天下の元朝日主筆の船橋洋一氏の『宿命の子 安倍晋三政権クロニクル 上下』を買わずに、図書館で借りてタダで読めるのに、それでも読むべきか、読まざるべきかと悩むのは、不躾な「ふてほど」でしょうか?
[2024・12・3・火曜日]
本は沢山出ます。最近の出版社は予算の関係もあって、新刊書が出ても、新聞雑誌での書籍広告を出すのは控えめのようです。電車の車内吊りにも、昔は週刊誌はむろんのこと、文庫などの広告もあったと思いますが、近年見かけたことがありません。紙媒体の時代に生きてきた我が身ですから、書店で実物を拝見して購入することもありますが、やはり広告や書評などでその存在を知ることも多々あります。
船橋洋一氏の『宿命の子 安倍晋三政権クロニクル 上下』(文藝春秋)は、何かで知って読んでみようかと思いました。上下二冊ですから、かなり分厚い本です。船橋さんの本は、『内部(neibu)――ある中国報告』(朝日新聞社)を昔読んだことがあります。その後も何冊か手にしたかと思いますが、朝日新聞主筆だったということもあってか(?)あまり「熟読」した記憶はありません。
そのため、この本も買ってまで読むことはないかな、図書館で借りて読めばいいかなと思っていました。それなりに人気もあり、図書館でも借り手が多々あるようですが、いくつかの図書館で「予約」を入れていたら、先日、本が届きましたので貸し出し可能との通知が届きました。私の後には二十人前後の予約があるようです。借り出すのには図書館に出かける必要があります。まだ取りに行くまでに数日余裕があるのですが、そんなときに、船橋さんの本について、産経新聞に、小川榮太郎さんの書評(2024・12・1)が出ました。
ほほお、『約束の日 安倍晋三試論』 (幻冬舎)の著者の小川さんが書評を書いているのか、ならば一読の価値があるかなと思いました。冒頭の出だしは「上下で計約1200頁。第2次安倍晋三政権を関連文献と関係者約300人の生々しい証言で再構成した初の本格的年代記の登場と言ってよい。とりわけ、財政、外交、天皇退位などの緻密なドキュメンタリーは圧巻だ。既出文献を渉猟しつつ、政策遂行の細かい一々までを複数の当事者の証言で裏付ける手法で信憑性の高い一冊となった」「本書は史料として、後世に託すに足りる」ですから。
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しかし、朝日新聞主筆だったことの知的限界でしょうか、この本にはこんな欠陥があると小川さんは指摘しています。
「ただし幾つか留保を加える。第一に昭恵夫人の証言を取っていないことに象徴されるが、官邸を軸とした証言史である点。森友学園問題について昭恵氏が「政権の最大のリスク」となったとの評価はそのためだが公正さを欠く」
「そして、安倍氏と朝日新聞との『死闘』が省かれている。これでは安倍氏の歴史が歪む。関係者による本書への補足や修正の議論が巻き起こることを望みたい。それこそがこの画期的労作に報いることでもあり、後世への寄与にもなるだろう」
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小川さんの先の本(『約束の日 安倍晋三試論』)で、政治評論家の三宅久之氏と、朝日新聞主筆の若宮啓文氏との間で、三宅さんが、朝日は安倍というといたずらに叩くけど、いいところはきちんと認めるような報道はできないものなのかと問いただしたら、若宮さんが、できません、社是だからですと答えた云々とのエピソードが紹介されていました。当然、船橋さんの本では、そういった朝日と安倍氏との「宿命の対決」についての的確な分析がされていないのでしょうか。
読売新聞の橋本五郎さんが『宿命の子 安倍晋三政権クロニクル』を書いたなら、そういう「朝日&安倍」のところの省略はありえなかったかもしれませんが、同じ主筆がらみからしても、船橋さんがこの若宮さんと安倍さんとの「宿命の対決」を論じないとは、読者の期待を裏切るものでしょう。
私のように図書館で借りて十分だという読者はともかくとして、二冊に五千円近いお金を払ってまで購読する人からすると、「金返せ」という声があがるかもしれませんね。
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橋本五郎さんなどが関与した『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)や、安倍内閣の時に内閣官房参与だった高橋洋一さんの『安倍さんと語った世界と日本』(ワック)や、西岡力氏&阿比留瑠比氏の『安倍晋三の歴史戦 拉致問題・慰安婦問題・七〇年談話・靖国参拝』(産経新聞出版)や、阿比留氏の『安倍晋三が日本を取り戻した』(ワック)や『安倍晋三”最後の肉声” 最側近記者との対話メモ』(産経新聞出版)や、谷口智彦氏の『安倍総理のスピーチ』 (文春新書)などは読んできました。
そういう本にはないものが船橋さんの本にはあると思われますが、肝心要の、船橋さんでなければ書けない分野である「朝日新聞と安倍さんとの『死闘』」にまったく触れていないとは……。画竜点睛を欠く一冊なのでしょうか?
読むべきか、読まざるべきか。5000円出さずに、図書館でタダで借りられるのに、読むべきかと悩んだり、借りずに流してもいいかと思案したりするのは「ふてほど」でしょうか?
でも、小川さんのような人が「画期的労作」と評価もしており、どうやら朝日の「社是」に少々反する内容もあるようですから、一読しても損はしないし、良心的なノンフィクション作品で、安倍政治を評価するにあたって、複眼的な視野を提供してくれるのではないかと思われます。
それに、船橋さんは、『国際派一代 あるリベラリストの回顧、反省と苦言』 (創英社)で、古巣に若干の苦言を呈していた松山幸雄さん(元朝日新聞論説主幹)のように、朝日にあっては、まともな方のようにお見受けしていましたから。
ということで……。どうしましょうか?
図書館受取り期日まで、あと3日です?
では、ごきげんよう。