ポケットモンスター in オラリオ


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作:ニャース
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2 ベル、ウルトラホールを渡り、オラリオに降り立つ


ウルトラホールを渡っている際に、原作ベル君がいる世界に降り立つ話も入れようかと思いましたが、話が冗長になるし、ポケモンだけでなく原作知識も加わるとチート過ぎるので、2000字くらい書いて没にしました。


 

 ベル・クラネルは悩んでいた。

 

 周囲には何でもないようにふるまっているが、時折考え込んでおり、なにかに思い悩んでいることは明白であった。

 今さっきも、明日がベルの誕生日だというのに、ちょっと風に当たってくるといって出て行った。それを彼の家族と友人達は心配そうに見つめていた。

 

「ベル、どうしちゃったん?」

「むむむ……! むむむむむ……! ダメだ、てんで心当たりがねえ!」」

「まあ、ハナからオヤジには期待してないし」

 

 そんなベルを案ずる親子三人であったが、あの日ベルの独白を唯一聞いていたアオイが、手掛かりを言い出す。

 

「そういえばベルが頭を打ったあと、お母さんって呟いてからああなっちゃった気がする」

「……んん? ベル、急にお母さまが恋しくなっちゃったのかな?」

「わりぃな、ベル。オレのカミさん、どうしても外せない用事で来れてねえんだ!」

「そもそもアローラまでわざわざ来れたのも、オレたちパルデアの大穴冒険した四人と、ボタンの父ちゃんと姉ちゃんだけだもんな」

「スグリたちも来られたらよかったんだけど」

 

 だんだん話が脱線しそうになるが、アオイがぱんっと手を叩いて意識を戻す。

 

「それより、ベルのいうお母さんだよ! たぶん、ピオニーさんの奥さんのことじゃないと思うよ。だってあんな風に悩んでるベルなんて初めてみたもん」

「ママじゃないって、じゃあ誰なん? まさかベル、この年でバブみを――」

「……ベルの本当のお母さんのことじゃないのか? もしかしたら、ベルのやつ記憶が戻ったのかもしれない」

 

 ペパーが鋭く指摘すると、おかしなことを言いそうになったボタンが恥ずかしそうに黙った。

 

「記憶が戻ったかあ。んじゃあ、エーテル財団に通した話は無駄じゃなかったな!」

「エーテル財団? なんでベルの記憶に関りがあるの、オヤジ?」

「……ベル坊はな、おそらくウルトラホールを通って、この世界に来た可能性が高いんだよ」

 

 ピオニーは普段とは異なるしごく真面目な顔つきで、秘密を明かすように静かな声で語った。

 

 

 

 

 

 突如として湧いてきた、知らない記憶。母かもしれない、灰色の髪をした女性。

 もしかすると、彼女は自分の母親なのかもしれない。

 

「…………お母さん、か。この記憶の人、本当に僕のお母さんなのかな?」

 

 ベルは一人、ベンチに座って呟いていた。いや、正確にはその隣にソルガレオが寝そべっている。心配そうにベルを見つめているが、ベルは苦笑いして頭を撫でた。

 

「だったら、嬉しいな。ねえ、ソルガレオ。なにもかも昔の記憶のない僕だけど、あの人をお母さんだと信じてもいいと思う?」

「ガウッ」

「うん、ありがとう。でも、会うことはできないだろうな。たぶん僕、あの空の穴を通って、カンムリ雪原まで飛ばされちゃったみたいだし」

 

 そういって自嘲するが、ソルガレオがコライドンのように顔を舐めて慰める。

 

「ははっ! くすぐったいよ!」

「――仲がいいんだな」

「……? どなたですか?」

 

 顔を嘗め回すソルガレオを引き離し、声のした方を向くと金髪の美丈夫がいた。男は「戯れているところ、悪いな」と謝るとベルの隣に座った。

 

「エーテル財団代表のグラジオだ。ピオニー元チャンピオンから話を聞いてお前に会いに来た」

「僕にですか? それにお父さんが?」

 

 そう疑問を投げかけるも、グラジオはしばらく黙ってソルガレオを見つめていた。まるで、かつての大切な何かを見ているような、優し気な瞳をしていた。

 しかし、そんなものはなかったかのように冷たく気取った表情に戻すと、ベルに顔を向けた。

 

「単刀直入にいおう。ベル・クラネル、お前はその記憶の中の母に会いに行きたいか?」

「………………えっ?」

 

 ベルの疑問の声が、夕焼けにこだました。

 

 

 

 

 

 グラジオの話を要約すると、こんな話になった。

 

 ベルは幼い頃に別の世界から、異次元に繋がるウルトラホールを通って、この世界に飛ばされてしまった。

 ウルトラホールを通って別の世界に来ると、人間は記憶を失ってしまう。だからベルも記憶が失われたのだが、今回のようになにかの拍子で元に戻る可能性もある。

 

 傍にいたコスモッグは、ウルトラホールを通っているさなかに偶然ついてきてしまったのだろう。

 コスモッグはウルトラビーストと呼ばれる特異なポケモンの一種で、ウルトラホールに繋がるウルトラスペースに生息しているらしい。 

 

 ――そして、ソルガレオに進化した今なら、ウルトラホールを通って元の世界に帰れるかもしれない。

 

 ソルガレオにはウルトラホールを開ける力がある。通る際の記憶の消失はソルガレオが防いでくれる。元の世界の場所もソルガレオが探索してくれる。

 

 しかし、絶対にたどり着く保証はない。たどり着くにしても、どれだけ時間が掛かるかわからない。

 この世界にはいつでも戻って来られるが、途中で休むために降り立った別世界で危険な目に遭うかもしれない。命を失うかもしれない。

 

「それでも帰りたいのなら、日輪の祭壇に赴くといい。ソルガレオがオマエの道を切り開いてくれる」

 

 グラジオはウルトラホールを渡るための保護スーツと、対ウルトラビースト用のウルトラボールの入ったケースを渡すと、もはやいうことはないと帰っていった。

 

「あっ、ちょっと待って下さい! もう少し詳しく話を――!」

 

 ベルの声が聞こえているのかいないのか、グラジオはリザードンに乗って飛び立っていった。伸ばした手が虚しく空を切る。

 

「…………君も僕と一緒で、別世界の迷子だったんだね。ソルガレオも故郷に帰りたい?」

 

 ソルガレオは別にそんなものはどうでもいいといわんばかりに、ベルにすり寄った。ベルは相棒の好意に頭を撫でることで応えた。 

 

「ありがとう、ソルガレオ。……でも、僕はどうすればいいのかな。記憶の中のお母さんに会いたい。でも――」

 

 言葉を一瞬詰まらせる。

 

「僕はこの世界が好きなんだ。だって、僕はずっとこの世界で育ったんだ。大事な人だっていっぱいいる。なのに、急に僕が異世界の人間なんていわれても……僕は、どうしたら…………」

 

 途方に暮れたベルは、弱弱しく呟いた。まるで迷子の子供のようだった。

 ソルガレオがベルの袖を引いているが、ベルはうつむいたまま動かなかった。

 

 そんなベルの肩を、あの日ベルを拾い上げてくれた大きな手が叩いてきた。

 

「会いに行きゃいいじゃねえか。ベル坊の本当の母ちゃんによ」

「……お父さん」

 

 ピオニーは暗い顔をした息子に、太陽のような暑苦しい笑顔を浮かべた。

 

「そう! オマエはドツエーオレの息子だ! ドスゲエ才能もった、自慢の息子だ! 別にオマエが異世界人だろうが、あっちの世界に帰ろうが、それだけはゼッテェ変わらねえ!」 

 

 バシバシと痛いくらいに背中を叩く。思わずむせると、ピオニーはベルの肩を抱きしめた。

 

「悩むくらいなら好きに生きりゃいいんだよ! ベル坊は難しく考え過ぎだ! オレたちのことが大好きなのは嬉しいが、あっちの母ちゃんにだって会いたいんだろう?」

「でも、こっちのお母さんに悪い気が――」

「バーカ! アイツがんな小さいこと気にするワケねえだろ! むしろケツ叩いて送り出すぞ」

「確かに! お母さんならそうする」

 

 ダハハッ! と二人で笑いあう。

 

「ありがとうお父さん。悩むくらいなら、会いにいってみるよ。それにここにはいつでも戻ってこれるって、グラジオさんがいってたしね」

「おう! 土産話、期待してるぜ!」

 

 そうしてまたダハハッと笑っていると、自分を忘れるなとソルガレオが割って入ってきた。

 

「あっ、ごめんごめん。心配かけたね。でも、もう大丈夫だよ」

「おうおう、ベル坊のことは任せたぜ、ソルガレオ!」

 

 当たり前だとソルガレオはピオニーのことを鼻先でつついた。

 

 なお、コライドンはサンドイッチをおなか一杯食べる夢を見ながら、ボールの中でよだれをたらしていた。

 まだまだ相棒の自覚が足りないなと、のちにソルガレオは鼻で笑った。

 

 

 

 

 

 翌日、ベルの誕生日会となったのだが、急遽お別れ会も兼ねることになった。

 

 突然の元の世界に帰るというベルの宣言に、みんなは驚いたが、今生の別れではないことを知って一安心し、心置きなくベルを見送ることにした。

 

 パーティー会場ではアローラに来られなかった人たちもビデオ通話でメッセージを送り、誕生日プレゼントもこの日に合わせて送られていた。

 中にはとんでもないプレゼントも紛れ込んでいたが、まあ、そこは割愛する。

 

 それからベルはアローラまでわざわざお祝いにきてくれた友達や家族と、一人ひとり話をした。

 

「ベル、向こうでかーちゃんに会ったら、うんと甘えろよ!」

「わかった、ペパー。今まで会えなかった分、まとめて甘えるよ!」

 

「ベルがいないと寂しくなるなあ。でも、帰ってきたらまたバトルしようね!」

「あはは、ネモは相変わらずだね」

 

「ううー、ベルぅー。アタシのこと忘れないでねー」

「忘れるわけないよ、アオイ。それに、ずっとお別れじゃないんだからさ」

 

「ハイドと協力して作ったボックス、向こうでも使えると思うから。……ガンバレ、ベル」

「ありがとう、ボタお姉ちゃん。これでみんな連れていけるから、心強いよ」

 

「ベル、ちゃんと向こうでも歯を磨くの忘れんなし。それからごはんもしっかり食べて、暖かくして寝て――」

「なんだかシャクお姉ちゃんがお母さんみたいだ」

 

「おう! 行ってこい、ベル坊!」

「はい! 行ってきます、お父さん!」

 

 そして次の日、ベルは日輪の祭壇に赴き、みんなに見送られながら旅立っていった。

 

 振り返らずに、でも、必ずまた戻ってくることを誓って。

 

 

 

 

 

 ウルトラホールの中はまったくの未知の空間であった。テレビでみた宇宙空間に似ているが、空間が不安定であちらこちらにワープホールが空いている。

 

 移動方向はソルガレオに任せてはいるが、ベルはソルガレオを巧みに操り道中のエネルギーを回収してはソルガレオの力とし、ビリビリしたものを避けて先に進んだ。

 

 体力が尽きそうになれば近くのワープホールに入り込んだ。その先は大概は小さなウルトラスペースで野生のポケモンが生息していたり、時には伝説のポケモンだったりと色々なポケモンに出会えた。

 

 カンムリ雪原で遭遇したウルトラビーストが生息する、ウルトラスペースにたどり着くこともあった。

 小さい頃は異世界のポケモンだとは知らなかったが、よくよく見ると不思議な姿形をしているので、今では納得感しかない。生息地も多種多様な光景で、まるで観光しているような気分になれた。

 

 危険なこともたくさんあった。でも、自慢の友達でもあるポケモン達に協力してもらって、どうにか切り抜けている。

 

 まったくの未知なる別世界にたどり着くこともあった。

 

 ポケモンがいた世界に似ているが、ポケモン自体は生息していない世界。

 魔法が使え、魔法を至上としている世界。

 宇宙空間に生息域を作り、宇宙船が飛び交っている世界。

 

 それ以外にも様々な世界にたどり着いた。先を急ぐので長居はできなかったが、できればもっと見て回りたかったくらいだ。

 

 いつか落ち着いたら、ウルトラスペースを旅するのも楽しいかもしれない。ベルは本来危険であるはずのウルトラホールにすっかり順応していた。

 

 そうしてスマフォロトムの時計で一週間は過ぎた時、ソルガレオが今までにない反応を示した。ベルを伺うように顔を上げ、一言吠える。

 言葉は伝わらないが、それだけで目的の場所にたどり着いたのだとわかった。

 

 今までの苦労をいたわるようにソルガレオの首筋を一撫でする。

 目の前にソルガレオが指し示したワープホールが見えてきた。知らずにソルガレオに捕まる手に力が入る。

 

「もうすぐお母さんに会える……!」

 

 期待と不安に胸を躍らせ、ベルはワープホールに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 ワープホールを抜けたベルは、ゆっくりと瞼を開いた。

 

 眼前にたくさんの街並みが広がっていた。ところどころ壊れているが、人の生活感を感じられる。どうやら無人ではないようだ。

 

「よかった、人がいる街に出られて。お母さんの情報を聞けるかも。……でも」

 

 街を出歩いている人が極端に少ない。突然開いたウルトラホールに驚き空を見上げているが、街の大きさに比べて数えられるぐらいの人しかいなかった。

 

 やがて空中に浮かぶソルガレオに気づいた住人が、ソルガレオを指差して突然叫んだ。

 

「も、ももも、モンスターだ!!」

「いやああああ!! また闇派閥(イヴィルス)なの!?」

「冒険者は何をやっているんだ!! 早くあいつを殺せよ!!」

 

 住人たちの怒号が響き渡る。

 

 ――まずい、ポケモンを見せちゃダメな世界だったか。何度か訪れた別世界では、今のようにソルガレオを恐れて攻撃してきたこともあった。

 

「この高さだし、まだ僕の顔は見られてないだろうけど、早く身を隠さないと!」

 

 着陸して、ソルガレオをしまえるような場所がないか。ベルは必死になって街並みを見渡した。

 幸いにも人の数は少ない。無人の空間を見つけるとベルはそこへソルガレオを直進させた。ソルガレオは目にもとまらぬ速さで駆け抜け、一般人にはどこに降り立ったかわからないだろう。

 

 ――そう、高レベルの冒険者でない限りは。

 

 たった一人、ドレスをまとった美しい女性が、ソルガレオの姿をベルともどもはっきりと捉えていた。

 

 

 

 

 

 まるで運命に導かれたように、ベルが降り立ったのは古びた教会だった。

 

 急いでソルガレオをボールに戻し、周囲を確認する。どうやら隠れている人もいないみたいだった。一安心したベルは、目の前の教会を見上げる。

 

 教会には夕焼けが差し込んでおり、それも相まって神聖な雰囲気が漂っていた。

 

「……キレイだなあ」

 

 思わず感嘆がこぼれる。ベルの育った世界ではあまり見かけない建物だ。旅をしている中で一番似ているのは、シンオウのヨスガシティにあった建物か。

 

 そのまましばらく教会を見上げていると、誰かの足音が聞こえてきた。足音は迷うことなくベルへと近づいてくる。

  ベルはもしかして降りるところを見られて、追いかけてきたのかと焦りながらも後ろを振り向く。

 

 

 そこには、唯一の記憶と寸分たがわない、灰色の髪をした、神秘的にまで美しい女が立っていた。

 

 

「…………え?」

 

 思わず目を擦る。しかし、何度擦っても目の前の女性は消えない。昔ゴーストポケモンに見せられた幻なんかじゃない。本物だった。

 

 女は黙ってベルを見つめていた。信じられないものを見るかのように、翠と灰のオッドアイを震わせ、なにかを口にしようとしては失敗していた。

 

 ベルも目の前の光景が信じらず、ただ口を開けたまま動けないでいた。

 しかし、懐にしまったボールが微かに揺らいだ。励まされたように感じ、ベルが勇気をふり絞って言葉を紡ぐ。

 

「…………あの、僕の名前はベル・クラネルといいます」

 

 その名を聞いて、女の美しい顔が幽霊を見たかのようにこわばる。ベルはそんな女の様子に気づく余裕もなく、必死に言葉をつなげる。

 

「僕、もうすっかり大きくなっちゃったから、わからないかもしれません。でも、でも……あの日、アナタが手を伸ばしてくれた子どもです」

 

 うまく口が回らない。それでも、ベルはとまることなく言葉を続けた。

 

「…………アナタが、僕のお母さんなんですか?」

 

 ベルは最後まで聞きたいことを言い切った。高ぶった感情で目の端から涙がこぼれ落ちる。

 視界が歪み、目の前の母かもしれない女性の姿がゆがむ。

 

 それでもベルは、彼女をまっすぐに見つめていた。

 

 灰色の髪の女は震えていた。必死に高ぶる感情を制しようとする。

 しかし、もう我慢できないとばかりに身体が勝手にベルへと駆け寄り、その身を優しく抱きしめた。

 

「……ああ、ああ! そうだ。私がお前の母だ!」

 

 その日、ウルトラホールで別たれてしまった母子が、八年もの年月が経ってようやく再会できた。




アルフィア、マザーパワー発動!

実は叔母? 細かいことはいいんだよ!
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