エルンタールの領主館。
その中でも最も広く、さらにバルコニーが備え付けられている部屋に、三つの人影があった。
ひとつは長い髪を両サイドで束ねた男装の麗人。
ひとつは全身に鎧をまとった老齢の男性。
そしてもうひとつは、二足歩行する巨大なクワガタ。一個だけ人影じゃないのが混じっている。
目を凝らして見なければわからないが、薄暗い部屋の隅には三人の女性の影が控えていた。
「第一回四天王会議を開催します!」
ツインテールの人影──ブランがそう宣言すると、老齢の人影ディアスがぱちぱちと拍手をした。さらにディアスに続き、クワガタの顔をした甲虫の女王が顎をカチカチと鳴らす。
「あの、よろしいでしょうか。ご主人様」
壁際からかけられた声に、ブランはぐるりと腰をひねり、後ろにいた女性を指さした。
「はいアザレア!」
「四天王会議とおっしゃいましたが、メンバーが足りていないようですが……。はっ! まさか四天王最後のひとりはこの私……?」
「……そんなわけないでしょう。仮にそうだとしたら、それはこの私のはずです」
「……アザレアもカーマインももう黙ってなさい。ご主人様の邪魔をしてはいけません」
脇腹のあたりを小突き合いながらこそこそ話す三人の吸血鬼の姿に軽くため息をつき、ディアスが語った。
「四天王のスガル殿とジークは持ち場を離れられぬのでな。今回は欠席だ。そこのクイーンビートル殿はスガル殿の代理出席だ。ジークの代わりは儂が兼任しておる」
「そういうことです! さて! では記念すべき第一回四天王会議の議題ですが! はい、皆様もちろんお分かりですね! かっこいい名乗りとポーズの打ち合わせです!」
自信満々にそう告げるブランに、三人の吸血鬼たちは首をかしげた。いちいち会議をするほどのことか、と。同様にクイーンビートルも体を傾ける。これは彼女の姿が巨大なクワガタであり、首がないためだ。
しかし、意味がわからないと言わんばかりの彼女たちと違い、真の四天王たるディアスは落ち着いて頷いていた。
「なるほど確かに。それは重要ですな」
「……重要……なのですか? 名乗りやポーズなど、各々がお好きなようにやればよろしいのでは。そもそもお味方であれば名乗る必要はないでしょうし、敵にわざわざ名乗ってやる義理はあるのでしょうか……」
「でっしょ! やっぱディアスさんわかってますね!」
マゼンタの疑問は黙殺された。
「各人が好きなように名乗ったりポージングをしたりしても、合っていなければ見苦しいだけですぞ。やはり順番に、緻密に、正確に、流れるように行わなければ、真のポージングは完成せぬものです」
「そうそう! さすがディアスさん! ……でもなんか、ちょっとわたしが思ってるのとニュアンスが違うような気がしないでもないような……?」
「では僭越ながら、この元第一騎士団長ディアスが故精霊王陛下より伝授された由緒正しきポージングの一部を披露いたしましょう。ご参考になされませ」
「え、ディアスさんなんで鎧脱いでるんですか? てか脱げたんですねそれ! あ、鎧の下のやつも脱ぐんですか? え? あれ? これわたしが見ててもいいやつなの? ねえちょっと、アザレア──あ、なんか固まってる! 三人ともしっかりして!」