2040年の生産年齢人口は約6200万人に減少 NTT、イオン、ローソンなどが動き始めた労働力不足の解消策とは?
同時多発的な地政学的リスクの高まり、米中対立、エネルギー問題…。世界を巻き込む諸問題の影響は日本にも及び、政治・経済・ビジネスにおける国内問題と絡み合って前途に立ちはだかる。本連載では、日本経済新聞社のコメンテーターや専門記者が22の論点で2025年のシナリオを予測した『これからの日本の論点 日経大予測2025』(日本経済新聞社編/日経BP 日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。論点を3つに絞り、企業経営にも深く関わる課題を明らかにし、未来を読み解く。 2025年の賃上げの見込み 今回は、深刻化する人手不足が企業にどう影響するか、人材確保への対応と賃金動向を掘り下げる。 ■ 人材争奪で本格的な賃金競争の時代へ ■ 今は労働供給制約時代の入り口にすぎない 足元の人手不足はまだ「入り口」にすぎない。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口によると、20年に7509万人だった15〜64歳の生産年齢人口は40年に6213万人にまで減る。 これは本格的な労働供給制約の時代が到来することを意味する。構造的な人手不足を克服できなければ、経済成長はもちろん社会基盤の維持も危うくなる。官民が総力を挙げて改革に踏み出す必要がある。 近年は女性や高齢者の就労が増えてきたことで労働力人口の減少をカバーしてきた。労働参加率が上昇し頭打ち感もあるが、まだまだ潜在的な働き手はいる。リクルートがシニア向けに実施した23年の調査によると、仕事を探したが見つからないと答えた人が半数強に上った。週3〜4日、1日当たり3〜5時間の勤務を希望する人が多い。 単発アルバイトのタイミーに登録する人は24年4月時点で770万人にのぼるなど、隙間時間に働く「スポットワーク」は年齢にかかわらず人気が高まっている。企業は多様な働き方へのニーズにこたえ、短時間勤務者を組み合わせる工夫が求められる。
デジタル技術も有効活用したい。ローソンやワタミはアバター(分身)を使ってリモートで接客する実証実験を始めている。主婦や高齢者などが自宅にいながら働けるほか、複数の店舗で同時に勤務することが可能になる。主婦・主夫のパートでは税や社会保険料の負担が生じるのを意識して就業調整する「年収の壁」問題は抜本的な対策が欠かせない。 海外に見劣りする生産性の向上は待ったなしだ。今こそデジタル化や省力化の投資に踏み出す必要がある。攻めの投資に対しては政府も助成金などを通じて強く後押しすべきだ。 人手不足が深刻化するなかでは、いまある労働力を十分に生かし切ることも重要になる。社員が能力を最大限に発揮できているという企業はどれほどあるだろうか。米ギャラップの23年の調査によると、仕事への熱意や職場への愛着を示す社員は日本には6%しかおらず、世界平均の23%を大きく下回る。働きがい(エンゲージメント)の向上は多くの日本企業が直面する課題だ。 NTTグループは23年4月、昇給・昇格で入社年次の要件を撤廃し、20代でも管理職になれるようにした。柔軟な組織をつくりあげるには、年功主義や遅い昇進といった日本的な雇用慣行は見直しが避けられない。 意欲のある個人が成長し挑戦できるよう、社内外の副業を認め、社内公募制も積極的に活用したい。シニア社員のモチベーションを高めるために、リスキリング(学び直し)の機会を十分に提供し、成果重視で処遇することも必要になる。 人口減による構造的な人手不足を克服するうえで、極めて重要になるのは外国人材の受け入れだ。24年には日本の外国人雇用の転換点とも言える政策決定があった。技能実習に代わる「育成就労」制度の成立と、在留資格「特定技能」の受け入れ拡大である。 24年6月に閉幕した国会では育成就労制度を27年にも導入することが決まった。3年間の就労を通じて日本語能力と技能を段階的に高め、その後は特定技能に在留資格を切り替えることで長く日本で活躍してもらうことを目指している。技能実習では原則不可だった転職が、就労後1〜2年で可能になるのが特徴だ。 約30年続く技能実習制度は、景気変動に伴う雇用の調整弁として企業が都合良く活用していた面がある。違法な長時間労働や賃金不払いなどトラブルが頻発し、多くの失踪者を生んできた。外国人労働者の定着には経営者の意識改革が不可欠だ。日本企業の強みのはずだったOJT(職場内訓練)による育成力が問われることになる。