「──『私はケリーだ。よろしくな』」
「ちょっと発音というか、イントネーションが違いますね」
女王の間には、ケリーの姿をし、ケリーとしてライリーに自己紹介をしている猫獣人の女性がいた。
「そうか。じゃあ、これでどうかな。『私はケリーさ。よろしく』」
「あ、さっきよりは近づいたかも。だけど、ケリーがそんな風に自己紹介しているところを見たことがないのでなんとも……」
今さら自己紹介などしなくとも、ライリーはケリーのことをよく知っている。幼馴染なのだから当然だ。
ケリーの姿で話しているのはケリーではなかった。
自己紹介の練習を、いや、ケリーの仕草の練習をしているのは、彼女たちの主人であるレアだった。
「そうなのか。まあそりゃそうか。自己紹介なんてする機会はこれまで無かっただろうしね。見たことがないなら仕方がないな。じゃあ普段ケリーはどんなことを話したり、どんな行動をしたりしているのかな」
まずはケリーの普段の行動をトレースし、完璧に演じられるようにすればいいだろう。それをマスターすれば、自ずと自己紹介も自然に出来るようになるはずだ。
レアはウェインによって正体を暴かれたことを気にしていた。次こそは完全に騙し、その上で馬鹿にしてやるのだ。そんな機会があればだが。
「普段のケリーですか……。改めて聞かれると……」
「そんなに深刻に考えなくてもいいよ。そうだな、例えば昨日の夜なんかは何をしていたんだい?」
「昨日の夜、ですか。昨日の夜ケリーは確か……森の木にばりばり爪を立てていた、んだったかな」
猫の爪研ぎか。そういえば、ケリーたちは猫獣人だった。
「猫獣人も爪研ぎとかするの?」
もし日常的にしているのなら、その真似をすればレアもケリーの仕草をトレース出来るようになるかもしれない。
「いえ、私たちは猫ではありませんから、爪が伸びれば普通に切ればいいので」
「そりゃそうか。じゃあ何のために木に爪を?」
「木の皮を剥がして、中にいる芋虫を捕まえるためじゃないでしょうか」
「芋虫? 木の中の? 何で?」
「たぶん、小腹が空いてたんじゃないかと……」
「食べるの!?」
レアの脳裏を、以前にレミーに作ってもらった川魚のムニエルの腹から出てきた指のような寄生虫の姿がよぎった。
「木の中に隠れてるやつは美味しいんですよ。土の中に隠れてるやつと似てるんですけど、味は全然違います。土の中のやつは腐った泥水の味がしますが、木の中のやつは美味しくて。だから小腹が空いたときなんかによく捕まえて食べてるんです。そうだ、ボスもケリーの真似をするならぜひ一口──」
レアはケリーの真似をするのを諦めた。
もし今度ケリーの身体を借りているときにウェインに出会うようなことがあれば、見つかる前に仕留めよう、と心に決めた。
なおこの件の後、ライリーはケリーにしこたま怒られたという。