Q 息子が祖父から「男なのにめそめそするな」と言われ、気になりました。

ジェンダーバイアスは自分自身にかける呪い

「男(女)なのに」と性別だけを理由に圧力をかける、枠にはめることをジェンダーバイアスといいます。

ジェンダーバイアスは個性をなくし、人生の選択肢や豊かさを狭める呪文のようなもの。「男(女)だからこうしなくてはならない」と自分自身に呪いをかけてしまうことが一番大きな問題だと考えます。

ジェンダーバイアスは無数に積み重なり、性差別的な社会のあり方につながっています。時代を超えて連鎖するので、意識的に断ち切らないと子どもたちへも受け継がれてしまいます。

ジェンダーの無自覚はセクシャルハラスメントや性加害につながることがあります。例えば子どもたちの好きなマンガの中にある「入浴中の女性をのぞけるかも」と男性が喜ぶシーン。読者を笑わせたい意図があるのですが、女性が対等の目線で描かれておらず、のぞかれる女性の立場になったら全く笑えません。こういうとき私は「このマンガはおもしろくて好きだけど、この場面はよくないと思うんだよね」と話します。

ポイントは、作品を否定するのではなく、よくない点を指摘するということです。祖父の発言も機会にして、祖父のことは否定しないよう言葉を選びつつ、発言について親子で考えてみてはどうでしょうか。

子どもから学ぶ、子どもと一緒に学ぶ

メディアや身近な人からの言葉だけではなく、保護者が子どもにジェンダーバイアスをかけていることもあります。よくある二大場面は教育と家事。私のまわりでも「男の子なのにのんびり勉強していて心配」「女の子だから料理できないと」といった声を聞きます。

まずは保護者自身のジェンダーバイアスを考えてみるとよいですね。つい性差別的な発言をしてしまうこともあるかもしれません。そんなときは誤りを認めて、改める姿勢を見せるのもよい教育になるでしょう。

今はしっかりとしたジェンダー教育をしている小学校も見られます。保護者より子どものほうが進んだ考え方をしていることも十分にあり得るのです。

子どもが自分と違う価値観を示したとき、保護者は動揺するかもしれません。でも、子どもは新しい時代を生きていくのだと考え、子どもから学ぶ、子どもと一緒に学ぼうとする姿勢をもっていてほしいと思います。

プロフィル 太田啓子(おおた・けいこ)

弁護士。セクシャルハラスメントや性被害、離婚、相続などを多く手がける。おもな著書に『これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン』(大月書店)がある。二児の母。

プラス1 教わってこなかったことは本に頼る

太田さんは「大人が教わってこなかったこと、自分の価値観にはなかったことを子どもに伝えるのは難しいですよね。本に頼るのもよいと思います」と話します。海外の絵本から2冊紹介してくれました。

太田啓子さんおすすめの本

『タンタンタンゴはパパふたり』
文:ジャスティン・リチャードソン、ピーター・パーネル 絵:ヘンリー・コール 訳:尾辻かな子、前田和男(ポット出版)

『女の子だから、男の子だからをなくす本』
著:ユン・ウンジュ 絵:イ・へジョン 監修:ソ・ハンソル 訳:すんみ(エトセトラブックス)

生教育プロジェクトは、「性を学ぶことは、生きるを学ぶこと。」をテーマに掲げ、子どもたちに性や命についてきちんと教えることを目的としています。

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https://www.asagaku.com/sex-ed.html

(朝小かぞくの新聞2024年2月20日号)