Part 01: 魅音(私服): ……いくらなんでも無理だよ、詩音!村おこしのためだって言ってもここを使うなんて、婆っちゃが許すはずないって! 詩音(私服): そこをなんとかするのが、お姉の役目でしょうが!#p雛見沢#sひなみざわ#rでもこの屋敷以上に歴史を感じさせる建物はない、って胸を張って豪語していたくせに! 魅音(私服): 胸なんか張っていないし、豪語もしていない!だいたい、婆っちゃや村の年寄り連中を説得するのは私なんだから、無責任に気安く言わないでよねっ! 詩音(私服): 気安くも何も、忌憚なく意見や提案を出せって言ったのはお姉じゃないですか! 一穂(私服): ど、どうしよう美雪ちゃん……? 美雪(私服): んー、まいったね。なんにせよ、どっちかが折れてくれないと話の進めようがないんだけどな……うん? 圭一(私服): おー、一穂ちゃんに美雪ちゃん。まだ昼前なのに、もうみんな揃っていたんだな。 レナ(私服): あっ……圭一くん。わざわざ#p興宮#sおきのみや#rから来てくれたんだね、ありがとう。 圭一(私服): まぁ、言い出しっぺで大役を仰せつかった以上はやる気のあるところを見せておかねぇとな……って。 圭一(私服): どうしてみんな、縁側に出ているんだ?しかも中から、魅音と詩音の大声が……。 詩音(私服): お姉の頑固者ー!! 魅音(私服): 詩音のわからず屋ー!! 圭一(私服): ……あの2人、今にも本気の喧嘩に突入しそうな勢いだな。何があった? 沙都子(私服): 突入しそう、ではなく激突の真っ最中ですのよ。お互いに手を出していないだけ、まだ理性を保っているのかもしれませんけど……。 沙都子(私服): あの場所にいるとうっかりヒートアップして火の粉が飛んでこないとも思えませんので、とりあえずこちらに避難しているのですわ。 梨花(私服): ……みー。まさに竜虎の戦いが繰り広げられていると言っても過言ではないのですよ。 菜央(私服): この場合、どっちが竜でどっちが虎なのかしら?竜は魅音さんが似合いそうだから、詩音さんは……虎? 沙都子(私服): をーっほっほっほっ!詩音さんが虎でしたら、さしずめ誰彼お構いなしに襲いかかる凶暴なアムールトラですわね~! 一穂(私服): アムールトラって……他の虎とは違うの? 沙都子(私服): 他の虎より、一回り大きい体格なんですのよ。寒さにも耐える分厚い毛皮と、鋭い牙に爪……まさに今の詩音さんのような暴れ者ですわ。 一穂(私服): そうなんだ。沙都子ちゃん、物知りなんだね。 沙都子(私服): をーっほっほっほ! たまたまですわ。最近パワー系トラップの開発に力を入れていますの。 梨花(私服): この前テレビの動物番組でやっていたのですよ。 沙都子(私服): り……梨花ぁ! 羽入(私服): あ、あぅあぅ……沙都子、まずいのですよ。そんなことを言って詩音の耳に入ったら、あとで酷い目に遭わせられるのですよ。 沙都子(私服): 大丈夫ですわ、羽入さん。お二人ともあれだけ盛大に怒鳴り合っているのですから、この程度の声が届いているわけがありませんのよ。 詩音(私服): ――届いていましたが、何か? 沙都子(私服): ひっ……ひいいぃぃぃいいっっ?ど、どどど、どうして聞こえたんですの?! 詩音(私服): だって、詩音イヤーは地獄耳ですので。とりわけ沙都子の声だったら、針が落ちた程度でも聞き分けることができますよ……くっくっくっ。 沙都子(私服): それはもはや地獄耳を通り越して、鉄腕なロボットに匹敵する聴力でしてよ?! 詩音(私服): まぁ、沙都子への折檻はさて置くとして……お見苦しいところを見せてしまいましたね、圭ちゃん。せっかく来てくれたのに、すみませんでした。 圭一(私服): あ、いや……この光景は別に珍しくもねぇしな。それより、何を揉めていたんだ? 魅音(私服): よくぞ聞いてくれた、圭ちゃん!詩音のやつがもう、ホント酷いんだよー?私の話を全然聞いてくれなくてさー! 詩音(私服): げっぷが出るほど聞いているじゃないですか。ただ、お姉の案だと色々と支障が生じる恐れがあって難しいのでは? って忠告しているだけです。 魅音(私服): やってもいないのに、なんで満足しないって断言できるんだよっ! 詩音の案こそ、村の保守的な連中が激怒するレベルだっつの! 詩音(私服): それこそ、やってみなきゃわからないじゃないですか!だいたいお姉は、いつも思い込みが――! 美雪(私服): あー、はいはい。2人とも、いい加減そのくらいにしておきなって。わざわざ前原くんが来てくれてるんだからさ。 レナ(私服): はぅ……魅ぃちゃんも詩ぃちゃんもいいものにしたいって気持ちはよくわかるけど、みんなの意見も聞いてもらいたいかな……かな。 魅音(私服): っ……ごめん、レナ。私と詩音だけで喧々諤々していたんじゃ、自分勝手に決めるのと同じだもんね……。 詩音(私服): ……確かに、少し熱くなりすぎました。少し腰を据えて、話し合うのもいいかもです。 圭一(私服): まぁ、お互いに落ち着いてくれて何よりだ。まず話を始める前に、なんか飲み物をもらっていいか?ここに来るまでで、ちょっと喉が渇いちまったからさ。 魅音(私服): それなら、ちょうど麦茶が冷えているよ。全員のグラスを持ってくるから、みんなも居間に上がって待っていて。 詩音(私服): あ……手伝いますよ、お姉。これだけの人数分となれば、1人だけだと危なっかしくなりそうですから。 一穂(私服): ……ふふっ。あれだけ言い合っていても、やっぱり2人は仲良しなんだね。 菜央(私服): 喧嘩するほど仲が良い、の典型ってところかしら。言いたいことを言いたいだけ言い合ってたものね。 菜央(私服): ……あたしにお姉ちゃんがいたら、あんな感じに口喧嘩をすることもあったのかな……。 レナ(私服): あははは。そうだね、喧嘩しちゃうこともあるかもね。 菜央(私服): ……っ……。 一穂(私服): レ、レナさん……?! レナ(私服): 喧嘩ってね、そんなに悪いことじゃないと思うんだ。本当はとっても仲良しな魅ぃちゃんと詩ぃちゃんが、こうやって喧嘩しちゃうことがあるんだもん。 美雪(私服): ま、お互い姉妹と言えど別の人間だからね。別の意見持ってても、当然だし。 レナ(私服): 喧嘩しちゃうのは、お互いが持ってる違う意見をちゃんと言い合っている証拠だと思うんだ。 菜央(私服): でも、好きな人が相手なら喧嘩したくない……嫌な空気になっちゃうのは、レナちゃんも嫌でしょ? 圭一(私服): けどよ、喧嘩を遠慮して取り返しのつかない展開になったら……もっと嫌じゃないか? 菜央(私服): それは……。 美雪(私服): 結局のところ時と場合と内容、相手との関係性によるだろうね。 一穂(私服): だったら、どうしたらいいのかな……? 菜央(私服): その時々で言うべきか言わないべきか状況を見て考えろ、ってことでしょ? 美雪(私服): その通り! んじゃ、嵐も過ぎ去ったことだし改めて中で寛がせてもらうとしますか……んー? 沙都子(私服): …………。 羽入(私服): あ、あぅあぅ……どうしたのですか、沙都子? 梨花(私服): つん、つん。……この後に控える詩ぃの折檻に恐怖して、立ったまま気絶しているのですよ。 一穂(私服): あ、あははは……。 Part 02: 圭一(私服): ……で、そもそもの話に戻るんだが。魅音と詩音は、何を言い争っていたんだ? 魅音(私服): 聞いてよ、圭ちゃん! 詩音がさー……! 圭一(私服): 待て待て、魅音。その出だしだと、さっきの繰り返しになって元の木阿弥ってやつだぞ? 魅音(私服): うっ……それを言われると……。 詩音(私服): じゃあ、私から説明をさせていただきますね。前にお話をした通り、温泉街の観光客への演し物として私たちで時代劇をやるわけなんですが……。 詩音(私服): まず場所をどこでやればいいかで意見がぶつかって、さっきみたいな言い合いになってしまったわけです。 圭一(私服): ……なんだそりゃ。そんな、2台詞でまとまる程度の内容であそこまで怒鳴り合いの口論に発展したってのか? 詩音(私服): ……圭ちゃん、そんな言い方はあんまりです。時代劇をやるにしても、どこで演じるかによって観るお客さんの印象は変わってくるんですから。 圭一(私服): お、おぅ……確かに詩音の言う通りだな。俺の言い方が悪かったぜ、すまねぇ。 詩音(私服): あ、いえ……私こそ剣呑な言い方になって、すみません。 詩音(私服): お姉にも、勢いに任せてつい無茶を言いました。この園崎本家の屋敷だったら条件的にいける、と思ったらつい、鬼婆の存在を軽く考えてしまって……。 魅音(私服): あ、いや……詩音が色々と考えた末にここの屋敷を使いたい、って言い出した気持ちは私もよくわかっているつもりだよ。けどさ……。 詩音(私服): えぇ、お姉の言いたいことも理解できました。ですからこの案は、納得の上で撤回させてもらいます。 詩音(私服): とはいえ……温泉街の路上でやるというお姉の案も、見物客と通行人の流れで混雑することを考慮すると周りの店の邪魔になるので、厳しいと思います。 詩音(私服): それに、雨が降った時の回避策も含めるとできれば屋内がいいんですよね。となると、他にどこが……うーん……。 レナ(私服): 詩ぃちゃん。せっかく全員集まったんだから、ひとりで考え込まないでみんなで考えてみるのはどうかな……かな? 菜央(私服): そうね。場所を選ぶというのも大事だけど、どんな演目をやるかによって舞台の設定が変わってくるんだから。 美雪(私服): だね。……ちなみに、菜央の意見は?確かキミは今のところ暴漢に襲われる町娘として、前原くんに助けられる役回りだったよね。 菜央(私服): うーん、あたしは……京都の時代村みたいに温泉街の路上なら無難でいいかなって思ってたんだけど、詩音さんの心配を考えたら別の場所にすべきでしょうね。 菜央(私服): こうなったらいっそ町娘じゃなく、舞台に合わせた他の役に変えるのもありかも……かも。 魅音(私服): ふむ……舞台に合わせた、他の役かぁ……。 詩音(私服): 菜央さんが着る予定の衣装だと、お茶屋さんの給仕くらいしか思いつかないんですよね。かといって、衣装を替えるのは少し勿体ないし……。 梨花(私服): みー。町娘の衣装は汎用性が高いようで、あまり高くないのが難点なのですよ。 沙都子(私服): ですわねぇ。お侍役の圭一さんと組ませようにも、どこがいいのかすぐには思いつきませんし。 圭一(私服): いっそのこと、場所を適当に挙げてみてサイコロを振って出た目で決めるってのはどうだ?どんな役回りになるかは、運任せってやつでさ。 魅音(私服): ちょっと圭ちゃん、さすがにそれは乱暴すぎるよ。出た目次第で、菜央ちゃんに無茶振りをすることになっちゃうかもしれないんだからさ。 圭一(私服): そっか……そうだよな。悪ぃ、また余計なことを口出ししちまったか。 菜央(私服): サイコロ……運任せ……。 レナ(私服): はぅ……どうしたの、菜央ちゃん? 菜央(私服): ううん、なんでも……。 菜央(私服): …………。 菜央(私服): あの、魅音さん。 魅音(私服): ん、どしたの? 菜央(私服): もしよかったら、ちょっとやってみたい役があるんだけど……魅音さんの協力が必要だと思うの。 魅音(私服): 私の? 菜央(私服): えぇ。よかったら、手伝ってくれないかしら? Part 03: 菜央(時代劇): さぁ、張った張った!この壺の中にあるサイコロの目は半か、丁か? ごろつきA: よし……今度こそ丁だ!俺は丁にかけるぜ! ごろつきB: 俺も丁だ……!次でこれまでの負け分、全部取り返してやらぁ! 菜央(時代劇): そこの色男のお兄さん、あんたは何にかける? 圭一(時代劇): …………。 圭一(時代劇): そうだな。俺は……半だ。今までに勝ってきた分、全て賭けるぜ。 菜央(時代劇): あいよ。さて、これで出揃ったかい?では、勝負っ……出目は、五二の半っっ! ごろつきA: んなっ? あ、ありえねぇ……! ごろつきB: い……イカサマだ! こんな貧乏侍風情が、ここまで勝ち続けられるはずがねぇだろ?!誰か、親分を呼んでこい! ごろつきA: 素人にここまで大金を持っていかれたんじゃ、商売あがったりだ! フクロにして畳んじまえ! 圭一(時代劇): くっくっくっ……ようやく尻尾を出しやがったな。 圭一(時代劇): ――御用改めである!この場の全員神妙にして、お縄につきやがれッ! ごろつきB: なっ……う、うそだろっ?! ごろつきA: やべぇ、逃げるぞ……って? 菜央(時代劇): くすくす……まんまと罠にはまったね?実はあたしも、このお侍さんの仲間なのさ……! ごろつきB: ぎゃっ……ぎゃあぁぁぁあああぁっっ?! 詩音(私服): お疲れ様です……菜央さん、圭ちゃん!賭博場での立ち回り、とてもよかったですよ。 魅音(私服): いやー、ちょっと急展開だったけどそれがかえってお客さんたちの目を引いてすっごく盛り上がったよー! 菜央(時代劇): そう?……あたしの役回り、変じゃなかった? 一穂(私服): ううん、そんなことないよ……!すごく迫力があって、とってもカッコよかった! 美雪(私服): おぅ……?なんだ、せっかくの着崩しを直しちゃったんだね。なかなか似合ってたと思うんだけど。 菜央(時代劇): 役で崩してただけよ。ずっと肌を見せてたら、はしたないじゃない。あたしのことをなんだと思ってるの? 露出狂? 美雪(私服): いや……本物の露出狂ってのは、肩どころか見せちゃいけないところまですっぽんぽんの輩のことを言うんだけど……。 美雪(私服): けど、まさか女博徒の役がここまではまるなんてね。正直ちょっと、びっくりしたな。 レナ(私服): はぅ~♪いつもの可愛らしい菜央ちゃんも素敵だけど、ミステリアスな役もすっごくかぁいいよ~! 圭一(時代劇): 確かにな。なんか不思議な凄みがあって、思わず圧倒されそうになったぜ。 菜央(時代劇): ……一度、こういうのやってみたかったのよ。普通に過ごしてたら、絶対にできないじゃない? 菜央(時代劇): でも、ちゃんと役として形になったのは魅音さんがきちんと教えてくれたおかげね。 魅音(私服): いやいや、生徒のスジがよかったからだよ!私も最初は教えるか迷ったけど……チラッ。 美雪(私服): 役は役だからね。よい子の菜央は逮捕されるようなおかしなことをしでかさないから。 美雪(私服): ……でも魅音、賭博は犯罪だからね? 魅音(私服): わ、わかってるって!私だってこんなことで小銭稼ぎなんてしないっての! 圭一(時代劇): 大金稼げるならやるのか……? レナ(私服): 圭一くん、しー……! 魅音(私服): ……にしても、この古びた集会所を舞台に使うとはね。発想の転換というか、ナイスアイディアだよ。 詩音(私服): えぇ。良い感じにボロ……もとい、年季が入っているおかげでリアリティがありました。 菜央(時代劇): それじゃ、次の現場ね……!詩音さん、車はもう呼んでくれた? 詩音(私服): もちろん。石段の下で、うちの葛西の車が待機しているはずですよ。 菜央(時代劇): じゃあ、それでお願い!次は町娘で、給仕役よ……! 菜央(時代劇): いらっしゃいませー!先程はあたしたちのお芝居を観ていただきまして、ありがとうございましたー! お客A: あら……さっきの可愛い女ヤクザさんじゃない。ここではお給仕さんの役回りなの? 菜央(時代劇): はい! ご注文はいかがですか?おすすめはお団子とお茶の時代劇セットです! お客A: じゃあ、それをいただこうかしら。あとは……。 お客B: お嬢ちゃん、こっちも注文をお願いしていいかー? 菜央(時代劇): はーい、ただいま! 魅音(私服): なるほど……考えたね。舞台を終わった後の挨拶を兼ねたおもてなしで、今度は町娘役も演じるってわけか。 詩音(私服): これなら、終わった後ということで場所が昔ながらでなくても違和感がありませんしね。本当に大したものです、菜央さんは。 レナ(私服): はぅ~!町娘として働く菜央ちゃん、かぁいい……☆お持ち帰りした~ぃ……♪ 魅音(私服): にしても、なんかイキイキしてるね。 詩音(私服): やっぱり人間、言いたいこと言ってやりたいことをやる……そういう人生が一番楽しく元気に過ごせるってことでしょう。 羽入(私服): 女博徒の次は、町娘……くノ一のように変幻自在なのですよ、あぅあぅ。 羽入(私服): 次はどんな姿を見せてくれるのか、とっても楽しみなのです!