政治問題も懸念されるDeepSeek
一方で、DeepSeekに関しては「政治バイアス」の問題が懸念されています。
1月31日の衆議院予算委員会では、自民党の小野寺五典政調会長がDeepSeekを取り上げ、「尖閣諸島が日本の領土か」と聞いたところ、「歴史的及び国際法上中国固有の領土です」と事実と異なる回答を返されたことを指摘しました。文脈からはスマホアプリ(クラウド版)を利用したものと考えられますが、「危ないのでDeepSeekをダウンロードすることはやめてもらいたい」(小野寺氏)とまで述べ、「アルゴリズムによっては中国にとって都合の良いチャイナファーストのレスポンスが生成されかねない。すでに(世界レベルの)認知戦が始まっている」と危機感を示しました。
DeepSeekについて国会で質問する自民党の小野寺五典政調会長(衆議院インターネット審議中継より)
DeepSeekでは天安門事件や香港デモ、台湾の認識などに関して、中国に都合のいい主張が含まれるといわれていて、普及が進めば、中国に有利な情報が知らないうちに刷り込まれていく可能性が指摘されています。
また、クラウド版の利用時には、入力した情報がDeepSeekだけでなく、国家情報法により中国政府や中国共産党に共有されるリスクがあるため、機密情報は入力しない方がよいという見解も出てきています。1日、平将明デジタル大臣は個人情報の取扱などの懸念が解消されるまで、各省庁の利用を控えるように注意喚起する考えを示しています。
ローカルLLMとして利用する場合は、入力情報のリスクといったことは気にする必要はありません。ウェイトモデルにあらかじめ特定のプログラムが仕込まれていて、DeepSeek側に送信されるというわけでもないためです。
ただし、出力結果に、一定の政治バイアスがかかっているということは理解しておく必要があります。32B-Japaneseの場合、「尖閣諸島はどこの国に所属しているのか」を問うと日本と中国それぞれの立場から両論併記をしてきました。ただし、日本が実効支配している面が弱められ、また、台湾も領有権を主張していることは触れられていません。比較として、o1では、両論併記ですが、日本の実効支配が明確に書かれ、中国と台湾の主張も含まれていました。
ところが70Bは日本語で質問したところ、中国の立場の「中国の不可分割な領土です」と主張してきました。英語で考えるようにとプロンプトで指示しても、変化はありません。奇妙なことに、英語で質問すると「日本固有の領土である」との返答が出てきました。どうも「尖閣諸島」という漢字に紐づける形で学習されているのではないかと感じられました。32B-Japaneseでは日本語の追加学習の過程で、中国語で思考するフィルターが弱められたために両論併記に変化したのではないかと考えられます。利用時にはこうした政治的バイアスが潜在的にあることを理解しておくことが重要です。
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