「ああ、そういえばライラに話があったんだった」
ゲーム内でケーキを食べながらお茶を嗜んでいると、レアが唐突にそう言った。
照れているのか何なのか、ライラが家に戻ってからレアから話しかけてくることは稀だ。これはまさしくレアケースだと、ライラは内心ニヤリとした。
「え、なになに?」
「ライラのVRベッド、廊下に出していい?」
ノリノリで聞いたら酷い内容だった。しかも唐突である。
「なんで!? 駄目だよ! 廊下に私物置いたら全部捨てるってお母様に言われてるし!」
母はレアに甘く、ライラに厳しい。祖母は放任気味というか、躾に関してあまり口を出さないが、その分母が厳しくしている。レアはすでに自力で稼いでいるからか、多少のオイタは許されているが、ライラに対してはトイレの電気を消し忘れただけで烈火の如く怒ったりする。
「わたしの部屋もだいぶ手狭になってきたからね」
「ぬいぐるみじゃん! 部屋のインテリアほぼぬいぐるみじゃん! 廊下に出すならあのクソでかブロッコリーとかにしなよ! レアちゃんの私物なら多分お母様も何も言わないし!」
レアの部屋には、VRベッドと机、それからぬいぐるみ、ぬいぐるみを置く棚くらいしかない。年の頃を考えれば化粧台くらいあっても良さそうなものだが、そういうものはない。ライラも必要なときは母のものを借りるので、実家に戻る際に処分してしまった。
「ブロッコリーじゃないよ失敬な。あれは世界樹だよ」
「世界……あ、トレの森のやつか! それで茎が茶色だったんだ。あれ幹だったんだね。てっきり腐ったブロッコリーかと」
ブロッコリーは加熱しすぎると茶色に変色することがあるので、そっちかもしれない。いずれにしてもそんなニッチなぬいぐるみを作る意味がわからなかったが、ようやく謎が解けた。
「ベッド廊下に出しとくね」
「ごめんて! でもべつに今でも十分生活できてるでしょ? 私のベッド出す必要なくない?」
「明日新しいのが届くんだよ。そのためのスペース空けないと」
「新しいの……? ブロッ──世界樹のぬいぐるみがあるし、アリとか犬とか猫耳とかのぬいぐるみが置いてあることを考えると……眷属をぬいぐるみにしてるのか。次はガイコツでも増やすの? 合体させたやつ」
「ううん。ウルルとユーベルが届くの」
「ウルル……ってアダマンタロスか! 城なみにでかいやつ! あのねレアちゃん。ぬいぐるみってのはもともとデフォルメされて作られるものだから、元が大きいからって大きいぬいぐるみにする必要はないんだよ?」
「何言ってるの。デフォルメっていうのは、そのものの持つ特徴を強調して表現するものなんだよ。世界樹もウルルもその大きさこそが最大の特徴なんだから、ぬいぐるみも大きくしなくてどうするのさ」
「ううううん、大きさが特徴って言ったらそうなのかもしれないけど、デフォルメするときにあえて採用すべき特徴かって言ったら違う気がする……! あとユーベルってあの双頭竜のことだよね? あの子はそんなめちゃくちゃでかいって感じじゃなくない?」
「ユーベルはカッコいいから大きく作ってもらった」
「採用基準がガバすぎる!」
「まあ、ライラがそこまで言うならしょうがない。ウルルとユーベルのぬいぐるみは天井から吊るすことにするよ。手伝ってよね」
「おお、ありがと。手伝う手伝う。でもあの、ユーベルはともかくウルルも吊るすの……?」
飛行能力を持つユーベルはわかるが、あの巨体が空中にあるというイメージはあまり浮かばない。
「そうだよ。位置的にはライラのベッドの真上かな」
「……そういえば、レアちゃんポートリーが占領してた街一日で滅ぼしてたよね? あれどうやってやったんだっけ?」
「教えない」