伝統あるビジネス誌として知られ、サラリーマン向け自己啓発誌としても名高かった『実業の日本』。かつて1970年代から足かけ10年も続いた写真家・富岡畦草(けいそう)による「タイム・トンネル 定点撮影で見る10年ひと昔」という連載記事があった。
銀座、新橋といった繁華街から築地、大森のような街場まで、首都圏各地を、同じ場所から過去と現在を1カットずつ比較撮影していた。超ロングランに渡るその熱意に打たれる。
2000年代初頭の同誌では「にっぽん都市再生計画」というカラー企画が連載されていた。ちょうどその頃、東京でさまざまな都市計画がスタートした記録だが、わずか十数年前でも「あーっ、こんな風景だったなあ」と思いだして驚かされる。
01年5月号では「汐留プロジェクト」を紹介しているが、当時、浜松町方面から空撮されたカットには、まだ日本テレビも電通本社もなく、浜離宮と周りの空き地が広がっている。同年6月号では「六本木ヒルズ」が取りあげられるが、やはりまだ鉄骨数本が打ち込まれている写真だけが紹介される。
同7月号の「品川グランドコモンズ」も「これからこうなりますよ」との思い入れの高層ビル群パースが掲載され、ほとんど目立つ建物のなかった同駅東口にクレーンが多数突き刺さる風景だ。「地元ではこのあたりを(中略)さびし側と呼んだ」と書かれているのもナットク。 同12月号の二子玉川駅東口は21世紀初頭でもまるで昭和テイストの一帯。今やライズショッピングセンターや蔦屋家電が並び、楽天本社も移転してくるなど最先端の街だが、当時は古ぼけた商店がぽつぽつ並び、バスロータリーのみのうら寂しい地域にみえる。
変貌は街ばかりではない。同年8月号「天下を取る会社」特集では「am/pmジャパン」が登場するが、現在同ブランドはファミリーマートに完全吸収され名前も消えてしまった。
同10月号では「ビックvsソフマップ 有楽町量販店戦争、勃発せず!?」と報じられている。同地に進出したソフマップとビックカメラを取り上げ、2店とも回遊による相乗効果が上がりそうと描かれる。しかし、現在ではソフマップはビックカメラの傘下となり、ビック有楽町店内でPC修理などを担当するコーナーと化している
今と比べ、最も違うのは毎号グラビアページに登場する各界トップやマネジメントの年齢だ。80年代前半までは軽く80歳は超えた経営者が、店舗の見回りをしたり会議をリードしたりする姿が見られる。
休日は田園調布や浜田山の高級住宅街の自宅書斎で囲碁の手を研究したり、下駄ばきでこれまた豪華な庭に出て鯉に餌をやったりしている。長老が君臨する時代というのがかつてあったことを思い出すなあ。 (矢吹博志)
■実業の日本 誌名:「実業之日本」→「実業の日本」(1965年以降)→「JN」(2001年以降) 発行:実業之日本社(旧大日本実業学会) 創刊号:1897年6月号 10銭 休刊号:2002年3月号 650円