12月15日:斬刃を見て何を思う・1
全てのきくうし様に捧げる………特に朝っぱらからAT突入した相手騎空団は1日かけて他の作業全部中断して読んで欲しい……
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「んー、分かってはいたけど火力貢献出来てる気が全くしないなぁ」
銃身が赤熱したライフルを格納空間内に入れ、代わりに別のライフルを取り出しながらヤシロバードは嘆息した。
そもそも全身が超振動する金属、という時点で銃火器とは致命的に相性が悪いことは薄々勘づいていた。リアルなら一発で人間の頭が吹っ飛ぶような銃弾も、こちらではVIT次第ではそこそこ耐える人間までいる始末だ。
では銃という武器種が完全に無価値かといえばそうではない。もしそうなら、弓矢はもっと悲惨な扱いになっているだろう。銃には銃の強みがあり………今こそ、それを発揮する時だった。
「全く……相変わらず面白ムーブをしてくれる、よっ!」
溶断されたトマホークの腕刃が地面に突き立った光景をスコープ越しに目撃したヤシロバードは、スコープから目を離して肉眼で空へと真っ直ぐに飛んでいく加害者と悲鳴混じりの咆哮を上げる被害者を視界に収める。
あえて加熱を続行し、僅かに硬さが損なわれた瞬間を断つ。それだけであれば心得のある剣士プレイヤーなら実行はそう難しいことではない。だがそこに「足から空に向かって加速して飛ぶ」という条件までつけられるプレイヤーは……探せばいるかもしれないが今のヤシロバードには思い付かなかった。
「このままじゃあ、銃が役立たずと思われるか……」
そんな事はあってはならない。実際のところ、アレは剣が凄いとかそういう話ではないがこのまま目潰しだけしているようでは他でもないヤシロバード自身が納得できない。
であれば力を示さなければならない。ヤシロバードが持ち込んだ銃器の殆どが通用しない真なる竜種「トマホーク」に対して、銃という武器の輝きをだ。
「ふふふふふ……試し撃ちを除けば初の実戦運用か。まぁ、相手に不足は無いか」
チェストリアはインベントリアのダウングレード版であり、格納空間内へのユーザー転送機能こそ削除されているものの、無制限の道具袋という点ではインベントリアとなんら遜色はない。
ヤシロバードはチェストリアを操作し、三つのオブジェクトを現実空間に喚び出す。
「特務用執行機装タイプ:カウルケニン……銘は「One shot is everything」。そしてこれが僕の切り札……神代の遺産、ゲームながら尊敬すべき先人達の遺した大いなる魔弾!!」
一つは、SFチックな見た目とは裏腹に時代に逆行するようなマスケット銃。銃としての古臭さとは裏腹に狂気すら感じられるほどの研究と試行錯誤による設計から生み出されたそれは、とある弾丸を運用することに特化した構造となっている。
そして二つ目、ある運用のためにこれもまたヤシロバードが設計したグレネードランチャー。これそのものは切り札を十全に活用するための前段階に用いるものだ。
最後に三つ目………それは銃器に装填する弾倉だ。だがそれが単独で存在していることは……シャングリラ・フロンティアというゲームにおいては少々異常なことであった。
何故ならば、シャングリラ・フロンティアにおける銃火器は基本的に弾倉が単一のアイテムとして存在しないからだ。拳銃からロケットランチャーに至るまで、弾丸は実弾非実弾を問わず銃そのものが生成する。それは魔力……マナ粒子という都合よく理屈をつけられる設定があるからこそであり、ギミックとしてマガジンが外に展開することはあってもそれが銃から取り外されることはない。
例外として拡張エネルギーバッテリーを外付けで装備する、といった銃もあるにはあるが、ヤシロバードが取り出したそれは正真正銘弾倉である。それはつまり、どの銃器からも独立した弾丸を生み出すアイテムということ……そして、これこそがヤシロバードが持つ最大の切り札。
手のひら大の武骨な金属の塊。その表面には「Lewis&Gilbert」の文字ともう一つ、別の文字が刻印されていた。
『SAMIEL Bullet-IV:Megrez』
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「参るぜ、全くよぉ……」
度重なる激突と、剛刃の防御という酷使の末に刃毀れした方天画戟を見つめながら、サバイバアルは嘆息していた。
壊れこそしていないが、武器が使い物にならなくなったこと………ではなく、サバイバアルの憂鬱の原因は恐るべき自称オークこと王狗であった。
その性能、まさしく剛力無双。攻撃的な鋭角さにばかり目がいかが恐ろしいまでに肉体を護るという点に秀でた外殻。その四肢より繰り出される打撃は容易く岩を砕き、竜の体躯を震わせる。
そのくせ、どういう原理か身体からジェットの如く魔力を噴射して機動力を補っている。
───ウル・イディムは姿を見失うほどの速度は出せない。
───ウル・イディムは遠距離から雨霰の如き射撃はできない。
───ウル・イディムは火や雷を操るような魔法は使えない。
───しかし、ウル・イディムは肉体強度に物を言わせて前線を張り続ける事は出来る。
そしてそれはつまり、サバイバアルの役割とダダ被りしている上に……認めたくはないが、ほとんど上位互換であった。
「クッソ……あのアバター使わしてくんねぇもんか……」
格闘戦を主体に一発一発が致命絶命の必殺級、というウル・イディムの性能はシャンフロを始めたばかりのサバイバアルが目指した到達点そのものであり……しかし、泣く泣く諦めた憧れの果てだ。
「しかし……どうしたもんか」
ウル・イディムと自身の比較ではなく、トマホークへの対応について、だ。
そもトマホークという全身金属に等しい敵に対して、サバイバアルの膂力ではほとんど有効打が出せていない。厳密にはただ武器を振っただけの攻撃ではほとんど通用しない…が正しい表現だが、それでも一発一発が確実にトマホークの芯を揺らすウル・イディムと比較するとやはり見劣りするのは事実だ。
「……へッ、無いものねだりしてそれが手に入る生活にゃあ憧れるが、やっても無駄ならやるだけ無駄だ。だったら一発でも多く殴りゃあ勝ちの目も見えてくるってなぁ!!」
そうやって人生を歩んできた、そうやって孤島を生き抜いてきた。であれば、シャングリラ・フロンティアであってもこの大原則が揺らぐことはない。リアルに限りなく近いゲームであるというならば……現実での生き方と、もう一つの夢での生き方が間違いのはずがないのだから。
「ハイエナに甘んじるのは癪だが………ウル・イディム!!」
「呼ンダカ」
「なんでもいい! 傷を作っちゃくれねぇか!! こじ開ける!!」
「承知シタ」
サバイバアルの攻撃はトマホークに対してほとんど有効打たり得ない、だがそれは前述の通り「ただ武器を振り回した場合」だ。即ち、ただ振り回すのではなく一手間を加えたならば。
かつて夢見た最強の打撃、諦めたのは道の一つでしかない。
「パーティプレイだ、張り合うのも悪かねぇが協力しねぇとな」
サバイバアルが試行錯誤の果てに辿り着いた答え、それは現在のメインジョブを拳闘士系にするのではなく戦士系統の最上位ジョブ「戦王」に就職したことだ。
戦王はあらゆる武器を使いこなし、その真価を発揮する戦いの王。装備した武器に対応したスキルの出力を上げる「武威解放」によってあらゆる武器を専門職と同等の出力で運用することが可能となる(尤も、スキルや魔法を武器ごとに分散させなければならないので真に一芸特化したジョブには劣るが)
「全身が何で出来てようが分類上は生物なんだろう? だったらコイツの効果も通るだろ」
血濡れた王者の帯。それはシャンフロ内に存在するとあるPvPコンテンツの優勝景品であり、阿修羅会のランキングはキル数であって強さの指標とは限らないことを証明するサバイバアルの「阿修羅会全抜き」の証。
染み付いた犠牲者の血によって赤黒く染まった拳帯を巻いた拳を構えて、睨む先は刃の竜。
「ぶちかますぜ……「重法徹化拳」!!」
ドラゴンに対する特攻があるとしても、己よりも速く動けるとしても。自分よりSTRの低い半裸に出来て自分に出来ない道理は無い。
如何なる敵をも捩じ伏せる力は確かに今、サバイバアルの手が握りしめている。
・血濡れた王者の帯
旧大陸裏社会の地下武闘会優勝景品。全員が無地のセスタスしか装備できない制限を受けた状態で総当たり戦を行い、優勝した時に敗北した者達の血で赤く染まった王者のセスタスが完成する。
相手を傷つけるほど威力が上がっていく能力を持っており、尽きせぬ暴力で相手を死に至らしめる様はまさしく血に酔った残虐の王者そのものである。
阿修羅会はメンバー全員でこの地下武闘会に参戦し、結果としてサバイバアルがほぼ全員殴り倒して優勝した(鉛筆が「え?サバイバアル君とガチ殴り合いなんてやるわけないじゃん」と棄権したので全員ではない)(背中がお留守だぜオルスロットぉ!!)
本当は一話に収まるつもりだったけどこいつらの描写長すぎたので前後編に分ける