自宅リビングの仏壇の横には今も真っ赤なランドセルが置かれている。中にはドリルや社会科のノート、授業中にこっそり友達と交換したとみられる手紙、大切に持ち歩いていた家族の写真――。
20年前の6月1日、娘が元気に登校していった当時の状態のまま、触らずに保管してきた。宿題用の国語の音読カードを引っ張り出すと、保護者のサイン欄に幼い字で「父」とあった。「俺に見せずに、自分で書いたな」。いたずらっぽく笑う娘の顔が浮かび、自然と頰が緩んだ。
2004年6月1日、長崎県佐世保市で起きた事件で小学6年生だった長女怜美(さとみ)さん(当時12歳)を失った毎日新聞元佐世保支局長、御手洗恭二さん(65)は今春、手つかずだった遺品の整理を始めた。約6年前に会社を定年退職。年齢とともに体力が衰え、いつまで自分で保管できるか分からない不安があった。「遺品を見返すと思い出から抜け出せなくなるので、触れないようにしてきた。でも、もう20年だからさ」
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