない義母の争いへ発展してしまった。
とはいえ、恩恵を持つ義母と持たないエルフたちでは勝負にすらならず決着は一瞬だった。
尚も諦めようとしないエルフたちにベルには既に恩恵があること、そして目指す道があることを義母が説き彼らを諦めさせた。
そんな事件から月日が流れ、ベルがオラリオへ旅立つ少し前くらいにこの2振りの剣と、王衣をプレゼントされたのだ。
「…………エルフは相変わらずやな。ベルたんが閉じ込められんで良かったわ」
話を聞き終えたロキの言葉だ。
似たような経験でもあったかのような口ぶりに今度はベルが聞き返す。
「ロキ様もエルフのみなさんと何かご関係があるのですか?」
「んー、うちらがエルフの王女様を攫って、向こうが攫われただけの関係や」
「攫った⁉︎ 大問題なのでは⁉︎」
「色々とタイミングが重なってな。当然、その時は全てのエルフに狙われたわ」
ワハハハっ! と声を大に笑うロキにさすが神だと色んな意味で感心した。
今でこそ最大派閥となっているからいいが、もし零細とは言わずとも中堅ファミリアでひもじい想いをさせていたら、もしダンジョンで死なせていたら、きっとエルフは禁忌とされる神殺しに手を出していただろう。
と、ここでベルはロキの口から出たエルフの王女という言葉が脳裏に引っかかり……思い出した。
「そのエルフの王女様って、リヴェリア・リヨス・アールヴさんですか?」
「そやけど、ベルたんリヴェリアと面識あるん?」
「いえ、一度も会ったことないです。でも、僕がオラリオに行く際に剣と王衣の他に、王様から手紙を預かってまして……それをオラリオにいるハイエルフ、リヴェリアに渡すようにって」
「なるほどなぁ。確かにリヴェリアはうちのファミリアにおるけど……ちとタイミング悪いな。ちょうど遠征中でダンジョンやわ」
「遠征中、ですか」
それを聞いたベルはなるほどと、ロキの本拠を訪れてから感じていた疑問に内心で納得した。
オラリオの最大派閥と呼ばれる【ロキ・ファミリア】だが……強者の気配が僅しか感じられなかったのだ。
人の気配も本拠の大きさの割には少なく、とても隙だらけ。
だがそれも主要メンバーの多くが遠征に出ているとなれば納得だった。
今残っている強者は遠征に選ばれなかったメンバーのまとめ役と本拠の留守を任されたのだろう。
「暫くは帰ってこんと思う。だから戻ってきたらみんなへの紹介も込みで2人の時間作ったるからその時にでも渡しぃ」
「はい、わかりました!」
「うん。それにしてもそうか。ベルたんがうちに来てくれたってことはうちのファミリアにエルフの王女様と王子様が揃うっちゅうことかぁ」
「お、王子様?」
王子とは程遠い環境で生きてきたベルの表情は困惑に染まる。
だがロキは「せや!」と大きく頷くと、ニヤリと笑いながら告げる。
「だってベルたんアールヴ名乗ること許されたんやろ? ということはベルたんはベル・クラネルであると同時にベル・リヨス・アールヴちゅうエルフの王族の1人や。だからベルたんはエルフの王子様や!」
「は、恥ずかしいから王子様はやめてください! 僕はそんな立派なエルフじゃありませんから!」
顔を真っ赤に否定するベルだが、エルフという種族を理解しているロキはただニヤけたその笑みを浮かべるだけだった。
いくらベルが否定の言葉を並べようと、最後にはベルが折れて受け入れる未来が見える見える。
──そして、その未来がそう遠くないうちに現実となることをこの時のベルは知る由もなかった。