畑中さま、初めまして。いつも、ハッとさせられたり襟を正したりしながらmondの回答等拝読しております。

なかなか相談したり意見を伺えそうな人が周りに居らず、このたび、畑中さまのご意見を伺えたらと思いお送りしました。

私は2年前に商業デビューし現在はコミカライズ連載をさせていただいてます。ジャンルは女性向け中華後宮モノです。

相談内容は、このコミカライズ連載を最後まで描ききるために、自分はどのようにこの仕事に向き合っていくのが適切かということがお伺いできましたらと思います。

私は、中華後宮もの含めて昔から中華風ファンタジーや戦記物等が大好きで、原作はジャンル要素がやや薄めのラブコメディ少女小説ですが、登場人物や舞台設定がユニークで魅力的で愛着があり、原作を何度も読み込み、それでも解釈や知識が及ばないところもあるだろうと、関連作品を読んだり観たり、資料を集めて調べながら、担当さんからのフィードバックを参考したり相談しながら、自分なりに限界までキャラクターデザインや風景、世界観、ネーム等を考えて描いてきました。

私の作風と前作(※他社様です)から女性向け異世界ジャンルが向いてそう、その中で私が中華後宮ジャンルを描きたいということで、このたびご縁あって描かせて頂いてるので、あまりあれもこれもと欲張りにどうこう言ってはいけないと頭では分かっているのですが、

中華後宮ジャンルに関心が強いのが自分一人だけで、原作者の先生、原作・コミカライズの担当編集者さまともにそこまででないということもあり、中華風世界観では当たり前の表現がなかなか通らず「⁉」となることが、キャラクターデザイン等を出していく初期段階で多々ありました。

なぜメインキャラクターの一人がショートヘアなのか尋ねるも明瞭な回答は得られず、冠を成人男性キャラクターが付けてるのはおかしいとの理由で外すことになり、原作小説を書く際に使用された資料があれば参考にしたいので教えて貰いたいとお願いするも一冊一作品出てこず、中華風の建造物の3Dオブジェクトを依頼したい旨を担当さんに伝えると、別にそこまでしなくて良いと言われ、漫画は視覚表現で楽しませるものなのに、ファンタジーは現実には存在しないけど、だからといって描きぶり安っぽく嘘くさくなってしまったら、読者はそのファンタジーの世界に没頭して楽しめなくなってしまう、どうしてこんなことに、どうしたら…というが度々あり…。

それでもファンタジーにリアリティを与えて面白く表現するのがプロだちくしょうと演出や画力で押し切って描き、より世界観に馴染むよう原作の読み味や魅力を損なわない範囲で細かいところをより華後宮ジャンル向けに変更したり、ネームの方も担当さんのお力添えもあり、掲載先のランキングには配信日にはどうにか上位に入り、SNSでの反応を見る限り、原作未読・既読の方ともに概ね好評いただけてるとは思いつつも、やはり違和感があるのでは…いや、自分のジャンルへの思いが強すぎるのでは…という一抹の不安が拭えませんでした。

連載開始後ある日、とあるSNSで、原作者の先生が他の作家仲間とのやりとりで、中華風ファンタジーの世界観や原作のテイストに合わせて髪の長い形でデザインしたメインの男性キャラの一人を「断髪させようと思った」「(原作表紙のデザインではヒーロー役は)短髪が個人的に好みなのでそっちを推しました」と話しておられたのを見て、あなたの書いたその小説のジャンルは何なのですか…?作家個人はよくても、中華風ファンタジーや中華後宮ジャンルが好きな読者の多くは違和感を感じるし、ましてや漫画のように視覚表現を楽しむコミカライズでは読者離れてしまうリスク高まってしまうのだが……⁉と、なんとも処理しきれないもやもやとした気持ちになりました。

その後も、あまり三角関係を強めのつもりはなかった、このキャラはこの場面の心情は多分こういう感じのつもり等のやりとりを見掛けて、あくまで原作を読んだことがある作家同士でコミカライズと原作の比べっこをしての所感で、そこに悪意はなかったかもしれませんが、

元々の自分の思い入れや執着が強すぎたのか、行き場のない恨めしい気持ちと、こんな風に言われてしまうなら初めから全力で描かなければ良かったという後悔や惨めな気持ちにずっと苛まれてしまいます。

その様子を見かねたコミカライズの担当さんが口添えしてくださったのか、その原作者の先生の作家仲間の方々のコミカライズへの反応が良いからかは分かりかねるのですが、その後、そうした引っ掛かる言動はなくなりましたが、

先日、原作者の先生から、単行本発売に際し、温かなメッセージもたくさんいただいたのですが、原作者の先生の感謝や褒めてくださる言葉を素直な気持ちで受け止められず、悔しさと惨めな気持ちと、素直な気持ちで送って下さった言葉を受け止められない自分が情けないと感じます。

原作作品も、原作作品を何度も読み込んで創ったキャラクター達やコミカライズのために作り上げた構成や演出等も、今でも愛着があって好きです。自分の描いた漫画で読んでくれた全員殺したい、現実でどんなにイヤなことがあっても、自分の漫画を読んでくれるその数分の時間は絶対に楽しませたいという気持ちも変わらずあります。

ですが、早く連載が終わってもう関わりたくないとか、完全に原作越えしてギャフンと言わせてやりたいとか、すべてかなぐり捨てて筆折って描きたくないヤダヤダとワガママを言いたいとか、もうジャンルに愛と関心があって資料や先行作品を丹念に読める人だけがジャンル作品書ける世界になってくれとか、どす黒い気持ちが胸の中をぐるぐる渦巻いて、思わず涙が出てしまうことがあります。

ネームを作っていく最中に原作の物語構成の未熟さへの疑問点や、それに対する原作側からの回答の物足りなさ等は、コミカライズの担当さんも気にされていて、私の個人的な愚痴や考えに耳を傾けてくださいますし、どうしたらより漫画として面白くなるかネームなどアドバイスは的確で学ぶことも多く編集者として信頼しているのですが、漫画家はあくまで版元様の雇われ業者です。私のどず黒い感情を際限なく聞かせて担当さんの負担にさせるわけにはいかず……(ならば畑中さんに長文送ってしまって良いのかという問題もありますが…)

これから、この黒い感情を抱えながらコミカライズ作品をどうやって最後まで描ききれば良いのか、今後漫画を描き続けていく上で、自分自身がこのクソデカ感情に苛まれないようにするには自分はどうすればよかったのか、お聴きできましたら幸いです。

お忙しいところたいへん恐れ入りますが、どうぞよろしくお願い致します。

  • これは…関係者全員可哀想ですね…。あなたは自分の方が中華風世界観に詳しいと思ってらっしゃるようなのですが、原作者の方はそもそも自分のセンスでオリジナルの世界観を作っていたのでは?
    感覚としては、伝統的な和装が好きな方と、自由に着物をファッションの中に取り入れたい方とで話が行き違ってるみたいな…。

    「なぜショートヘアなのか」という問に対しては「原作者がそう設定したから」。

    「なぜ冠をつけるのはNGなのか」という問も、「原作がそういう設定ではないから」。

    「なぜ他の中華風と設定が違うのか」という問も同じくでしょうね…「原作者のオリジナル設定だから」かと。

    原作の方は、あくまでエッセンスとして中華風を取り入れただけで、本当の中国の〇〇時代などにするつもりはなく、シンクレティズムというか、架空のミックスカルチャーな世界を作りたかったのでは?

    対して、あなたは元々中華ものへの造詣が深く、「もし〇〇時代がモデルなら髪は長いはず」「冠をつけているはず」などなど、こういう設定のはず!という知識があるので、原作者のセンスでミックスされた部分が悉く気になってしまう。

    加えて、実際描くとなった時に、架空のオリジナリティ溢れる建築様式や、コスプレした時に「あの作品だ!」と一発で解るようなオリジナリティのある服装デザインにしてほしい、というのは素人が考えるほど簡単なことではありませんよね。

    ロボットものがこれほど世界的に流行し、所謂「売れ筋」にもかかわらず、新しい漫画作品が乱立するほどは出てこないのも同じ理由。

    既にあるものを上手に描く能力と、架空のものを生み出し描くというのは、全然違う能力です。

    おそらくですが、あなたの作風は実在するもののディティールをしっかり見つめて描く能力に長けた方なのでは?

    そして、自分に依頼が来た時点で、その得意を活かそうと考えるのも当然かと。

    参考にした資料があれば教えて欲しいという問いに、原作者から一冊も出てこなかったという時点で、オリジナル設定が確定したわけで、質問者さんも「ファンタジーは現実には存在しないけれど」と認めています。

    にもかかわらず、新たにデザインする方向ではなく、

    「ファンタジーにリアリティを与えて」

    「原作の読み味や魅力を損なわない範囲で細かいところをより華後宮ジャンル向けに変更したり」

    という発想になったのは、

    自分の得意な方向に引き寄せようとした部分があったと思います。

    漫画のクオリティを考えた時は、これは妥当な判断です。

    だって、あなたが描くわけですから。

    あなたの得意なところで勝負した方が、漫画としてのクオリティは高くなるに決まってます。

    でも、これは原作者からすると原作の改変です。

    ごくごく普通に考えて、事前に髪の設定や、冠等々、設定について細かいやり取りをしているのは、

    「原作の世界観優先なのか」「クオリティのために、あなたの得意な方向に寄せるか?」の議論,バランスをどう取るかの相談をしていた状況です。

    でも、あなたの文章を読む限り、なんの相談をされているのか理解していなかった気がします。

    知識という錦の御旗が、あなたに「自分の方が正しい」という意識を持たせてしまっていたんじゃないでしょうか?

    原作者は、不勉強で不見識だと決めつけてしまっていたのでは?

    原作者が自分のセンスや意図を語ると「あなたの書いたその小説のジャンルは?」」「作家個人はよくても(中略)読者の多くは違和感と感じる」と、原作者のセンスを否定するということに疑問を抱かない状態になってしまった。

    参考資料がないと言う言葉を、オリジナル設定だからと解釈するよりも、原作者の不勉強さの証のように捉えてしまった。

    原作者は激怒してもよさそうな状況ですが、なぜそれを赦し、温かなメッセージを出してくれたかと言えば、あなたは原作者から見て、本当に一生懸命マンガを描いて下さってるからかと。

    自分の趣味や考えとは違うけど、あなたがどれほど誠実な人で、一生懸命マンガを描いてくれてるか伝わってきているから、原作者はコミックスに対して温かなメッセージを出してくれた。

    にもかかわらず、あなたはこの一連の流れで、「未熟な原作者」と思い始めてしまっているので、それもなお許せない。

    いつのまにか、コミカライズの出来の方が原作より優れているという意識が芽生え、原作に足りない部分を自分が調べて、自分が膨らませて素晴らしいものにしてあげてるのに感謝が足りない!みたいな感情を持ってしまった…のかな?もしかして。

    あなたが傷ついてるのは本当のことでしょうし、

    あなたが努力しているのも本当のことかと思います。

    が、原作者が可哀想すぎて、泣きそうになる状況です。

    「この黒い感情を抱えながらコミカライズ作品をどうやって最後まで描ききれば良いのか」

    「このクソデカ感情に苛まれないようにするには」

    というのが相談内容だったので、はっきり書きますが、

    大人なのは原作者の方であり、我慢してるのも原作者の方、ということをしっかり自覚してください。

    あなたが素晴らしい作家なのは疑いようもない。

    信頼できる、誠実な描き手だとも思います。

    そして、作家らしく、非常にこだわりが強い。

    自分のこだわりを尊重して貰わないとイライラするわけですよね。

    怒りすら湧いてしまう。

    そういう性格でも全然いいですよ。

    作家さんですもん。

    でも、そのこだわりが自分にだけあると思うのは、さすがに傲慢です。

    他人の趣味や主義主張を、自分の趣味より下らないと、取るに足らないと切り捨てるのは幼稚な考え方です。

    自分のこだわりや趣味を大事にして欲しいなら、

    他人の考えにも敬意を持ってください。

    他人の創作物への敬意をしっかり持てた時、黒い感情は消え去り、むしろ「私の好きな方向性で描かせてもらって、ありがたいなぁ…」と感謝を抱けるようになるのでは。

    持てますように。

    7日(7日更新)
畑中雅美さんの過去の回答