「アマーリエ、だっけ。あんたを呼んだのは他でもない」
そうケリーに言われたアマーリエは、我知らず身を竦ませた。他でもない、という言い回しをした以上、何か呼ばれるべき明らかな理由がアマーリエにあったということだ。
正直心当たりは全くないが、とりあえず神妙にしてわかっていますという顔をしておく。
ケリーはアマーリエたちの主の一の子分を自称している眷属だ。それが事実かどうかは新参者のアマーリエにはわからないが、主に関しては厳格な眷属たちが誰も否定していないのでおそらく事実なのだろう。
「あたしはあんたにとって先輩だ。ボスに使われるってことに関してはね」
「はい」
と貴族特有の如才なさで答えはしたが、意味がわからない。ボスに使われていると言うなら眷属全員がそうなのでは。
「だから呼んだのさ。ボスに直接使われるのは、言うまでもなく大変に光栄なことなんだが、体に大きな負担がかかるのも事実。そのあたりのことを後輩に手ほどきしとこうと思ってね。ま、優秀な後輩さんはすでにお見通しだったみたいだけど」
貴族がするような当てこすりではなく、純粋にアマーリエを優秀だと思っているらしいケリーの言葉に、アマーリエは誇らしいような申し訳ないような感覚に襲われる。
「こいつはボスが常々言っていることなんだが、戦闘において重要なのは高めた能力値ではなく、そいつを活かして体をどう動かすかだ。そこが甘い奴はいくら数字上は強くたって怖くはない。ボスがあたしらの体を使うとき、そのへんの違いが戦闘力の差として出てくる」
ようやくわかった。ケリーの言う先輩後輩とはつまり、主が直接肉体を操作することについてのことなのだ。
そしてケリーのこの言い方からすると、自分自身よりも主が肉体を操作したときの方が戦闘力が高くなるのだろう。
ケリーが自分を呼んだのは、主が肉体を操作する際の注意点とかそういうものを教えるためなのだ。
「体の動かし方が違うってことは、普段はやらない動かし方をするってことだ。そんでまあ、何が言いたいかってーと、ボスに使われたあとは体の節々がめちゃくちゃ痛くなるってことなんだよ」
「そんなことが……。では、ケリー……先輩が私をお呼びになったのは」
「そうさ。そうなる前に、あらかじめ稽古を付けてやろうと思ってね。普段やらない動きをするから痛くなるってんなら、あらかじめそのための訓練をしときゃあ緩和できるはずだ。あたしはボスに使われるのは慣れてるからね」
ケリーは二本のショートソードをいんべんとりから取り出し、片方をアマーリエに手渡した。
「ボスは格闘が得意なんだ。あたしを使うときは剣を振るうけど、それもできるだけ軽いほうが好きなんじゃないかと思う。だからアマーリエ、あんたの時も多分ショートソードを使うはずだ。そいつで訓練するよ」
なんと優しい先輩だろうか。
アマーリエはケリーを心からの尊敬の眼差しで見つめ、元気よく答えた。
「はい! よろしくお願いします、ケリー先輩!」
後日アマーリエがレアに渡されたのは、妙な形をした異常な重さの槍だった。
アマーリエは筋を痛めた。
教えを請うならこの槍を用意したレミー先輩にしておくのだった、と思ったとか。